ファイナルファンタジーVII ~とあるソルジャーの追憶~ 作:定泰麒
「もう逃げられないぞ!」
「くっ、そのようだな。ならばっ!」
薄汚れたレザー装備を着込んでいる男は、対の剣を両手に持った男に突っ込む。その手にはナイフ。元々は銃を持って、剣を持った男に挑んだが、その全ての弾丸を避けられるか叩き落されるかで既に銃の意味を無くしていた。
「死ね! ソルジャー! お前らに俺の兄弟は殺されたんだ!」
「ソルジャーに殺されたというのなら、お前の兄弟はテロリストなんだろ!」
ナイフをソルジャーと呼んだ男に突き刺す。しかし、その単調な攻撃をソルジャーはいともたやすく避け、更には突っ込んできた男の首に剣横を突き立てた。
「そうだ。そうだよ。俺の兄弟はテロリストだった。でも、悪いのは神羅だろ! さぁ殺せ! お前にとって難しくないことだろ!」
「わかってるよ……神羅が悪いんだってことは……。だが、殺せというのなら殺してやろう。じゃあな」
その音は、鋭くて軽かった。胴体と首が分かれ、胴体から凄まじい勢いで血が湧きだす。ソルジャーの顔にその血がかかる。
右ポケットに手を突っ込み、ハンカチを取り出すとそれで顔を拭いた。今度は逆のポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけようとするが、中々着火しない。
「はぁ~、しょうがねぇか。列車の上だしな……」
2人が命を懸けて戦っていた場所は、列車の上。一般市民なら、この上を移動しろと言われてもできない人の方が圧倒的に多いだろう。
そんなところで、走れていたテロリストの男はかなりの実力者であった。ただ相手が悪かった。
1stソルジャー、ファブル・ウェボラー。それがテロリストを殺した相手であった。
1stソルジャーになって半年以上が既に過ぎていた。ファブルは、過去にけじめをつけ、未来に生きようと努力をし始めた。
あれだけ苦痛に感じていた人を殺すということも、次第に意識を変えることができ、以前よりも苦痛に感じることはなかった。
彼は、ネーヴェに約束したように整理をしはじめたのだ。
「あ・な・た! 遅いわよ!」
「ご、ごめん。列車が止まっちゃたから、そのせいで……」
頬を軽く膨らませたネーヴェは、ファブルが帰ってくる予定の時間から30分過ぎて帰ってきたことを怒った。
事実、列車が止まったせいで帰るのが遅くなったわけだが、その原因はファブル自身の責任であり、それを言うことは憚れた。
「そうなんだ……でも、どうしてそんなに汗かいてるの?」
「そりゃ、君に逢いたくて走って帰ってきたからさ」
「も、もう。そんなこと言って。ウフフ」
ネーヴェは、自分のために走って帰ってきてくれたのが嬉しいのを隠そうとしたが無理だった。
場所は、壱番街。何を隠そうファブルとネーヴェの愛の巣であった。ネーヴェは既に妊娠3か月。ファブルとの間にできた子供であり、愛すべき者が増えたのだった。
あれから様々なことがあった。まずネーヴェと付き合い始めたこと。さすがに子供ができるとは思わなかった。初めての逢瀬で妊娠したと聞いた時はさすがに焦った。
そのことをティエルノさんに言いに行ったところ、10発以上殴られた。それも鬼のような形相で。痛いとは思わなかったが、これは受けなければいけない痛みなんだと全て受け終わるまで我慢した。
そして、ティエルノさんは疲れたのか殴ることを止めた。そのままいつもの優しい笑みを浮かべ俺たちのことを祝福してくれた。
「ネーヴェを悲しませたら殺す。苦しめたら殺す。君が死んでも殺しにいくから」
祝福と同時に言われた言葉。なぜか深く胸に染みてきた。俺はどうやらネーヴェを幸せにしないといけないようだ。もちろん言われなくても幸せにするつもりだったが。
問題ならたくさんあった。ネーヴェはまだ学生だったこと。俺の住んでいる家じゃ、2人では住めないということ。結婚式もあげないといけないし、挙げればきりがないほどあった。
1つ1つ、2人で解決していく。それに伴って絆が深まる。学校は休学という形で一時的に休むことになった。家はティエルノさんからの意見で壱番街に引っ越した。結婚式は、ソルジャーの仕事があるためできないかとあきらめていたが、またもティエルノさんのおかげで解決することになった。わざわざ神羅の上層部に掛け合ってくれたために結婚式のための時間を2週間ほどもらえた。
この時代には、似合わないほど白く華やかなドレス。それを着たネーヴェを何よりも美しかった。式は、それは豪華なモノになった。正直嫌だったが、プレシデント神羅が来賓として来た。これで察してくれるだろう。つまり、神羅の上層部のほとんどが参加したのだ。
