【TS】近所のガキ達相手に師匠面して千年後、久しぶりに戻ったら色々荒れてた   作:御花木 麗

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03.師匠って呼ばれるのは誰だって憧れる

 

 

 

 

 あれから数日後。

 

実家の食卓についた俺は、ママが用意した朝食をもそもそと口に運んでいた。

 皿に並ぶのは、森で採れた木の実を砕いて作ったスープに、数種類の香草を和えたサラダ。そして硬く焼き締められた黒パンだ。

 狩猟や採集が主体のエルフの里において、これらはごく一般的なメニューである。寝起きの頭でぼんやりと咀嚼していると、向かいに座るママがニヤリと口角を上げた。

 

「あんた、随分あの子達に懐かれたみたいじゃない」

 

「……んぐ?」

 

  俺の食事の手が一瞬止まる。

 

「あの子達の親御達さんから『あれからずっと、ウチの子が随分とお宅にお世話になりたがって聞かないんだけど、何かあったの?』ってね」

 

 確かにあれからというもの、七人の子供たちは毎日のように俺の作業小屋に遊びに来ている。

 あの日、見栄を張って出した炎で焦がした天井は、すぐに水魔法で消火したおかげでボヤ騒ぎにもならず、数枚の板を張り替える程度の修復で済んだ。

 だが、俺としては魔法の研究で忙しい身だ。正直たまったものじゃない……はずなのだが。

 

 数十年間、一人黙々と作業をしていた空間が、今はやたらと賑やかだ。

 

 そんな空間も悪くないと思ってしまっている自分がいるのも、また事実だった。

 

「というか……そもそも七人の子供を連れてきた時から思ってたんだけどさ。まさかとは思うけど……私が子守りするって、親御さん達には言ってないの?」

 

 だって、変人扱いされている俺に、自分の子供を任せようと思うかな普通。

 

「言うわけないでしょ」

 

 ママはスープを優雅に啜りながら、あっけらかんと言い放つ。

 

「だって、あんたが相手だと知ったら、みんな自分の子を預けるのを躊躇するじゃない。里一番の変わり者で、怪しい儀式をしてる引きこもり……ま、実際その通りなんだけど」

 

「自分でも客観的に思ってたから許すけど……実の娘に酷い、いいよう」

 

「だから、『私が預かる』ってことにして、あんたの所に連れて行ったのよ。孫請けみたいなものね」

 

「そうまでして、なんで私に子守りをさせたかったのさ」

 

「言ったでしょ? あんたに少しくらい、里の役に立ってほしいからよ。それに……」

 

 ママはそこで言葉を区切り、少しだけ優しい目をした気がした。だが、それも一瞬のこと。すぐにまた、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

 

 

「……あ、そうそう」

 

 まるで天気の話題でも出すような、何気ない調子で露骨に話を変える。

 

「あんた、子供達に自分のこと『師匠』って呼ばせてるんですって?」

 

「ぶふぉっ!!」

 

 口に含んだばかりの水を、盛大に吹き出した。

 気管に入ったのか、激しく咳き込む。

 

「ごほっ、ごほっ! けほっ!」

 

「もぉー、なにこぼしてんのよ。ほら」

 

 ママは平然とした顔で布巾を渡してくる。

 よく今のセリフを言って、そんな平静を装っていられるな!?

 ママからすれば、「自分のヒキニートの娘が近所の子供たち相手にイキって師匠と呼ばせている」という事実は、滑稽で恥ずかしいもの以外の何物でもないはずだが。

 

 ――いやでも、弁解させてほしい。

 

ちゃんとした理由がある。

 

 あの日、俺の魔法に魅せられた子供たちは、キラキラした目で「教えて!」とせがんで来た。

 だが、魔法はこの世界にとって未知の技術であり、一歩間違えばあわや大惨事という危険物でもある。現に天井を燃やしたばかりだ。

 生半可な気持ちで扱わせて怪我でもされたら、それこそ俺は里にいられなくなる。

 

 だから俺は、彼らに条件を出したのだ。

『魔法を学ぶということは、遊びじゃない。危険を伴う真剣な探求だ。だから、私の言うことは絶対守ること。その覚悟があるなら教えてあげるさ』と。

 その象徴としての師匠呼びだ。指導者と教え子という明確な上下関係を作ることで、安全管理を徹底させるための措置……。

 

 ――というのは、建前です。

 はい、すいません。そんな立派な理由じゃないです。

 

