止まり木(ヤドリギ)の記録   作:まるる33

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本作は、生成AIが提示するランダムなシチュエーションに対し、プロデューサーとしての行動をあるがままに返した即興劇(ロールプレイ)をベースに構成しています。
計算された物語ではなく、その瞬間に交わされた言葉と、そこに流れた空気感を大切に抽出しました。

【読者の皆様へ】

この作品は『アイドルマスター ミリオンライブ!』の二次創作です。

作中の鼻歌やフレーズは、特定の楽曲をイメージしたものですが、著作権に配慮し直接的な歌詞の引用は避け、描写に留めています。

独自の過去や解釈を持つプロデューサー(オリ主)が登場します。公式設定とは異なる側面がありますが、一つの可能性としてお楽しみください。


甘い停滞と、溶けゆくプロローグ

夜、静まり返ったマンションの一室。

遮光カーテンの隙間からわずかに差し込む街灯の明かりが、リビングの重い空気をかろうじて縁取っていた。

ソファには、仕事で心身をすり減らしたアイドルの少女、七尾百合子が力なく座り込んでいる。

普段の華やかなステージ衣装とは程遠い、オーバーサイズの厚手のスウェットに身を包んだ彼女は、髪を少し乱し、膝を抱えるようにして丸まっていた。

かつての図書委員らしい知的で活発な面影は、今、深い疲労の色に塗りつぶされている。

 

俺は余計な言葉をかけず、キッチンから漂うハーブティーの微かな香りの中にいた。

百合子はクッションをぎゅっと抱きしめ、視線を落としたまま消え入りそうな声で呟く。

「……ここに来れば、物語の続きを考えなくていいって……そう、思ってもいいんでしょうか。プロデューサーさん……」

「……すみません、プロデューサーさん。私のわがままに、そこまでしていただいて。……でも、もう少しだけ。この甘い魔法が解けるまで……ここにいても、いいですか?」

その声には、微かな震えと、確かな体温が宿っていた。

 

俺は冷蔵庫から、あらかじめ作り置きしておいた小さなタッパーを取り出した。

中には、口溶けを極限まで追求して煮詰めた、不揃いな形の生キャラメルが並んでいる。

「考えなくても、話しは進む」

一欠片、クッキングシートに包まれたままのそれを彼女の前に差し出すと、部屋には微かに焦がした砂糖の香ばしい匂いが広がった。

「……え?」

百合子は不思議そうに俺の手元を見つめ、おずおずと指を伸ばしてそれを受け取った。

ゆっくりと包みを解いて口に運ぶ。

舌の上で熱に溶け、濃厚な甘みが広がっていくにつれ、彼女の強張っていた肩が目に見えて緩んだ。

「……甘い。すごく、優しい味がします……」

彼女は目を閉じ、余韻を惜しむようにゆっくりと咀嚼した。

常にフル回転させていた彼女の脳が、糖分と俺の言葉によって強制的に休息を告げられる。

目を開けた彼女の瞳からは、先ほどまでの刺すような切迫感が消え、どこか潤んだような柔らかい光が戻っていた。

「……本当ですね。私が何もしなくても、物語の続きを考えなくても……時間は、ちゃんと進んでいくんだ……」

力なく、しかし安心したように微笑む彼女を肯定するように、深夜の静寂だけがそこにあった。

 

