剣と魔法の世界にて名を上げた騎士チアゴ
彼に唐突に突き付けられたのは何と女王からの追放宣言で……?

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「女王の決定だ、汝をこの国から追放する」

「……え」

「ほう、聞こえなんだか、騎士チアゴ」

「い、いや聞こえはしたけども! 理由を聞かせてくれ、納得できねぇ!」

「無礼者めが、女王の御前であるぞ。いくらそなたが余の友とて礼儀があろう」

「え、あ、はっ! 大変なご無礼をお許し下さい女王陛下!」

 

 俺ことチアゴは、突然の宣言に呆気に取られた。

 場所は某国の玉座の前。

 目の前にいるのは古きより顔を突き合わせ続けた友人にしてこの国の女王。

 そして告げられたのは……、国外追放。

 

「こほん。シルヴィア・シケイラ3世の王命は以上である。即刻とまでは言わぬ、1ヶ月以内に荷物をまとめて国を出よ」

「お、お待ち下さい陛下!」

「聞こう」

「俺が何をしてしまったのですか! 追放の理由だけでも教えて頂けませんか!」

「ふむ、尤もである。10年以上共にいたそなたに何も告げぬのはあまりにも不義理が過ぎるか」

 

 シルヴィア3世──本名イーナ・ストイリュウ・シケイラは仰々しく頷いた。

 まだ20歳にもなってない、俺より3つは年下なのに貫禄があるのは、彼女が王族としての勉強を頑張って来たからだろう。

 ちなみにイーナの母、つまり先代女王陛下は政治の才能が無いとの事で軍の最高司令官に転職している。今でも前線で八面六臂の大活躍をしている肝っ玉母ちゃんの女将軍だ。

 政務と軍務で仲が悪いとかいう事もなく、今でも母娘で食事をしたりするとの事。

 

「しかし告げずとも理解できようぞ、チアゴ。そなたはそこまで愚かではなかろう」

「え、えーっと……」

 

 言わなくとも分かる理由?

 いきなりそんな事を言われても心当たりは無い。

 となると。

 

「も、もしかして近衛騎士なのに弱い、とか。魔法とか全く使えないですし」

 

 パッと思いついた理由は力不足だった。

 この国の主要産業の1つは傭兵業、弱い戦士に価値は無い。近衛であれば猶更である。

 であれば、実力不足を理由に解雇されるのは当然だ。実際そういう理由で傭兵団から抜けた人は少なくない。

 ……が、イーナは「何言ってんだこいつ」みたいに引き攣った顔をして、頭痛を抑えるように蟀谷(こめかみ)を指先でグリグリとマッサージした。

 

「はぁ……。あー、意見のある者は手を挙げよ。余が発言を許す」

「陛下、ワシから良いですかのう」

「ベルナルダ、許可する」

 

 反論に手を挙げたのは王の御意見番、ベルナルダ・I・ブーゲンビリア。

 年寄りみたいな喋り方だが、見た目は10歳くらいのロリババア(異世界言語)である。国花を苗字に持つ、本人ですら何年生きたか分からない、この国の生き字引だ。

 

「では。……はぁっ!」

「え? うわぁああああああああ!?」

 

 気合いと同時にベルナルダは俺に向けて炎の蛇を放つ。

 ヤバいと瞬時に判断した俺は、腰の剣を抜いて周囲に流れ弾が飛ばないようそれを斬って霧散させた。

 

「何すんだ! 火事でも起こす気か!」

「カカカ、見ましたかのう陛下、そして皆の者」

「うむ」

「今のは剣で斬れるようなものではない。特に由来も無い支給された鉄の剣で散らせる雑な術でもない。これで弱いからなぞ、寝言にも等しかろう」

「そう、なのか?」

「誰が貴様に魔法戦闘を叩き込んだと思っておるかチアゴ。ワシの目を疑うか?」

「余も見ていた。今のは高位の炎魔法であった、それを火の粉1つ残さず切り捨てる汝の腕に疑いは無い」

「長く生きておるが、そこまで剣で成り立った者はおらぬ。日々欠かさぬ鍛錬、決して驕らぬ精神、騎士として高潔な心、何度負けようと腐る事の魂、実に良く育ってくれた。ワシの惚れた欲目があるやも知れぬが、それを差し引いても貴様はたった20歳で大成した。騎士としてだけでなく、一個人としてもな。カカッ、こんなババアの心を奪い愛を教えた貴様を、その程度で逃がすと思うかい? 老婆をナメるんじゃないよ」

「そうかぁ」

 

 成程、流石は王立魔導部隊の初代総隊長。引退しても(する必要あったのか?)その目に曇りは無いか。

 でも強さじゃないとするなら何だ?

