ファイナルファンタジーVII ~とあるソルジャーの追憶~ 作:定泰麒
「どういたしまして。けがはなかったかい?」
お礼を言われたことに対する返事としては、まずまずなものではないだろうか? それに可愛い女性に好感を持たれるのは悪い気はしない。決して女好きという訳ではないが、一人の男としては普通の感覚だと思う。
「ええ、おかげさまで……それより、凄かったですね! あんなモンスターたちを一瞬で、倒しちゃうなんて」
「そんなことはないよ。このモンスターが弱かっただけさ」
事実このモンスターが弱かったことは確かだ。神羅兵でも4,5人で当たれば怪我を負うことなく、無傷で倒すことができるだろう。
「そんな謙遜なさらないでください。初めてあんな戦闘を見たんです。あなたは一体何者なんですか?」
「俺は……ただの神羅兵だよ」
彼女に嘘をついてしまった。普通にソルジャーと言えばよかっただろうか。そういっておけば彼女の中で俺の株が上がることに違いなかった。でも俺は嘘をついた。なぜか彼女に俺がソルジャーだということを知られたくなかったためだ。
「神羅兵……ですか? それにしても強すぎる気が……。いや、そんなことはどうでもいいです。もしよかったらお礼にご飯でも行きませんか? おいしいところを知っているんです」
こんなことを女の子に言われて断れるはずもなかった。それに初めてこんなことを言われた、なんという表現をすればいいのかわからないが、少なくとも悪いものではなかった。
「いいのかい? わかった。じゃあ行こうか?」
「えっ、いいんですか?」
「何? やっぱり嫌になったかい?」
「いやいや、そうじゃなくて、駄目だと言われると思ったんです」
「そうか。でもね、普通男が君みたいな可愛い子に食事に誘われたら、誰も断らないよ」
「そ、そんな。可愛いだなんて、私……」
「まぁ、こんなところで話すのも何だから、早速お店に行こうか」
「あ、すいません。そ、そうですね。行きましょう」
スラム街という決して日の当たることがない場所で、ほのかに光る街灯。そんな下でもはっきりと彼女の表情が見て取れた。これは、ソルジャーの身体能力上昇に伴う、視力の向上のおかげだろうか。神羅は嫌いな俺でも、そのことに関しては感謝をしていた。
参番街スラムからにミッドガルで最も使われている乗り物である鉄道を使って参番街へと上がる。この鉄道は実によくできている。プレート支柱の周りを螺旋状に沿い、螺旋状トンネル内をレールが走っている。列車路線の中心部では、乗客のIDを検知するシステムがある。これは列車自体を検知するシステムであり、神羅カンパニーのホストコンピューターと連動している。
つまり、IDを持っていなければ犯罪者として扱われてしまうシステムなのである。しかし、こんな優秀なシステムにも問題があった。検知する際に、車内が暗闇になってしまうために痴漢が行われることが多々発生しているのだ。
「あっ、検査し始めたようですね」
列車の中が、非常灯の光だけになりとても暗い。スラム街の暗さとは、また違う暗さだった。現在の時刻は、夜の6時前。車内は帰宅途中の一般人たちでごった返していた。そのため座ることができず、ドアの近くに彼女と2人で立っていた。俺は痴漢に警戒し、そっと彼女をドアに押し付け、彼女を覆うように立つことにした。そうすれば、痴漢にあうことはないと考えたからだ。
「ひゃ……! す、すいません」
「ご、ごめん。痛かったかい?」
「そうじゃないんです。突然だったからびっくりして……」
「そうだよね、ごめんね。君が痴漢に遭うのが嫌だったからさ」
「いや、いえ、も、もうそんな……」
「ふっ。君は面白いね」
彼女はまるで、初心な女の子だった。すぐに顔を赤くして、顔を下に沈める。だが、それを考えた時さらに思うことがある。そんな女の子があんな場所で、一人でなんで出歩いていたのかということ。さっき電車に乗る前に聞いたのだが、彼女の家は壱番街にあるらしい。壱番街と言えば、それなりに社会的地位やお金を持つ人達が住んでいる場所だ。なおさら一人であそこにいた理由がわからなかった。
ガッチャン!
