五条悟が負けた。
それは両面宿儺との戦いを見届けていたメンバーにとって信じられないことであった。
しかし、彼が遺してくれた宿儺へのダメージも大きい。ヤツを祓うのは今しかない。
鹿紫雲が今から宿儺と交戦する。その間に万が一であったプランに移行すべく、高専の術師たちは急いで準備を始める。
その時だった。
「え……!?」
慌ただしくなる空間の中で水色の髪の少女─三輪霞が声を上げる。
「三輪、サボってないでお前も手伝え」
「え、いやでも、これ…」
「一体何の─」
その言葉に、三輪が指差すモニターの方向に目を向ける。その画面が映す光景に、その場にいる全員が驚いた。
鹿紫雲が、宿儺の前にいなかったのだ。
「どういうことだ!? アイツまさか…!」
「待て、あの戦闘狂が投げ出すと思うか?」
「でも、実際にいない訳だし…?」
「一体何が─あ!」
宿儺の目の前に、1人の男の姿が現れる─黒に満ちた男だった。
フードを深く被り、ロングコートを纏っているその男はまさに漆黒そのもの。その佇まいと目の力強さから、この男の実力が確かだと言うことは伝わってくる。
「あれって…」
「まさか…『シャドウ』か!?」
「シャドウというと、五条悟と鹿紫雲が言っていた謎の男か」
「ああ。正体不明、術式不明、なんなら
シャドウは深淵から覗き、全てを見透かすような低い声を届かせながら剣を抜いた。
「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」
「キヒッ、来たな」
呪いの王が乱入者に対し口角を上げる。五条悟からの連戦、場を繋ぐだけの並の術師なら興ざめだが、シャドウは─
瞬間、宿儺の視界からシャドウが消えた─いや、消えたと思うほどの速度で目の前に飛び出してきたのだ。宿儺への速攻、狙いは首だった。
「が、足らんな」
「そういう貴様もだ」
相当な熟練者でも当たる高速の攻撃、それを宿儺は最小限の首の逸らしで避ける。さらに、右手ストレートでのカウンター、シャドウは片手で受け止め、そのまま回し蹴りで宿儺の顔に一撃。宿儺は後ろに飛ばされ、建物に激突する。
「宿儺が手負いとはいえ、あんな容易く…」
「─アイツが何でいるかは知らんが好都合だ! 今のうちに急げ!」
(……成る程、やはり違う)
飛ばされた礫の下で宿儺は思う。
シャドウからの攻撃に、
(だが、確実に呪力と同等の力を持っている)
厄介だ。
そう宿儺は心の中で付け加えた。こちらが持っている情報は僅か、摩虎羅も破壊され、次元斬も容易には撃てない。
それでも、呪いの王は嗤った。
「ああ─
その間、シャドウは五条悟の亡骸に歩みを寄せていた。
「五条悟─現代最強の術師か」
そう口から溢すと、剣先を五条の心臓に目掛ける。
「お前は、
シャドウが剣を振るう。すると、紫の細い線が、五条の全身を覆った。1本1本が生きているかのように繊細に動くそれらは、イルミネーションみたいだと見た者を思わせるほどに美しく輝いていた。
「さて…呪いの王、両面宿儺」
背後から襲いかかる宿儺の拳をいなして距離を取り、剣を向けながらシャドウは言う。
「その体に、我が名を刻め」
「簡単に壊れてくれるなよ─シャドウ」
2人と、それを見守る人々の中に、緊張が走った。
(よしっ! 陰の実力者やりたいことの1つ『アイツっ!』『どうしてヤツがここにいる!?』と騒ぐ主人公とその一派、『ほう、少しは楽しめそうな奴が来たな』と余裕を見せるラスボスに対して互角の戦いを繰り広げて『すげぇ…でもおかげで…!』とか言われて時間稼ぎに貢献して存在を十分に示す陰の実力者っ! これでまたやりたいことリストが埋まったぞ〜!)
そう、このシャドウを除いては。
この物語は、シャドウことシド・カゲノーこと影野実が呪術廻戦の世界に来るところから始まる。
陰の実力者でいるときはね、誰にも邪魔されず自由で─なんというか、美しくなきゃあダメなんだ
孤高で優雅でスタイリッシュで……