【TS】近所のガキ達相手に師匠面して千年後、久しぶりに戻ったら色々荒れてた   作:御花木 麗

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12.ある意味公開処刑っぽい

 

 

 

 

 

 あの鎧の門番に案内された通りに進み、お目当ての一般謁見が行われる集会場へとたどり着いた。

 だが、俺はその場所に足を踏み入れた瞬間、最近何度目か分からない驚きに目を見開くことになった。

 

 教えられた広場には、人が溢れ返っていたのだ。

 数千、下手したら数万人規模の群衆がひしめき合っている。こんなに人がたくさんいる状況で、ジースに気安く話しかけることなどできるはずがない。もっとこぢんまりとした集まりを想像していた俺の目論見は、見事に打ち砕かれた。

 

 人の密集具合に圧倒されながらも、俺はなんとか人混みの中に潜り込んだ。

 戸惑いながら待機していると、やがて周囲から一斉に割れんばかりの拍手と歓声が湧き上がった。観客の熱気が肌をひりつかせる。

 何事かと視線を向ければ、広場の奥に設けられた豪奢な祭壇に、一人の人物がゆっくりと歩み出てきたところだった。

 

 プロパス教――教皇。

 俺の弟子である、ジースだ。

 

 相変わらず、その振る舞いは様になっている。

 白と金を基調とした法衣を翻し、威厳と慈愛に満ちた佇まいで、彼女は熱狂する観客たちへ向けて静かに手を振っていた。

 数万人もの人間が自分に注目している状況。千年前の、すぐオロオロと泣き出していた彼女なら、絶対に怯えて逃げ出していたはずの光景だ。

 

 しばらくの間、歓声が広場を包み込んでいたが、ジースがスッと振っていた手を下ろすと群衆はばっと静まり返った。

 そして、彼女はよく通る凛とした声で、挨拶の言葉を紡ぎ始めた。

 

「皆の者、今日この日も健やかに集えたことを嬉しく思います。本日は『思いやり』をテーマに、少しお話しさせていただきましょう。私たちがこうして平穏に暮らせるのは、互いが互いを支え合う心、すなわち他者を慈しむ心があるからで――」

 

 そんな感じで話は続いた。

 やばい、泣けてきた。

 なんだその立派な言葉は。あのナヨナヨの泣き虫だったジースが、こんなハキハキと聞きやすい声で、大群衆を前に堂々とスピーチをしているなんて。

 

 俺は教え子の成長の凄まじさに、胸が熱くなるのを抑えきれなかった。

 思わずスンスンと鼻をすする音が漏れてしまう。すると、周囲の信者たちが訝しげな目で俺を見てきた。

 

『確かに良い話だとは思うけど、そこまで号泣するほどか?』とでも言いたげな、困惑の視線だ。

 

 なんじゃい。なんじゃい。

 誰だって、面倒を見た弟子がこんなに立派に成長した姿を目の当たりにしたら、絶対にこうなるに決まってるだろうが。そんな俺をジロジロ見る暇があったら、ちゃんとジースの話を聞きなさいっての。

 俺はフードの奥で目元をごしごしと擦りながら、彼女の教話に聞き入った。

 

 やがて、感動的なスピーチが終わりを告げる。

 次は何をするのだろうかと見守っていると、ジースは穏やかな微笑みを浮かべたまま、とんでもないことを言い出した。

 

「では次に、聖典の朗読を行います。今回朗読する箇所は、偉大なる私の師、『ゼロの魔術師』が私達のために遺してくださった日記からの抜粋です。5321日目の記録を読み上げましょう。ここには、偉大なる師の遺した、心に響く素晴らしい言葉が記されており――」

 

 一瞬、頭の中が真っ白になった。

 感動で熱を帯びていた体が、潮が引くように急速に熱を失っていく。驚きのあまりローブのフードの中に収まっている後頭部にペタっと貼り付けた長い耳がピーンと立ちそうになったので、どうにか堪える。

 

 にしてもマジで……?

 

 日記って、あの俺がつけてたやつ……!?

 そうか、俺があの狂った空間に飛ばされた時、小屋の中に日記類は全部置きっぱなしにしてきたんだった……!

 

 にしても、5321日目って確か……。

 やばい。この日の文章は、俺も明確に覚えている。

 

 この日は本当に書くことが何もなくて、深夜の謎テンションに任せて、頭の中でこねくり回していたポエムを書いたっけ。当時はすごくいいと思っていたけど、今思い起こすとめちゃくちゃ痛いポエムだった気がする。そんなのを書き殴った日だ。

 

 良くない! 非常によろしくない!

 深夜テンションで書いた代物。決して、決してだ。人に見せるために書いたわけじゃないから自分をさらけ出して書いた文章を、ましてや数万人の前で朗読されるなんて想定しているはずがない!

 

 つまり、この数万人の前で、俺の恥ずかしすぎる黒歴史ポエムが大きな声で朗読されるということか?

 まさかの超大規模な公開処刑!?

 何を思ってその日をチョイスしたんだ! やっぱりジースは俺に何か恨みでもあるんじゃないのか!?

 

「『――あぁ、世界はかくも無慈悲なれど、我が内に秘めし――』」

 

 ジースが、朗々と、そして無駄に良い声でそのポエムを読み上げ始めた。

 耐えられない。これ以上は俺の精神が崩壊する!

