使用人になる事にした。
(ここは使用人になった方が賢明だろう)
確かに私の目的を考えれば、食客になった方が都合は良いが、ここは異世界だ。想定外の危険、脅威、悪意、そんなものがいくらでも転がっている。
こんな世界で後ろ盾を持たずにお金だけあっても、生き残れるか定かじゃない。
「私からも良いでしょうか?」
ならば多少の拘束は覚悟しつつ、身の安全を確保するのが正しい判断だろう。
「私も、スバルと一緒に使用人として雇って欲しい」
▼▼▼
「───こ、これがメイド服」
屋敷の使用人になった当日、早速仕事をして貰うことになった私とスバルは、使用人が身に付ける服に着替えた。
「わあ、ピッタリじゃないヒロ」
「お似合いですよ、お客様。改めヒロさん」
「お古でも大丈夫そうね、お客様。改めヒロ」
「ああ、はい、それは良いんですが……その、これが本当に正規のメイド服、なんでしょうか?」
私に与えられたメイド服は、この屋敷のメイド……レムとラムが予備に持っていたメイド服だ。
私は彼女達と背丈にほぼ差が無い為、何なく着ることが出来た。それは良いのだが……
(少し、露出が多くないか?)
胸元と肩からは素肌が見えていて、スカート丈も短い。
さながらコスプレのようなデザインのメイド服。本当にこれが、貴族に仕える者の服装なのだろうか?
「? はい、それが当家の使用人が代々身に付けている正装です」
「ええ、レムの言う通りよ。その格好で何ら問題ないわ」
「私も、ヒロのその格好、すごーく可愛いと思うわ」
「……そうですか」
レムとラム、そしてエミリア。三人の答えを聞いた私は渋々と頷き、身を引いた。
正直、こういう露出の多い服は好きじゃないんだが、これが正装ならば仕方ない。潔く受け入れるとしよう。
「おーい、着替えたぜー」
丁度その時、スバルが着替え室から出てきた。
「あ、スバ、ル……」
出てきたスバルの姿を見たエミリアは、すぐに微妙な顔を浮かべた。
「お、ヒロ。そのメイド服よく似合ってるぜ。よく分からんが貴重な姿な気がする!」
「ああ、ありがとう。いやそれは良いんだが」
私もエミリアと同様に微妙な顔をする。それもそうだろう。
「なんだその格好は」
「うん、それじゃちょっとあんまり……」
スバルの服は、ダボダボも良いところだった。全くサイズが合っておらず、着る前に気付けるだろうと思わずツッコミたくなってしまう。
「ほかに合うの無かったの?」
「女物ならなぜかあったんだが……」
「申し訳ありません、お客様。改めスバル君」
「無様ですね、お客様。改めバルス」
「おい姉様、俺の名前が目潰しの呪文になってんぞ」
「スバル、相手は先輩だぞ。敬語を使うんだ」
私がスバルの言動を注意すると、ラムが緩やかに首を横に振った。
「別に構わないわ、気にしていないし。レム、無様なバルスの姿を見て気付くことは?」
「あのー、もしかして敬語を使ってないから口調が辛辣に?」
「愚問ね、たかが敬語の有無でバルスの対応を変えるラムじゃないわ」
「良いこと言ってる風だけど、それってつまり俺のことハナから舐めてるって事だなぁ!?」
ギャイギャイと騒ぐスバルをスルーしつつ、レムとラムはせめて上着だけでも直そうと軽く仕立てることにした。
(……やれやれ、先が思いやられるな)
その光景を眺めながら、私はこっそりため息を溢すのだった。
▼▼▼
▼▼▼
【庭の手入れ】
「……」
鬱蒼とする庭木の枝葉を、私は剪定バサミで黙々と切り取っていく。
「……手慣れていますね、すごく上手です」
そこにレムがやって来て、私の手捌きに関心した様子で言ってくる。
「経験があるんです。ウチの庭師もこうして庭の手入れをしていて、偶にそれを手伝っていたので」
「なるほど、だから」
「現代日本に庭師が居る家って……薄々感じてたけど、やっぱヒロの家って超金持ちなんじゃ」
「バルス、ボサっとしないで集中しなさい」