 

「じゃ、じゃあ俺の苗字か!? リンオウっていう苗字が王様っぽいからとか!? そういうクレームがとうとう無視できなくなったとか!?」

 

 聞いた話ではリンオウは『輪っかの王』と書き、香辛料と紅茶の国における伝説の王を指すと言われている。

 俺の先祖はその国から移住し、この国を治める王の手伝いをしてきたとか。

 ただこれは人伝に聞いた話。物心ついた時には既に父はいなかったし、母はこの話を終ぞせずにこの世を病で去った。だからどこまで本当かは俺には分からない。

 

「ボクから良いッスか陛下」

「許可する、ニルザ」

 

 次に手を挙げたのはニルザ・シイフー、こいつも近衛の1人である。

 褐色に焼けた肌はこの国の砂漠地方出身の証拠であり、スラムから叩き上げられた肉弾戦の実力は俺より上だ。なお最近の悩みはバストアップが上手くいかない事らしいが、俺では力になれそうにない。

 

「えー、チアゴ先輩も知ってる通り、リンオウって苗字はこの国の上位貴族かつ陛下のお婆様であるシルヴィア1世様の嫁入り前の苗字ッス。チアゴ先輩はその超遠い親戚かつ平民の子なんで王位継承権なんて皆無ッスけど、流石に王宮でその苗字を貶す命知らずはいないッスよ」

「然り。先々代女王陛下、即ち余の祖母は老齢にて退位したが未だ存命である。故、その苗字を侮蔑する事は国の歴史、そして余の血筋を侮蔑するに等しい。そのような無知蒙昧な者はここにはおらぬ」

「一応言っておくッスけど、血筋を抜きにしてもリンオウの語感だけで恨む奴はいないッスよ。先輩は実績を積んで騎士になり、国難を排して国を守ってきたんスから。覚えてるッスか、5年前のモンスタートレイン災害。死にかけた所をナチュラルに手を取られて微笑まれてモンスターをバッタバッタと切り伏せて、あれで惚れない女も中々いないッス。今も続くボクの初恋返してくれないッスかね、今際の際にでも。ボクにプロポーズする時でも良いッスよ」

「むぅ、違うのか……」

 

 サラリと告白されたがスルーする。意地悪とかニルザを軽んじてるとかじゃなくて、この場で答えるのは場違いだからである。ついでに言うとこれが初告白でも無い。

 しかし苗字でもないか。俺とイーナは血は繋がってない事も無く、そこから変なやっかみとか受けてたのかと思ったけど、これも違ったか。

 

「なら酒飲んで変な事したとか!? 酒癖悪いって言われてるし!」

「陛下ぁ、今度はあたしぃからぁ良いかしらぁ~」

「許可するミレーナ、存分に申せ」

 

 眠たげな声で俺の予想に反論するのはミレーナ・ミザク。

 元奴隷だが計算能力の高さを買われて異例の出世をした、財務省の高官である。

 この辺は実力勝負が全てである、傭兵業が盛んなウチの国らしさがあった。

 

「チアゴちゃんは確かにぃ、酒癖が悪いけどぉ、酔って変な事はしないわぁ~」

「え、そうなのか? 俺、酔うと記憶無くすから何やるか分からなくて」

「それはぁそうよぉ~? だってチアゴちゃんはぁ、お酒を飲むとどこでもえへえへ笑ってぇ、すぐグーグー寝ちゃうんだものぉ~」

 

 ……笑い上戸かつ単に酒に弱いだけじゃねぇか。

 どこが酒癖悪いんだ。

 

「だってぇ~、そう言わないとぉ、チアゴちゃん飲んじゃうでしょ~? 重いのよぉ、寝てる成人男性ってぇ~。しかもいぃっつも重ぉい鎧着てるしぃ~」

「ごめんなさい」

 

 反省します。

 酒癖悪くなくとも金輪際禁酒します。

 

「あたしぃもぉ、酒癖悪いけどぉ~。チアゴちゃんはぁ止めてくれるでしょ~? 前にぃ、酔って変なトコに連れてかれた時もぉ、たった1人で探し出してくれたわぁ~。今度こそ終わりだって思ったのにぃ、自業自得なのにぃ、お人好しさんねぇ~? でもあの時はぁ、カッコォ良かったわぁよぉ~。ふっふっふぅ~、あたしみたいなぁ、奴隷育ちの馬鹿女をぉ、惚れさせた責任取ってねぇ? 愛人さんでも良いわよぉ?」