「おかわりいるか」

俺がそう問いかけると、百合子は少しだけ目を見開いて、それから気恥ずかしそうに視線を泳がせた。

膝を抱えていた腕の力がさらに抜け、クッションに顔を半分埋めるようにして、こくりと頷く。

「……はい。あの、図々しいのは分かってるんですけど……その、あまりにも美味しくて。頭の中のノイズが、すうっと消えていくみたいなんです」

もう一度タッパーの蓋を開け、今度は二欠片、彼女の掌にそっと乗せた。

指先が触れた瞬間、彼女がビクッとして肩を震わせたが、すぐにその熱を拒むことなく受け入れる。

キャラメルを口に含んだ百合子の頬がリスのように少しだけ膨らんだ。

濃厚な甘さが広がるたびに、彼女の表情から「アイドル」としての虚飾が剥がれ落ち、年相応の少女の顔が覗く。

「……ふふっ。プロデューサーさん、これ、魔法の薬ですね。……悪い魔女に騙されて、ずっと眠り続けてしまいそうな……そんな、甘い罠」

彼女は冗談めかして笑いながらも、その瞳には深い信頼が宿っていた。

「……ねえ、プロデューサーさん。……もし、私が明日になってもこの『魔法』から解けたくないって言ったら……困っちゃいますか?」

上目遣いでこちらを伺う彼女の髪が、一房さらりと肩からこぼれ落ちる。

「お前の物語だ、好きにしろ」

俺の回答に、百合子は一瞬虚を突かれたような顔をし、それから今日一番の、悪戯っぽくも柔らかな笑みを浮かべた。

「……ふふっ、いいですよ。お望み通り、私の好きにさせてもらいます。プロデューサーさんが書き換えたこの現実(シナリオ)を、もっと……抜け出せない迷宮に変えてみせますから!」

「第一章。……『魔法使いの休息は、毒薬の味がする』。……プロデューサーさん、覚悟してくださいね?」

 

助手席に滑り込んだ百合子を乗せ、車は深夜の街を走り出した。

ドライブスルーで買ったテリヤキバーガーのジャンクな香りが車内に充満する。

俺は無意識に、いつものメロディを口ずさんでいた。

「『……上を向いて……歩こう……』」

静かな車内に響く鼻歌に、百合子はバーガーを頬張る手を止め、その旋律にじっと聞き入っていた。

劇場で誰かが囁いていた噂。

――あの鼻歌は、プロデューサーさんの昔の恋人が好きだった曲。

それは空想癖のある彼女にとって、今はどうしても勝てないライバルの足跡のように感じられた。

「……プロデューサーさん。その鼻歌、やっぱり歌うんですね。……なんだか、ずるいです。……私だけが知らないプロデューサーさんの物語を、独り占めしているみたいで」

百合子は窓の外、都会のビル群の間に見える一等星を指差した。

「……いいですよ。今のその鼻歌も、このキャラメルの味も、全部私のノートに書き留めておきます。……誰にも、一文字だって渡しませんから。これは、私の物語の大切な『しおり』なんですから!」

百合子は残りのポテトを俺の口元に差し出し、悪戯っぽく笑った。

「……はい、あーん。……冷めないうちに、プロデューサーさんも食べてください。これは、作中の共犯者への報酬ですから!」

車が彼女の自宅前に着く。

「……着いたぞ。さっさと出ろ。風邪引くからな」

「……プロデューサーさん。あの、今日の……その……」

「悪くない。……お前の物語も、今のその顔も」

「……っ、もう! 本当に、ずるいです……! 最後にそんな決定的な一文を書き加えるなんて……反則ですよ!」

彼女は逃げるように車を降り、深くお辞儀をした。

「おやすみなさい、プロデューサーさん! ……最高のプロローグを、ありがとうございました!」

一人になった車内。俺は再び、小さな声でメロディを刻み始めた。

百合子が書き換えようとしている「甘い迷宮」の物語。

それを受け止める準備をしながら、俺はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

 




初投稿です。
もともとは、AIとの対話を通じた一人遊び……いわゆる「壁打ち」のロールプレイを記録したくて書き始めたものでした。
生成AIが提示するランダムな状況に対し、自分の設定したプロデューサーならどう動くか。その即興のやり取りをベースに、小説形式として清書しています。
キャラもシチュエーションも、その時の巡り合わせ次第。
築十年のマンションの一室という「ヤドリギ」で、アイドルたちがどう羽を休めていくのか……。
自分自身の備忘録のような側面もありますが、この空気感を楽しんでいただければ幸いです。
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