ファイナルファンタジーVII ~とあるソルジャーの追憶~   作:定泰麒

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第8話 愛する者へ

 ジュノンには、神羅会員制のBARというモノが存在している。よく週末になると1週間のストレスを発散するようにジュノンに務めている神羅社員たちが詰め寄っている場所だ。

 

 「すいません、まだ任務中なんで飲めないんですよね」

 

 「なにを言っているんだ。明日の朝一番には帰るんだ。それに、どうも一人だけで飲むというのは気が進まないし、1杯だけでいいから、なぁ?」

 

 「むちゃくちゃな理論ですね……遠慮します」

 

 「いいじゃないか……1杯くらい。それとも、なに僕の酒が飲めないのかい?」

 

 「……わかりました。1杯だけですよ。絶対に上の方に任務中に酒飲んだとか言わないでくださいね」

 

 「はっはっは。そうかそうか、飲んでくれるか! 言う訳ないだろ、さぁ、横に座って! マスター、ウィスキーをロックで2杯!」

 

 という訳だ。俺は、ティエルノさんから飲みに誘われた。頑なに断ることもできたであろうが、正直、実質的に最終日ということもあって1杯だけなら飲んでもいいと思ってしまった。

 

 あれから、4日経っていた。今日は、任務着任6日目だ。4日間……思い出すだけで気が滅入る。妙にティエルノさんが勘ぐって、俺とネーヴェを2人きりにさせたと思ったら、いいところでタイミングよく邪魔しに来たり、それに俺自身もネーヴェが俺のことを好きというのを聞いてから妙に意識をしてしまったり、ネーヴェもそんな俺に気を使う。

 

 しかし、思うことがあるのだが……俺はネーヴェのことを好きなのだろうか?

 

 最初、モンスターに襲われているとこを助けた時、彼女のことを可愛いと思った。だが、彼女は、俺のことを何者か知った上で近寄ってきた。理由は、マテリアを渡すため。という風に見せかけて俺と話すためというのが真実だろう。

 かくいう、俺と話すためにティエルノさんにどうしたらいいか相談したぐらいだ。そこでも疑問が湧いてくるんだが、なぜ彼女は俺のことを好きになったのだろうか、そこもまだ聞かされていない。

 

 「おーい、おい、おーい! ファブル君聞いているかい?」

 

 「え、ええ。もちろんですよ。で、それからどうしたんですか?」

 

 「ふふっ、それからか……僕はね、必死でアピールしたよ。初めてだったからね、なにぶん恋というものは……、いろんなものをプレゼントしたよ。ほかに何もこの思いを伝える方法が思いつかなくてね。今ならば、言葉っていう原始的で神秘的なもので伝えればよかったって思うけど、まぁ結果として結婚して、子供が3人できて幸せに暮らせた。それで、上の息子たちは、もう結婚して、一番上の息子なんて僕の孫を産んでくれた。後は、ネーヴェだけなんだ。ここだけの話、僕はネーヴェが子供達の中で一番好きだ。純粋で誰にでも優しくて、そして、ありがたいことに僕のとはちょっと違う分野だけど才能を開花してくれて……あの子は、絶対に幸せになってほしい。心からそう願う」

 

 「……いい話ですね。やはりあなたという父親がいるのは、ネーヴェにとって幸せなことでしょうね」

 

 「そうかい、その言葉はありがたく受け取っておくよ。でも、君の方はどうなんだい。ご両親は、故郷で暮らしているのだろ?」

 

 「……わかんないんです。僕は何も、死んでるかも生きてるかもわからない。俺は、あまりにも夢を見すぎて、理想と幻想に憑りつかれた哀れなソルジャーの一人なんです……」

 

 ティエルノさんの愚痴を聞かされ半ば半分くらいに聞いていたものの、今度は俺の方が愚痴を言ってしまった。こんなことは初めてだった。一番仲良くしているカンセルさんにさえ言ったことがないのに。

 でも、決して悪い気はしなかった。

 

 「理想と幻想に憑りつかれたか……君もかっこいいこと言うね。君の就いてるソルジャーという仕事は、子供達にとっては憧れの職業だろう。それも、ミッドガルとか、ジュノンとかのように普段から神羅に接してるようなとこじゃなくて、田舎のほうだったらなおさらかな。でも、そのほとんどの者は決して就くことができない狭き門を君は通っている、凄いことだよ。尊敬の対象だ、それに君への注目度は結構高い。科学者や神羅社員、果てはスラム街の住人にも知っている人がいる。それは、君が休みの日にはスラム街に赴いてモンスター退治なんかをタダでしているからなんだろうけど」

 

 「そのこと知っていたんですね。結構、気まぐれで毎日とかじゃなくて休みの日にしかしてないのに」

 