 

 そりゃ、まぁ、ミレーナさんは元奴隷だったし買ってイーナに献上したのは俺だけど、そもそも誰かがピンチになってたら助けるのは人として当たり前と言うか。そんな事で恩を売る気は無いと言うか。

 いやいかんいかん、今は置いておこう。

 しかし酒でも無いと来たか。煙草は吸ってないし、変なクスリもやってないし……。

 

「後は、えー、不正の証拠が見つかった?」

「何かやらかしたんスか?」

「ちなみにぃ、特にそういう情報は無いわよぉ~」

「じゃあもっと強い奴を徴兵できたからお払い箱とか」

「それは強い奴を2人抱えるんじゃ駄目かのう? 王宮の兵士ぞ? 何人いても不足はあるまい?」

「ついでに言うと最近の徴兵は1年前である」

「なら、えっと、えー……」

 

 困った、もう思いつく理由が無い。

 こう見えて近衛兵として真面目にやってきた。不正に手を染めた事も無いし、鍛錬が趣味だから散財も無い。

 だとすると、アレ、か……?

 

 

  ☆

 

 

「あー、じゃあ、その、陛下には大変失礼過ぎて即座に打ち首の理由が思いついたのですが」

「構わぬ。咎めぬ故、遠慮なく言葉にせよ」

「えっと……。俺が皆の目をやらしい目で見ているから、とか……」

 

 最後に行き当たった理由は性差だった。

 俺は男。

 イーナ達は女、というかこの王宮に男は俺しかいない。

 ハーレムという奴だ。……別に興味は無いし誰かに手を出してもいないけど。ついでに言うと年齢=彼女いない歴だけど。

 しかし男女差というのは如何ともし難いと本に書いてあった。俺自身は女性であるイーナ達の事は長年の付き合いで大体分かる。しかしやはりそこは男女、埋められない何かがあると言われたら、無意識に男として何かやってると言われたら、俺では自覚のしようが無い。

 そういう意味を込め、恐る恐る訊ねてみると。

 

「「「「はぁー……」」」」

 

 思い切り溜息を吐かれた。

 警備している兵士やら女王をサポートする大臣の皆さんやらも一緒に。

 何故だ。

 

「騎士チアゴ……、いえ兄さん、本気で言ってる?」

「いや、えー、その……」

「あ゛ー……」

 

 元の口調に戻ったイーナがそれはもう深い深い溜息を、それこそ地面の奥底まで沈みそうな溜息を吐いた。

 

「と言うかニルザ達の言葉聞いてたかしら? 惚れてる相手にそういう風に見られるなら嬉しいって分かるわよね?」

「そう……、なの、か?」

「そうなの。ってか男が考えてる以上に女はそういう視線に敏感なんだから、そんな理由だったらとっくに兄さんの耳にも入ってるわよ」

「うぅ、だとすると本当に俺には理由が思いつかない。一体何が理由なんだ!?」

「……ま、兄さんのそういう所は私達にも責任があるか。おば様が亡くなったのも6歳の時だし」

 

 「あー、頭痛がする」とげんなりしたイーナは再び溜息をぶちまけ、頭痛を抑えるように額に手を当てた。

 女王の仕草じゃないかもだが周囲が咎める事は無い。

 そこまでショッキングだったのだろうか。

 

「兄さん、これはシルヴィア・シケイラ3世じゃなく、イーナ・ストイリュウ・シケイラとしての言葉よ」

「お、おう」

「愛してるわ、貴方の子を10人は授かりたいくらい。格好良くて勇敢で、力強くて優しくて、自分も相手も尊重できる素敵な人。私が悲しかった時は一緒にいてくれて、私が嬉しい時は一緒に喜んでくれて、私が苦しかった時は一緒に立ち向かってくれた。貴方に惚れるというのは、きっと女というカテゴリに産まれた者にとっては当然かつ素敵な事だと思うの。

 そして剣の腕が強いだけじゃなく、平民出身でありながら勉学にも励み、悪を憎めど受け入れる度量を持ち、この国を襲う災害や敵国に果敢に立ち向かって打ち滅ぼす勇気もある。まさしく我が国に無くてはならない人材よ。追放なんて、本当はしたくないわ」

 

 10年以上の付き合いがあるから分かる。イーナの言っている事に嘘は無い。

 そしてその認識は、周囲の兵士や大臣達の雰囲気からしても真実かつ共通認識だとも。

 

「だったら」

「でも……、国がそれを許してくれないの。女王である私も、いいえ兄さんを見出したお母様やお婆様でも覆せない絶対の法が」

「ぜ、絶対の、法……!?」

 

 何なんだそれは。

 一体どんな法が皆を縛っているんだ。

 教えてくれ、俺が何とかできるならやってやるから!

