魔法少女ノ異世界生活   作:ブナハブ

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再会と邂逅

「───はあ、はあ、はあ!」

 

 ベッドの上で目覚めた私は、息を荒げて飛び起きた。

 

「はあ、はあ……そうか。私は、戻ったのか」

 

 そうだ。私は戻ってきたのだ。【死に戻り】の魔法で……つまりアレは、夢なんかじゃない。

 

「っ、本当に、心に来る死に方だった」

 

 生きたまま体を貪られる。聞くだけで身の毛もよだつ光景だ。それをついさっき自分で体験したのだから、笑えない。

 

(……それにしても)

 

 死に方もショッキングだったが、その死の元凶も衝撃的だった。

 

『洗いざらい話してもらいますよ、ヒロさん……いえ、魔女教徒!』

『そんなに魔女の悪臭を漂わせて、無関係だなんて白々しいにも限度があります!』

 

(まさか、レムに殺されるなんてな)

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 殺意と憎悪に満ちた目……あの時の彼女は、とても正気には見えなかった。

 

(魔女教徒、魔女の悪臭……知らない単語が出てきたな)

 

 ようやく情報が出そろったかと思えば、また新しい情報が出てきて、思わず私は頭を押さえる。最近は想定外のことばかりで、さすがに参る。

 

(魔女教徒が何かは分からないが、魔女の悪臭、というのは私に宿った魔女因子の事か? レムはそれを感じ取ることが出来る?)

 

 しかし参っているからといって、思考を止めるわけにはいかない。さもなくば、無意味な死を重ねることになる。

 

(魔女因子が齎す殺人衝動にあてられて、あんな凶行を? いやだが、そもそもレムはこの異世界の人間だ。なのにどうして魔女因子を知覚できる?)

 

 私は思考を巡らせ続けて、情報を整理する。手元にいつもの日記帳がないため、頭の中で整理していく。

 

①レムは魔女の悪臭(魔女因子?)を知覚できる。

②魔女教徒という存在が居る。←レムと因縁あり

③森には魔獣という凶悪生物が生息している。←結界で退けられる

④レムは私のことを、スバルを呪殺した魔女教徒だと勘違いして殺した。

 

「……今分かっている事は、こんなところか」

 

 一難去ってまた一難。ロズワールの尋問の次は、レムからの暗殺ときた。

 

「呪術師の正体も判明していないのに、やることばかり増えて困るものだ」

 

 やれやれと肩をすくめて気丈に振る舞う。……だが、それで自分の心までは誤魔化せない。

 

「……上手くやれていたと、思ってたんだがな」

 

 正直、少し、いやかなりショックだった。

 最初から、無条件で受け入れられていたとは思っていない。ただこれまでの積み重ねの中で、少なくない信用を得られたと思っていた。

 それが勘違いで、本当は殺したいほど憎まれていたというのは……言い知れない悲しさがある。

 

(ここから信用を回復することなんて、出来るのだろうか?)

 

 心が沈むにつれ、思考もだんだんと後ろ向きになっていく。

 

(今日レムに殺されることを凌ぐことは出来るだろう。だが、もう彼女の憎しみの芽は手遅れなぐらい成長して……っ)

 

 それに気づいた私は、慌てて思考を止めた。

 

(違う! 今考えるべきはそんなことじゃない!)

 

 どうやら、自分が思っていた以上にレムに殺されたのがショックだったらしい。彼女の鬼の形相が、脳裏から離れてくれない。

 

(過去を振り返るのは後にするんだ。今はまず、()()()()()()()()()()をどうにかしよう)

 

 だから私は、どうにか無理やりにでも思考を切り替えることにする。実際、現在進行形で問題は起きていた。

 

「まず、()()()()()()?」

 

 つまり、【この部屋がどこなのか】だ。

 私が普段寝ているのは、使用人となった際に与えられた簡素な作りの部屋だ。決してこんな豪華な部屋ではない。

 

(ベッドもかなりの上物のようだし……うん?)

