魔法科高校のサーヴァント   作:綾辻真

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前回、前書きか後書きに書こうと思って書き忘れていたのですが、崑崙方院の崩壊は【偽物(フェイカー)】一騎のみでほとんど行っていたので、原作にあった四葉の死亡者は一切出ていません。全員生存しています。


後日談3『九島烈という男』

――『大漢一夜崩壊』。

 

それは世界に激震を走らせ、今までの常識を一気にひっくり返すのには十分な衝撃であった。

一夜の内に巨大組織『崑崙方院』が壊滅したという信じがたい知らせは、瞬く間に全世界の諜報機関の耳に入り、その全容を知ろうと各国がすぐさま動き出した。

そうして数日の内に新たに知り得ることが出来たのは、さらなる信じがたい事実であった。

崑崙方院の壊滅。それを成し得たのはたった一人の……いや、人とも呼べるのかどうかすら疑わしい存在の仕業であることと、その存在とともに行動していた部隊があり、それが日本の四葉家お抱えの部隊であることが突き止められた。

 

そうして、各国の大半がそこまでの事実を突き止めることが出来たのとほぼ同時期に、まるでタイミングを見計らったかのように四葉家当主である四葉元造が自ら全世界に向けて崑崙方院の壊滅は自分たちが行ったことであると大々的に明らかにしたのである――。

 

 

――英霊(サーヴァント)の存在とともに。

 

 

そのにわかには信じがたい存在とそれを呼び出す召喚()()に、各国も聞いた当初はすぐには信じられず首をひねる者がほとんどだったが、元造が崑崙方院壊滅時に記録していた録画映像を公開したことで嫌が応無く()()が事実であると信じざるを得なくなってしまう。

特に【偽物(フェイカー)】が宝具で崑崙方院の本拠地を一撃で破壊したインパクトはすさまじく、その映像を見た各国の人々はこぞって口を開けたまま唖然となった。

しかし、すぐさま合成による偽物であると考えられ、四葉の映像を調べる国々が続出するも、もちろん映像自体は全くの編集無しの『本物』であるため、かえって四葉元造の言葉が真実であることの信憑性(しんぴょうせい)を高める結果となってしまった。

 

――それから後は、世界各地で千差万別、様々な動きが四葉に対して見られるようになる。

 

日本の同盟国の中にはその英霊召喚に強い関心を寄せ、何とかその魔法の秘密を知りたいと四葉にすり寄ろうとする国があるのはもちろんのこと、四葉を危険視し、刺客やスパイを送り込もうと画策する敵国。これから四葉がどう出るのか様子を見ようと静観する中立(どっちつかずの)国など様々であった。

 

――そして、そんな英霊に興味の目を向けるのは何も国外だけでなく、四葉と同じ日本国内にいる者たちにもそれが言えた。

 

 

 

 

 

 

――元国防陸軍少将、『トリック・スター』――九島烈(くどうれつ)もその内の一人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「――本日はお招きいただき感謝します、元造殿。その後、真夜さんの容体はいかがですかな?」

「お忙しい中、お越しいただきありがとうございます九島先生。幸いなことにここ数日は回復の兆しも見え始めておりまして、食事をとる回数や睡眠時間も多くなってきております」

「そうですか、それは喜ばしい限りです。……私自身、()()()が崑崙方院に連れ去られたという凶報を耳にした時は、気が気じゃありませんでしたからね」

「お心遣い、痛み入ります」

 

四葉の豪奢な応接室の中で、両者とも複数の付き人を背後に控えさせて四葉元造と来客である九島烈の面談が始まっていた。

形式的な応答を手短に済ませ、彼らは雑談を交えながらお互いの近況報告を出し合っていく、そうして十数分ほど時間が経過したところで九島は面談に一区切りつけるように四葉から用意された来客用の紅茶に一口口をつける。

そうして一息ついたところで、九島は目の前に座る元造に向けて口を開いた。

 

「……いやあ、安心しました。真夜さんの誘拐から()()()()四葉家(そちら)は心休まる時が無いほどの日々をお過ごしなさっていると思い、お体に(さわ)りが無いかと心配してやって来た次第ですが、お元気そうで何よりです」

