魔法少女ノ異世界生活   作:ブナハブ

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異世界と同郷人

「……ここは、一体」

 

 黒い手に掴まり、意識を失っていた私は目を覚ます。そして、目の前の光景に唖然とした。

 まるでタイムスリップでもしたかのような中世風の街並みに、動物の容姿をした人間。

 

(なれはて……ではないか。コスプレという訳でもなさそうだ)

 

 牢屋敷とも、元居た場所とも違う。それどころか同じ世界とは思えない光景が、そこにはあった。

 

「……まさか、異世界?」

 

 シェリーの思い付きで始まった異世界エレベーターの儀式。それが本当に成功したとでも言うのか?

 

(あり得ない話ではない。あの場所は魔法の影響でおかしな現象がいくつも起こっている。異世界に繋がる道があったという可能性も、決してゼロではない)

 

 ただ、だからと言ってここを異世界であると断定するのも早計だ。あくまで可能性の一つとして捉えておこう。

 

(ひとまずは、現状の整理からだ)

 

……こんな訳の分からない状況だが、自分でも驚くほどに冷静だった。一周回って逆に落ち着いたのか、はたまた牢屋敷の暮らしで急なハプニングに慣れたのか。

 

(一つ目は、ここが見知らぬ土地ということ)

 

 異世界であれ、異国の地であれ、そこは変わらない。

 

(二つ目に、帰る方法が分からない)

 

 異世界エレベーター自体、シェリーの思い付きで始まった事なのだから、当然と言えば当然だ。いやらしいことに、原因が異世界エレベーターにあるのかすらも不明なまま。

 

(そして三つ目、ここでは動物の容姿をした人間が普通に暮らしている)

 

 彼らが何者かは分からないけれど、普通の人間も見かけたので、そういう種族が当たり前に存在する、ということなんだろう。

 

(……今のところ、分かっているのはこれぐらいか)

 

 結局何も分かってない現状に、私は頭を痛める。

 

(ただ、起きてしまったものは仕方ない。まずは情報収集を兼ねて、周囲の散策を……うん?)

 

 ふと、その時、私はある違和感に気がつく。

 

「……これは」

 

 魔女化が収まっていた(・・・・・・)

 耳元で囁くように訴え続けてきていた殺人衝動はパタリと止み、静かで、穏やかな心を保っている。

 

(一体なぜ……いや、考えるのは後だ)

 

 なぜかは分からないが好都合だ。お陰で衝動的に動いてしまうリスクは考えなくて済む。

 

(それじゃあ、まず……良し、あの店主から話を聞こう)

 

 私が最初に目を付けたのは、近くで露店を開いていたガタイの良い店主である。

 言葉が通じるかについてだが、周囲から聞こえてくる会話の内容が理解できるため、問題ないと踏んでいる。

 

「失礼、少しよろしいでしょうか?」

「いらっしゃい、何か入用かい?」

「いえ、少々尋ねたいことがありまして」(本当なら買い物の一つでもして心証を良くしたいが、今は手持ちが無いからな)

 

 ただ持っていたとして、そもそも使えるかどうかも分からないし、無いモノねだりか。

 

(……ふむ、文字についてはさっぱりだな)

 

 こっそりと商品の値札を見やるが、見たことのない文字で書かれていた。

 

「なんだよ、尋ねたいことって」

「実は知人とはぐれてしまって……私みたいにこの辺りじゃ見慣れない恰好をしていると思うんですが」

 

 先ほどから、私に奇異の目を向けてくる者が多かった。恐らく、この恰好のせいだろう。

 その心理を利用して、私は【友人とはぐれてしまった観光客】を装うことにした。お金が無いのも、今は友人に預けているからとでも言えば誤魔化せられる。

 

「あぁん? もしかして嬢ちゃん、あの小僧の知り合いか?」

「……なに?」

 

 そう思っての発言だったのだが、思いもよらない情報を聞き出せてしまった。

 

「ったくよぉ、嬢ちゃんも言っといてくれよな。金も持たず冷やかしに来んなって」

「っ、はい、そうしておきます。それで、その彼はどこへ行ったんですか?」

「ああ、あっちの方へ走っていったぞ」

「ありがとうございます。では私は急いでいるので、これで」

 

 私は店主に軽く会釈した後、件の人物が行ったという方向へと駆け出す。

 

(私と同じ見慣れない恰好の人物。もしかすると、私と同様ここに迷い込んだ者の可能性がある!)

