嘘つき魔女(♂)はヤンデレ聖女にメス堕ちさせられる   作:なほやん

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13. 嘘を吐くたびに気持ちよくなる体

 

 マローズの手が上がった。

 

 風が生まれた。廊下を埋め尽くす竜巻は石壁を削り、床板を剥がしていく。

 

「セラフィ、下がって」

「嫌です」

 

 魔力が、まだ戻らない。

 セラフィが前に出た。両手から聖力を広げて風を弾こうとする。白い光が竜巻にぶつかって火花を散らした。弾ききれない。

 

 マローズが指を振った。竜巻の向きが変わる。セラフィの壁を迂回して、横から。

 

 レオが跳んだ。

 小さな体がセラフィの前に立った。金色の光が毛並みから溢れる。

 だが、次の風がレオを弾き飛ばした。壁にぶつかって、甲高い声が上がる。

 

「レオ!」

 

 マローズが歩いてくる。靴音が正確に刻まれている。

 

「奇跡でも起こしたつもりですか」

 

 唇が、薄く笑った。

 

「嘘は、私の前では無力です」

 

 瞳が光った。嘘を見抜く目。

 

「あなたの魔力の正体は嘘。私が嘘だと見抜けば、その力は使えない。そうでしょう」

 

 唇を噛んで、嘘を撃った。

 

「私は世界一かわいい!」

 

 桜色の火花が散った。次の瞬間、霧みたいにほどけて消えた。

 届く前に、消された。

 

 もう一発。

 

「私は伝説の大魔女だ!」

 

 今度は放った瞬間に、空中で裂けた。見えない指先で摘み潰されたみたいに、嘘の魔力が砕けて散る。

 

 駄目だ。

 見られている限り、嘘は全部殺される。

 

 だったら——真実。

 

 あの日を思い出す。ビガロの鎧。嘘は弾かれ、真実は通った。

 溜めた魔力を、今度は真実に乗せて撃つ。

 

「私は、セラフィを守りたい!」

 

 白い光が走った。

 今度は消えない。マローズの看破をすり抜けた。だが、目の前で竜巻が幾重にも巻きつき、厚い壁になる。

 光は風の層を二枚、三枚と削って、そこで止まった。押し切れない。

 

「真実なら届くとでも?」

 

 マローズの指先が揺れる。風壁がさらに厚くなった。

 

 もう一つ。

 

「私は、あの子を失いたくない!」

 

 今度の真実は、さっきより深く食い込んだ。風壁の奥で火花が散る。だが、それだけだ。

 足りない。威力が、足りない。

 

 嘘は看破される。真実は防がれる。

 

 通る弾が、ない。

 どうしたらいい。

 一人じゃ届かない。

 

 ——扉が吹き飛んだ。

 

  *  *  *

 

「こっちを見ろ! マローズ!」

 

 土埃の向こうに立っていたのは、三つの影。

 

 フリルのドレスにレースの手袋。長いスカートの裾を優雅に摘んでいるヤギ髭。

 淡い空色のワンピースに身を包んだ、長身の騎士。

 白いブラウスと紺のスカート。長いまつ毛が映える、中性的な少年。

 

 マローズが言葉を失った顔をしていた。

 

「知恵と花の魔法学者、ドレモント!」

 

 先生がくるりと回った。

 

「正義と青の騎士、フェリオ」

 

 任務だから言っている。そういう声。でも、耳が赤くなっている。

 

「お主も名乗れ」

「断る」

 

 ビガロは腕を組んで横を向いていた。

 先生の旅荷が妙に重かったのは、このためか。

 

 恥ずかしい。馬鹿みたい。なのに胸の奥で糸が一本、切れた。

 フリルの裏地が二の腕を擽る。自分だけの秘密だったものが、今ここで共有されている。喉の奥を焦げた蜜のように灼いた。

 

「……茶番は終わりですか」

 

 マローズの、冷たい声が戻るとともに竜巻が膨れ上がった。

 

 先生とフェリオが同時に動いた。

 

「そんな格好をして、恥ずかしくないのですか!」

「ああ、恥ずかしいさ……だが友を助けるためならば!」

 

 フェリオの声と共に剣が風を裂く。

 

「お主が嘘を支配する王宮を出て、わしも自分を見つけることができたのじゃ」

「なにを……どうやら本気で言っているようですね」

 