「ありがとうございます。……ですが、()()()()()()()()()()()()()?」

 

元造がそう言った直後、部屋の空気が微妙に重く変化する。――まるで、()()()()()()()()()()()()()と言わんばかりに。

その空気の変化に気づいた九島も、わずかに口角を上げながら隠すことなくそれを口にする。

 

「やはり、お気づきになられますか」

()()()()()()()での先生のご来訪です。察するなと言う方が無理があるかと」

「フッフ、確かに。……『元老院』の方からはもう接触(アプローチ)は?」

「『四大老』――東道(とうどう)家の方が代表して明日、お越しになられる予定です」

「おっと、元老院……それも四大老の一角が直々に明日来られるとは……。知らぬこととは言え、あの方々を差し置いて私が先にここに来たのは軽率でしたな」

「いえいえ、あの方々は皆この日本を陰から支配される有力者という立場。このような些細な事でいちいち気分を害する人たちではありませんよ。……まあ、『穂州実(ほずみ)』殿はどうかは分かりませんが」

 

そう言って苦笑を浮かべる元造に、九島もつられるように苦笑を浮かべ、「後で元老院にはお詫びの一報を入れとくとしましょう」と言って早速本題に切り出す。

ゆっくりと前のめりになった九島は先程までの穏やかな表情を一変させ、真剣な表情で口を開いた。

 

「……単刀直入に言わせていただきます。あなた方が……いや、正確には()()()()()()()()()()という英霊(サーヴァント)なる存在を一度拝見せていただきたい」

「…………」

「元老院……それも東道家が直々に動くというのが()()()()()()()()()()、元造殿も分かっていらっしゃるはずだ。……それを抜きにしたとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

九島のその言葉の意味を元造は脳裏でゆっくりと嚙み締めた。

事実、世界大戦中だった今の世界情勢がすっかりと水を打ったかのように静まり返っていた。

その原因は言わずもがな。【偽物(フェイカー)】の起こした崑崙方院の壊滅事件に他ならない。

あの一件以降、世界各地で行われていた紛争が一斉に休戦、あるいは停戦状態となり、前述したようにまるで示し合わせたかのように世界各国が日本の……四葉の一挙手一投足に目を見張るようになっていた。

 

四葉(あなたたち)は今、大きな岐路に立っているといっても過言ではない。これからの選択次第で、最悪()()()を敵に回す可能性だってありうるのです。……言い方は悪く聞こえるかもしれませんが、それは私や元老院、果ては日本(この国)そのものも含めて、です」

「……あなたのことですからそれは脅迫などではなく、純粋にただ事実を言っているだけなんでしょうね」

()()として忠告しているのだ……!」

 

唐突に口調を荒くし、険しい表情で睨みつけて来る九島のその視線を元造は静かに受け止める。

その瞳の奥には「英霊もそうだが、何より親しい友を失いたくはない」という、(よこしま)な考えが一切ない強い意志が宿っていると、少なくとも元造はそう感じた。

――数秒、あるいは数分。二人の間に重苦しい沈黙が下りる。

 

そしてその沈黙の果て、折れたのは元造の方だった。

小さくため息をつくと元造は再び九島と視線を合わせた。

 

「……分かっていますとも。私たちとて世界全てを敵に回すような真似はしたくない。……できうる限りの情報や利益をこの国(あなた方)に捧げることを約束いたしましょう。……その代わりに、我々が世界に対して孤立無援にならぬよう、それ相応の協力はしていただきますよ?――友人として、一切の遠慮なく全幅の信頼を寄せさせてもらいますからね」

 

そう言って少々意地悪気にニヤリと笑って見せる元造に対し、九島も「望むところだ」と言わんばかりに同じくニヤリと笑い返していた――。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「どうして、あんな事したの?」

「…………」

 

時を同じくして、真夜の自室ではその部屋の主である真夜に【偽物(フェイカー)】が詰め寄られていた。

崑崙方院の壊滅を耳にした真夜は、それからすぐ以前とは打って変わって日増しに回復の兆しを見せ始め、少しずつではあるが食事をとる回数が増え夜もぐっすりと寝られるようになっていた。