 

 ただでさえ分からないことだらけな現状だ。微かな可能性も見逃すことは出来ない。

 

「〜〜〜!!」

「……なんだ?」

 

 不意に、通り過ぎようとした路地裏から喧騒が聞こえて、私は足を止めてそちらを振り向く。

 

「持ち物全部置いてけ、それで勘弁してやっから」

(追い剥ぎか? くっ、こんな忙しい時に)

 

 だが目にした以上、見逃す訳にもいかない。

 

「ああはいはい、持ち物全部ね。急いでっからそれで───」

「こっちだ、衛兵! こっちで少年が追い剥ぎに遭っている!」

「───いいや、ってうん?」

 

 私は相手にも聞こえるよう、大声で叫ぶ。

 

「うげっ!?」

「ま、不味いぞ、誰かが衛兵を呼んで来やがった!」

「チィッ、ズラかるぞ! 運の良い奴め、今日の所は勘弁してやらぁ!」

 

 その声を聞いた三人の荒くれ者は、あっという間にその場から離れて行った。

 

「……行っちまった」

「君、大丈夫か?」

 

 立ち去る荒くれ者達をボーッと眺める少年に、私は声を掛ける。

 

「え? あ、ああ、助かったぜ。お陰で泣けなしの初期装備が盗られずに済んだ」

「そうか、それなら良かった……うん?」

 

 少年に近づいて、私は気がつく。薄暗くて良く見えなかったが、彼の着ている服、これは……

 

(ジャージ?)

「えっと、ところで衛兵さんはどちらに?」

「居ないぞ。さっきのはハッタリだ」

「は、はったり?」

「それよりも君、その格好はもしかして」

「ああ! つか今はそれどころじゃねぇんだったわ!」

 

 着ている服について問いただそうとした時、彼は突然大きな声を出した。

 

「お、おい」

「すまん! 助けて貰っといて悪いが、俺本当に急いでるんだ。次会ったらなんでもするから許してくれ!」

 

 そう言い残すと、彼は大急ぎで路地裏から出て行った。

 

「っ、待ちたまえ!」

 

 私はすぐに彼の後を追いかけた。

 

(あの服、間違いなくジャージだった)

 

 加えて、手に持っていたのはコンビニのレジ袋だ。その中には見た事のある商品が色々と入っていた。

 

(間違いない。彼は私と同じ場所から来ている!)

 

 手掛かりが全くない今、ここで彼を見逃す訳にはいかない。

 そうして彼の後を追い続けていると、気が付けば廃れた街並みの中に身を投じていた。

 

(なんだここは? スラム街というやつか?)

 

 一体こんな所で何を……そう思っていると、例の少年が古びた蔵の前で立ち尽くしている姿を見た。

 

「ここまで来て、答えを見ないで帰れるもんかよ……!」

「ようやく追いついたぞ」

「うぎゃぁあああ!!?」

 

 その肩に手を置いて話しかけると、彼は大袈裟な態度を取って驚きの声を上げた。

 

「一々大声を出すな、全く」

「ななななんすか突然! 今俺、がっつりシリアスモードに入ってたんすけど……ってあれ?」

 

 少年は謎の構えを取って威嚇してきたが、相手が私であると知るとすぐに止めた。

 

「……あんた、さっき俺を助けてくれた人?」

「ああ、そうだ。全く、聞きたいことがあったのに急に走り出したものだから、追いかけるハメになったぞ」

「え? わざわざ追いかけてきたの? なになに、俺今からなにされんの???」

 

 彼は自分の身を抱きしめて後ずさる。大変不本意だが、訂正する時間さえ惜しい。

 

「単刀直入に聞くが、その服はジャージか?」

「ーーー」

 

 私がそう言うと、彼は目と口を大きく開けて、私のことを凝視した。

 

「……ど」

「うん?」

「同郷人キター!」

「───じゃっかましいわ!!! なに人ん()でさっきから騒いどるんじゃ!」

 

 少年が天高らかに叫ぶと、蔵の扉から老夫が出てきた。

 

「……っ」(大きいな)

 

 現れた老夫は、牢屋敷の看守並の巨体の持ち主だった。

 

「ん〜?」

「あ、あんた……」

(……なんだ?)