 「当たり前じゃないか! なんといっても僕の娘の婿候補なんだからね。調べたさ、とっくの昔に。それに君の容姿は、どこかあの“英雄セフィロス”を思い浮かべさせる」

 

 「“英雄”ですか……?」

 

 「そう、その君の緑がかった瞳。他のソルジャーは魔晄の色を思い浮かべさせる青色なのに、君は違う。過去にその瞳の者は1人しかいなかった」

 

 「それが……“英雄セフィロス”」

 

 「うん、そうだ。あの男は、本当に強い男だった。君も彼の伝説に残るような話を聞いてきたろ。大体、伝説っていうのは、歪められて各地に広がっていく。でも、彼の場合は違う。ほとんどの伝説がそのまま伝わっているんだ。びっくりするくらいにね」

 

 「そうなんですか?」

 

 「それは、もうね。きっとこれは徹底した情報統制がなされたが故なんだろうけど、セフィロスという“英雄”が世界に広がって行った。なんでだろうね? 不思議に思わないか? なぜセフィロスを“英雄”にしたのか? なぜソルジャーという職業を憧れの職業にしたのか?」

 

 「……」 

 

「……おっと、ちょっと酔いが回りすぎたようだ……帰ろうか」

 

 ティエルノさんが椅子を立とうとして、酔っているらしくよろけた。

 

 「大丈夫ですか? 飲みすぎですよ」

 

 「ふふっ、すまんね。娘があの部屋で1人で待っているだろうから、早く帰ろうか」

 

 「そんなこと思っていたなら、ウィスキー7杯も飲まないで下さいよ!」

 

 「君だって、3杯飲んだじゃないか」

 

 「そ、それは……と、とにかくお連れしますからね」

 

 「ありがと……」

 

 俺は、ティエルノさんをおんぶした。3杯飲んで酔っていると言ってもソルジャーの身体能力が下がる訳ではない。

 それに、結構お酒に対して抗体がある方なので、意識もはっきりしていた。

 

 「なぁ、ファブル君。……娘のことを頼んだよ……」

 

 「なにか言いましたか? よく、聞こえなかったんですけど」

 

 「ふふっ、……だから早く部屋に連れて行ってくれと言っているだろ!」

 

 「そ、そんな無茶な! まぁ、急ぎますけど」

 

 「そう、それでいいんだ」

 

 

 

 

 

 俺は、足早に第一等睡眠室へと向かった。途中のガードなんかに、さすがに大企業の社長の酔った姿など見せられないので、降りてもらったが、全てのガードを通りきった時にまたおんぶを要求してきた。

 仕方ないと、またおんぶをした。

 これが父親の重さなのかとか思いつつ、内心喜ばしかった。

 

 「ふぅ、やっと着きましたね。ティエルノさん」

 

 「……」

 

 「おーい、ティエルノさん!」

 

 「……」

 

 まさかと思い、顔を覗き込むがどうやら眠っているようだった。小さくため息を吐き、ティエルノさんの部屋のドアをノックする。

 この部屋には、ネーヴェがいるはずだ。酒が今になって回ってきたのだろうか、心臓が脈打っている音が克明に聞こえる

 

 「もぅ、お父さん! 遅いじゃない! って、え!?」

 

 「ごめん、ティエルノさんが眠ってしまって、連れてきたらすぐ帰るつもりだったんだけど、……とりあえず、ベッドに置かせてもらうね」

 

 「すいません、父が……ありがとうございます」

 

 「いやいや、そんな。ティエルノさんには、お世話になったからこれ位は」

 

 ドアを開けて、父親が帰ってきたと思ったら違う人で、しかも、好きな人なら動揺して当然だろう。しかも、父親が背負られていたらなおのことだ。

 

 「よいしょと、……ここでいい?」

 

 「はい、ありがとうございました。あの、でもなんで? 父は、一人で飲みに行くと言っていたのに」

 

 「それは、俺の任務ってティエルノさんの護衛だから、BARについていったのも護衛目的だったんだけど、1人じゃ楽しくないから、俺にも飲めと」

 

 「そういうことだったんですか……、父がほんとにご迷惑かけて申し訳ありませんでした」

 

 「いいんだよ、ほんとに。ティエルノさんは素晴らしい人だ。そんな人と一緒にお酒を飲めて俺も嬉しかったから。逆にこっちが感謝したいくらいだよ」

 

 「それならよかったです」

 

 他に用事もなく、俺としてはどうすべきか迷っていた。ネーヴェと会話をすべきか。もしくは、部屋から出て明日の朝に備えるかということをである。

 俺の中では、まだ会話を続けていたいというのが本音だったが、時間も中々なもので、ネーヴェも疲れてるかもしれないなということを考え、部屋から出ることを決めた。

 

 「じゃあ、今日はもうこれで、明日も早いし、ネーヴェも疲れていることだろう。それじゃ……」

 

