朝霧陽子は名前のみ登場します。
主人公は夕凪晃(ゆうなぎあきら)。
よろしければおつきあいください。
幻夢戦記レダ外伝
「夕凪 晃は二代目レダの戦士!」
二つの太陽に照らされた乾いた大地アシャンティ。
レダの戦士朝霧陽子が異世界ノア(地球)へと去ってからおよそ七年が過ぎた日、
アシャンティ紀元・星歴12007年24月30日。
雲海を飛ぶ人影があった。鳥では無くて人間である。翼のついたジェットパックを背負った人は「女」だ。長い黄金色の髪を、うなじのあたりにて帯で結んでいるその女性はただの女では無い。いや、空を飛んでいるからという意味ではない。
アシャンティの女性は肌の露出が多いが彼女も同様だ。鎖骨のあたり、胸回り、腹囲、背中、両の上腕、太腿が露出している。だが、彼女は薄褐色の肌を鎧で守っている。そう、彼女は戦士なのである。肩甲、胸甲、腕甲、腰囲甲、膝当て、膝から下の脛当て状の長甲靴といった赤紅色の鎧は、赤胴色の装飾で縁取られている。首には青い宝珠を正面に向けた金の首飾りがあり、左側の肩甲と胸甲は首と同じ色の青い宝珠で繋がれていて、左右の胸甲の間にもそれはあって豊かな胸乳の峡谷を辛うじて隠していた。宝珠は腰囲、膝当て、甲靴の踵の横等の左右にもあって、そこから発せられる肉眼では見えないエネルギーフィールドが、超高速で高空を飛ぶ彼女の身体を低温と強風から守っているのだ。
円らだが澄んでいる青い瞳は遙か南西の方角を睨んでいる。そこには自分の到着を待っている人たちがいるはずだ。表情は凜としていて、高い鼻は彼の地の闘いの匂いを嗅ぎ、艶っぽい唇からは焦りの吐息が時折洩れる。身長は170センチ、スリーサイズは上から91‐57‐91、体重は57キロといったところか。あくまでノアの尺度であることをお断りしておく。
(待っていてくれ、ヨニ、リンガム、そして・・・・・)
女は瞼を閉じた。脳裏に浮かんだのは、見かけは少女だが、短めの金髪に青い瞳、褐色の肌を持つ巫女とベージュの体毛の姿は老いた雑種犬だが学者であるリンガムだ。続いて浮かんだのは屈強な身体を持つが明るい、誠実な戦士で、船乗りでもあり商人でもある。
(マールガ、待っていてくれ、すぐに、すぐに、俺は戻るから・・・)
女は目を開き、行く先を、南西の方角を見つめた。そこは恐らく戦場と化しているであろう。
(俺が離れなければよかったのだ。俺のせいで皆を危ない目に合わせてしまった・・)
世の男の誰もが目を見張り、女の誰もが羨む美しい身体を持ちながら、その心の声は戦士とは言え、男そのものだ。アシャンティの言語にも男と女ではその言葉遣いの違いがある。ノアからやってきた彼女も普段の思考はノアの言葉である日本語ではなく、アシャンティの言語、それも男言葉で行っているようだ。
そんな彼女の名は夕凪 晃(ユウナギ アキラ)、朝霧陽子に続く異世界ノアから召還された二人目のレダの戦士である。晃が身につけている鎧は色こそ違うが、初代のレダの戦士、朝霧陽子が身につけていたものとデザインはほとんど一緒だ。レダの戦士の晃は仲間達を載せた船が危機に陥っていることを知り、急ぎ戻るため、アシャンティの青い空を飛んでいるのである。
レダの戦士、古来伝わる伝説で、この世界の守護者としてレダの女神によって選ばれた戦士のことである。
「レダの力を悪しき行いに利用しようとする者が現われたとき、異世界ノアより現れ、その行為を阻むであろう」
と伝えられている。朝霧陽子は星歴12000年にノアから召還され、アシャンティを恐怖で支配し、レダパワーを用いてノアへ侵攻しようとしていた元々はレダ教の神官であった総統ゼルを倒し、その拠点浮遊城ガルバを破壊したのである。
陽子は「平和になった」アシャンティを見届けると時空の道を通ってノアへと帰っていった。しかし、アシャンティは統制されなくなったゼルの軍団の生き残り、盗賊などの無法者が跋扈する世界となってしまった。レダ教を侵攻する人々はレダの戦士の再来をひたすら祈り続けた。
そして星歴12007年14月1日、夕凪晃がアシャンティの大地に降り立ち、ヨニ、リンガム、マールガ達と正義の為に闘うようになったのだ。果たして彼女は、二代目のレダの戦士は仲間達の危機に間に合うのだろうか。
ノア(地球)にも似たような風景がある、と朝霧陽子が語っていたのをヨニは思い出した。アメリカという帝国にあるグランドキャニオンと言う名のその峡谷は、目の前に広がる「死の谷」にそっくりだったらしい。陽子はよくノアの大地の風景を、文化をヨニに語ってくれた。今となっては良い思い出だ。
だが、感傷に浸っている場合ではない。彼女を乗せた陸船(おかぶね)、双胴の機帆船「アサギリ」は深さ千メートル、幅二百メートルほどの峡谷へと追い込まれていたからだ。その船名は勿論レダの戦士朝霧陽子にちなんでいる。アシャンティの人名に苗字という週間はないため、「朝霧」は陽子が属する部族の名前と信じられている。
アサギリはエアを船底から吹き出して数十センチ陸から浮遊しているが、帆で風を受けて進む船である。アシャンティ各地を結ぶ商船であり、武装をした軍船(いくさぶね)でもある。