 

 彼もその巨体に驚いたのかと思ったが、違う。

 何か、あり得ないものを見るような目で、老夫のことを見ていた。

 

▼▼▼

 

 一悶着あった後、私と少年は老夫のご厚意で中に上がらせて貰っていた。

 

「まず始めに自己紹介をしておこう。私の名前は二階堂ヒロだ」

「あ、ああ、俺は菜月スバルだ」

 

 スバルは自己紹介の最中、落ち着かない様子でチラチラとカウンターに居る老夫へと目をやっていた。

 

「なんじゃ、さっきからモジモジしおって。金玉の位置がそんなに気になるか」

「息子のポジション気にしてる訳じゃねえよ! つか女の子の居る前で下ネタぶちかましてんじゃねえ!」

「……どうでもいいが、さっさと君の用事を済ませてくれないか? でないと、私の話に集中して聞けないだろう?」

「あ、はい、すんませんした」

 

 私の言葉にスバルは素直に聞き入れると、顔を老夫の方へと向け直した。

 

「えっと、実は探してる物があって……あ、つかその前に聞いておきたいんだが」

「う〜ん?」

 

 スバルは恐る恐る、老夫に尋ねる。

 

「バカげた話なんだが……爺さん、最近死んだことないか?」

「ん〜?」

「……」

 

 スバルの発言に場が一瞬静まり返り、

 

「ガハーッハハハハッ!」

 

 直後、老夫の大きな笑い声が室内に響き渡った。

 

「確かに死にかけのジジイなのは認めるが、生憎と死んだ経験はまだ無いぞ」

(……死んだこと、か)

 

 脳裏に浮かぶのは、牢屋敷に来て早々、看守に首を刎ねられた時の光景。殺人衝動に飲まれた私は、看守を火かき棒で無我夢中に殴って、それで、

 

(ッ、考えるな、もう過ぎたことだ)

 

 頭を振って思考を遮る。自分が死んだ時の出来事なんて、なるべく思い出したくない。

 

「───徽章を探してる。俺を助けてくれた銀髪美少女の持ちもんだ。理由は知らんけど、大切なもんだと」

 

 そうこうをしていると、気が付けば話題は別のものへと変わっていた。

 

「確か真ん中に宝石が埋め込まれてるって言ってた」

「宝石の入った徽章……」

(徽章……身分を示す印か)

 

 どうやらスバルは、自分を助けてくれた少女の徽章を探していたらしい。

 

(だが徽章を探すとして、なぜこんな場所に尋ねて……)

「悪いが、そんな品物は持ち込まれておらんぞ」

「───待て」

 

 聞き捨てならない発言に、思わず私は話に割り込んだ。

 

「んむ?」

「持ち込まれていない、とはどういうことだ?」

 

 こんな場所だ。交番のように落とし物を預かっている訳じゃないだろう。徽章と何か関わりのある店とも思えない。

 

「まさかここは、盗品を扱っているのか?」

「ちょ、ちょーい? ヒロさーん?」

「なんじゃお前さん、そんなことも知らんで来たのか?」

「っ、なんだそれは……正しくない。全くもって正しくないぞ!」

「ストーップ!」

 

 声を荒げて椅子から立ち上がると、スバルが私と老夫の間に介入してきた。

 

「はーいヒロさん、ちょっとこっちに来ましょうね〜」

 

 そしてそのまま私を連れて、部屋の隅まで移動した。

 

「……なんだ」

「いやなんだじゃないんだが!? KYで定評のあるスバル君でも今の発言にはドン引きっすわ〜」

「君は知っていたのか? なら何故ここに来た。盗品なら、警察のような治安組織に対処を任せるべきだ」

「正論過ぎてなんも言えねぇ! いやそうだとしてもほら、今そんな事を言ってもどうにもなんねえじゃん」

「その小僧の言う通りじゃ」

 