 

 そこまで考えて、私は思い出した。この部屋の正体に。

 

「ここは、初日の時の?」

 

 ロズワール邸に初めて訪れた日、そこで最初に目覚めた場所が、確かこの部屋だった筈だ。

 

「これは……まさか」

「あ、起きたのね」

 

 私がある可能性に行き着いた時、部屋にエミリアが入ってきた。

 

「ああ、エミリア。おはよう」

「はい、おはようございます。……ってあら?」

 

 エミリアは私の挨拶に返した後、なぜか首を傾げた。

 

「どうかしたか?」

「いえ……あなた、私の名前を知っていたの?」

「……なに?」

 

 何気なく言った彼女の言葉は、これまで以上の衝撃を私に与えた。

 

「……エミリア。私がここに来たのは、今日で何日目だ?」

「え?」

 

 震える声で私は尋ねる。そんな都合の良いこと、本当にあり得るのかと。

 

「何日目って、今日が初めてでしょう?」

「ーーー」

 

 結果として、それは事実だったらしい。

 

……私は、ロズワール邸に来た初日にまで戻ってきたのだ。

 

▼▼▼

 

「さぁ〜なんでも望みを言いたまぁーえ!」

 

 食事中、ロズワールが両手をばっと広げて宣言する。

 

「俺の願いはただ一つ……俺をこの屋敷で雇ってくれ!」

 

 それに対して、隣の席に座っていたスバルが即答した。

 

……時間が初日まで戻り、スバルも生きている。それは嬉しい事だが、私は素直に喜べなかった。

 

(なぜ急に、私の死に戻りはこんなに長く時間を遡れるようになったんだ?)

 

 今までは目覚めたその日の時点までしか戻れなかった。なのに今回は、何日も前まで時間を遡っている。

 これを偶然と呼ぶには、あまりにも出来すぎていた。

 

(何か、大きな意思が働いているようにしか……)

「それで? 君はどうするのかぁーな?」

「……! え、ええ、そうですね」

 

 考えごとに没頭していた私は、ロズワールの呼び掛けを聞いてようやく今の状況を思い出す。

 

(そうだ、今はそんな益体の無いことを考えている場合じゃない)

 

 偶然であれ必然であれ、どうにもならない事で一々悩むのは正しくない。

 

「……私も、使用人として雇って欲しい」

 

 今はただ、目の前の問題の解決に集中するんだ。

 

 

 

「わあ、ピッタリじゃないヒロ」

「お似合いですよ、お客様。改めヒロさん」

「お古でも大丈夫そうね、お客様。改めヒロ」

 

 食事を終えた私とスバルは、早速仕事に取りかかるため、使用人の服へと着替えた。

 

「本当にすごーく似合ってるわ。なんだか着こなせている感じがするし」

「……ああ、そうだな」(あながち間違っていないな)

 

 エミリアの感想に、私は静かに肯定する。

 この服に袖を通すのは初めてではない。前回は、毎日のようにこれを身に着けて働いていたのだ。

 当初感じていた違和感も消え、今ではすっかり着慣れている。

 

「ところでラム、今日はどんな仕事があるんだ?」

 

 過去を振り返るのもほどほどに、私はラムに早速仕事の話を振る。

 

 間者の容疑、屋敷を襲う謎の呪術師、レムの暴走。

 どれも無視できない問題だが、少なくとも間者とレムの件は、ある事をすればまとめて払拭できる。

 それは信頼を得る事。どちらの要因も、私が相手に信頼されていなかったから起こってしまった事だ。

 逆に信頼さえ勝ち取れば、あんな悲劇は起こりえない。そして信頼を得る近道は、真面目に仕事をする事だけだ。

 

「……」

 

 そう思っての発言だったのだが、ラムとレムはポカンとした様子で私を見ていた。

 

「……? どうかしたか?」

「……いいえ、なんでもないわ。ただ敬語で話さなかったのに驚いただけ」

「はい、姉様の言う通り、ヒロさんはスバルくんと違って礼節を重んじる方だと思っていたので」

「ーーー」

 

 二人の言葉に、私は思わず動揺してしまう。

 

(そう、か……そうだったな)

 

 今になってようやく気付く。私は、【死に戻り】をしたのだと。

 彼女達は、前回の彼女達とは違う。まだ碌に互いのことを知らない他人同士。

 積み重ねた交流は、まっさらに塗りつぶされている。

 

「……あ、で、でも私! ヒロはそっちの口調の方が親しみやすくて良いと思うの」

 

 黙りこくった私を見て何か勘違いしたのか、エミリアが慌ててフォローしてくる。

 

「……そうですね。エミリア様の言う通り、ヒロ、口調はそのままで構わないわ」

「はい、レムもそれで構いません」

「あ、ああ、そうか。なら、このままで行くとしよう」

 

 私は動揺を抑えて、なんとか返事をする。

 こんな感情は初めてだった。死に戻りをして憤ることはあれど、こうも悲しい気持ちになるなんて。

 

