デートから帰り二人はシャーレに戻ってきていた。
「マルクト、今日はありがとう」
「我も、今日は楽しかったです。ありがとうございました。」
「楽しんでくれたみたいでよかったよ。明日から、よろしくお願いね。じゃあ、今日はもう帰ってもいいよ。」
「先生...一つ言いですか」
「ん?」
「我、帰る家がないです」
「なななな、なっ、何だってーーーーーーー!!!???」
そういえばそうだった。全く失念していた。鋼鉄大陸から連れてきたのだ。家などあるはずもない。このまま外で野宿をされるわけにもいかないし、どうするべきか先生は逡巡する。
「ならば先生は何処に住んでいらっしゃるのですか?」
マルクトが不安そうに訪ねてきた、よもや自分を追い出すのではあるまいかという目をしている。
「うーんとね、私はここのシャーレの居住区に住んでるよ。そうだ、マルクトもここに住むかい?」
「いいのですか?」
先生の提案に嬉しそうに目を輝かせる。
「もちろんさ、マルクトも先生になったんだもんね!」
「ふふ、そうですね」
こうしてマルクトもシャーレの居住スペースに住むことになった。
〜翌日〜
「おはよう!良い朝だね!!今日からはさっそく仕事をやっていくよ!」
「おはようございます、先生。今日もハイテンションですね。」
「ああ!気合入れないと仕事なんてやってられないからね〜、仕事前にコーヒーを飲んで気合を入れてから一日を始めると集中してできるんだ!」
「ほう...そのコーヒーとやらを我にも頂けますか?」
「いいけど、苦いよ?」
「大丈夫ですよ、先生。我を誰だと思ってるんですか。」
先生はコーヒーメーカーのボタンを押し、コーヒーを入れ始める。マルクトは椅子に座りながらウキウキ待機している。よほど楽しみなのか肩が弾んでいるのがとても可愛らしい。
「できたよ」
「ありがとうございます」
「「いただきます」」
二人は同時にコーヒーを口に含む
しかし両者の反応は対極的であった。
「うん、やっぱり朝はこの味だね」
「にがい...」
爽やかな朝を体現するかのような晴れやかな顔を浮かべる先生とは対象的にマルクトは口をすぼめて少し涙目になっていた。ここに来て初めて目覚めた日も同じ液体を飲んでひどい目にあったことを思い出し、コーヒーがトラウマになってしまったようだった。
「やっぱり苦いのだめじゃん!」
「うう...行けると思ったのですが...ままならないですね」
「でも、目は覚めたでしょ?」
「そうですね...もう飲みたくはないですが...」
本当に気に召さなかったようで少し機嫌が悪くなってしまった。そんなマルクトをなだめるように先生が話しかける。
「じゃあ、今日から仕事をやっていくにあたって簡単なことを説明するね。」
「はい、お願いします。」
「シャーレでは各学園から送られてくる資料を読んで判子を押したり、要望に対しては承認や否決を決める。これが主な事務仕事で、たまに生徒から要請があって現場まで行くこともあるから割と体力も使うんだ。」
「それを今まで一人でこなしてきたということですか...?体が壊れてしまいますよ。」
「いや、私一人だけってわけじゃあない。当番と言って一日一人交代でシャーレにお手伝いをしに来てくれるんだ。強制じゃなくて希望する生徒だけのはずなんだけど...3ヶ月待ちとかになってるからね...みんな本当に優しくていつも助かってるんだ」
「そうだったのですね。一人で全部やっているわけではなく安心しました。」
「こんなん一人でやってたら死んじゃうよ!?」
「ふふ、そうですね」
「どうして笑ってるのさ!?」
「ふふ、それはさておき先生、まず私は何をすればいいですか?」
「うーん...まずはいろんな学園のことを知ってほしいから事務仕事じゃなくて外回りの仕事をしてもらおうかな。」
「ふむ...具体的には何をすれば?」
「それぞれの学園を回って困っている人が居たら声をかけて話を聞いたり、要望書にかかれていることを叶えに行ったりするんだよ」
「なるほど。把握しました。では、行ってまいります。」
そうして、飛び立とうとしたときに事務室の部屋がノックされ、誰かが部屋に入ってきた。
「先生、今よろしいでしょうか?」
「おぉ!リンちゃんいらっしゃい!」
「リンちゃんって呼ばないでって何度言ったら...はあもう今更言っても治りませんよね...それで先生、昨日の夜送られてきたこのメールの件についてお話したいのですが...」
そのメールとは先生がリン昨日送ったメールのことである。そのメールに書かれていたのは
『そういえば明日からシャーレの先生がもう一人増えるからよろしくね〜』
というものだった。なんとも抽象的で突拍子のないメールであることか。今に始まったことではないが一番知りたい情報を端折って伝えてくる傾向が先生にはある。そんなもんだから生徒から心配されて呆れられんじゃないのか先生!!