 

 その朗読を何としても止めたい一心で、俺は無我夢中で人混みを掻き分け、最前列へと躍り出た。

 そして、肺の中の空気をすべて振り絞って叫んだ。

 

「あのぉぉぉっ!!!!!」

 

 静まり返っていた広場に、俺の情けない絶叫が響き渡った。

 数万人の視線が一斉に俺に突き刺さる。もちろん、祭壇の上のジースの視線も。

 

 話を唐突に遮られたジースは、不機嫌というよりは純粋な戸惑いを浮かべて俺を見下ろした。

 

「……どうかなさいましたか?」

 

 ヤバい。ポエム朗読をやめてもらいたい一心で飛び出したせいで、この後の言い訳を何も考えていなかった。まさかそのまま正直に言うわけにもいかないし。

 

「いや、……えっと」

「何もなければ、朗読に戻らせていただきます。では――」

「あります! あります!!」

 

 だからダメだって!

 俺は必死に頭を回転させ、思いついた言葉を矢継ぎ早に口走った。

 

「え、えっと! 教皇様は防壁魔法が大変素晴らしいと伺いました! この都市を囲う防壁魔法もあなたの力だとも。ぜひ、実際にそのような魔法を構築するところを実演して見せてほしいのです」

 

 話を中断して言うことがこれだ。

 咄嗟に言った言葉なので詰めが甘すぎるし、これでじゃあそうですかとはならない……。

 案の定、ジースの脇に控えていた側近と思われる眼鏡をかけた生真面目そうな若い男が顔を真っ赤にして怒鳴り込んできた。

 

「君、いい加減にしなさい! 演説を唐突に遮ったばかりか、今度は教皇様に大道芸のような真似をしろと言うのですか! あまりにも無礼ではないか!」

 

 そりゃあそうだ。本当におっしゃる通り過ぎる。

 もうここまでか……。そう諦めかけた時だった。

 

「いいですよ」

 

「……え?」

 

 ジースがそう言って、静かに側近に下がるよう命じる。

 

「魔導防壁は構築するのに意外と時間がかかるので、すぐにお見せすることはできませんが……代わりに、素早く展開できる派生魔法のシールドをお見せしましょう」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 助かった……!

 昔からのお人好しな性格は、教皇になっても変わっていなかったらしい。その優しさに、俺は救われた。

 これで俺の寿命は数分延びたと言っていい。残念ながらポエムの回避自体はできていないが、今は時間を稼ぐしかない。

 

 ジースは右手をスッと前に伸ばし、軽く目を瞑った。

 そして、カッと目を見開いた瞬間。彼女の目の前に、高さ一メートルほどの半透明の盾の形が形成され、浮かび上がった。

 

「そこのあなた」

 

 ジースは、最前列にいたある一人の観客を名指しした。

 

「足元に手頃な石があるでしょう。試しに、それを私に向かって思い切り投げてみてくれませんか?」

 

「い、いや……でも、教皇様に向かって石を投げるなんて……!」

 

「大丈夫です。この魔法に守られていますので、思いっきり投げていいですよ」

 

 そう言って、ジースは浮遊する半透明の盾を構えた。

 観客の男は言われたとおり、恐る恐るそこに落ちていたまぁまぁ大きな石を拾い、教皇へ向かって投げつける。

 

 ガンッ! と鈍い音が響き、石は見事に盾に弾き返され、地面へと落ちていった。

 群衆から「おおぉ……」という感嘆のどよめよが上がる。

 

「生成速度を重視しているため、広範囲を覆うように生成される魔導防壁と比べれば多少脆くはなりますが、それでも、よほどの威力がない限りは十分に防ぐことができます」

 

 なるほど。魔導防壁魔法の多層構造を一部だけ切り取り、盾として扱うことで生成速度を大幅に上げたのか。とっさの防御には最適な使い方だ。確かにこれなら盾として十分に扱える。

 俺が教えた番外魔法から、自分で考えて更にこの派生系を生み出したのか。やるじゃないか、ジース。

 

 だが――。

 展開されたマナの構造を見て、俺は思わず口角を上げた。

 

 都市を覆うあの魔導防壁を見た時にも気づいていたが、やはりこの即席のシールドにも、マナの構築構造にあの頃の『ジースの癖』がそっくりそのまま残っていたのだ。

 その懐かしい癖を再び目の当たりにした瞬間、俺の中で何かがカチリと切り替わった。なんだか、調子が戻ってきたのだ。

 

 ふと、千年前の丸太小屋で弟子たちにプレゼンをさせ、俺が意地悪くツッコミを入れていたあの楽しい時間を思い出す。

 俺の悪い癖だ。こんな状況だというのに、いや、こんな状況で再会したからこそ、教え子を少しからかいたくなってしまったのかもしれない。

 

 彼女の魔法は一見、ほぼ完璧だ。普通はこのような事には気づけないので、本来この穴は穴とはなり得ない。

 だが、俺は彼女の師匠であり、その癖を誰よりも知ってしまっている。

 周囲の張り詰めた空気も忘れ、俺の口からは、かつて何度も弟子たちを震え上がらせたあるからかいのフレーズが、ごく自然にこぼれ落ちていた。

 

「――素人質問で恐縮ですが」

 

 クスリと笑みを深め、俺は祭壇の上のジースに向かって放つ。

 

「その魔法、『よほどの威力がない限りは十分に防げる』と仰いましたが……それは少し不正確ですね。よほどの威力がなくても、ある条件を満たせば、いとも簡単に破壊できると思うのですが、そこら辺はどうお考えでしょうか?」

 

 俺のその枕言葉を使った指摘が千年の時を超えて、再び教え子へと投げかけられた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 






tips:師匠ロランはローブのフードを目深に被っているため、ジースからしても一目でお師匠とは判断できない容姿になっています。
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