その船を、数百体にも及ぶ深緑色のカエル兵ウォーリア、機械でも哺乳類、爬虫類、両生類といった生物でもない、ましてや人形でもないそれら敵兵達が、銃砲類や刀、鎌を持ってレダ教徒の難民達を載せた、レダの戦士にちなんで命名されたこの船を谷底へ突き落とそうとしている。左舷の甲板からは間近に迫る深い谷が見えていて、難民達は船倉に隠れているが恐怖で皆震えていた。
「ちょっと!マールガ船長!何とかならないの!」
レダ教の巫女でもあるヨニは、二つの長さ150メートル(作者注ノアの尺度である)、幅15メートルの細長い第二、第三船体を繋ぐ、長さ90メートル、幅40メートルの主第一船体の船尾に立つ船長に叫んだ。ヨニは身長125センチで、ノアの感覚なら十二歳~三歳くらいにしか見えない。額の少し上に逆三角形の赤い宝珠を埋めた飾りをつけ、申し訳程度に身につけている黒い装束で胸回り、腰回り、両の下腕と膝から下を隠している以外は褐色の肌が露出している。背中は裏地が赤い長めのマントで見えなくしていて右手に錫杖をもっていた。
船長マールガはノアの尺度で身長200センチ、アシャンティでは珍しくない褐色の肌に筋肉質な体躯を持つ巨漢だ。肩甲にマント、ノアの日本の袴のような物を身につけ、足は脚絆を身につけているが上半身は裸に近く、盛り上がった胸、鍛えられた腹筋などを見せつけているかのようだ。年齢は三十五歳くらいのマールガは迫り来るカエル兵の集団に為す術がない。対艦用の主砲塔四台は残弾がほぼ無く、左右併せて二十門ある副砲も然りだ。使える武器は甲板に置かれた二十丁のライフル、乗組員が持つ短剣、長剣といったものだ。
「やむを得ない!あいつらに向かって突撃する」
マールガは切れ長の双眸をカエル兵部隊に向けた後、左舷第一船体船尾に立つヨニに向かって叫んだ。彼らは降伏を受け入れない。ならばイチかバチかで迫り来るカエル兵部隊に
突っ込もうと言うのだ。
「ヨニ!難民達はもう限界じゃぞ!な、な、なんじゃ!カエル兵が増えておるぞ」
声の主は船倉から出てきた黄土色の体毛を持つ首に赤い風呂敷を巻いた体高50センチくらいの雑種犬だ。彼はただの犬ではなく、人語を解する学者犬で名はリンガム。二人はレダの戦士朝霧陽子とともに闘い、今は各地を廻り、彼女の闘いを伝えている。
「むむむ、船自体も限界か。こんな時にヨーコが、レダの戦士がおればのう!」
「リンガム!それは言わない約束よ。ヨーコは、ノアに帰ったのだもの。この世界は私たちで守らなければならないのよ!」
レダの戦士、朝霧陽子は七年前異世界ノアよりレダの女神に召還された女の剣士だった。
女子高校生朝霧陽子、青い鎧に身を包んだ彼女の活躍によって、浮遊城ガルバを擁し、アシャンティの大半を恐怖によって支配し、ノアへと侵攻しようとしていた総統ゼルは倒された。陽子はヨニ、リンガムと一緒に半年間戦い続け、時には囚われ、女として耐え難い屈辱を味わいながらも闘い抜いた。そして闘いの間にヨニと陽子は愛し合う仲となったのだ。少なくともヨニはそう思っている。
だから、ヨニは六年半前に自分を置いて青い空の向こうにある異世界ノアへと帰って行った陽子が、いつかアシャンティへと戻ってくると信じていた。レダの戦士の帰還を望むのは、二人の間で契られた愛のためだけでは無い。
ガルバが崩壊し、ゼルが死んだことで、平和が訪れたと思ったのも束の間だった。ゼルの部下だった将兵達は賊徒と化し、カエル兵、機械兵たちは暴走し、盗賊たちが跋扈し、アシャンティの人々は無秩序な恐怖の世界へと叩き落されたのだ。
ヨニはレダ教の巫女として各地を廻り、レダの戦士のことを伝えた。アシャンティの人々はレダ教の信仰を取り戻し、レダの女神の復活と、レダの戦士アサギリ・ヨーコの再来を祈り続けたのである。
リンガムが編纂した「幻夢戦記」という書物に書かれているレダの戦士の闘いの半年の間に、陽子が考案した武器、艦船、要塞、組織論を元にレダ教の軍事組織「太陽の子供達」が作られた。太陽軍とも称されるその組織は、レダ教徒を守り、アシャンティ全土に散らばるコミュニティを結んで交易を行っていたが、その脆弱な太陽軍に属する陸船がアサギリである。
余談ではあるが、「幻夢戦記」には陽子が闘った半年、十二ヶ月を詳細に記した完全版と、闘いの日々を数日に圧縮した普及版があり、一般のレダ教信者に伝えられているのは普及版で、陽子の心身に耐え難い屈辱を味あわされたガルバでの虜囚の日々は割愛されている。
話しは戻って軍船アサギリである。そのアサギリにカエル兵達が突進してきた。右舷の第二船体船尾にとりついたカエル兵三体を見つけたマールガは剣を抜くと、第二船体に跳躍し、船尾に達するとたちまち彼らを切り裂いた。
「コータ、第二船体船首だ。ラック!帆を守れ、ナウン!第一船体船首!」
剣を振るいながら、マールガは部下達に指示を飛ばす。三人は剣を振るい、その他の乗組員達は残弾が少ないライフルを構えたが劣勢は否めない。アサギリからは峡谷が間近に見えていて、左に傾斜しはじめた。空を飛ぶことは出来ない陸船がそこに追い込まれたら、奈落の底へと真っ逆さまだ。
「ヨーコはいない。でも、今の私たちにはアキラがいるわ。そうよ!アキラよ」