「いでっ!?」
無駄口を叩くスバルに、ラムがハサミの腹部分を使って後頭部をぶった。
「危ないでしょーが姉様!」
「よそ見しているバルスが悪いわ。見なさい、粗雑な感性が滲み出た仕上がりっぷりよ」
「いやそれ姉様がやった奴ゥ!」
「姉様お上手です! スバル君はもっと頑張って下さい」
「あれー俺の味方ゼロ? ……ヒ、ヒロっちヘルプー!」
「……はぁ、分かったからヒロっちと呼ぶな」
【昼食の準備】
「あだーっ!?」
皮剥きをしていたスバルから、情けない悲鳴の声が上がる。
「またか、これで何回目だ」
「くぅ〜……! お、俺は包丁を握るのも初めてな料理初心者なんだ。大目に見てくれ」
「自分で言うか、全く……」
私は呆れながら、作っていたスープを皿に少量入れて味見をする。
「……ふむ、こんな所か」
「出来ましたか?」
「ええ、どうでしょうか?」
近づいてきたレムにスープの入った皿を渡す。彼女はそれを受け取り一口飲んだ後、深々と頷いた。
「完璧です。手を加える必要も無さそうです」
「まあ、レシピ通りに作っただけですので」
むしろ調理器具を扱う方が苦労した。現代に比べて、この世界の道具は前時代的だからな。
「……ヒロさんは、料理も出来るんですか」
「はい、カレーに肉じゃが、他にもメジャーなものだったら一通り作れます」
「かれー……」
カレー、と聞いてレムはピンとしない表情を浮かべる。もしかして、この世界、或いはこの地域にカレーの概念は存在しないのだろうか。
「良ければ、今度機会があったら作りましょうか?」
「良いんですか? ありがとうございます。あ、作り方を聞いても?」
「勿論です」
「───クックックッ」
私がレムと談笑していると、止血を終えたスバルが不敵な笑い声を上げ出した。
「ただ傷だらけになる俺じゃあない。これまでの経験値でレベルアップした俺の包丁捌き、とくとご覧あれ!」
大仰な動きで包丁を持ち、じゃがいもの皮を剥こうとしたスバルは───自身の指をザックリ切った。
「うぎゃー!?」
「……はんっ!」
それを一部始終を見ていたラムは、思いっきり冷笑を溢した。
【洗濯】
「うひゃー! つーめてぇ!」
「五月蝿い、やっていればその内慣れる」
私達は水を張ったたらいの中で、洗濯板を使って服をゴシゴシと洗い続ける。
「つーかヒロはなんでそんなに慣れてんの!? 現代でこんな作業普通しねえだろ!」
「……まあ、機会があってな。その時に教えられたんだ」
『───ヒロさん! 服全体をこする必要はありませんわ。汚れてる部分だけ、こすれば良いんですのよ』
聞いてもいないのに、彼女は懇切丁寧に教えてきたものだ。まさか、こんな形で役立つ日が来るとはな。
「くぅ〜! こういう作業って魔法でパパッと終わらせられないのか?」
「出来るならそうしているだろう。やらないという事は、出来ない理由でもあるのだろう」
スバルは事あるごとに魔法で解決できないかとボヤくが、私はそんな便利な力じゃないと思っている。
「そんな戯言を言う前に、作業に集中するんだ」
「はぁー、夢がねえぜ」
「ヒロ、バルス、追加の洗濯物よ」
「うげっ! 増えやがった」
「了解しました」
「ん? あれヒロもう自分の分終わらせてる!?」
「だから一々騒ぐな。追加の洗濯物を片付けたら、君の分も半分やってやる」
「あ、有り難え〜!」
▼▼▼
ロズワール邸に訪れて早三日、ここでの生活にも慣れ始めた私は、新しい試みに挑戦し始めた。
「……良し、終わったぞ」
「あら、早かったわね」
私はイ文字……この世界の文字の一種を紙に書き連ねると、それをラムに見せた。
私の始めた事、それは異世界語の習得だ。これは前々から考えていた事で、すぐ近くに教養のある人間が居る今、学ばない手は無いと思った。
「……完璧ね。初日でもうイ文字の半分をマスターしているわ」
「勉強は得意だからな。それに、君の教え方も上手かった」