こうして、俺とネーヴェが一緒に住んでいるという訳だ。
「えーとね、明日なんだけど……お父さんと母さんが家に来るって!」
「嘘っ! 俺明日も任務があるんだけど……」
「知ってるわ。私もそう言ったんだけど、空いてるのがその日しかないって」
「そうか、じゃあしょうがないね。なるべく遅く帰ってくることにするよ」
「もう、馬鹿! フフフ!」
「ハハハ!」
なんとも、幸せな時間だった。ベランダに置かれた、かつて花売りから買った花に水を与える。前の花は、枯れてしまったので、今の花は2代目だ。
ネーヴェの知り合いの研究者の人に種子を作ってもらって、新しく植えなおしている。少しずつ少しずつ、毎日成長していく花を見て、満足気な笑みを浮かべてしまう。
さっき殺した、テロリストのことなど頭の隅に追いやってしまっていた。
「サインが死んだ……、あいつを一体誰が!」
「なんでも、1stソルジャーが出張ってきたらしい。しかも『スラムの掃除人』ていう話だ」
「くそっ! あの偽善者が! ふざけやがって! 俺は、なんてサインの妻に言えばいいんだ!」
七番街スラム街の「セブンスヘブン」にて、『アバランチ』が話し合いをしていた。その名は一緒だが、造られた経歴も築き上げてきた実績も違う。
現『アバランチ』のリーダーが、その名に敬意を表してつけたというところらしい。
「1人、また1人消えていくわね……」
「ああ、仲間が死んでいくたび、自分が正しいか考えてしまう」
「でも、それでも……死んでいった仲間たちのためにも……。やり遂げないと……」
「そうだな」
ビッグスとジェシー。彼らもまた、反神羅を掲げていた人物だった。それをバレットが雇っている。それでも彼らには、仲間意識が存在しているし、仲間としても信頼していた。
「すまない、メラ。サインが死んだ……」
「そんな、ウソでしょ……。彼は、彼は、今どこにいるの……」
「死体は、神羅の霊安室にあるらしい。でも、お前が行ったらだめだ。俺が取り戻すから……ここで待っていてくれ……」
「うっ、うっ。いつかいつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってたの。それでも、それでも……」
バレットは、目の前にいる彼女に何の言葉もかけられなかった。その瞳から流れ落ちる涙を見て、さっきまで言おうとしていた言葉を飲み込んでしまう。
仲間が死ぬたびに、その家族の下へ訪れる。その度に、考えてきた言葉を言えない。声が出なくなる。それこそ、息さえもしていないように思う。そして、また神羅に対しての恨みが一つ、一つ増えていくのだ。
「どうだ、テロリストどもの計画はと?」
「……、先ほどの遺体から、計画書が出た。びっちり書かれてる」
「てことは、また魔晄炉にソルジャーを派遣しとかないとな」
タークスは再び動き出したアバランチについて調べていた。かつて自分たちが倒したはずのアバランチがまた動きだしたためであった。
レノとリードが、主に調査にあたっており計画書とは先ほどファブルが殺したテロリストの遺体から発見されたものだった。それ以前にも、アバランチの者とされるテロリストたちからこの計画書が発見されており、彼らはその計画書に基づき行動を開始しようとしていた。
”大人になるってなんだろう”
俺はかつてそんなことを考えていた。
”体が成長したとき?”
”世の中の波に乗ること?”
”上司に媚を売ること?”
”他人に優しくすること?”
何度も何度も考えた。でも、どれも違う気がした。ソルジャーとして、人として、男として、何もかもが違う気がした。
でも、今ならわかる気がする。このどれもが正しい。
守るべきものを守るために払う犠牲があるとするならば、なんでも払おう。きっと大人になるってのはそんなことなんだろうって。
俺の場合は、愛している女性と生まれてくるであろう子供。
決して、”英雄”のようにミッドガルを救うとか大層ことが大人になるってことじゃない。守りたいものが守れるようになった時、大人になるのであろうと俺は思う。
英雄ってのは、守るべき者達から思われていればそれだけでいい。かつて”英雄”になりたいとただ漠然に思っていた。その方法は簡単。
人を殺しまくればいい。戦争で相手の兵士を数えきれないほどぶった切ればいいのだ。そうすれば英雄になれる。しかし、味方からは”英雄”でも敵から見れば”悪魔”であり”憎むべき相手”なのだ。
他にもまだある、テロリストの頭を殺せばいいし、はたまたプレシデント神羅を殺せばいい。そのどちらでも”英雄”になれる。
だから俺は、”英雄”になることをあきらめた。