 スバルと口論していると、カウンターの方に居る老夫が話に割って入ってきた。

 

「お前さん、どこから来たか知らんが相当世間知らずじゃの〜」

 

 老夫はどこか呆れたような口調で語る。

 

「ここはルグニカ王国王都の貧民街、わしのように生きる為になりふり構ってられん連中がわんさかおる場所じゃ」

「そ、そうですよね〜、いやホントすんません、俺の方でよーく言い聞かせるんで」

「……ッ」

 

 私は思わず反論し掛けたが、寸前のところで抑える。

 

(落ち着け! スバルの言う通り、確かに今言っても仕方のない事だ)

 

 理解に苦しむ。苦しむが、ここはひとまず納得しておこう。

 

「……そう、だな。話を遮ってしまってすまない。続けてくれ」

「お、おう……なんか悪いな」

 

 私は後ろに控えて、二人の会話を静観することにした。

 

(ここは、私の知る世界とは違う)

 

 静観しながら、私は密かに気持ちの整理を行う。

 

(ここはこういう場所だと、現実を受け入れるんだ。そうしないと、余計な諍いを生んでしまう)

 

 寄る辺のない現状、揉め事はなるべく避けなければならない。

 

(それに仮に死んだとして、魔法が正常に発動するとも限らないんだ)

 

 私の魔法【死に戻り】は、死ぬとその日目覚めた時点まで遡る。

 ただ、今はその魔法と深く関わりのある魔女化の進行が収まっている。魔法が失われている可能性は考慮すべきだろう。

 

「……私は、帰らなければいけない」

 

 そうだ。優先順位を履き違えてはいけない。

 私の目的は、元の世界に帰る事。牢屋敷に戻り、大魔女を探し出し、そして……彼女達を正しく救うのだ。

 

「よっ、待たせたな」

「ああ、話は終わったか?」

「おう、ただちょーっと待ちぼうける必要があるみたいでな」

 

 話を終えたスバルが言うに、徽章を奪った少女、フェルトが今日ここに訪れるらしく、そこでスバルが交渉して買い取れば、徽章を取り戻せるらしい。

 そういう事ならばと、私達は蔵の外でフェルトがやって来るのを待つ間、お互いの身の上を話すことにした。

 

「───へー、友達とエレベーターで異世界に行く方法を試したら……ねぇ」

 

 私は牢屋敷と自身が持つ魔法のことを避けながら話してきたが、異世界に来た方法だけは明かしておかないと話が出来ないため、なるべく情報を伏せながら説明した。

 

「なんつーか、災難だったな」

「私としては、君の方が難儀だと思うぞ。いきなり、なんの前触れもなく異世界に召喚されるなんて、考えるだけでゾッとする」

「あーいや、俺の場合は、まあ……」

 

 スバルは夕焼け空を眺めて、遠い目をしながら呟く。

 

「あっちに未練とか、そこまで無いから」

「……そうか」

 

 どこか含みのある言葉に、私は敢えて触れずに流した。

 何があったのかは聞かない。過去を詮索する趣味は無いし、私も隠し事は多い身だ。

 

「話してくれてありがとう。つまるところ、君も私と境遇は同じという訳だな」

「ああ、悪いな、全然参考にならなかっただろ?」

「いいや、元々当てもなかったんだ。元の世界の話が通じる相手を見つけただけ十分収穫だ」

 

 口ではそう言いつつも、私は密かに落胆していた。

 

(これ以上スバルから聞き出せそうな情報はなさそうだし、さてどうするか)

 

 状況は振り出しに戻ってしまった。そろそろ周囲も暗くなってきたし、寝る場所を見つける必要もある。考えることは山積みだ。

 

「……そういえば、徽章を買い取る交渉をすると言っていたな。何か策はあるのか?」

「そりゃあ勿論……って、なんだ、付き合ってくれんのか?」

「ああ、ここまで来たんだ。最後まで見届けよう」

「マジでか! いやありがたいけども」

「それで? 君は交渉で何を出すつもりなんだ?」

 