「───おーいちょっとー! なんかさっき俺に対する陰口が聞こえた気がしたんだがー?」

 

 そんな事を考えていると、部屋の奥からスバルが顔を見せる。

 

「どうかしましたか、軽薄なスバルくん」

「どうかしたの、不躾バルス」

「ぐぬっ、わざわざ直接言ってくれてありがとさん!」

「あら? スバル、着替えてないけどどうかしたの?」

「ああ、男物の服だとデカすぎて着れないんだよ。という訳で二人とも、服の採寸頼んだZE!」

「いやらしい」

「ちょぉーい!?」

 

 スバルは親指を立てて、キラッとした似合わない笑顔で言う。するとラムが辛辣な返しをし、再び漫才が始まる。

 

(……スバルの奴、前回と違う行動を取ったな)

 

 それを見ながら、私は静かに考える。

 

(という事は、スバルも死に戻りを経験済みなのだろう)

 

 衰弱死直後に死に戻りをしたスバルなのか、或いはそれから何度も死に戻りを果たしたスバルなのか……分からないが、そこは本人に聞くしかないな。

 

(さて、どうにか機を見てスバルと話をしたいのだが……)

「? どしたヒロ?」

(果たしてスバルは、私が死に戻りをしている事に気付いているのだろうか?)

 

 

 

「な、なんですとー!?」

「……」

 

 どうやら、気付いていなかったらしい。

 服の洗濯をしていた時、スバルと二人だけの状況になった私は死に戻りの件について話を切り出した所、彼は大袈裟な動作を取って驚いた。

 

「ぜんっぜん気づかなかったぜ……」

「まったく、君という奴は……君が死に戻りでどんな経験してきたかは知らないが、同じ力を持つ私に相談してこなかったのか?」

「いやまあ、確かにその通りではあるんだが、ちょっと問題があって誰にも話せなく……て……」

 

 呆れ気味に言った私にスバルは言い返そうとしたが、その勢いを不意に落としていった。

 

「? どうかしたか?」

「……なんで俺、死に戻りのことを話せてるんだ?」

「なに?」

 

 スバルは自分の胸元に手を置きながら、戸惑ったように呟く。

 

「スバル、それはどういう意味だ?」

「ああ、実はだな」

 

 スバルから聞かされた内容は、なんとも都合の悪い話だった。

 どうやらスバルは、死に戻りのことを誰かに話そうとすると、何者かに心臓を掴まれるらしい。

 

「しかもヒロが相手の時は判定が厳しくってさあ、まともに相談することすら出来なかったんだよ」

「だが今は、普通に私に話すことが出来ると」

「そうなんだよ。マジでどういう仕様なんだこれ」

「……」

 

 何も分からず渋そうな顔をするスバルを横目に、心当たりのあった私は、少し考えてから口を開いた。

 

「もしかすると、私が死に戻りした事に関係があるのかも知れない」

「どゆこと?」

「スバル、君が見てきた世界では、私は死に戻りをしていたか?」

「え? あー……」

 

 スバルは洗濯物を洗う手を止めて、腕を組んで暫し考えに耽る。

 

「……いや、そんな様子はなかったな」

「そうか、もう一つ良いか? 君の死に戻りは、どれくらいの時間を遡れるんだ?」

「ああ、セーブポイントは屋敷に来た初日に設定されてるな」

 

 私はスバルの話を聞いて一人頷く。

 

「なるほど……話していなかったが、実は私の死に戻りは、その日目覚めた時点までにしか戻れないんだ」

「え? そうなのか?」

「ああ、私はこれまでに二度死んでいる。一度目は屋敷に来てから五日目の朝に、二度目はそれから暫くした後に死んで……屋敷に来た初日にまで死に戻った」

「に、二回死んだのか……あれ? なんで一度目と二度目で戻った時間が違うんだ?」

 

 スバルの言う通り、私も今までその理由が分からなかった。だが、スバルの話を聞いて、その謎が少しだけ分かり始めた。

 

「恐らくだが、私と君の死に戻りが、混ざり合った結果なのかも知れない」

「???」

 

 何を言ってるのかさっぱり、という顔をしているな。無理もない。私自身、この妄想にも近い推測が本当に正しいのか分かっていないのだ。

 

「私と君の死に戻りは、原理は違うがその性質はとてもよく似ている。性質が近しいもの同士、何かしらがきっかけで干渉し合う可能性も無いとは言い切れない」

「それが原因で、ヒロのセーブポイントが俺のと一緒になったっつーことか?」

「ああ、偶然か意図的か……君が言った死に戻りに関わっていそうな何者かが居るあたり、後者の可能性が高そうだがな。まあなんにせよ、今の私たちではどうにもならない事だ」

