「ァ、ぐぅ……!?」
消えていた意識が覚醒した瞬間、私はあまりの気持ち悪さに嗚咽を漏らした。
「はあ、はあ、はあ……そうか、私は、戻ってきたのか」
数分の間を置いて、私は自分の身に何が起きたのかようやく悟る。
殺されたのだ。私は、この屋敷の主の手で、頭を握りつぶされて……
「……っ!」
死の瞬間を思い出してしまった私は、咄嗟に自身の頭に触れる。
当然だが、そこには頭部があった。その事実に私は思わず安堵する。
(全く、本当に嫌な死に様だ)
死に方に甲乙つけるなんてとても出来ないが、それでも頭を潰されるというのは、かなり気分が悪くなる死に方だった。
「……いや、私の事は良い。それよりも」
私はベッドから飛び降りると、寝巻き姿のまま部屋を出た。
(死に戻った事で、もしかしたら……!)
間に合うかも知れない。今ならまだ、スバルの死の運命を回避できるかも知れない。
「───スバル!」
それが不可能なことぐらい、知ってる筈なのに。
「……」
彼はベッドの上に居た。寝息一つ立てず、死んだとは思えないほど綺麗な姿を保ったまま、
「……くっ!」
菜月スバルは、死んでいた。
そこからの流れは、前の時間軸の焼き直しだった。
全員がスバルの部屋に集まり、悲しむミリアをレムとラム、パックが宥めて、そして、
「ヒロくん、このあと私の部屋に来てくれ」
……私はロズワールに呼び出しを受ける。
「……」
ロズワールの部屋へと向かう道中、私は己の甘い考えを恥じた。
(分かっていた筈だ。死に戻ったところで、彼の死の運命は変えられないことぐらい)
私の魔法【死に戻り】は、死ぬとその日目覚めた時点にまで戻る。
ロズワールの話によると、スバルの死因は呪いによる衰弱死だ。呪いの詳細は分かっていないが、今日の朝にスバルが呪われた可能性は低い。
要するに、手遅れなのだ。私にはどうすることも出来なかった。
「……っ」
どうしようもない現実に私は歯噛みする。仕方ないことだとは分かっているが、やはり知り合いの死を二度も見るのは心に来る。
(……君は、またどこか別の世界で生きているのだろうか?)
唯一救いがあるとすれば、彼が私と同じ死に戻りの力の持ち主であるということだろうか。
(だとしたら、君もまた辛く険しい道を歩むことになるだろう)
死に戻った先の世界で、スバルも自身にかけられた呪いから逃れようと頑張っている。そう思うだけで、私の心も少しだけ奮い立った。
(死んだ者にこう言うのも可笑しな話だが……スバル、君の無事を祈ろう。そして)
私は瞑っていた目を開けて、目の前の扉を意を決して開く。
「お呼びにより参上いたしました、ロズワール様」(私も、この窮地から脱せるよう精一杯足掻こう)
「ヒロくん、よく来てくれたね」
前回と同じく、部屋に居たのはロズワール一人だけ。レムやラムを側に付かせていないのは、私を殺す時に余計な介入をさせない為か。
逆に言うと、前回私を殺したのはロズワールの独断だ。あの時の意味深な発言といい、この男は何か個人的な理由で動いている。そしてそこに付け入る隙がある。
(前回は完全な不意打ちだった為、私も成す術が無かったが、今回はそうはいかない)
この状況をどうにかしなければ、私は先に進めない。
だからこそ議論するのだ。ロズワールという裁判官を納得させるべく、
(一体どんな目的かは知らないが、貴様の思惑通りに事を運ばせるつもりはない)
私は、私の弁護をする。
「君を呼んだのは他でもない、スバルくんについてだ」
「……はい」
「単刀直入に聞こう。彼が何か特別な力を持っているか知らないかい?」*1
ロズワールは両手を組み、神妙な顔つきで私に問いただす。
「力、ですか?」
「ああ、教えて欲しい。彼と最も長く行動を共にした君にしか聞けない事だ」*2
些細な表情の変化一つ見逃さない。前回と違い、スバルの死に動揺していなかった私は、その事に気付く。
「そうだな、例えば運命を変える力だったり、例えば未来を識る力だったり、例えばやり直しの力だったり……」
「……」
二週目だから分かる。この男は、スバルが特殊な力を持っているという確信がある。しかしその正体が何かまでは知らないらしい。
「そんな力を、知らないかい?」*3
(そこに隙がある)
「待っていただきたい。さっきから仰っている意味が分かりません」
「……ほう?」
私は毅然とした態度で否定する。それに対し、ロズワールは疑いの眼差しを強めた。しかし、関係ないことだ。
「知らないというのかい? 何一つ?」
「はい、どうしてそう思うのですか?」
「……」
私の反論にロズワールは沈黙する。予想通りの反応だ。
(ロズワールは、なんらかの手段でスバルの力を察している。しかし、それは常識的なやり方ではないのだろう)
だからロズワールは、証拠を提示しない。したとて相手に理解されなければ、揺さぶり一つ掛けられず意味がないからだ。
「確かに、君の言う通りだぁーね」
その事を理解しているロズワールは、大人しく退いていつもの戯けた表情へ元に戻した。
(……どうやら、納得してくれたらしい)
いやにあっさりと終わったが、元々この問いには「知らない」と答えるだけで良かったのだ。まあ、それが出来なかったのが前回の失態なんだが……。
「いやぁ実に残念だよ。スバルが死んで動揺している今なら、君の口を滑らせられると思ったんだけぇーど」
「……っ」(やはり、それも織り込み済みだったか)
本当に油断ならない相手だ。どうかこのまま穏便に事が済んで欲しいと願うが……。
「まあその件は一旦後回しにしぃーて……君にはもう一つ話があるんだ」
「……」
やはりと言うべきか、ロズワールからの尋問は続く。
「君の聡明ぶりには感心し通しだったからねぇ……どう切り抜けるか、見ものだよ」
私を問い詰めようとする彼の表情は、実に楽しげだった。
尋問を再開するや否や、ロズワールは懐からあるものを取り出す。
「これは、君の部屋の机に入っていたものだ」*5
そう言って一冊のメモ帳を私に見せつける。それは確かに、私が日記代わりに使っていたメモ帳だった。
「いいえ、私はそんなメモ帳知りません」*6
「おやおやヒロくん、人の話は最後まで聞くものだぁーよ」
「このメモ帳は、ラムが渡してくれたものでねぇ。ラム曰く、君は夜な夜なこれに書き込んでいたらしいじゃないか」
「なっ」(見られていたのか!)