「アキラ、そうじゃったな。アキラじゃ。きっとこっちへもどってくるじゃろうが、間に合うのかのお」
マールガが八体目のカエル兵を倒したとき、北の空からキーーンという甲高い音が聞こえてきた。ヨニ、リンガムが音のする方向を見ると、黒い影、人影が船とカエル兵の周りを旋回し始めているのが見えた。
「ふ、やっと、戻ってきたか!」
マールガは笑いながら言った。ヨニは両手を丸い顔の前で握り、リンガムは尻尾を左右に振っている。
「アキラよ。アキラが戻ってきたのだわ!」
二つの太陽をバックにして、女と思える人影が陸船アサギリに舞い降りてきた。逆光で黒くしか見えないが、そのシルエットは高い身長に豊かな胸、引き締まったウエスト、大きな臀部、長い足とそれだけでも見とれるような美しい肢体だった。
「待たせたな!許してくれ!」
そう叫ぶと赤い鎧に身を包んだ(と言ってもその褐色の肌はほとんど露出しているが)二代目のレダの戦士夕凪晃は、ジェットパックの翼を格納しつつアサギリの第二船体船首甲板に舞い降りた。本当は第二船体船尾にいる船長マールガのもとに駆けつけたかったが、屈強な彼はカエル兵相手に比較的健闘しているのに対し、苦戦している身長150センチと小柄な少年剣士のコータを助けなければと思ったからだ。晃が真っ先に自分の元へ来てくれたことで、コータは喜びを隠せないようだった。だが、それが隙を作り、乗り込んできたカエル兵が少年剣士に大きな鎌を振り下ろしてきた事に気がつかなかった。
「危ない!」
晃は左腰の腰囲甲に据え付けられた棒を掴んだ。それは刀身を隠した戦士の剣で、宝珠が埋められた棒の丸い先端部が貝の口のように開くや、そこから稲妻のような光がほとばしり、それはすぐに両刃の長剣の刀身を形成した。ほんの一秒あるかないかだったが、晃は形をなした長剣を上段に構えると、飛び上がって少年の頭上でカエル兵の首を切り落とした。カエル兵は部位がバラバラとなり、それを見つめるその青い瞳は怒りに燃えていた。
「コータ、油断は禁物だぜ!」
船首甲板に着地した晃は尻餅をついたコータに振り返り、一瞬だけ笑顔を見せていった。さらにもう一体のカエル兵が甲板に上がってきた。晃は剣を振るって次々に敵を倒す。コータは甲板に座り込んだままだ。
晃はコータの腕を掴んで立ち上がらせると、思い切り彼の右頬を引っぱたいて声質は甲高いが男の口調で叫んだ。
「しっかりするのだ!男だろう!おまえが怖じ気づいてどうする!」
さらに別のカエル兵がコータの後ろに現われたので、晃は左手に持っていた剣をグロテスクな敵の顔(それが顔としての話しだが)に向けて突きを入れた。カエル兵はそれをかわし、口から細長い舌が飛び出てきた。薄桃色の舌はたちまち晃の両手上腕、胸囲に絡みつき、彼女をコータから引き離した。
「きゃ!やぁん!」
女らしい悲鳴が思わず艶っぽい唇の間から飛び出た。
「勇気の無い男なんて。私、好きになれないわ!」
コータが自分に思慕の念を持っていることを知っての叱咤激励だが、口調は女になっている。そんなことには構わずに晃は自分の自由を奪う舌を切り落としてから甲板に下りた。向かいの第一船体船首では身長180センチのラックが帆柱の後ろに立ち、左手で舵輪を握りながら、右手で短剣を掴んでカエル兵と戦っていた。そして少年剣士のコータより低い身長120センチの小男のナウンは、第一船体船首から船尾に向かって走り、カエル兵達を斧で倒していた。
「舵を握るラックも、小さいナウンもあれだけやっているのだもの。あなただって出来るわ!」
言ってから何やらハッとした晃は羞恥心を隠せない表情の顔を左右に振った。
「あな、いや、お前にだってできるはずだぜ!」
そう言うと晃は再び飛び上がり、宙を舞っていた剣を掴むと、第一船体船尾のヨニとリンガムの元に舞い降りた。ヨニは錫杖を使って、リンガムは思い切り吠えることでカエル兵達と闘っていた。
「くそ!アキラ、おいら、男だ!闘うぞ。女の君には負けない!そして、おいらに振り向かせてみせる!」
コータは剣の柄を握り、八相に構えるとカエル兵達に向かって気合いをあげた。
ヨニとリンガムがいる船尾甲板に降り立った晃。着地の瞬間、胸甲に抑えられた豊満だが形の美しい胸乳が上下左右に揺れた。
「アキラ!遅いよ!」
「そうじゃ。もうちょっと早くもどってほしかったがのお」
「すまない、エイ! 許し、タアアアア!」
気合いを入れて剣を振るいながら、晃はカエル兵達をなぎ倒す。
「アキラ、私たちは大丈夫よ!早く行ってあげなよ!」
「早く?行く?」
「そうじゃ!隠さなくてもよいぞ!」
晃は顔を紅潮させ、向かいの第二船体船尾で孤軍奮闘するマールガ船長を見つめた。彼が立つ船尾は一番多くの敵がとりついている。胸の鼓動がさらに激しくなりつつあった。それは激しい闘いによる運動量の増加によるものだけではない。戦士とは言え「年頃の女」の、想いを抱く男の元へと一刻も早く駆けつけたい感情が抑えきれなくなってきたのである。晃は巫女と学者犬の行為を無駄にしたくは無かった。
「ご、ごめんね、ヨニ、リンガム!」
晃は同志の二人に凜々しい顔を向けて首をかすかに下に振って言った。そして一瞬目を閉じた。
(飛んで!あの人のもとへ!)