顔の血色も段々と良くなり、以前同様明るい表情も少しずつではあるが見せるようにもなったのだ。

しかしそれからすぐ、その崑崙方院の壊滅が【偽物(フェイカー)】の仕業であることを耳にするのもそう時間はかからなかった。

そうして事実を知った真夜は自分に黙ってどうしてそんな事をしたのか知る必要があると考え、今こうして【偽物(フェイカー)】を呼び出して問い詰めるという形になっていたのである。

そんな真夜に対していずれバレることを考慮していた【偽物(フェイカー)】は、少し困った顔を浮かべながら口を開く。

 

「すまない真夜(マスター)。本当はもう少しキミが回復してからゆっくりと話すつもりだったんだけどね」

「……じゃあ、やっぱり」

「うん。キミが日増しに衰弱していくのを見ていることが出来なくてね。勝手を承知で行動させてもらったよ」

「…………」

 

偽物(フェイカー)】から返されたその事実(答え)を聞いた瞬間、真夜の顔に陰りが差す。

それが本当なら、【偽物(フェイカー)】は自分のために()()()()()()()()()()()()()()()()()

台北の廃墟での件は、状況的に正当防衛で片付けられる話ではあったが、今回は完全にこちらからの一方的な大量虐殺である。

とは言え、崑崙方院も今までの悪行が悪行なだけにいつ誰かしらに恨まれて報復されてもおかしくはなかったのではるのだが、結果的にその報復の要因(引き金)が自分に向くなど真夜自身この時まで考えもしなかった。

 

――自分が原因で多くの人間が死んだ。

 

()()()()()()が、真夜の背中に重くのしかかる。

そのショックと恐怖が胸の前で組む真夜の両手に『震え』として出始めた瞬間、その両手を【偽物(フェイカー)】の両手がそっと包み込んだ。

 

()()()()()()()()()

「【偽物(フェイカー)】……」

「これは僕が自己判断で行った事だからね。(マスター)であるキミの意思も気持ちも(ないがし)ろにして行った、僕の身勝手な独善(ひとりよがり)……それだけのことだよ」

 

大漢や崑崙方院(彼ら)に恨まれるのは、僕だけでいい……」そう最後に言っていつものように穏やかに笑って見せる【偽物(フェイカー)】を見て、真夜の双眸からポロリと涙が零れ落ちる。

 

「…………そんなこと、言わないで」

 

今にも消えそうなくらいに小さな声でそう呟いた真夜は、【偽物(フェイカー)】の懐にそっと顔をうずめる。

少しだけ目を見開いて驚いた顔を浮かべる【偽物(フェイカー)】の耳に、真夜の声が届く。

 

「……私はあなたの(マスター)、なのよ?」

真夜(マスター)…………………ん?」

 

そこでふと【偽物(フェイカー)】は()()()()()()こちらに向かっているのを能力(スキル)で感じ取り、その視線を真夜から部屋の出入り口であるドアへと移す。

ほぼ同時に真夜も【偽物(フェイカー)】の様子が変化したことに気づく。

 

「【偽物(フェイカー)】?」

「どうやら来客が来たようだね。気配は複数。そのうちの半分は元造を含む四葉の人間だけど、もう半分は()()()()()()()

「え……」

 

偽物(フェイカー)】のその言葉に、真夜も自然と部屋のドアへと視線を向ける。するとほぼ同時に、部屋の向こう――廊下側から複数の足音がこちらに向かってきているのが真夜の耳に入った。

 

真夜(マスター)、この話はまた今度にしよう。……僕は一度、席を外すね」

「ぁ……」

 

それだけ言い残すと、【偽物(フェイカー)】は真夜が何かを言うよりも先に霊体となって部屋から消える。

そして【偽物(フェイカー)】の気配が完全に消えたとほぼ同時に、真夜の部屋のドアがノックされた。

それを耳にした真夜はすぐに軽く身だしなみを整える。化粧用品で手早く目の下に残るクマや顔のやつれ具合を隠すと、()()()()()()()()()()()()をかぶってドアの向こうにいる者たちに向けて「どうぞ」と短く声をかけた。