 本音を言えば、単純に憧れていたのだ。師匠ポジ。

 前世からの憧れだった類稀なる力を持ち、その技術を次代へ継承する。隠居した圧倒的強者が主人公などを導く、あのシチュエーションも好きだ。

 とにかくめっちゃカッコいい。

 そりゃあ「お師匠様、お師匠様」と尊敬の眼差しで見られて、悪い気のする奴なんていない。俺の承認欲求をいい感じに満たしてくれる。

 

 それにしても、ママにバレるとこうやって揶揄われるから、あの七人には「このことは内密に」と口止めしておいたはずなんだけど……。

 誰かが漏らしたな。

 まあ、あの子達だ。悪気はないんだろう。むしろ自慢したくて、ついうっかり口を滑らせたに違いない。そう思うと、怒る気にもなれなかった。

 

「……ま、いいけどさ」

 

 俺はバツが悪そうに視線を逸らし、小さく呟いて食事を再開する。

 目尻に笑い皺を作り、どこか楽しげに俺を見つめるママ。その表情は温かみを感じる表情で普段見ない表情だから、俺はさらに居心地が悪くなる。

 

 しばらくは、このネタで揶揄われそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

※膨大な日記からの抜粋

 

 

 

 

【1日目】

 今日からここに日記を書くことにした。

 魔法研究を進める上で、簡単なものでもいいから記録に残しておくとなにかと便利だよなぁと前々から思ってはいたが、ようやく重い腰を上げる時が来たらしい。

 理由は単純。七人ものガキンチョが弟子として通ってくるようになったからだ。

 今まで一日中、一人で小屋の中にこもって過ごす変化に乏しい日々だったのが、これからは毎日何かしら忙しくなる予感がしている。

 あんまりこういうのを長続きさせるタイプじゃないが、出来るだけ頑張っていきたい。

 

【4日目】

 マナの可能性は無限大だ。

 改めて実感するが、マナの変化は扱う者の想像や思考に大きく依存する。

 現在、俺が扱えるのはシンプルな思考でマナに信号を与えて発動する魔法だけだ。それこそ原始的な「火」や「水」など、イメージを固めやすく、信号として送りやすいものに限られる。

 だが、今後はもっと複雑化した信号を送り、より概念的で高度な魔法を扱えるようになりたい。

 弟子たちへの指導と並行して、要研究だ。

 

【19日目】

 ようやく七人の名前と顔が一致してきた。

 俺は前世から人の名前を覚えるのが苦手だったから、これでもかなり努力した方だ。誰か俺を褒めて欲しい。

 それにしても、人に教えるというのはこうも難しいものなのか。

 みんな一生懸命覚えようとしてくれているが、未だ魔法発現への進展はない。

 まあ、俺自身も初めて魔法を覚えるのに結構な年月を使ったから、まだ焦る時じゃないが……。

 恐らく、俺が頭で描いている正解のイメージと、子供たちが抱いているイメージが異なり、それを信号に変換する際にミスが生じるのだろう。

 どうにかして、俺の脳内イメージを正確に共有する方法はないものか。

 

【33日目】

 ついにやった!

 俺のイメージをそのまま伝えることは出来なかったが、七人それぞれが独自の正解のイメージを構築してマナに働きかけることに成功したのだ。

 今日、全員が俺の一番最初に覚えた『指先に小さな火を灯す魔法』を習得した。

わずか一ヶ月でだ。

  俺のアシストがあったとはいえ、この成長速度は驚異的だ。

 悔しいが、あいつらには才能があるかもしれない。

 みんな初めての魔法に大はしゃぎしている。その笑顔を見て、俺も柄になく嬉しくなってしまった。

 

【190日目】

 今日、弟子の数人が初めて魔法の使いすぎによるぐったりとした疲れを俺に訴えた。

これは俺も経験したことがある。

魔法を使いすぎるとその直後から、酷い二日酔いみたいな状態になるのだ。そのまま何もせずしばらく休むと元通りになるのだが、前世のゲーム知識で言うところの「魔力切れ」に似た症状だ。

 実際には体内に魔力があるわけではなく、外部のマナを操作する際の精神的負荷による脳の疲労なのだが、便宜上「魔力切れ」と呼ぶことにする。

 数人がぐったりして早退した。限界を知るのも修行のうちだと思う、うん。

 

【320日目】

 火魔法の基本的な操作は全員がマスターした。次は応用だ。

 火を大きくしたり、形を変えたりといった派生魔法の訓練に入ったのだが、ここに来て顕著な個人差が出てきた。

 燃え上がるような勢いのある炎が得意な子、形を維持するのが得意な子、逆にすぐに消えてしまう子。

 どうやら、ここから先は個人の適性や得意分野の領域になるのかもしれない。

 画一的な指導ではなく、個性に合わせたカリキュラムが必要になりそうだ。

 