晃が女の口調で念じると、ジェットパックは噴射をし、赤い鎧の女戦士を屈強な体躯の船長の下へと送り届けた。すぐにでも逞しい胸に飛び込みたい気持ちを抑え、晃は彼と背中を会わせて剣を中段に構えた。
「マールガ、ごめんなさい。遅くなって」
「大丈夫!と言いたいがレダの戦士が来てくれたところで、劣勢は変わらんな」
「ところで、船長、主砲と副砲の残弾は?」
晃は船首近くと船尾近くの甲板に据え付けられた三十センチ口径単装を見ていった。
「右舷主砲残弾無し、副砲も然り。左舷主砲は前後各二、三発、副砲も然り、だな」
「それだけあれば何とかなるわね。あ、あぁん!」
カエル兵が十数体、右舷側に体当たりをし、船は揺れ、思わず晃は叫んだ。さらに左舷に迫る峡谷へと傾斜を深めている。その後、晃とマールガは二人で体当たりをしたあとに乗り込んできたカエル兵、十体を続けざまに剣で倒したあと、再び背中を会わせた。まだ、一度もマールガの顔をまともに見ていないが、逞しい体躯から発せられる男のにおいが鼻に入ってくる。逆に晃から発せられるフェロモンがマールガの鼻に入り、脳天へと達しているかも知れぬ。甲板上の乗組員達はそれぞれ剣やライフルで闘っているが、犠牲者がどんどん出ている。コータも奮戦しているが苦しそうだ。もはや一刻の猶予も無い。
「私が敵の隙を作るわ。そうしたら、船の向きを変えて!左舷の砲を打つのよ」
「カエル兵は数百はいる。どうやって?」
「こうやってよ!」
晃の背中の赤胴色のジェットパックの二つの穴が噴射をし、晃を甲板から飛び上がらせた。マールガもヨニ、リンガム、コータらは驚いて垂直に上場していく半裸の女戦士を見上げてそれぞれ叫んだ。
「アキラめ。何を考えてやがる!」
「アキラ!何をするの?」
「ど、どこへ行くのじゃ!アキラよ!」
「き、きれいだ、アキラの飛んでいく姿が!」
カエル兵達もその多くが、ロケットのように上昇していく赤紅色の鎧に身を包んだ二代目レダの戦士を見上げた。
陸船アサギリから飛び立った夕凪晃は、高さ三百メートルほど達したところで停止をした。そして右手に持っていた剣をさらに高みへと投げ上げた。戦士の剣はクルクルと回りながら上昇続け、三百三十メートルで一瞬制止をした。そこで刀身が柄の中へと吸い込まれるように消えると、柄自身が大きく上下に伸び、たちまち長さ二百センチくらいの弓へと変化した。ノアの日本に伝わる和弓に似ていたそれは、弦をピンと張らせて漂い晃の元へと下りてきた
晃は頷くと弓の「握り」を左の親指と中指で掴み、右の親指と人差し指で弦を引っ張った。左腕を伸ばし、弦を右頬辺りまで引くと左右の親指の間に稲妻のような光が発せられ、それはすぐに一本の光と成り、すぐに青い矢を形成した。矢の切り込み部分を弦の中央あたりをいれ、左足を伸ばし、右足は腿をあげ、踵を後ろに向かえて下に向けて構えを完成させると、晃はジェットパックの噴射を止め、その170センチの長身の身体は降下を始めた。
下にはアサギリに取り付きつつあるカエル兵達の動きが見える。その動きは単純なようで規則的だ。晃の青い瞳がくまなく動き、残る敵の数は二百三体と認めた。そしてほとんどは「量産タイプ」だが、頭に突起物がある六体は指揮官タイプに見えた。
「あれらを打てば、彼らの動きを制することができるかもしれないわね」
晃は大きく形を変えた弓が元の形に戻ろうとする力を抑えつつ、最もアサギリに迫っている指揮官級カエル兵に狙いを定めようとした。レダの戦士の強化された筋肉でも弓と弦を持つのはかなりの力を必要とする。それに身体はすごい勢いで降下をし続けていて態勢と保つのも大変だ。ピョンピョンと動く狙いを定めつつある指揮官級カエル兵が右の手を大きく振りあげた。
「総攻撃の指示?そうはさせないわよ!それっ!」
右手の力を抜くと、弦が猛烈な速さで下の方向に押し出され、目標に向かって飛んでいく。矢は指揮官級の頭を射貫き、その部位をバラバラに分解させて地上へと叩きつけた。たちまち、アサギリの第二船体右舷に肉薄していたカエル兵達四十体が動きを静止させた。
「やったわ!次ぎ!」
アサギリの船尾後方二十メートルの所に着地した晃はジェットパックを噴射させ、再び高空へと飛んだ。そして二百メートルで止まった後に降下をしつつ、再び弓を構えて弦を引いた。再び、稲光とともに矢が形成され、今度は第二船体右前方にいた指揮官級らしいカエル兵に狙いを定めた。
「ええい!飛んで!レダの矢よ!」
アサギリの第二船体中央甲板に動いたマールガは飛びあがってから降下しつつ弓矢を構えてカエル兵を狙って、矢を放ち、地上に降りては再度飛び上がるレダの戦士夕凪晃の行動に感心をした。カエル兵の動きが、ある者達は止まり、別の者達は右へ左へと慌てふためいたように動き回り、北東の方向に逃げ出す動きもあった。隙は十分に出来ている。
「アキラめ!空中戦か!やるじゃねえか。よし、今のうちだ!おい、ラック!おーもかーーじ!進路を変えろ!」