それを合図にして部屋のドアが開かれ、そこから元造を先頭に四葉の付き人達、そして来客である九島とその付き人である人間が数人、入ってきた。

九島の顔を見た真夜は口元を抑えて驚く。

 

「まぁ、九島先生。いらしていたのですね」

「こんにちは、真夜さん。ご気分はいかがかな」

「はい。おかげさまで日に日に良くなっているしだいです」

 

そう言いながら、真夜は九島から手前数メートル――()()()()()()()()()九島に歩み寄り、そこで立ち止まるとそこで優雅に自身のスカートをつまんでカーテシーの所作を行って見せる。

その動きに少しの乱れがない事を確認した九島は、真夜が快方に向かっていることが事実だと理解し、内心ホッと胸をなでおろす――。

――が。その直後、彼女の心の病はまだ癒えきれていないことに九島はすぐさま気づいた。

 

(ふむ……見た目、気丈にふるまってはいるが、彼女とのこの距離……対話をするにしては()()()()()()()()()。『あの一件』の時かそれともPTSDを発症した時なのかは分からないが、異性に対して強い拒否反応が出ているな……。彼女は気づいていないようだが眼にも(異性)に対して恐怖の色が見え隠れしている。恐らく、今心から安心して話が出来る異性は、元造(父親)だけだろう)

 

事実、九島のその推察は的を射ていた。

『あの一件』後、元の日常に戻った真夜は台北での出来事をできるだけ考えないように日々を送っており、その影響もあってか異性に対する拒否反応――所謂、男性恐怖症は比較的軽度であり、英霊に対する研究で令呪を解析するにあたっても、男性の研究員が近づいてきても内心で恐怖心を抱けどそれを表に出すことは決して無かった。

しかし、PTSDを発症したことでそれが悪化することになり、ごく近しい異性……父親である元造しか近づくことを良しとしなくなってしまったのである。

 

(……よく見ると化粧を少し濃いめに顔に施しているな。まだ後遺症が顔に残っているという事か。だが、元造や彼女本人が言うように、回復に向かっているのは事実なのだろう。時間はかかるかもしれんが――ん)

 

今の真夜の精神状態を彼女の表情から観察してそこまで読み取った九島はふと、身体の前で組んだ彼女の()()に目が移ると――途端に九島の目の色が『友人の娘であり自身の教え子でもある少女を労わるモノ』から『経験と実績を積んだ筋金入りの魔法師としてのモノ』へと変わる。

 

(あれが令呪とやらか……。英霊(サーヴァント)に対して行使できる三度の絶対命令権。英霊(サーヴァント)の手綱を握り、反旗を(ひるがえ)さないための首輪……)

 

真夜の右手に浮かぶ赤き三画の模様を視界に収めながら、九島は興味深げに目を細める。

そんな九島を彼の隣に立っていた元造がちらりと一瞥すると、視線を真夜に向けて声をかけた。

 

「真夜、【偽物(フェイカー)】は今どこにいる?……九島先生がぜひお会いしたいと言っているんだが」

「丁度席を外してもらっていますが、そういうご用向きでしたらすぐに呼び戻しますね」

 

そう言って、自身の胸元で両手を組みなおすと精神統一でもするかのように静かに瞳を閉じた。

 

「?」

 

唐突な真夜のその行動に九島は首をかしげていると、横に立つ元造は補足説明とばかりに口を開いた。

 

「『念話』と言って英霊(サーヴァント)とその(マスター)が行える独自の意思疎通(テレパシー)技術です」

「ほう、英霊(サーヴァント)に対してそういう事も出来るようになるのですか」

「はい。令呪、あるいは想子供給(パス)による繋がりが、一種の専用(プライベート)回線の役割を果たしているようです」

「ふむ……」

 

元造による『念話』の説明に相槌を打つ九島だったが、内心あまり興味を引くことはなかった。

何せ()()()()()()()なら、今の『魔法』技術でもすでに生み出されており、別段珍しいと思えるモノでもなかったからだ。

しかし、次に放たれた元造からの言葉に、九島は耳を疑うと共に『念話』に対する評価を改めざるを得なくなる。

 

「――まだ()()実験を行ったわけではありませんが、【偽物(フェイカー)】が言うには『念話』による会話はおそらく中継地点を必要とせずに()()()()()()()()()()()()()()()()だろうとのことです」