 

 それよりも、と言って私は話題を強制的に切り替える。

 

「スバル、今後の話をしよう。即ち、この屋敷で起きている問題について」

「お、おう! そうだな、ヒロの言う通りだ。なんにも分からねえ事より、分かっていることから片付けるべきだ」

「ああ、差し当たってまずは、互いの情報を交換しよう」

 

 そう言ったのを皮切りに、私たちは死に戻りの中で知り得たことをお互いに話し合っていった。

 

▼▼▼

 

 暗い暗い闇の中、真白の少女は一人悠々と歩いていた。

 道も標もない、真っ暗な闇、けれど少女の足取りは確かで、迷うことなく進んでいた。

 

……そして、ソレと出会う。

 

「ああ、ようやく見つけました」

 

 少女は微笑みを浮かべて告げる。その言葉を向けたのは、暗闇の中でも確かな輪郭を保つ、真の闇。人の姿を模った、尋常ならざる気配を放つ()

 

「ここまで来るのに随分と苦労しました」

「……」

「こうして顔を合わせるのは初めてですね。はじめまして、()()()()()()()?」

「……」

 

 少女の言葉に、影は返事をしない。

 それに自我は無いのか、はたまた少女に無関心なのか? ……否。

 

「……さない」

 

 その影には意思があった。その影は少女を見ていた。その影は……

 

「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」

 

 少女を、忌み嫌っていた。

 

「どうしてどうしてどうしてどうして」

「あら、随分と嫌われましたね」

 

 常人なら目の前にいるだけで正気を失うほど、濃縮された殺意。それを受けてケロッとしている少女もまた、普通ではない事を証明していた。

 

「愛する人との二人きりの時間を奪ったから? 折角遠ざけたのに、性懲りもなく近づいてきたから?」

 

 それどころか、少女は影を煽り、歪んだ笑顔を見せつける。

 

「とっても人間らしい、愚かで醜い感情ですね」

 

 笑う、嗤う、嘲笑う。混じり気のない闇をもって、少女は影に悪意をぶつける。

 

「来るな来るな来るな来るな」

 

 影が自身の足元から、無数の黒い手を出して少女に差し向ける。

 

「ああ、きっと今すぐにでも私を殺したいのでしょう。けど、それも無意味です」

 

 黒い手はあっという間に肉薄し、少女の首を掴む。ほんのわずか力を込めれば、少女は成す術なく絞め殺されるだろう。

 

「既にヒロの死に戻り先(セーブポイント)は、彼のループの中に組み込んでいます。今ここで私を殺しても、それは変わりません」

「……」

 

 死の瀬戸際に立っているというのに、少女は薄ら笑いを浮かべるのを止めない。

 

「いくらあなたが強大でも、世界の理そのものが異なる私の魔法に干渉するのは難しいでしょう?」

「……」

「分かっていただけたなら───」

 

 ゴキッ

 

 鈍い音が、闇の中でやけに鮮明に響いた。

 少女の首が、不自然な角度に折れ曲がる。

 

「……ふふ」

 

 それでも少女は薄ら笑いを止めない。彼女は最期に、変わらない口調で影に語る。

 

「気は、済みまし」

 

 グシャ

 

……その言葉を言い終える前に、黒い手が少女の頭を握り潰した。

 

「……」

「……」

 

 少女の死を確認した影は、彼女の亡骸を無造作に投げ捨てる。

 

「……許さない」

 

 闇の中で一人きりになった影は、ポツリと呟いた後、音もなくその場から消えた。




前回の感想を見て説明不足かなーって思う点があったので此処に補足しておきます。また、作者はリゼロアニメ勢なので、原作と矛盾する設定が出てくる可能性もありますがご了承を。
【レムがヒロだけを魔女教徒と断定し、スバルを疑わなかったのは?】
前提として、レムはヒロの世界にある魔女因子を臭い(ドブのような臭い)として感じ取れます。
一週目スバルは魔女の臭いが薄く、レムも警戒していませんでした。対してヒロは、一度死に戻りをして臭いが濃くなり、しかも濃くなったのがスバルを死んだ日だったこともあり、余計ヒロを怪しむようになりました。



いつも感想ありがとうございます。頂いた感想には喜んで読ませて貰ってます。今後ともどうぞよろしくお願いします。
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