真ん中の第三船体の帆柱の後ろ、船尾甲板で立っていた身長180センチで肥満体のラックは船長命令を復唱しつつ両手で思い切り握っていた舵輪を右に回した。そうはさせじ!と船に乗り込んでいたカエル兵達がラックに向かってくるが、そこに身長120センチの痩せたナウンが飛んできて、剣を振るって彼らを倒した。
アサギリはその船体を右に百八十度回頭していく。その間に晃は高空から矢を放ち続けていた。見かけは少女の巫女ヨニと学者犬リンガムは、顔を上に向けて第一船体船尾で歓声を上げる。
「アキラ!すごいわ!アキラがあんな闘いをするなんて!」
「なかなかじゃ!ヨーコ以上かもしれんのお!」
「もう!この老いぼれ犬!ヨーコは別格よ!」
やがてアサギリは完全に向きを変えた。第三船体船尾に走ってきたマールガは帆を上げてエネルギー消費量が激しいため普段は使わない、全身用エンジンを噴射するようラックに指示をした。その後、マールガは伝声管に叫んだ。
「左舷主砲、副砲、残りの弾を装填!合図とともに撃つ!」
高空で六発目の矢を放ったあと、降下をしていく晃は船体の向きを変えつつあるアサギリの動きをみて微笑んだ。だが、その表情はすぐに険しくなった。指揮官級カエル兵は全て破壊したはずだが、他の兵士タイプのカエル兵のなかに変わって指揮を取る者が現れ始めたのだ。もう一度着地し、飛び上がった晃は再度弦を引っ張って矢を出現させると新たに指揮官となったらしいカエル兵に向けて矢を放った。
カエル兵達もただ弓で撃たれるだけで無く、反撃を初めようとしていた。少年剣士のコータは、七度目の攻撃を終えて着地しつつある晃に一度は静止したカエル兵達が銃らしいものを取り出し、彼女を狙うのを認めた。
「駄目だ!アキラがやられる。みんな、アキラが着地する時が危ない、あのカエル兵たちを撃ってくれ!」
乗員たち五人がコータの命を聞いて銃を構えたが遅かった。一体のカエル兵の放った銃弾が長身の女戦士のむき出しになった括れた腰回りを直撃した。晃は身体をクルクル回して落下し始めた。
「なんてことなの!よし、噴射をさせてバランスを整えれば!」
晃自身体力を消耗しつつあり、またレダの戦士の鎧の宝珠も輝きが鈍くなり、エネルギーフィールドの耐衝撃能力も低下していたのでひとたまりもなかった。辛うじて外傷はない。
(もう一度!上昇!)
と念じたときだ。別のカエル兵が放った銃弾が、今度は背中のバックパックを直撃し轟音とともに大爆発を起こした。赤い閃光のなかにいる晃は、いかにレダの戦士といえども助かるまい。
「いやあああああああああ!アキラーーーー」
「なんでだよーアキラーーーーー」
ヨニとコータが悲鳴をあげた。ヨニは甲板に倒れ込み、泣き崩れた。同じように見ていたアサギリの船長は冷静を装ったが、心の中では号泣していた。
(畜生!アキラがやられた!なぜだ!なぜだ!)
マールガは初めて会ったときの晃を思い出した。とても色っぽい肢体に赤紅色の戦士の鎧がよく似合っていた。綺麗な顔、美しい声を持ちながら話し方は何故か男そのもので、その長くスラリとした足をがに股で歩くときもあった。でも最近は以前よりも女らしくなってきてはいた。そして敵に対するときは容赦ないが、普段の微笑みは愛らしく、頭の回転は速いが子供や年寄りには優しくて、彼の二人の子供も晃に懐いていた。
マールガは晃に惹かれていた。彼女も自分の事を男として慕って、いや愛してくれていると思っている。レダの戦士としての使命はあるだろうが、遠からず気持ちを伝え、自分の妻に、子供達の母になってくれるように求めるつもりだった。
「お前の犠牲、無駄にはしない。左舷主砲、副砲、撃てーーーーー!」
轟音とともにアサギリの二門の主砲、十門の副砲が火を吹いた。カエル兵達に次々と砲弾が降り注ぐ。今度こそ、総統ゼルが残したウォーリアの軍団は烏合の衆となり、朝霧陽子がこの世界に残した太陽軍所属の船から離れはじめた。
「あ!アキラが!」
ヨニの叫びに、マールガは空を見た。閃光が消えた空に晃の「亡骸」が見えた。五体はきちんと繋がってはいたが、動かない二代目レダの戦士の美しい肢体は真っ逆さまに落ちていき、固いアシャンティの大地に叩きつけられた。
「アキラー」
マールガは船を飛びおり、そこへ駆けだした。ヨニ、リンガム、コータらが続く。夕凪晃は本当に死んでしまったのだろうか。そして、彼女は一体何者なのだろう。彼女のことを知りたい読者のために少し時を遡ってみよう。
アシャンティから見れば異世界であるノア。太陽系第三惑星地球。
時は西暦1999(平成十一)年7月1日木曜日の日本国。大阪府大阪市。
夕凪晃(ゆうなぎ あきら)は三十四歳。広告代理店宣電社に務めるサラリーマンである。身長は175センチで胸囲は91、体重は75キロ。体格はまあ申し分ないが、最近はお腹が出てきたのが気になる独身の中年男性だ。黒い髪をセンターに分け、瞳は円らで鼻は高くて一応イケメンの部類に入る。夏用のネイビーのスーツ、白いカッターシャツ(筆者注・ワイシャツのこと)に赤いストライプのネクタイをしているが、第一ボタンは外している。