ここ数日でレムとラム、二人との関係性も少し変わり、敬語で話すことが無くなった。
初めに、レムの方から突然敬語で話さなくて良いと言われた。理由が分からず、後にこの事をラムに尋ねると、彼女はこう語った。
『ヒロは優秀だから、無意識にラムと重ねちゃっているんでしょう』
……との事らしい。ちなみにラムは、レムへの話し方を変えた私に無言の圧を放ってきたので、そのまま自然とタメ語で話すようになった。
「当然ね。けどそれを踏まえても、ヒロは相当要領が良いわ。ラムの次に」
「……」
気安く接する仲になってみて分かったが、彼女の辛口は誰に対しても発揮するらしい。
ただまあ、それ以上に内面の優しさが伝わってくるので、さほど気にならないが。
「これなら明日、もう少しメニューを厳しくしても良さそうね」
「ああ、よろしく頼むよ……ああ、そうだ、最後に聞きたいことがあるんだが」
「何かしら?」
そろそろ今日の勉強を終了しようとした時、ふとある事を思い出した私は、それをラムに聞いてみる事にした。
「魔女とは何か、知っているか?」
屋敷で目覚めた初日、エミリアが私に言った謎の忠告。自分は魔女であると人前で言ってはいけないという発言。
「……」
ずっと疑問に感じ、魔女について聞いた途端、ラムの纏う空気が変わった……気がした。
「……ラム?」
「その話はしたくないわ」
どうかしたのか尋ねようとした直後、彼女はそそくさと勉強道具を片付け始める。
「夜も遅いし、今日は失礼するわ」
「あ、おい」
「それじゃあまた明日……ああ、それと」
部屋から出る直後、ラムは振り向く事なく口を開く。
「魔女の話、レムにはしないでちょうだい」
それだけ言うと、ラムは部屋を出た。
「……魔女、か」
話は聞き出せなかった。しかし一つ分かった事がある。
(ここでも魔女は、禁忌の存在として扱われているんだな)
詳細は分からない。だがきっと、相当碌でもない存在なんだろう。口にする事さえ憚れるような。
(なるほど、確かに自分は魔女だなんて迂闊に発言しない方が良さそうだ)
ただ、魔女については調べた方が良いかも知れない。
私の世界の魔女と、この世界の魔女……どちらも禁忌として扱われる忌まわしい存在。何か繋がりがあるように感じられる。
(もし本当に何か関係性があるなら、そこから元の世界に戻る鍵を見つけられるかも知れない)
それに加えて、大魔女についても何か分かる可能性がある。その事も考えれば、やはり今後は魔女について調べるのが良いだろう。
「さて、そろそろ寝るか」
今後の方針も徐々に固まり、希望が見えてきた私は、最後に日課である日記を付けて眠ることにした。
───使用人生活三日目
屋敷での生活に慣れてきた私は、ラムに頼んで文字の読み書きの練習を始めた。
この世界にはイ文字、ロ文字、ハ文字という三種類の文字がある。どことなく元の世界の母国語に似ている為、幸い覚えるのにはそう苦労はしなさそうだった。
また、この世界の魔女が私の知る魔女と同様、禁忌の存在である事が判明した。ラムには話をはぐらかされた為、詳細は聞けなかったが、今後は魔女についての情報収集を積極的に行おうと思う。
▼▼▼
翌日、早速魔女の情報を集めて奔走した私だが……結果は芳しくない。
(当たり前だが、まだ文字を習いたての私では、大抵の書物を読む事は困難だ)
それでもなんとか仕事の合間に読み漁り、『嫉妬の魔女』という単語だけは知る事が出来た。……ただ、それが何者なのかは分かっていない。
(やはり人に聞くのが一番か。だが誰に聞くべきか)
ラムには聞けない。ラムの口ぶりから察するにレムも無理だろう。エミリアもなんとなくだが厳しそうで、ロズワールは立場上の問題で聞きづらい。
(……可能性がありそうなのは、彼女ぐらいか)
ベアトリス、この屋敷の禁書庫とやらを管理する少女。彼女が禁書庫から出ることは滅多に無く、私が顔を合わせたのは、初日に食事した時ぐらいだ。