一斉に通常の車内灯が点いた。先ほどまでの非常灯と比べてもその明るさは圧倒的なものだろう。そろそろいいかと彼女から離れた。
「あっ」
小さな声で彼女からそう聞こえた気がする。まぁ気がするという程度でしかないため確証は得なかったが、少なくとも彼女の表情が揺れたことは確かだった。
「参番街、参番街。まもなく参番街に到着します」
鉄道のアナウンス音だ。その音が車内全体に響き渡る。つまり、俺たちの目的地まで後もうちょっとということだ。
「もう少しで、参番街ですね。駅からすぐのとこなので、時間はあまりかからないと思いますよ」
「ああ、そうかい」
お互いに耳元でささやき合うように、言葉をくみかわす。鉄道の動く音以外、何も聞こえない車内で話したものならその会話は、全ての人に聞かれてしまう。それが嫌だったための手段だ。
それから、数分後。
俺たちは、目的の場所に来ていた。いかにも高級料理店といったそこは、まず店先にスーツを来た男が立っている。その後ろには、木製ではなく、ガラスでできたドアがあった。外見は、まさに豪華絢爛。金や銀といったものを使い、光を当てるまでもなく光っていそうな建物だった。
「ここは、一体なんだ?」
「ここですか? 私の行きつけのお店ですけど……なにか御不満でもありましたか?」
皮肉的に彼女は言っているのではなく、本当に心から心配しているように尋ねてきた。
「不、不満なんてないけど……でも、よくこんな店……君は、一体何者なんだ?」
「何者って言われましても……。まぁ店先で話すのも何ですので、とりあえず中にはいりませんか?」
「そうだな。とりあえず入るか」
「はい!」
若干戸惑いながらも、彼女に導かれるように店内へと入っていくことになった。店先にいた男も彼女を見て深く頭を下げて礼をし、顔パスで入ることができた。その後の流れも特に何もなくスルスルと奥の個室に連れてこられていた。道中にいた店の店員たちは、例に漏れず全員が頭を下げてきた。
「じゃあ、ファブルさん。そこにお座りください」
「あ、ありがとう。それで君は一体何者なんだい? この店の人達の対応は度を越しすぎだろう」
もはや、俺の疑問は頭のほぼすべてを埋め尽くしていた。
「先ほども言いましたが、私は、ネーヴェ。それ以上でも以下でもありません」
「わかってる。君の名前はわかってるさ。ネーヴェ。俺が言いたいのは、君のプロフィールを教えて欲しいということだよ」
「私のプロフィールですか?」
「ああ、そうだ。君のプロフィールだよ」
彼女はどこか困っている様子だ。別に困るようなことは言っていないと思うが……もしかして彼女にとって触れて欲しくないところだったのだろうか。それだったら、申し訳ないと思い声を掛けた。
「「そっ(わっ)」」
お互いに同じタイミングで言葉を発してしまった。それによってお互いに見つめあう。その時間は、一瞬にも永遠にも感じられた。特になにかあったわけじゃないが、はっと意識が戻った俺は、再び声を掛けた。
「ごめん。先にそっちからでいいよ」
その言葉によって、俺どうよう固まっていた彼女もその動きを取り戻した。
「こちらこそ、すいません。先にあなたから」
「いやいや、君から」
「いえいえ、あなたから」
このまま行っても、これの繰り返しになるなと考えたため俺のほうから言うことにした。
「そうか、君がそこまで言うなら。言わせてもらうけど、そんな困るようだったら言わなくたっていいよ」
「そんな、困るだなんて。ただ、初対面の人に言うのは何とも……」
「初対面の人に言うのが嫌って言うことかい? 君は……ほんとに何者だ? そんなに凄い経歴の持ち主なのかい?」
「……え、経歴? 今経歴とおっしゃいました?」
「ああ、そういったとも。もしかして君、勘違いしてた?」
「いや、そっそんなことはありませんよ。けっ経歴に決まってますよね」
「逆にプロフィールと言ったら経歴以外に思いつかないと思うんだが……」
「そうですよね! 当たり前です!」
どうやら、彼女はプロフィールを紹介して欲しいということに関してなにかとんでもない勘違いをしていたようだ。確かに聞き方も悪かったかもしれないが、彼女は一体何を勘違いしたのだろうか? さらに疑問が増えることになった。
「わ、私はですね……学生です。こう見えても、神羅科学大学の生徒なんですよ!」
「神科大か。なら君は、本当に頭がいいんだね。でも君は何歳? そんなに年が離れてる気がしないんだけど?」
神羅科学大学。通称、神科大。その名をミッドガルで知らぬ者はいない。いわゆるエリート大学だ。とはいえミッドガル自体に大学というものの数さえ少ないが、その中でも断トツで頭がいい人達が行っている大学だ。もちろんそんなところだから、入るのさえ困難だ。そこに在学している者は、基本入学当初で20歳を超えている。だが、このネーヴェは、20歳を超えているようには見えなかったのだ。
「年は、17ですよ。来年で18です。そういうファブルさんは、どうなんですか?」
驚いた。ただひたすらに驚いた。きっと俺の顔は笑えるほど変な顔になっているだろう。しかし、同じ年齢で神科大など、ありえない。そして、俺はこれだけで理解してしまった。俺の目の前にいる女の子の正体に……