「ほんまに暑いなあ。なんでこんなに暑いのにスーツにネクタイなんかせなあかんねん、おかしいやろ!」
晃は今、大阪市にあるかつて花をテーマにした博覧会が開催されたこともある緑地公園の、メタセコイアが立ち並ぶ中央通りのベンチに座っていた。西陽が厳しい時間で、そろそろ梅田にある会社に戻らなければならない。
広告代理店とは言っても、晃が所属する宣電社大阪支社営業第三課は食品スーパー、商店街等の折り込みチラシやイベントの企画が中心で花形の部署とはいえ無かった。でも係長である晃は仕事にはやりがいを感じている。取引先のスーパーの社長や店長、商店街の会長等とは良好な関係を築いているし、部下にも恵まれている。
だが、到底達成する見込みのない高い予算、こちらをあからさまに見下している営業第一課、第二課との関係に疲れていたし、上司である第三課の課長の陰湿的且つ高圧的な態度、自らの保身を第一とし、部下の成功をいつも横取り姿勢に反発していた。
この日も課長が校正のミスをしたスーパーのチラシ価格誤掲載の謝罪に、取引先のスーパーをお詫び行脚していた帰りなのだ。責任は全て押しつけられた。
「あーあ。なんでこんな仕事してんのやろなあ」
晃の子供の頃の夢は小学校の教師だった。子供が大好きだったからだ。だが、高校の時、成績が良かったこともあり、担任教師のすすめもあって、偏差値だけで大学の志望校を選び、経済学部に入ってしまった。子供の頃の夢など忘れてしまっていたと言って良い。卒業後、いわゆる一流企業として名高い宣電社に入り、希望していた地元の大阪支店に配属となったが、激務に追われる中で忘れていた子供の頃の夢を思い出すようになったのだ。
「今更やり直しがきかへんのは分かっているけど、教育学部のある大学に入って、教員免許をとるべきやったわ」
緑地公園のメタセコイア並木で遊んでいる子供達を見てなおさらそう思った晃である。
「鬼ごっこか。可愛いなあ子供は」
小学三年から四年生くらいの男児五人が歓声をあげて走り廻っている。
「それか、全く違う世界へ行って、一から人生やり直せへんかなあ」
蜘蛛の巣が上から落ちてきて、それを払ったとき、鞄のなかで、最近持たされるようになった携帯電話が鳴った。課長だろうか。鞄に手を入れると取り出されたのは、黒い携帯電話ではなく、ハーモニカだった。鳴り続ける携帯電話をそのままにし、晃はハーモニカを口に付けてある曲を吹き始めた。
それはある少女が、想いを伝えるために作ったセレナーデだった。その少女とは一度会っただけだが、その時聞いたセレナーデは何故か頭に残り、時折口ずさんだりしていた。
ハーモニカは難波の南、アメリカ村の雑貨店で衝動買いしたものだ。
(名前、なんやったかな、ようこ、あさだ、違う、あさぎり、朝霧陽子や、可愛い子やったわ)
東京に住む二つ年下の母方の従弟、阿賀多彰彦が、彼女が出来たと言って、京都旅行に来たついでに大阪へとやってきて朝霧陽子を紹介してくれた。三人で大阪の街を観光し、その時にそのセレナーデを聴かせてくれたのだ。その曲が自分に勇気を与えてくれ、彰彦に告白できたのだという。
(俺も勇気を持って、課長を殴ったろか。いや、会社を辞めて、もう一回大学入り直して京師目指すか?)
セレナーデを吹ききったときだ。突然、周囲を歩いている人の動きが止まった。まるでビデオを一時停止にしたような感じだった。
「なんなんや。みんなどうなったんや!」
晃が立ち上がったとき、その足下が揺れた。そして蟻地獄のような穴が開くと、彼はそこに吸い込まれていった。
「た、助けてくれー、わあああああああ」
彼の叫びは聞こえなかった。そして鬼ごっこをしていた子供達が携帯電話が鳴り続ける鞄を発見した。
「あれ、さっき、おっちゃんがハーモニカ吹いてたよなあ」
「どこ行ったんやろ?」
上か下か右か左か分からない空間を三十四歳のサラリーマンである夕凪晃は真っ逆さまに落ちていた。目の前にハーモニカがあって同じ速度で落下している。
「ここはどこなんや」
やがて、目の前に人影が立ちはだかった。とても大きな、巨人とも言える人影はだんだんはっきりとしてきた。女だ。インドのサリーのような装束を身につけているその女は老婆だった。老婆は両手で手招きをすると、晃の身体とハーモニカは引き寄せられていく。
「いややで!あんな婆さん!俺はいやや!」
ハーモニカはその老婆の元へと飛んでいったが、晃の身体は後ろのほうに現れたまばゆい光の渦に吸い込まれていった。
「うわあああああああ!俺が何したって言うんやああああ」
場所は変わってアシャンティ。星歴12007年14月1日。
身体が落下する感覚は続いていた。見ると遠くに地平線が見える。眼下に広がる光景は
荒涼として緑がほとんど無い。ここは大阪ではない。いや日本ではない。それに沈みかけた太陽が二つもあった。ここは地球ですら無いのか、と夕凪晃は思った。
自分が落ちようとする地点は、火山の噴火口、いや中南米にあるセノーテを思わせる巨大な穴だった。
(木が生えてる!穴の中に森があるんや。ひょっとしたら助かるかも?)