「――!……何ですと?」

「はい……。また少し前に『念話』に対して盗聴、妨害、回線に割り込んでのダミーによる情報操作などの実験も行ってみたのですが……四葉の技術を()()()()しても、()()専用回線に()()()()()()()()()()()()()()()

「何と……!」

 

あまりにも今の『魔法』技術の上をいくその『念話』の性能(高度な専用回線)に、九島は素直に驚きを隠せなかった。

そんな九島を前に、『念話』による【偽物(フェイカー)】との会話を終えた真夜が目を見開き、唖然とする九島に向けて声をかける。

 

「……お待たせしました先生。もうお着きになります」

 

そう言って、背後にある窓へと向けて振り返る真夜――。

 

 

――それとほぼ同時に、彼女の英霊(サーヴァント)が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

 

初めて英霊(サーヴァント)と呼ばれる規格外の存在を目の前にし、九島は自然と息をのんでいた。

それは九島についてきていた付き人達も同じで皆、目の前に立つ存在が現実に居るのだとはとても思えず無意識に凝視する。

萌黄色の長い髪にまるでこの世のものではないような美しい中性的な顔立ちとその身を包む簡素な白い衣――そんな浮世離れした容姿の存在が、さっきまで何もなかった窓辺の空間から唐突に降って湧いたかのように現れたのだから驚かないわけがない。

呆気にとられる元造を含む四葉の者たちを除いた九島たちを前に、真夜は【偽物(フェイカー)】の紹介を始める。

 

「九島先生。こちらが私の英霊(サーヴァント)である【偽物(フェイカー)】……あ。お父様、真名の方は……」

「問題ない。実を言うと先生には事前に真名を打ち明けている。……お前の呼びやすい方で紹介しなさい」

「そうでしたか。……では先生、こちらが私の英霊(サーヴァント)の【偽物(フェイカー)】です。【偽物(フェイカー)】、こちらは私の『魔法』の師である九島烈先生です」

 

真夜からの紹介で【偽物(フェイカー)】は短く「初めまして」と呟くと軽く会釈を行う。

それを見た九島も「ああ」と短くそれに答えるも、その顔から()()()()()()()()()

 

(まさか……()()()()()……!)

 

見た目、平静を装ってはいるものの、【偽物(フェイカー)】を間近で見た九島の内心は激しい驚愕と動揺、そして畏怖の感情に支配されていた。

九島は今でこそ国防陸軍少将を退役してはいるものの、それでも世間からは世界最強の魔法師の一人として数えられており、『最高にして最巧』とまで謳われるほどであった。

そんな九島ですらも、目の前に立つ『存在』はあまりにも()()()()()()()()

風貌もそうだが、何よりもその身にまとう空気が並の人間の『それ』ではなかった。

人の持つ『それ』とはあまりにもかけ離れた異質な気迫。かの『存在』を中心に周囲の空間だけがまるで切り取られ、どこかの超越した別世界の空間を張り付けたかのような隔絶した境界(何か)。同じ目線で対峙しているにもかかわらず、遥か天上にまで届かんとする山脈を見上げているかのような錯覚にまで陥る。

 

――そんな次元のかけ離れた迫力を九島はかの『存在』……【偽物(フェイカー)】から感じ取ったのだ。

 

 

――いや。そんな高位の魔法師(九島烈)だからこそ、逆に【偽物(フェイカー)】の強大さに()()()()すぐさま気づけたとも言える。

 

 

 

(……もとより、ここに来訪したのはこの英霊とやらの力量と世界に対して脅威となり得るかどうかを『見極めるため』……。()()()()()()()()()()()()……。元造からこ奴の真名(正体)と崑崙方院を壊滅に追いやった映像である程度覚悟を決めていた()()()()()()…………()()()()

 

心中で九島がそんなことを考えていた時、ふいに目の前に立つ【偽物(フェイカー)】の口が動く。

 

()()()

「!」

 

その言葉に九島の目尻がピクリと動く。【偽物(フェイカー)】の言葉が続かれる。

 