 キラキラの杖から放たれた魔力が、風の渦を中和する。

 

「命令じゃない。自分で、決めた」

 

 ビガロの声が響き、斧が煌めいた。

 しかし、風はむしろ勢いを増していく。

 

「貴様らのような異常者に、私の王都を汚させはしない!」

 

 竜巻の刃が、ドレスを、ワンピースを、スカートを切り裂いていく。

 フェリオの肩口が裂け、ビガロの頬に血が走った。

 先生がわざと大仰に裾を翻した。マローズの視線が吸われる。

 

 あの裾の重さを、私は知っている。膝を叩くリズム。太腿を擽る感触。

 三人の布が鳴るたびに、私の肌の下で何かが応えていた。

 

「グレア」

 

 セラフィの手が、ずっと私の手を握っていた。

 皆が暴れている間、魔力が少しずつ戻ってきていた。

 

「いけます」

 

 手を繋いだまま、マローズに向かって腕を伸ばした。

 セラフィの指の温度が手首を伝い、腕を昇り、肺の底で嘘の快楽と混ざっていく。繋いだ手の下で、レースの袖口が二人の肌を一緒に包んでいる。この感覚を、もう恐れない。

 

 魔力と聖力。正反対の二つが、繋いだ掌の中で一つになり——

 

 光が放たれた。

 

 白と金が螺旋を描いて廊下を貫く。

 

「そんなもの!」

 

 マローズが手を掲げると竜巻が光に巻きついた。看破が嘘を削り、風が散らす。光が押し戻されていく。

 

「グレア! もっと!」

 

 押している。足りない。

 マローズがもう片方の手を上げた。竜巻が渦を巻いて、一本の槍になる。

 

「無駄だ。私が……正義だ!」

 

 マローズの声が変わっていた。冷たさが剥がれている。残ったのは、剥き出しの確信。

 

 風の槍が放たれ、胸を貫かれた——はずだった。

 

 硬い音がした。鉄と風が噛み合う、短い悲鳴。

 胸の奥で鎧の欠片が、風の槍を弾いていた。欠片の表面に、マローズ家の私紋が光っている。

 

「その鎧は……」

「そう、嘘つきには貫けない。自分が正義だなんて——あなたも嘘つきね、マローズ」

 

 私はセラフィの手を、強く握った。

 

「最後の一発を!」

「はい!」

 

 魔力を最大に高める。そのために、最大の嘘をつく。

 フリルが二の腕を撫でる。指先の桜色が熱を持つ。声帯が勝手に絞まり、あの声を作ろうとする。骨盤の内側で何かが弾けて、快楽が脊椎を一椎ずつ舐め上がっていく。裾のレースが太腿を叩く。一拍遅れて、全身の産毛が逆立った。

 

 ああ……もう、わかっていた。

 

 あの日と同じ台詞。あの日、ビガロの鎧を砕いた真実。

 

「私は——」

 

 声が震えた。目の奥が熱い。

 

「——男だ」

 

 あの日は真実だった。

 

 でも今は真実で、同時に嘘だ。

 

 嘘を吐くたびに気持ちよくなる体が、最後の一発を解き放つ。

 光の渦が竜巻を飲み込んでいく。

 

「馬鹿な——それは、真実では……!?」

 

 マローズの声が割れた。完璧だった発声が、初めて崩れていた。

 真実と嘘が同時に存在する矛盾を、マローズは処理できない。

 

 光がマローズを包み、吹き飛ばした。黒いローブが宙を舞い、廊下の奥の闇に消えた。

 

 後には、静寂だけが残った。

 

 腰が床に落ちた。今度こそ本当に空っぽだ。セラフィと一緒に床に座り込んだ。裂けたフリルの端が、焦げた匂いを立てている。

 

 レオが走ってきた。膝の上に飛び乗って、顔を舐めた。ざらざらして、温かい。涙の味がするのか、何度も舐める。

 

「勝った」

「勝ちました」

 

 フェリオが壁にもたれて立ち上がる。ワンピースの袖が裂けて、肩から血が滲んでいた。ビガロが片膝で体を支えている。スカートの裾が焦げている。

 先生がドレスの裾を払って、にやりと笑った。レースの手袋が片方なくなっていた。

 

 セラフィの額が、私の肩にこつんと当たる。温かい。生きている温度だった。

 

「帰りましょう」

「はい。今度こそ」

 

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