 「ま、待ってください。……話したいことがあるんです」

 

 別れを告げ、部屋から出ようとしたところネーヴェに呼び止められた。

 

 「……話したいことって?」

 

 「えーと、それは……」

 

 俺が聞き返すと、ちょっと動揺している様子が見られた。俺は、鈍くないし、彼女が俺のことを好きというのも知っている。とりあえず、部屋のソファーに座ることにした。

 

 「まぁいいや、俺もネーヴェとまだ話していたかったし、それに聞きたいこともあるからね」

 

 「聞きたいことですか?」

 

 「そう……そうだな、とりあえずここに座ってよ」

 

 「はい……」

 

 俺は、ネーヴェを隣に座らせた。どこか彼女の方が紅潮しているように見える。

 

 「実はね、ティエルノさんから、ネーヴェについてある話を聞いたんだ」

 

 「話って……なんですか?」

 

 「君が俺にくれた、みずのマテリアって、君がティエルノさんにある相談してから俺に渡したらしいね……それで、直球で悪いんだけど、君はもしかして俺のことが好きなのか?」

 

 「!」

 

 俺がその質問をしたら、彼女がまるでドラマなんかでみるような驚いた顔を見せた。つまり、これはそういうことなのだろうか。

 

 「父が、そのことを。……はい。私は……あなたのことが好きです……」

 

 「そうか……、先に言っておくと、多分俺も君のことが好きだ。……でも、ちょっと待って欲しんだ」

 

 「待つって、何を待つんですか?」

 

 「なんて言ったらいいのか……決意。覚悟。勇気。それにまだ、いろいろと俺のなかで整理できていないことが多すぎる。だから、それが解決したら……俺から君に告げるよ。それまで、待ってて欲しい。それに、君はまだ学生で、卒業まであと1年近くある。お互いのためにその方がいいと思うんだ」

 

 「わかりました。待ちます。……でも、よかったです。あなたも私のことを好きでいてくれた、そのことが私はうれしい」

 

 そういうと、ネーヴェは泣き出してしまった。悪いことをしてしまったと思いながらも、その泣き顔さえも愛しく思えてしまう。

 どうやら、やはり俺は彼女のことが好きらしい。さっきまで好きかもっていうくらいだったけど、今なら確信して言える。

 俺は、ネーヴェのことが好きなんだ。

 

 「泣かないで、ネーヴェ。悪いと思うけど「違うんです、これはうれし涙なんです」……そうか」

 

 彼女は、目を潤ませながら俺を見つめた。愛しい、その全てが。

 

 キスなんてものは、過去に2,3度経験したことがある。酔った勢いで、遊びで、いや、2,3度どころじゃない、数えきれないくらいだ。

 でも、ネーヴェとのキスは、そのどれとも違っていた。どこか気恥ずかしく、それでいて貪るように、俺はネーヴェと唇を合わせた。

 

 

 

 

 

 「私は、あなたに一目惚れしたんです」

 

 「それは、いつのこと?」

 

 「あれは確か2か月前だったと思います。その時、私はスラム街で実験してたんです、マテリア関係の。それで、その帰り際にあなたを見たんです。モンスターの群れを次々に葬っていって、倒し終わったら、何も言わずに去っていくところを。偶然一緒に実験をしていた私の仲間にあなたのことを知っている人がいて、それであなたのことを知りました」

 

 「つまり、俺がモンスターを倒しているところを見てかっこいいと思ったと」

 

 「そんなとこです」

 

 彼女が俺を好きになった理由がようやくわかった。

 

 「はい! そこまで!」

 

 俺でもネーヴェでもなく、第3者からその言葉は放たれた。

 

 「「ティエルノさん!(お父さん!)」」

 

 「もういいよね。僕は、これ以上娘の浮いた話なんて聞いていられない。という訳でファブル君。今日は、もう部屋に帰って寝なさい。明日も早いから」

 

 「すいません。そうさせてもらいます。じゃあね、ネーヴェ」

 

 「ええ、おやすみなさい」

 

 「おやすみ」

 

 さすがにこれ以上は部屋に入れなかった。ティエルノさんの顔が全然笑っていなかったからだ。

 俺は、部屋に戻り、今日のことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 「ネーヴェ、よかったな。あの青年なら、僕も喜んでお前の婿として歓迎するよ。というのはちょっと早いかな」

 

 「もう、お父さんたら! でも、そうなったらいいなって思う」

 

 「……さぁ明日も早い、もうお前も寝なさい」

 

 「そうします、おやすみなさい」

 

 「ああ、おやすみ」

 

 こうして、今日という日が終わった。

 

 ネーヴェは願いが叶って、ファブルは自分がすべきことを模索し始めた。2人の物語はここから始まる。

 

 ティエルノはそんなことを考えながら眠りについた。

 

 

 

 

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