「――比べるまでもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()真夜(マスター)の『魔法』の師と呼ばれるだけのことはある。――でも、その力と得るためにキミ……かなり危ない橋を渡ったんじゃないのかな?」

「――!……分かる、のかね?」

 

()()を突かれ、九島の声が僅かに詰まる。

その様子を気にすることなく、【偽物(フェイカー)】は頷いて見せた。

 

「おそらく、生存確率の極めて低い強化措置だったはずだ。さながら頭に銃口を押し当ててロシアンルーレットをしているのと似たようなモノだったんじゃないのかい?」

 

そう言いながら【偽物(フェイカー)】は右手を『銃』の形にしてその人差し指を自身のこめかみにピタリとつけて見せた。

事実、九島は過去に生存率僅か10%の魔法力強化措置を受けており、それを成功させている。

その死線を越えて得た力が今の九島を形作っているとも言えた。

 

「ハハッ……だがまさか、それを初見で見破られるとは思いもしなかったが……」

「無茶をするね」

 

そう言って肩をすくめて見せる【偽物(フェイカー)】を前に、九島は考えを改めざるを得なくなる。

 

――『甘かった』なんてレベルじゃない。()()()()()()()()、と。

 

 

 

 

 

 

 

「【偽物(フェイカー)】!」

 

唐突に九島と【偽物(フェイカー)】の会話に割り込むようにして、部屋の中にその部屋の主である少女の声が響き渡り、ほぼ同時に【偽物(フェイカー)】の前に腰に両手を添えてムスッとした表情を浮かべる真夜が立った。

その行動に周囲が少し意表に突かれたような顔を浮かべる中、真夜は自身の英霊に注意する。

 

「詮索しすぎよ。私の先生に対して失礼じゃない」

「ごめん真夜(マスター)。でも、向こうも僕を詮索するために来たみたいだから、こっちもこれぐらいはいいかな?と思って」

「あなたの方が明らかに深入りしすぎ。先生も困ってるじゃないの」

「それは悪い事をしたね。お詫びに僕の方もそれ相応に情報を公開するべきかな?とりあえずまずは僕の宝具の一つである『民の叡智』を――」

「――あの剣とかの武器をいくつも発射する技?私の部屋壊す気なの?ねぇ?」

「なら、生前僕が初めて地上に降り立った時の姿を見せるとか?」

「……ちなみにどんな?」

「うーんそうだねぇ、鹿の角みたいなのが生えた巨大な妖怪じみた姿だよ。大きさはこの部屋以上かな?」

「私の部屋崩壊しちゃう!?ぜぇーったい!止めてよね!?」

 

会話が進むにつれて次第に目が段々とジト目になっていく真夜と困ったように笑う【偽物(フェイカー)】。

そんな真夜と【偽物(フェイカー)】の会話の光景を周囲は呆れや苦笑といった表情をそれぞれ浮かべる。

しかしそんな中、九島だけはそんな一人と一騎の光景を呆気にとられた表情で見つめていた。

 

その原因は、主に()()()()()()()()()()()()

 

先程まで九島(自分)と相対していた真夜は、四葉の令嬢らしく、礼儀正しく気品に満ちた対応を行っていた。

しかし、今の彼女はその仮面が剥がれ落ちて言動も崩れた、どこにでもいる()()()()()()()()()()()()()()()()

しかも、異性に対する恐怖で自分からはかなり距離をおいていたのにもかかわらず、【偽物(フェイカー)】に対しては臆することなくすぐ目の前に立って説教を行っている。

おそらく、彼女が他にこういう顔を浮かべる相手は、プライベート時の父親と姉ぐらいだろう。

そのため、この一人と一騎の間には、『壁』や『わだかまり』のような溝は一切見受けられない、むしろ真夜の方には【偽物(フェイカー)】に対して『親しみ』さえ抱いていると、少なくとも九島にはそう感じられた。

 

(――なるほど。どうやら、主従関係は良好のようだ……)

 

今もなお続く真夜と【偽物(フェイカー)】のちょっとした痴話喧嘩の光景を見ながら、九島はそんな感想を心の中に浮かべて()()()()と同時に、緊張で引きつっていた顔の筋力が自然と緩むのを感じていた――。

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