「ああ、そのことね。私からも紹介するよ。彼女がマルクト。新しくシャーレの先生になってくれた
「こんにちは、我の名はマルクト。今日からよろしくお願いします。」
「貴女が新しくシャーレの先生になった方ですね。先生と違ってどこか聡明に見えますね」
「なんかひどくない!?」
「シャーレの先生が一人増えるという大事で重要な事をあんな友達に送るような軽いメールで伝えてくる先生は聡明とは言えないでしょう!?」
「それは...そうだね...ごめん」
「まあ、それはいいとして...マルクトさん、はじめまして。」
「はじめました。」
「何を...?」
「シャーレの先生です✨」
「真面目にやってください...貴女も
リンは何やらボソボソと呟いていたがそんな事実はないと先生は声高々に否定したかった。一方マルクトは至って真面目に答えたのだが何やら巫山戯ていると勘違いされてしまったことに少しばかりショックを受けていた。この事は秘密である。
「貴方はこれから、ここキヴォトスで働くことになります。とても大変で辛いときもあるかもしれませんがその時は先生を頼ってください。普段は頼りないかもしれませんがいざというときはとても頼りになる方ですから。」
リンは先生のガラスのハートをフォローしつつマルクトへのアドバイスも欠かさない。(フォローになったかは些か怪しいところだが...)やはり連邦生徒会長代理の力は伊達じゃないのだ。
「ありがとうございます、リンちゃんさん。我は、この人を信頼しているので大丈夫です。」
「リンちゃんと呼ばないでください...」
「わかりました。ではなんと呼べば」
「呼び捨てでいいですよ」
「わかりました。リン、これから頑張りますね」
同性同士、なんだか意気投合していた。おいていかれた先生は少し悲しそうな嬉しそうな顔をしていた。
「では、失礼します」
そうしてリンが事務室を去って、先生とマルクトの二人だけになった。
「では先生、今度こそ行ってまいります。」
「行ってくるのは良いけど、何処に行けばいいかとか分かるの...?」
「...わかりません。」
「うーんじゃあまずはミレニアムに行ってみる?知り合いもいることだしさ」
「そうですね、アリス達に先生になったことを報告しに行きたいと思います✨」
「いいね!アリスたちによろしく言っておいて。」
「そういえば、我のことをいつ公表するのですか?」
「ああ、今からシャーレ公式Z(旧Zwitter)で公表するよ。みんなに話しかけられちゃうかもね」
「楽しみです。では行ってきます」
そうしてマルクトはミレニアムに飛び立った。
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先生に地図をもらいミレニアムに向けて飛翔するマルクト
やはり
しかしその代わりにとんでもなく街がきれいだった。計算され尽くし、美しく立ち並ぶビル群。蒼く透き通った空。そして威風堂々と聳え立つサンクトゥムタワー。今向かっているミレニアム自治区も相当美しいものだ。この世界で争いが日常茶飯事であることが不思議でならない。
思慮に耽っているうちにいつの間にかミレニアムにつくマルクト。しかし、困ったことがあった。
「困りましたね...アリス達がいる場所がわかりません。」
先生から、主な学園が書かれている地図はもらっていたのだが学園毎の地図をもらっていなかった。
「...ねぇ、あの人、新しくシャーレの先生になった人じゃない...?」
「たしかに...そうかも。ねぇ、ちょっと話しかけて見ようよ」
「えぇ...なんかちょっと怖そうじゃない?」
少し遠くで3人のミレニアム生徒と思わしき人がこちらを見て何やら話していた。
マルクトは、そのミレニアム生にアリスたちの居場所を聞くことにした。
「すみません、ひとつよろしいですか?」
「うわあ!なっ...なんでしょうか...」
「驚かせてすみません...アリス達の場所を聞きたいのですが」
「アリスちゃん?ええとアリス達はね、この校舎の奥にあるゲーム開発部の部室にいるよ、って言ってもわかんないか...うーんじゃあ私達が案内してあげる」
「えっ...」
「親切にありがとうございます。良い人たちですね」
「えへへぇ...」
一人の生徒は嬉しそうにほほえみ、もう一人の生徒は怪訝そうにマルクトに尋ねる。
「ねえ、気になってたんだけど、あなたって新しくシャーレの先生になった人よね...?」
「はい、新しくシャーレの先生に就任したマルクトと申します。それと、先生の彼女でもあります。」
「ぇ゙っ」
マルクトは盛大に勘違いしていた。ソフから、恋人というものは遊園地などでデートをするものだと聞かされていた。なので、自分と先生は付き合っていると思っていたのであった。
波乱が幕を開けた。しかしそれは序章に過ぎなかったのであった。
インフルくらい体調が悪くて全然かけませんでした。すみません...確認はしましたがもし誤字などございましたら報告してくれると嬉しいです。