宝物庫の最奥に収められた英雄王だけが持つ、世界を斬り裂く最強の剣。
赤い光を放つ文様を備えた三つの円筒が連なるランスのような形状をしている。三つの円筒はそれぞれ「天」「地」「冥界」を表し、合わせて「宇宙」を体現する。
ギルガメッシュを英雄王と賢王、両方の側面で呼ぶというイレギュラーを引き起こせるように、キヴォトスには神秘で満ちており、ほとんど神代であるため世界の抑止力か働いていない。
つまり、現代では最大出力で使えないはずの武器が最大出力で使える様になっている為、キヴォトスではこれを抜かせた時点で相手は死ぬ。
鉱石を掘り当てて借金を丸ごと返済した翌日。
アビドスで先生をする事にした英雄王ギルガメッシュは、土地の大半をアビドスが所有していないという事実を知り、こんな場所を買い取った上で売却していないことから、カイザーにはまだこの土地に使い道があり、簡単には手放さないだろうと考えた。
「そもそも、こんな砂しか無い土地をなんで未だに待ち続けてるんでしょう」
「きっと埋蔵金だよ」
「そんな訳無いじゃないですか……」
ユメとホシノが土地を取り返す事を考えている中、ギルガメッシュは土地の奪還は急を要するものではないと考えていた。
今取り返したところで、その土地を活用する術が無く、土地の維持費も無いので荒れ放題になるだけなのである。
「じゃあ今はこのまま……」
「だが、時の果てまで、この世は余さず我の庭だ。我の許しなく我が財に手をかける盗人を野放しにする事の方が問題よ」
ユメとホシノは思ったよりもスケールの大きい話をしていると思いつつ、ギルガメッシュが土地を取り返す事に積極的な事に胸を躍らせる。
これまでギルガメッシュは傲慢ではあるがアビドスの為に行動を起こし、いつ返し終わるかも分からない莫大な借金をたった1日で全額返済してみせたその手腕、頼れる大人として信頼を寄せると同時に、憧れの存在へと昇華されていた。
「戦力を持って奴らをこの世の地平から消し去る事など容易い。だが、それではキヴォトスにおけるアビドスの立場が悪くなる。であるならば、この土地のルールに沿って奪い返してやろう」
「王様でもそれは難しいんじゃ……」
「この程度の事のどこが難しいと言うのだ」
ギルガメッシュはお金で解決出来ないと既に言っている以上、土地を奪い返すのは金による交渉でないと考え、ホシノも頭を働かせるが良い答えは見つからなかった。
「此度の我は先生でもある、生徒であるお前達にあの様な輩との戦い方を教えてやろう」
そう言ってギルガメッシュは2人に2週間後に授業をすると言って、生徒会室から出ていき、その2週間の間、ギルガメッシュはアビドスに来なかった。
2週間後、アビドスに戻ってきたギルガメッシュがパソコンの画面を見せる。
「これは?」
「カイザーコーポレーションの株式の99.99%を買い占めた」
「……はい?」
ギルガメッシュは土地を交渉して奪い返すのではなく、カイザーコーポレーションそのものを奪い取ることで土地も一緒に回収するという選択をした。
当然、カイザーコーポレーションも敵対的買収の対策をしていたが、事業の売却をしようが、買収コストを増やそうが、新株を発行してギルガメッシュが企業買収に必要な株数の取得を阻止しようとも、ギルガメッシュの目的はアビドスの土地であってカイザーの事業などには何の興味も無く、99.99%という莫大過ぎる買い占めによって全ての対策が無意味となった。
「奴らの強みは大企業という莫大な金だが、更に莫大な金を使って買収してしまえば土地諸共手に入る」
「い、いや、そのお金はどこから」
「あの鉱石の価値を跳ね上げた」
