バッドエンドの向こう側
エレベーターの中、私の隣では青髪の少女、橘シェリーがボタンを何度も押す。
「……適当に押してるだけじゃないのか?」
「違いますよ! ちゃんと順番通りです!」
そう言って彼女は、ボタンをポチポチと押す。それに応じてエレベーターは昇り降りを繰り返す。
現在、私達はエレベーターを使った異世界への行き方を試していた。何故そんな事をしているのかと言えば、完全にシェリーの思い付きだ。
(なんだか、少し気持ち悪くなってきた……)
年季が経っているせいなのか、エレベーターは昇降時にフラフラと揺れ動き、私は気分を悪くする。
そろそろ止めるように言おうか考えていると、エレベーターが止まった。
(終わったのか?)
エレベーターの扉が開くけれど、誰も乗り込んでくる様子はない。
「もう十分だ。そろそろ地下探索に戻ろう」
元々、私達の目的は、この牢屋敷の地下施設を探索する事だ。上の階ではレイアがエレベーターが空くのを待っているし、これ以上付き合う訳にもいかない。
「……下に、下に行かないと」
「……聞いてるのか?」
「地……に……異……に……」
何かをブツブツ呟きながらも、シェリーは地下へ向かうボタンを押す。
「……れて、……く」
(一体なんなんだ?)
ほんの少し前まで、異世界だなんだと大騒ぎしていたのに、今は不自然なほど大人しい。
(そんなに異世界に行きたかったのか?)
あのシェリーに限って、それしきのことで落ち込むとは思えないが、実際様子がおかしい。
そんなことを考えていると、エレベーターが止まった。
「……暗いな」
扉の向こうは、一筋の光も差さない真っ黒闇。流石の私も、思わず降りるのを躊躇ってしまう。
「……」
だというのに、シェリーは構うことなく暗闇の中へと進み出した。
「なっ……おい、待て!」
まるで道が見えているみたいに、シェリーはどんどん進んでいく。あっという間にその背は闇に飲まれて見えなくなる。
「全く、勝手に」
私は慌ててシェリーを追いかけた。
「───ヒロさん!」
「え?」
唐突に聞こえたシェリーの声。それは何故か背後……エレベーターの中から聞こえてきた。
シェリーはさっき、先に降りたはずなのに。
「ヒロさん! 早く、早く戻って……!」
どういうことだ。どうして、シェリーがそこにいる?
よくわからない。けれど一つだけ確かなことは、エレベーターへ戻った方がいいということ。
「ダメ……帰さない」
「……っ」
暗闇の方から、声が聞こえる。
聞こえた声は、シェリーと同じもの。けれどあまりの仄暗さに、ぞわりと肌が栗立った。
「っ!」(振り向いてはいけない)
「ヒロさん! 急いで!」
すぐさま踵を返した私の目の前で、エレベーターが上昇し始めた。
(そんなっ……!)
それを見た私は、全速力で駆け出した。
「待ってくれ!」
「ヒロさん、早くっ!!」
シェリーが差し出してきた手を掴もうと、必死に手を伸ばす。
あと少し、あと少しで届く───そう思った直後、道を遮るように横から黒い手が現れた。
「ひっ!?」
黒い手が私の腕をガシリと掴む。その力は強く、引き剥がせない。
「嫌だ! やめろ、離せっ!」
黒い手は、私を引っ張り闇の中へと行く。がむしゃらに暴れるたび、闇の奥から黒い手が新たに現れて、私の身体に纏わりつく。
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
身体が、視界が、思考が、どんどん闇に覆われていく。
「た、助けっ」
「ヒロさん───!!」
悲痛な声で名を呼ぶシェリーの声が聞こえるのを最後に、私は意識を失った。
───どうして?
その間際、シェリーと同じ声のナニカが、困惑したような声を発した気がした。