「1,17で神科大か……凄いな。年齢が一緒だということにも驚きだが、それでようやく君の正体がわかったよ……ネーヴェ。君は、ステラーヴァ家の御嬢さんだね」
「な、なんで、それを知っているんですか!?」
「当たり前だろ、知らない方がおかしいじゃないか。15歳で神科大に主席で入学し、マテリア開発において既に成果を上げ、その上家は、ミッドガル屈指の大企業神羅カンパニーの下で最も勢いのあるステラーヴァ製薬会社のご息女とあれば、誰も知らない者はいませんよ。お嬢様」
「う、う。もうばれてしまいましたか……でも、ファブルさん、あなたも私に黙っていること、いえ、嘘をついていることがありますよね。私にはわかっていますよ」
「えっ、何のことかな?」
今度は、俺が狼狽える番だった。きっとほんとに彼女は、俺の正体をわかっているのだろう。そうなると今度はなぜ彼女が俺に近づいてきたのかが気になるところだ。
「ごまかさないでください。ファブル・ウェボラーさん。現在神羅に在籍している中で最も強いといわれている2ndソルジャー。その実力は、もはや1st並みで、さらに1stになるのも時間の問題だという話ですよね。私しってるんですから!」
案の定彼女は、俺を知っていた。そのことに関して俺は、ショックを受けていた。なんというかほんのちょっとの絶望感といったところだろうか。少なくとも俺の心は激しく動揺していた。
「そうか、知っていて俺に近づいてきたのか。で、何の用だ?」
ちょっと言葉が強くなってしまった気がする。それに殺気も混じらせてしまったのかもしれない。急に雰囲気を変えた俺にネーヴェは、恐怖を感じたのか? 体が震えだし、その瞳からは、涙があふれ出してきていた。口は何かを言おうとして開いたり、閉じたりを繰り返しているが、声が出ないようだった。
「すまん。なんか動揺してしまって、言葉が強くなってしまったようだ。それで、俺に何の用? 何もなければ近づいてこないよね?」
俺の言葉に、安心したのかネーヴェの体の震えは止まり、今にもあふれそうだった涙も収まって行った。
「そうですよね。そうなりますよね。ほんとにごめんなさい。私があなたに近づいたのは、あなたに頼みたいことがあるからなんです」
「頼みごと? 受けるかは、わからないが言ってみろ」
「それは、このマテリアを使ってもらって欲しいんです」
「マテリアを使う? それだけでいいのか……、まぁマテリアの効果が気になるところだがな」
「はい、使ってくれるだけでいいんです。このマテリアは、みずといって私がれいきのマテリアを基にして作ったものです。まだ試作品なんですけど、これをあなたに使っていただきたいのです」
どうやら彼女の頼みごとというのは、マテリアを使って欲しいというものだった。特に断る理由もなかったのだが、なぜ俺に渡すのか。その理由を聞いておきたかった。
「なぜ、そんな貴重なものを見ず知らずの俺に渡すんだ? 君に得になるようなことはないだろう?」
「いえ、あなたに渡すことで私の得になることは間違いないです」
「そうか、なんでそこまで断定した言い方ができるかわからないが、そういうことなら使ってやらなくもないよ」
「えっ……いいんですか。理由とか聞かないんですか? というか断らないんですか?」
「そんなに理由を聞いて欲しいのかい? まぁ断らない方が、俺にとっても得になると思うからね。君は既にマテリア開発という点で成果を上げてるし、マテリアに関しては特に異常もないんだろ? 俺に断る理由はないじゃないか」
「はい、そのマテリアは私にとってかなりの自信作です。だから絶対に安全です。……でも、よかったぁ使ってくれないんじゃないかって心配しました」
ネーヴェは、その顔に安堵の表情を浮かべている。彼女がこれを依頼しに来たのでなければ俺は断っていただろう。休日にモンスターを引き連れ俺と知りながら会いに来て、その上での頼みごと。普通ならば断わっている所だ。しかし、これまでの彼女と過ごしたほんの短い時間で俺の中になんか妙な信頼感が湧いていたのだ。
「そうかい? とりあえず、そんなことよりマテリアをもらう条件を教えて欲しいんだが……」
「条件ですか……特にないんですけど、言うならいっぱい使って、経験値上げて進化させてください。後、月に一度私の所にそれを持ってきてください。検査したいので」
「それだけか。わかった。それに従おう」
「やったぁー。それじゃ早速、ご飯頼みましょうか」
そう言って彼女が、手を叩くと個室の扉が開き、店員が入ってきた。その店員に向かってネーヴェがいつものというと、かしこまりましたと返事をし、出て行った。
「す、凄いな。やっぱお嬢様って違うな」
改めて実感した。彼女との出会いは突然で、おっちょこちょいなところもあれば計算しているところもあり、その行動一つ一つに目が離せない。少なくとも彼女に何らかの魅力を感じたのは確かだ。
天才で、お嬢様。まさに誰しもがうらやむその経歴。そこに可愛いという要素まで入ってくる。最高だ。彼女は最高。しかし、やはり光もあれば闇もあるわけで、俺がそのことに気づいたのは、もうちょっと、もうちょっとだけ先のことだった。
今回は、オリジナルの用語が出てきました。
神羅科学大学
ステラーヴァ製薬
いずれも完全オリジナルです。