【1000日目】

 くそっ、やられた。

 誰がやったかは分かっている。イタズラ好きのあのコンビだ。

 液体を凍らせる氷の魔法の基礎を教えた途端これだ。

 俺が昼寝している隙に、あろうことか俺の鼻水を凍らせやがった。起きたら鼻が詰まって息ができないとか、どんな拷問だよ。

 まったく、師匠が本気を出したらどれだけ怖いか、きっちり教育してやらんとな。お前らの母ちゃんより怖いんだぞってところをな。

 

【3281日目】

 事件だ。

 口数が少ない眼鏡っ子の弟子、シャルナが行方不明になった。

 いつもの魔法の訓練の後、そのまま帰したはずだったのだが、夕方になっても帰宅していないとシャルナの母親が血相を変えて俺のママの元に尋ねてきたと言う。「まだそちらにいますか?」と。

 小屋にはいない。帰る途中で迷子になったのか? 小屋は森の奥深くとはいえ、里からそこまで離れているわけじゃないのに。

 とにかく心配だ。他の弟子たちも「探しに行こう」と騒ぎ出したが、二次遭難されてはたまらないので却下した。涙目で睨まれたが、こればかりは譲れない。

 今から里の大人たち総出で捜索隊が出る。俺もそれに続く形で探しに行く。

 無事でいてくれ……。

 

【3284日目】

 見つかった。

 本当に……本当に良かった。

 シャルナが見つかった場所は、里の共有倉庫にある積み上げられた木箱の中の一番下の一つだった。

 そこで寝ていたのだ。

 そう、寝ていた。丸三日間。

 ……そうだよな、エルフだもんな。平気で三日くらい寝るよな……!

 本人曰く、狭いところが落ち着くらしく、いつもの修行のあと心地良い場所を探して彷徨い、ベストな場所、ここでいう木箱を見つけて入ったら、あまりの快適さに爆睡してしまい三日が経過していたとのこと。

 人騒がせなやつだよ、全く……!

 まあ、でも何度も言うが本当に見つかって良かった。

 他の弟子たちもみんな、涙を流してシャルナを出迎えていた。本当にみんな良い子だ。俺はどっと疲れたが。

 

【6585日目】

 みんな得意不得意はあれど、ある程度基本的なシンプルな信号を伝えてマナを動かす基礎的な魔法は完全に使いこなせるようになった。

 この期間、俺もただ弟子の修行に明け暮れていたわけじゃない。ちゃんと並行して自分の魔法の探究も続けていた。

最近の俺は、複雑に編み上げた信号をマナに送ることで、基本の枠を超えた挙動を与えられるようになってきた。その結果、扱える魔法の幅も質も、以前とは比べものにならないほど向上している。

 

 理論もまとまってきた。そろそろ、弟子に対してやってみたいことがある。あと、もう少し様子をみよう。

 

【7256日目】

 今まで俺は師匠と弟子という関係で、長い付き合いを通して、彼らの魔法に対する適性や相性が明確に見えてきた。

 これからは基礎魔法から外れた、複雑な信号を要する『番外魔法』ともいうべき魔法を彼らにも覚えてもらうことに。

ここからは一筋縄ではいかないので、それぞれの適性や能力、それぞれの想いを鑑みて、番外魔法の系統ごとに分けて伝授する。

 これが以前書いた俺がやってみたいことだ。

 さあ、試されるときだぞ、我が弟子達よ。

 

【9253日目】

 弟子たちはみんな、複雑化した魔法を覚えるのに苦労しているようだ。

 その概念を絞ることが出来ず、イメージが固まらないらしい。

 そこで、新たな試みを始めることにした。

 それぞれに教えた系統の違う番外魔法について、「どういう理論で」「どうやって使いこなすか」を自分なりにまとめ、定期的に俺に『プレゼン』するというものだ。

 人に教えるつもりで考えをまとめているうちに、頭の中で自然とイメージや理論が整理され、魔法も上達するという寸法だ。

 

【9358日目】

 前回書いたプレゼン作戦は、思ったより効果覿面だった。

 その日から少しずつだが、全員が感覚を掴み出している。

 追記:

 プレゼンの後、俺が意地悪く片眼鏡を光らせて、

「素人質問で恐縮ですが……」

 と言って、そのプレゼン内容のボロを指摘するのが最近の楽しみだ。

 弟子たちが「うぐっ……」と言葉に詰まり、悔しそうな顔をして修正案を練り始めるのを見るのは、実に飯が美味い。

 ……いや、これも教育の一環だからな? 決して俺の性格が悪いわけではない。たぶん。

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