 

「あ、それは無理」

「無理じゃのう」

「無理ッスね」

「うーん、無理ぃねぇ~」

「なん、だと……!?」

 

 揃いも揃ってどうしてだ!

 俺をあんなに褒めてたのに、何が無理だってんだー!?

 

「よーし、じゃあヒント行きます。この国は何ですか!」

「イーナの国!」

「はい質問の仕方を間違えました! 言い換えます、この国の名前は何ですか!」

「ゾマンア王国です!」

「その通り! では兄さん、あなたの種族と性別は!」

「はい、ヒューマン族の男です!」

「そしてこの国に住む、私達の民族名は何ですか!」

「アマゾネスです!」

「はい答えが出ましたね! それが理由です! それが法です!」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「……え?」

「あー、小さい頃から腕が立つからと町の外れに住まわせていたツケかなぁ……、ごめんね兄さん……」

「この15年、性別で追放できないくらい激動じゃったからのぉ。ワシらの力不足よ」

「7歳までぇはぁ、男の子も住んで良いってぇ~、法がぁ、足を引っ張っちゃったわぁねぇ~」

「追放の前にこの国の歴史とか風習教えないと駄目ッスかね。なまじ国民からの人気も高いッスし」

 

 何かよく分からないが、俺の苦手分野である国政の話が関わっているらしい。

 あれだけはどうしても苦手なんだ。

 そんな俺を余所に、その場にいた俺以外の全員は頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 この後、国境線上に家を建てて貰った。

 

 

どっとはらい

 




<名前の由来>
南米の公用語はスペイン語・ポルトガル語・英語らしいので、名前はポルトガル人名+東西南北と中央から、苗字は四神からのもじり
(名前は実在のもの、苗字はシケイラ以外架空のもの)



<登場人物紹介>

チアゴ・リンオウ
本作主人公の近衛騎士、20歳男性
幼少期より突出した剣の腕を発揮し、ゾマンア王国の激動期を駆け抜け国を守り抜いた
それ故に女性国家でありながら在住を許されていたが、流石にそろそろ……というのが本作のタイミング
ちなみに1ヶ月と数日後が21歳の誕生日であり、タイムリミットはこれに基づくものだったりする

名前の由来は『中央と麒麟(チーリン)


イーナ・ストイリュウ・シルヴィア・シケイラ3世
ゾマンア王国当代の女王、17歳
英才教育により若くして王として玉座に就く、この時仲の良かったチアゴとニルザを近衛に任命した
幼少期よりチアゴを兄と慕っていたが、法の前に嫌々ながら追放を命ずる事に
ちなみに母の名前はトーナ(南東)・ストイリュウ、祖母の名前はクート(北東)・リンオウという裏設定があるが、実在しない名前のためお蔵入り

名前の由来は『(イースト)青竜(チンロン)』と『東西南北を守る四神(スーシェン)』(『シ』ルヴィア・『シ』ケイラさ『ん』せい)


ニルザ・シイフー
ゾマンア王国の近衛騎士、19歳
チアゴの後輩にあたる砂漠地方出身の少女、貧乏貴族の末っ子
未熟だった時代にチアゴに命を救われ、以降はべったりと懐いている
猫系の獣人だが、本編ではそれを入れるスペースが無いため死に設定となっている

名前の由来は『西と白虎(パイフー)


ミレーナ・ミザク
ゾマンア王国の財務官、22歳
元々は親に売られた奴隷だったが、偶然にも算術の能力をチアゴに見出されて今に至る
間延びした口調の通りズブいが計算速度はズバ抜けており、他の財務官達からも頼られる程
なお鎧を着た武人を背負って動けるため、口調に見合わず彼女も力持ちである

名前の由来は『南と朱雀(チューチュエ)


ベルナルダ・I・ブーゲンビリア
ゾマンア王国の魔導部隊に所属していたロリババア、年齢不明
長く魔導部隊に所属したが、有望な後継者を見つけて引退、以降はイーナの祖母より前の年代から御意見番をしている
国が生まれた時から生きてるらしいが、長く生きていても恋をした事がなかったらしい
何故こんなにも長生きなのかは本人にも分かっていない

名前の由来は『(ベイ)玄武(シェンウー)



※本作はpixivにも同じく投稿されております

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