鉱石を一括で売却しなかったのは、鉱石の価値は色々な条件によって変化するモノであり、市場にある鉱石を買い占めることで希少価値を上昇させた。
「で、でも、その鉱石の買い占めには」
「借金は9億、鉱石の売却は10億、残りの約1億を元手にオデュッセイア海洋高等学校のゴールデンフリース号で行われているカジノで増やし、その金で市場にある鉱石、あの鉱石の産地を買い占めた。その結果、あの鉱石の価値は今では10倍になっている」
「10倍!?ということは100g1000万円ですか!?」
「あの鉱石の産地を全て買い占め、市場にあるものも買い占めたのだ、事実上あの鉱石はアビドスが独占した状態にある。その上であの鉱石を使う企業の枯渇するのを待ったのだ、当然よな」
ギルガメッシュが買い占めた例の鉱石とホシノとユメが掘り当てた分を合わせて約5000トン、それが1グラムあたり10万円となり、ギルガメッシュが取得した総資産は実に5000兆円以上となっていた。
「金銭感覚が……5000兆円ってどのくらい?」
「し、知りませんよ……」
「お前達が抱えていた借金の約56万倍だ」
「ごっ!?」
「だが、授業はここからだ」
それからすぐにカイザーから電話が来て、ギルガメッシュと2人は本社に招かれ、社長室に通された。
「世辞は要らん、要件を言え」
「株式の売却を」
「フン、くだらんな。この企業の社員がゼロになろうと、事業を売却して価値が落ちようと、キヴォトスの経済に大きな影響を与えようと、我には関係無い」
「欲しいのはアビドスの土地だろう」
「フハハハハ!!道化か貴様は。必死に連邦生徒会防衛室との癒着によって逮捕されない様にしてまで稼いだ金が、我の2週間以下とは笑わせてくれる。だが、底が浅いな、それ以上の面白味がない」
その気になればカイザーの看板を降ろして、また新たな事業を始める事も厭わないというカイザーであったが、ギルガメッシュが行ったのは看板以前の問題。
明確な敵対行為、過半数を買い占めるだけで良いところを、わざわざ99.99%買い占めるという暴挙、今後何回看板を変えたところでギルガメッシュに行き着けば同じことが起こる可能性がある。その為、ここでギルガメッシュに敵対しない事こそ、キヴォトスでのし上がるのに必要な事だった。
しかし、その交渉が無駄ならば、カイザーが行うべき行動は1つだけ。ギルガメッシュの排除である。
「どうあれ無駄だと言うのなら、ここで消えてもらおう」
「ほお、この我に牙を剥くか。思い上がったな道化」
社長室に大量の兵士が雪崩れ込み、プレジデントは片手を上げると、兵士達は一斉に銃口を向ける。
「武器に手をかけた瞬間に撃つ。貴様に生徒を守れるかな」
プレジデントが手を下ろすと、一斉に射撃を開始し、社長室は硝煙に包まれる。
30秒ほど撃ち続け、プレジデントは中止命令を出す。
「ゲマトリアと協力して作った対神秘弾だ、ひとたまりもないだろう」
「つまらん余興だ」
「なに!?」
硝煙が晴れると、そこには金色の盾がギルガメッシュ達を取り囲む様に展開されており、弾丸は全て弾かれていた。
「綺麗な盾ですねぇ」
「これもゲート・オブ・バビロンってやつなんですか?」
「我が宝物庫には最高級の武具だけでなく、防具、酒、我が収集した数多の財が収められている。当然、盾もある」
ギルガメッシュは立ち上がり、タブレット端末を取り出す。
「さあ、授業の時間だ。この手の手合いは最終的に武力行使に出る。そうなればお前達の土俵よ!武器を取れ!アビドスの臣民にして最後の砦よ!己が手で、アビドスの脅威を撃ち滅ぼすのだ!」
ギルガメッシュは2人の指揮をしつつ、バックアップをする。
