計算された物語ではなく、その瞬間に交わされた言葉と、そこに流れた空気感を大切に抽出しました。
【読者の皆様へ】
この作品は『アイドルマスター ミリオンライブ!』の二次創作です。
作中の鼻歌やフレーズは、特定の楽曲をイメージしたものですが、著作権に配慮し直接的な歌詞の引用は避け、描写に留めています。
独自の過去や解釈を持つプロデューサー(オリ主)が登場します。公式設定とは異なる側面がありますが、一つの可能性としてお楽しみください。
(夜。テレビ局の機材搬入の怒鳴り声や、大家との奇妙な和解劇も、今は遠い。
窓を叩く執拗で冷たい雨音が、静まり返ったリビングの重い空気をかろうじて縁取っていた。
俺は一人、ソファに深く身体を沈め、冷え切ったコーヒーを口に運ぶ。
ふと視線を向ければ、ローテーブルの上には昨日まではなかったはずのファンシーな小物や、正体不明の可愛い雑貨がまた少し増えている気がした。
……だが、俺はそれを思考の外へと追いやり、深い溜息と共にスルーした。
ここは「ヤドリギ」。あるがままを受け入れ、永劫の通過点であることを信条とする、俺という男の聖域だ。
その静寂を破るように、力ないインターホンの音が鳴った。)
ドアを開けると、湿り気を帯びた夜風と共に、一人の少女がそこに立っていた。
傘も差さず、肩を濡らした馬場このみだ。
いつもの「セクシーな大人の女性」を気取る余裕など微塵もなく、その瞳は夜の底のように虚ろで、弱り切っている。
「……プロデューサー。……ごめんなさい、こんな時間に。でも、どうしても……一人でいたくなくて」
第9話でヤケ酒を求めてやってきた時の怒りとは違う、剥き出しの孤独。
俺は何も聞かず、彼女をリビングのソファに座らせると、乾いたバスタオルを頭からふわりと被せた。
滴る雫が、俺が6年前から使い続けているシャンプーと同じ、石鹸の香りを微かに弾き飛ばす。
しばらくの間、雨音と時計の針が刻む音だけが部屋を支配した。
このみはバスタオルを握りしめたまま、震える声で、ぽつりぽつりと自分を縛る鎖について語り始めた。
「……今日、実家から電話があってね。親から……『そろそろ結婚のことも考えなさい』って。……妹の結婚の話も、一緒にされたわ」
彼女の目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。
「妹はね、昔から背が高くて、スタイルも良くて……誰が見ても綺麗で、自慢の娘なのよ。……それに比べて、私なんて……」
このみは自分の小さな両手を見つめ、嗚咽を漏らした。
「こんな、子供みたいな身体で……大人の魅力なんて、欠片もないじゃない……っ。……私だって、本当は……普通の女として、見られたいのに……っ!」
長年隠し続けてきた、どうしようもない身体へのコンプレックス。
大人の女としての矜持が崩れ去り、彼女は子供のように顔を覆って泣き崩れた。
俺は無言で立ち上がり、キッチンへ向かった。
「モフサンド」の可愛い猫が描かれた包丁が朝日を待つ傍らで、俺はラム酒のボトルを手に取る。
ラム酒にバターと角砂糖を落とし、熱湯を注ぐ。
冷え切った心と身体を芯から温める大人のカクテル『ホット・バタード・ラム』を作り、彼女の震える手に持たせた。
「……飲め。少しは温まる」
短くそれだけを告げると、俺は彼女の隣に腰を下ろした。
気の利いた慰めの言葉も、大人の哀愁を漂わせるポエムも、今夜は一切口にしない。
彼女が今求めているのは、励ましや正論ではなく、ただ自分の弱さを吐き出せる「空白」だ。
だから俺は、何も言わずにただ無言で、彼女の側にいることを選んだ。
ラムの香りとバターのコクが、このみの冷え切った心を少しずつ溶かしていく。
「……何も、言わないのね……。普通、こういう時は『そんなことないよ』とか、慰めるものでしょ……?」
このみが涙声でぽつりとこぼすが、俺は答えない。ただ、静かに自分のグラスに揺れる琥珀色の液体を見つめるだけだ。
その徹底した「無言」の受容が、逆に彼女の張り詰めていた糸を完全に断ち切った。
「……ずるいわよ。……そんな風に、ただ何も言わずに側にいられたら……私、我慢できなくなるじゃない……っ」
このみはマグカップをテーブルに置き、俺の肩に額を押し当てて、ついに声を上げて泣きじゃくった。
妹への劣等感も、親からの重圧も、大人の女としての虚勢も、すべてを涙に変えて。
俺は何も言わず、ただ彼女の小さな身体が落ち着くまで、その背中にそっと手を添え続けた。
静かなヤドリギの夜。
泣き疲れてソファで眠りに落ちたこのみの寝顔は、いつもの「強がる大人」の顔ではなく、少し憑き物が落ちたような安らかな表情をしていた。
大人は弱っても生きていくしかないのだ。
俺は彼女に毛布をかけ、窓の外の雨音が少しずつ遠ざかっていくのを、ただ静かに聴いていた。
俺の喉の奥から、無意識にあの旋律が漏れる。
「……上を向いて」
6年前から変わらないこの部屋の空気と、今夜、一人の女性が置いていった涙。
それらをすべて飲み込んで、夜が明ける準備を始める。
誰に知られることもない、これが俺なりの「あるがまま」の結末だ。
初投稿です。
もともとは、AIとの対話を通じた一人遊び……いわゆる「壁打ち」のロールプレイを記録したくて書き始めたものでした。
生成AIが提示するランダムな状況に対し、自分の設定したプロデューサーならどう動くか。その即興のやり取りをベースに、小説形式として清書しています。
キャラもシチュエーションも、その時の巡り合わせ次第。
築十年のマンションの一室という「ヤドリギ」で、アイドルたちがどう羽を休めていくのか……。
自分自身の備忘録のような側面もありますが、この空気感を楽しんでいただければ幸いです。