晃の身体はやがて穴の中に落ちた。身体を衝撃が襲い、気が遠くなった。
目を覚ますと晃は網のようなものの上にいる自分に気がついた。
(ネットが張られていたんやな。ほんで助かった?一体ここはどこや?)
時間がどれくらい経過していたのかは分からないが、穴の上の方から朝陽のような光が差し込むのが分かった。そして、網は蜘蛛の巣のようであることも分かった。形状もそうだが、ねっとりとした感覚が蜘蛛の巣だと分かる。
(人間が引っかかる巨大な蜘蛛の巣?)
そして、二十メートルほど離れたところに、人間が仰向けでいるのが見えた。それは少女だった。十二歳くらいの少女は胸と腰回りに水着のようなものを着ていて、さらに靴とマントを身につけていた。露出している肌は褐色で、ショートカットの頭髪は金髪だ。
「○※△×∞?△×■ヨーコ?」
その少女は晃に何かを言ってきたが、まるっきり分からない言葉だった。日本語で無いのは分かるが、英語でも中国語でもない。だが、「ヨーコ」という言葉は聞き取れた。
さらに少女のそばにはベージュの体毛の犬がいて、こちらに向かって吠えている、いや、違う。犬も少女と同じようなリズムの言葉を叫んでいてやはり「ヨーコ」と言った。
「何言ってんねん!ヨーコって誰やねん?俺は晃。夕凪晃、ア・キ・ラ!ここはどこやねん?」
「×▽⊿○●アキラ?ヨーコ▽⊿○×?」
少女の言葉が理解できないと首を振ったとき、悲鳴が聞こえた。犬はワンワンと吠えている。少女の向こうに巨大な蜘蛛がいてこちらへと近づいてきているではないか。
「あかん!絶体絶命や!」
晃が叫んだ時、口の中に何やら羽虫が飛び込んだ。反射的にその虫を噛み砕くと、口の中から糸のようなものが突然飛び出してきた。糸は無数に出てきて全身を包んだ。それは蚕の繭のようなものを形成し始めたではないか。
「わあああああ!ほんまになんなんやー!」
繭の中に閉じ込められた晃。中は目映い光がほとばしり、思わず晃は目を閉じた。無意識に両手は繭の外壁を掴んでいた。全身を電気のような衝撃が走り、身体の中で何かが弾けたような感覚が襲った。光に目が慣れてくると、繭の中の壁は鏡のようになっていた。
「なんや!子供の頃に行った南枚方ファミリーパークのミラーハウスみたいやんか」
次ぎに覚えた違和感は、全身に力がみなぎり、頭の認識力が上がったような気がしてきたことだ。そう、自分がスーパーヒーローになったかのような自身と感覚だ。スーツの上腕部には盛り上がって筋肉があり、カッターシャツのボタンは弾けて胸の筋肉が盛り上がってくる。まるで世紀末の救世主のようだ。これなら自分とあの半裸の少女、そして変な犬が虜になっている蜘蛛の巣の主を倒し、脱出できるかもしれない。晃は拳に力を入れ、叫んだ。
「うおおおおおお!俺は負けへんでーーー」
だが、晃にはさらなる試練が襲ってきた。今度は身体の骨という骨がきしむような音を立て始めたのだ。まるで身体が小さくなるような感覚だ。髪の毛は女のように腰の辺りまであっと言う間に伸び、黒色から金髪へと変貌した。さらには下半身、男の象徴のあたりにかゆみが襲った後、陰茎はかつて無いほど勃起し、先端から何かが飛び出しそうな気がした。下腹部の内側に風船が膨らんだような感覚が襲った後は、睾丸が収縮し、陰茎はたちまち
縮んで陰核となり、尿道は小陰茎に、陰嚢は大陰唇に、前立腺は消滅して膣へと変化をした。そして卵管、子宮が形成されていった。
「な、なんなんやあああああ!まってくれええ、お、○●○●があああ!」
女性にくらべれば平面的だった乳房には脂肪が注ぎ込まれ、造山運動のように隆起していく。ウエストは締まり、尻は丸くなって果実のようになっていく。太腿はむちりとし、脹脛から足首にかけて細くなり、引き締まっていく。
晃は眉の中で、自分が女へと変化したことを自覚した。身長170センチ、スリーサイズは91-57-91,体重は57キロの美しい女だ。そして身につけていたネイビーのスーツは下着も含めてジュッと音を立てて消滅した。誰も見ていないのに女になった晃は本能的に両手で豊かになった胸を隠した。
消滅したスーツは、赤紅色の戦士の鎧として再構成された。首には青く輝く宝珠をいただく黄金の首飾りができ、両肩に肩甲、両胸には胸甲、腕には下腕当てが出来た左の肩甲と胸甲、左右の胸甲の間にも青い宝珠ができた。腰囲甲、膝当、脛当てと一体化した長甲靴ができた。長い髪はうなじのあたりで濃紺の布で結ばれた。腰囲甲の左側には刀身を隠した剣の柄が据えられている。
「お、女に、おれは女になったのか?」
低かった声は甲高く可憐になった。そして顔は、元の顔の面影をどこか残しているが、瞳は青くなり、睫毛は伸びた。鼻は高くなり、唇はルージュをひいたように艶っぽい。顔と露出した肌は薄褐色だ。もしも、夕凪晃が最初から女として生まれてきたら、その髪と瞳の
色はともかくこのような顔だったかもしれない。
そして女になった晃はただの女では無い。鎧(と言っても晃にすればほとんど水着のビキニだが)を身に纏った戦士なのだ。
繭に取り込まれた異世界の男、恐らくノアから来たであろう男は陽子と関係があるのだろうか。ヨニは彼に叫んだが言葉が分からないかのようだった。だが、繭が光ったあと、それを突き破って出てきたのは美しい長身でスタイルの良い女性だった。
「ああ、ヨーコの再来だわ、見てリンガム!」
「ほ、本当じゃ!色こそ違うがヨーコが身につけていた戦士の鎧と同じじゃぞ!あれはレダの戦士じゃ!」
光に包まれていた女は腰囲甲から剣の柄を取り出した。それはすぐに刀身を現わし、戦士の長剣となった。
「あなたはだれ?ヨーコと同じアサギリの一族なの?答えて!私はヨニ、レダ教の巫女よ!」
「わしはリンガム。見かけは犬じゃが学者じゃ!」
女戦士は蜘蛛の巣から飛び上がり、迫り来る巨大な蜘蛛を剣で両断した。そして、犬のリンガムを左手で掴み、ヨニには自分の腰にしがみつくように言った。言うとおりにしたヨニの鼻に女の匂いが飛び込んでくる。
(同じだ。ヨーコと同じ匂いだ。やはり、この人は男が女になったけど、レダの戦士なんだ!)