「やれやれ、この程度の反論しか出来ないなんて、すこーしだけガッカリしたよ」
「くっ……!」(流石に今回も知らぬ存ぜぬで終わらせる訳にはいかないか)
焦るな私、今回の話も切り抜けるのはそう難しくない筈なんだ。
(前回ロズワールが私を殺した時、建前としてあのメモ帳を提示した。つまり奴は、本気で私を陥れるつもりは無かったんだ)
恐らくこの舌戦は、単なる余興。正しく反撃できれば、見逃して貰える可能性は十分にある。
(思考を放棄するな。考えろ。持てる力をすべて使い、全力をぶつけろ)
それが、この尋問を切り抜ける正しい道だ。
「話を続けようか……さっきも言った通り、このメモ帳はラムから渡されたものだ」
「ラム曰く、まったく未知の言語で書かれていて内容は分からなったらしい。私も中身を確認してみたが、確かにさーっぱりだったねぇーえ」*7
「ラムや私すらも読めない未知の言語……いや、暗号かな?」*8
「そんなものを使って君はいーったい何を企んでるのかな?」*9
「いいえロズワール様、それは正しくありません」
「おや、何がだい?」
「その文字を暗号と称したことです」
「ほう? では君はコレをなんと呼ぶ気だい?」
「それは───」
「私の生まれである国の言葉……すなわち、母国語です」
「母国語?」
私の答えに、ロズワールは目を細めた。
「ではヒロくんは、文字の読み書きが出来ることを隠していたのかい?」
「いいえ違います。確かに私は文字の読み書きが出来ません。そしてそれは【この国の言語】に関してです」
「ご存知かと思いますが、私とスバルは遠い国からやってきました。だからこの国の言語が分からず、結果として【字の読み書きが出来ない】と答えたのです」
「そしてそのメモ帳に書かれた内容、それは日記です」
「決してロズワール様の不利益となるものではありませんが、黙って記していたのも事実です。如何様な処罰でも受けましょう」
私はそう言った後、ロズワールの前で恭しく
「……」
私の弁論はここまでだ。あとはもう、ロズワールが判決の木槌を鳴らすのを待つだけである。
「確かに、辻褄は合っているね。まあ所々違和感は拭えないが、そこは見逃してあげようじゃぁーないか」
「……ありがとうございます」
そしてその判決は、
「いいだろう、ひとまずは君の無罪を認めるとしよう。これからも私の為、そしてエミリア様を王にする為、しっかり励みたまぁーえ!」
「寛大なご判断、心より痛み入ります」
及第点ギリギリで【無罪】となった。
▼▼▼
───これは一体、どういう事でしょうか?
菜月スバルの死を二階堂ヒロが目撃した時、その想定外な出来事に
ヒロが目を覚ましたと同時、彼女が宿す魔女因子が一瞬にして大きく膨れ上がった。それはヒロが自身の魔法【死に戻り】を発動させた何よりの証拠であり……だからこそ不可解だ。
私は菜月スバルに興味があった。より厳密に言えば、彼の内側に潜む者……懐かしくも、決定的に何かが違う
彼女が何者かを知りたかった私は、二階堂ヒロから回収した魔女因子を使ってヒロの死に戻り先を、菜月スバルの死に戻り先と同じポイントになるよう設定した。
……それなのに、どういうわけか二階堂ヒロの死に戻った先で、菜月スバルは死んでいた。
───少し、調べなければなりませんね。
次に二階堂ヒロが死ぬ前に、原因を突き止めなければならない。
もし次の死に戻り先で生きた菜月スバルと出会わなければ、ヒロとスバルの間にある繋がりは途切れて、永遠に再会することは出来ないだろうから。
最終的には原作準拠になる予定ですが、こういった原作から外れた展開があるなら原作準拠タグは無い方が良いですかね?
-
無い方が良い
-
あっても良い
-
どっちでも