(聞いて答えてくれるかは分からないが、他よりは可能性はある。か)
……ただ、聞くにしても一つ問題があった。
屋敷のあらゆる扉を禁書庫の出入り口に出来るという魔法【扉渡り】、その魔法のせいで彼女と出会う際、屋敷中の扉を片っ端から調べる必要があった。
(そういえば、スバルは何度も禁書庫への扉を引き当てたと言っていたな)
それなら明日、スバルに事情を説明してベアトリスを探すのを手伝って貰うのも良いかも知れない。
「……うん?」
そんな事を考えながら夜に屋敷の庭を散歩していると、スバルとエミリアの姿を見かけた。
「スバ───」
「───良かったら明日とか、俺と一緒に村のガキ共にリベンジ、もとい小動物の見学に行かね?」
「……」
声を掛けようとした時、スバルがエミリアに投げ掛けた言葉を聞いて、咄嗟に身を隠した。
「スバルと一緒に行くの、嫌じゃないけど」
「じゃあ行こうぜ!」
「でも、私が一緒だとスバルの迷惑になるかも知れなくて」
「よし分かった、行こうぜ!」
「……ちゃんと聞いてくれてる?」
二人の会話を、私は物陰から静かに聞く。
「聞いてるよ! 俺がエミリアたんの一言一句聞き逃すわけないじゃん!」
「もう……私の勉強がひと段落して、ちゃんとスバルのお仕事が終わってからだからね」
「っ! よっしゃ〜! ラジャッタァ!!」
スバルの歓喜の声が、庭内に響き渡る。
「……全く、こんな夜中に騒ぐなんて」
呆れつつも、口角をじんわりと上げる。普段なら注意する所だが……今回ばかりは見逃してやろう。
(スバルに禁書庫探しを手伝って貰うのは、もう少し後にするか)
二人の楽しそうな笑い声を背にしながら、私は自分の部屋へ戻った。
───使用人生活五日目
「……馬鹿な」
早朝、仕事も始まるというのに起きて来ないスバルを見兼ねて起こしに行った私は、
「……」
「ス、スバル」
ベッドの上で静かに息を引き取る、菜月スバルの姿を見た。
▼▼▼
『死因は衰弱死だぁーね』
スバルの死の原因を突き止めたのはロズワールだった。
『魔法より呪術寄りの手法だ』
『……そう、ですか』
スバルの死を悼んだり、魔法だけでなく呪術もあるのかと考えたり、色々なことが頭の中を過ぎった。ただ、私の脳裏を一番占めていたのは、
(一体誰が、スバルを殺したんだ?)
何故スバルが殺されなければならなかったのか、という疑問だ。
スバルは、私と同じでこの世界の人間じゃない。この世界に飛ばされた時期も近く、つい最近だ。だからこそ解せない。
(私とスバルは、誰かに恨まれるほどの行動は起こしていないし、呪術なんて危険な物と関わる機会なんて無かった筈だ)
ここは牢屋敷じゃない。殺人衝動という厄介な代物がある訳もない。誰かに殺されるのにも、その理由があって然るべきだ。
(なら一体なぜ……)
幾度と思考を巡らせても、答えは見つからない。そして都合の悪い事に、これ以上スバルの死について考えに耽ける訳にも行かなかった。
(……考えるのは後だ。今は、目の前の事についてだ)
そう自分に言い聞かせて、私は目の前の扉……屋敷の主、ロズワールが居る部屋への扉を開く。
「お呼びにより参上いたしました、ロズワール様」
「……ヒロくん、よく来てくれたね」
ロズワールは、いつもの戯けた口ぶりを潜めて、真面目な口調で私を出迎えた。
「君を呼んだのは他でもない、スバルくんについてだ」
「……っ、はい」
薄々感づいていたが、やはり呼び出しの理由はスバルの件らしい。そしてその内容は……恐らく、私にスバル殺害の容疑が掛かっているのだろう。
分かっている。スバルの近くに居る者の中で唯一素性がハッキリとしていない私が、容疑者として上がっても可笑しくない。
(だとしても、やっぱり疑われるのは気分が悪いな)
牢屋敷の時もそうだが、何故こうも私に疑いが掛かる状況が発生するのだ?