「夕凪晃!晃、それが俺の名前!行くぞ!」
晃は剣の柄を空に向けた。すると柄から船の碇のようなものが打ち出された。碇は地上の地面に刺さり、巻き取る形で晃とヨニ、リンガムを穴から地上へと救い出した。
「助かったわ。ありがとう戦士さん。いえ、アキラだったわね」
「おまえさん、一体何ものじゃ。やはりノアから来たのか」
晃は美しい肢体の女戦士となった自分を恥じらうように見つめた後、胸を張るようにして言った。
「私は、いや、俺は夕凪晃、普通のサラリーマン、のはずだったんだが・・・・」
両手で鎧に守られた豊かな胸乳を下から持ち上げた。そのあと、腰囲甲におさまっていた剣の柄を取り出し、上下にふるって刀身を出現させた。そして、下段に構えた。
「でも何だか、とても強くなったみたいよ、じゃない、強くなったみたいだ!」
晃は自分がヨニとリンガムと名乗る巫女と学者犬の言葉を理解し、自分もこの世界の言葉で思考をし、考えていることを自覚した。そして口調は女になりそうだったのを、意識して男言葉にするのだった。内股になった太腿もわざとガニ股にしてみる。
「私は、いいえ、俺はレダの戦士。この世界を救うため、ここに導かれたんだ・・」
そして星歴12007年24月30日に戻る。地面に叩きつけられた夕凪晃をマールガは抱いて起こした。死んだと思っていたが、胸甲の下の豊かな乳房が大きく息づいていたからだ。
「息を、息をしている!アキラ!しっかりしろ!」
初めてアシャンティに来て、男から女の戦士に変身した日のことを夢見ていた晃はゆっくりと瞼をあげた。男の体臭が心地よく鼻に入ってくる。
「マ、マールガ?みんなは、船は?どうなったの?」
「おまえさん、やはりすごいぞ。皆を救ったんだ!」
マールガの腕の中でずっといたい気持ちを抑えて、晃は立ち上がった。ヨニ、リンガム、コータらが涙を流してこっちを見ている。その後ろには初代のレダの戦士にちなんだ船名の船が止まっていた。カエル兵の残骸が散らばっているが、動いている敵はいない。二つの太陽が西の空に沈もうとしていて、空には星が瞬きはじめていた。
「あたりまえでしょう。私は夕凪晃。二代目だけどこれでもレダの戦士よ」
歓声が沸き上がった。船からは小さな影が二つ飛び降りてきた。マールガの子供、双子の五歳の娘ルンと息子のビンだ。晃は必死になって駆けてくるルンとビンに駆けより、まずルンを抱き上げ、続けてビンを抱き上げた。
「心配かけてごめんね。ルン、ビン、お父様のおかげでみんな助かったのよ」
「もう、アキラ、どこにもいかないでだよう」
「ほんとだぜい、アキラはおいらたちのアキラだい!」
「大丈夫。私はみんなと一緒にいるわ・・」
ビンを抱き、背中にルンを背負った晃はマールガに振り返って微笑んだ。マールガは頷いた。コータは面白くない表情だ。ヨニは拍手をしながらリンガムに言った。
「ねえ、アキラ、女っぽくなってきたわよね」
「本当じゃな。もし、男に戻ったら、それはそれでたいへんじゃ」
水晶の玉には子供にまとわりつかれながら微笑むレダの戦士が映っていた。その水晶を撫でる皺だらけの手がわなわなと震えている。
「ユウナギ、アキラ・・・美しい身体じゃ。そして、強い男の心を持つ女の戦士。手に入れたい。どうしてもそなたを・・・・」
暗い部屋の中にいる女、老婆は立ち上がって言った。
「必ずお前を手に入れる。そしてノアも我が物とするのじゃ。ゼルのような失敗はせぬ」
水晶玉に映る晃は、マールガに寄り添いながら船に歩き始めた。そして後ろを振り返った。
「どうした?アキラ」
「なにか、怖い視線を感じたの。何もなければいいけれど、怖い」
「お前が?男みたいなくせに」
「い、言ったわね!もう!」
(やだわ、本当。口調が女になっているわ・・・)
「でも、良いのよ。今の私は女ですもの。私は夕凪晃、二代目のレダの戦士」
空には満点の星と月が輝いていた。
おわり