 突然異世界に飛ばされた私とスバルは、当然お金を持っていない。仮に持っていたとして、異世界では使えないし、そもそも徽章を買い取れるほどの額になるとも思えない。

 

「ふっふっふ、この世には物々交換って手があるのさ」

 

 スバルはそう言うと、懐からある物を取り出した。

 

「それは……」

「現代人の必須アイテム、携帯電話! 異世界には存在しないだろうし、希少価値は十分あると思うぜ」

 

 取り出したのは、所謂ガラケーと呼ばれる古い携帯電話だ。現代ならいざ知らず、確かに異世界でならその物珍しさから高値で売れるかも知れない。

 

「なるほど、確かにその手があったな」

 

 私は懐に仕舞っていたスマホにそっと触れて、いざという時は私もコレを売ろうと考えた。

 

「しかし、本当に売る気なのか?」

「どゆこと?」

「電波が無いから電話は出来ないが、元の世界から持ち込めた数少ない物だ。それを、助けて貰ったとはいえ、会って間もない者の為に手放す気か?」

 

 私もそうだが、スバルは身一つで異世界に飛ばされている。人助けをする余裕があるとは、とても思えない。

 

「……まあ確かに、馬鹿げた話だし、俺は丸損間違いなしだろうぜ」

「ならなぜ」

「決まってんだろ。───俺は損がしてぇんだよ」

 

 そう語るスバルの目の奥には、覚悟があった。

 

「俺は恩返しがしたい。貸し借りはきっちり返す。そうでなきゃ気持ちよく寝られねえ。俺ってば神経質なんだよ、現代っ子だから。───だから、大損してでも徽章を手に入れる」

 

 彼は本当に、その少女を助けたいのだと、私は悟る。

 

(……支離滅裂だ。助けられた恩があるとは言え、それで全てを失ってしまえば、なんの意味もない)

 

 正直、理解に苦しむ。利己的に語ってはいるが、彼が辿ろうとしているのは、破滅の道だ。

 

(その行動に一体、なんの意味が)

 

 

───生きてよ、ヒロちゃん……!

 

 

「……」

 

 

───お願いだから、生きて……!

 

 

 不意に、あの日の出来事を思い出す。

 

(そういえば、彼女もそうだったな)

 

 彼女のことを邪険にしてきた。時には殺そうとさえした。

 なのに彼女は、あの時、私を助けようと必死になって……

 

「……そうか、君にも考えがあるなら良い」

 

 そんな彼女の姿を思い出した私は、スバルにそれ以上何も言うことができなかった。

 

「私も、交渉が上手くいくよう協力しよう」

「おお! そりゃ心強いぜ。なんとなく、あんたからはレスバ強者の匂いが漂うんだよな」

「それは、褒めているのか?」

 

 そんな話をしていた時だった。

 

「あんたら何やってんだ? 邪魔なんだけど」

 

 私達の前に、金髪の少女が現れて声を掛けてきた。

 

「フェルト!」

(彼女が例の……)

「アタシのこと知ってんのか?」

「知ってるも何も、お前を待ってたんだ」

「何のために?」

「っていうか、お前ってば俺のことひょっとして覚えてないか?」

「う〜ん……どっかで会った? っても、かなり衝撃的な出会い方してねえと、アタシ暇じゃないから覚えてねえよ」

「衝撃的っちゃあ衝撃的だったが……」

(……なんだ? この違和感は)

 

 私もスバルから、フェルトとどう出会したのか聞いてはいる。確かに衝撃的だったが、まあ覚えているかは人によるだろう。

 ただ、彼女が覚えていない理由は、それだけじゃない気がする。

 

「そっちの姉ちゃんの方も見覚えねえな」

「うん?」

「ああ、ヒロの方は見覚えなくて正解だ。……いやまあそれはいい」

 

 玄関前の階段で腰掛けていたスバルは立ち上がり、フェルトに告げる。

 

「お前の持ってる徽章のことで、交渉がしたい」

「ん……ああ、何だそんなことか、だったら話は聞くぜ」

 

 フェルトはスバルの要求を快諾し、私たちは改めて老父が待つ蔵の中へと入っていった。

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