ただ、文句を言っても仕方ない。結局は、どうにかして自分の身の潔白を証明するしかないのだ。
「単刀直入に聞こう。彼が何か不思議な力を持っていないか知らないか?」
「お言葉ですが、私はやって……何?」
すぐに否定しようと思ったのだが、ロズワールが投げ掛けた言葉は、私の予想から大きく外れたものだった。全くの予想外と言っても良い。
「教えて欲しい。彼と最も行動を共にした君にしか聞けない事だ」
「ま、待って下さい! 不思議な力? さっきから何を言って」
「そうだな、例えば運命を変える力だったり、例えば未来を識る力だったり、例えば」
私の静止を無視して、ロズワールは語る。
「───やり直しの力だったり」
「……!?」
……不意に放たれたその発言に、私は大きく動揺する。
「そうか……やり直し、やり直しの力か。それが彼の権能の正体、つまり」
「……なに、を」
私の反応を見て何か察したのか、ロズワールは自身の考えを整理するようにブツブツと何かを呟く。
「……ふふ、ふふふふ!」
そして顔を俯き、歓喜に震えながら笑いを溢す。
「そうか、そうだったのか! 嗚呼、素晴らしいよナツキ・スバルくん!」
「っ、ロズワール、貴様一体、何を知っている!」
あまりに不気味で、不可解で、私は思わず互いの立場を忘れて怒鳴り声を上げた。
「っとなるともしかしたら、君もやり直しの力を持っているのかぁーな?」
「……っ」
「……ふむ、その反応を見る限り正解みたいだぁーね」
いきなり死に戻りについて言及された私に誤魔化す余裕は無く、ロズワールにあっさりと見破られてしまう。
「しかぁーしそうか、そうなってくるとやはり……コレの出番というわけだぁーね」
場の支配権は完全にロズワールが握っていた。そんな状況下で私が何かを発言する事は許されず、彼が取り出した物を黙って眺める事しか出来なかった。
「それは」
「君が密かに書いていたメモ帳だ。昨晩、ラムが届けに来てくれたんだぁーよ」
ロズワールが取り出したのは、確かに私が此処に来てからずっと使ってきた日記帳だった。
彼は日記帳を開くと、態とらしく頷きながら中身を読んでいく。
「ほーほー、随分と細かく書いているねぇー、私にはまーったく読めないが……これが文字だという事は理解できる」
「……ッ!」
ロズワールの発言に私は、まさかと目を見開く。その様子をチラリと見たロズワールは、愉快げに笑みを溢す。
「んふー、やっぱり君は聡い子だぁーね。……君は、二日前からラムに文字を習っていた。ラムの話だと、本当に読めないらしい」
なのに文字が書ける。しかも、自分達には分からない謎の文字を。
「……君には、間者の疑いが掛けられている。そしてこのメモ帳は、その疑いを確信に変える確固たる証拠だ」
「ち、違っ!」
「───という建前でぇーえ」
私が否定するよりも先に、ロズワールの姿がかき消えて、
……彼は私の背後に立ち、私の腹部を貫手で貫通させた。
「…………は?」
「ヒロくん、君にはここで退場して貰う」
何も分からない。考える間すら与えられない。腹を貫かれた激痛で、困惑で、頭がどうにかなりそうになった時、
「やり直しは、させないよ」
グシャリと、頭の方で音が鳴るや否や、私の意識は黒一色で塗り潰された。