囲まれている状態である為、ホシノが単独で突っ込み、ギルガメッシュのバックアップで一点突破した上で壁に追い詰められる常態を作り出す。
逃げ出そうとするプレジデントはギルガメッシュが天の鎖によって拘束し、天井に吊るす。
「道化が早々に舞台から降りるなど、この我が許すと思うか?」
ギルガメッシュの指示でホシノが単独で暴れ、ユメはそのサポートとして背背中を守る。
ギルガメッシュを狙う兵士もいたが、盾で弾丸が通らず、帯電した剣の射出にやって機械の身体がショートして動かなくなる。
「あれは正式に結ばれた契約だった!お前達の行いは……」
「貴様は勘違いをしているな。アビドスの土地の契約は正式なものだろうよ。だがな、我による買収もまた、ここでのルールに沿ったものだ。交渉の余地など無い、だから武力行使をした、それがこの現状だろう。どうやら、貴様の頭蓋の中身は、砂漠に何の装備も持たずに入る阿呆にも劣るらしい」
ホシノがギルガメッシュの指示通りに動き、ものの数分で部屋に押し寄せた兵士達を殲滅し、プレジデントに銃を向ける。
「この人はどうするんですか?」
「用済みと言いたいところだが、お前の手をこのような賊の血で汚す必要もあるまい」
ギルガメッシュはソファから立ち上がり、引き上げるとユメとホシノに指示を出し、社長室から出て行く。
社長室を後にするまえに、ギルガメッシュは立ち止まり、プレジデントに向かって一方的に話をする。
「貴様の舞台はかなり退屈だったのでな、アビドスの土地は売り払い、我が買い直しておいた。貴様等の株式ももう必要無いのでな、売り払っておいた。それでもそのくだらん野心の為に、再び我に牙を剥くなら、今度はこの建物ごとこの星の地平から消してやろう」
そう言い残して社長室から去っていった。
生徒会室に戻ると、ユメがパーティーを開こうと盛り上がる。
「王様のおかげでアビドスが抱えていた問題のほとんどが解決しちゃいました!盛大にパーティーを開きましょうよ!」
「たわけ、これからであろうが」
「え、しないんですか?」
ホシノもユメに乗せられてパーティーをする気満々という様子だった。
「まあ良いだろう。だが、半端は許さんぞ?」
そうして、砂嵐や砂漠にいる巨大な鋼鉄の蛇、無法地帯化などの問題がまだ残っているものの、一旦の区切りがついたとしてギルガメッシュもユメの意思を尊重してパーティーを開いた。
そうしてパーティーを始めてから、ふとホシノは思い出した。
「そういえば、授業ってなんだったんですか?」
「2週間、この土地の大人というものを見てきたが、どうも度し難い愚物が多いらしい。お前達もいずれは学舎を離れ、世に出る事になる。その時に相手するのはその愚物だ。ゆえに、我がお前達に教えるのは学問ではなく、高みにいると勘違いした愚物を誅する術だ。今回は現状のリソースが不足し過ぎていた、だから我が補ったが、次からはお前達に全てをやってもらうぞ」
ギルガメッシュはソファに腰掛けながら金色の器に酒を注ぎ、そう語る。
「王様は社会科の先生って事ですね!」
ユメが自信満々にそう言うと、ギルガメッシュは少し不服そうな顔をしてため息を吐く。
「……少しばかり気に入らんがまあ良いだろう」
天の鎖《エルキドゥ》
ギルガメッシュが愛用する金色の鎖。
神性が高い者ほど拘束力が増す特性があり、キヴォトスにおいては神秘の中に僅かに神性が混ざっている為、無謀な性能になっている。
学園の最高戦力ほど強く拘束し、弱い者の場合は極めて頑丈な鎖まで拘束力が落ちる。
最高戦力は何をしても脱出不可能どころかそのまま捩じ切る事すら可能であり、弱い者はそもそも鎖を引きちぎる力が無い為、事実上キヴォトスでは天の鎖に捕縛された者は誰1人逃げられなくなる。