復讐の後は超強くてニューゲーム   作:実験者

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 恋愛リアリティーショーの面子の資料が用意され、俺は事務所で読んでいた。そして黒川あかねのところで、アイが口を出してくる。

 

『これがアクアの彼女だった黒川あかねちゃんかー。んーなんかあんまり華がないね。全体的に地味』

 

 アイの評価は辛辣だった。しかし俺自身も同意できる部分はある。

 

 黒川あかね。

 見た目が整っているのを最低条件として、現時点ではその性能は低いと評価せざる得ない。特に恋愛リアリティーショーであればあるほど、存在する意味が無くなっていく。

 最低限のルールの中で、アドリブしかない白紙の脚本を手渡されて、更に演技指導する者もいない。天才役者ではあるのだろうが、逆にいえばそれ以外のジャンルで性能を発揮するのは難しいことを意味している。

 

『真面目、誠実、努力家。つまんない要素のオンパレードだね。天才とか経験がなくても簡単に埋もれちゃうなー。このIQ53万の天才頭脳が弾き出す答えは、存在の消滅』

 

 そうだろう。だからフォローしてやる必要があるのさ。ちゃんとバトルが成立するようにセッティングする必要がある。

 鏑木プロデューサーの老いて燻るの熱を、俺が爆発させてやる。

 

 ルビーがやってくる。そしてテーブルの上に置いた恋愛リアリティーショーの資料を見て、露骨に顔を顰めた。

 

「これ、お兄ちゃんが出るの?」

「ああ。嫌そうな顔しているな。複雑か?」

「そりゃあ、兄に彼女ができるのは変な気分だよ。なんというか、嫌でもないけど嬉しくもない」

「そうか、そうかもしれないな。恋愛というプライベートを切り売りする側面も嫌だろうし、それが自分の生活環境に関わってくるとなると、変な気分になるだろうな」

「そうだよ、その人と関わっていいかもわからないし。ロリ先輩みたいな人だったら、普通に嫌だし」

「有り得る話だ。恋人という赤の他人が、妹やミヤコさんという家族より優先されるみたいな状況も、お前はキツイんじゃないか?」

「うん。仕方ないとは分かっているけど、さ」

 

 俺は立ち上がって、ルビーの目を見た。

 

「何?」

「仕方ないと割り切るな。ちゃんと言え」

「え、ええ?」

「一緒に暮らし、ご飯を食べて、仕事をする。だからこそ、しょうがない、とか、仕方がない、とか、現実はこんなもんだ、で、伝えることを諦めないでくれ。俺は必ず話を聞く努力をする。だから伝える努力を諦めないでくれ」

「うん。わかった。なんかお兄ちゃん、熱いね。こんなお兄ちゃん初めてみたかも」

「俺達は家族だ。そして俺はお兄ちゃんだ。俺は正しい道を歩けばついてこい。道を誤れば避けろ。自分の道を見つけたならば、俺はお前が歩く道の方法を探してやる」

「それに強い」

「俺には道がない。だけど進まなければならない。だから俺は強いんだ。俺はお前のお兄ちゃんだから。こういう俺は嫌か?」

「いいや、大好き」

 

 ルビーはテーブルの上の資料見た。

 

「黒川あかねちゃん。この子がお兄ちゃんのお気に入り?」

「お気に入りというか、危険な子だな」

「危険?」

「ああ。演技の天才は立派だが、天才が天才でいられるのはその強さが通じる分野のみだからな。天才科学者が世界レベルの運動選手に勝てるか? って話だ」

「なるほど。でも芸能界なら同じ分野じゃないの?」

「同じ分野だが、細かなルールが違うからな。スマホを機種変えすると新機能や、オミットされてる機能に戸惑うだろ? 使ってれば慣れはするが、すぐに適応できるかは微妙なラインだ」

「わかりやすい! 流石お兄ちゃん!」

 

 俺は黒川あかねを分析する。

 実力派・舞台・ドラマ・映画の演技派女優としては最高クラスの適性を持つ。しかし現代のアイドル兼女優・マルチタレントが求められる芸能界の主流価値観とは大きくズレている。

 

 芸能界で「生き残る」ためには、演技力以外の要素(キャラクター性・発信力・炎上耐性・自己ブランディング)が近年極端に重要視されており、あかねはここで大きく不利を取っている。一方で「演技だけで評価される現場」では間違いなくトップクラスに評価されるタイプだ。

 

「それで、お兄ちゃんはどうするの? この人を恋人に狙うの?」

「どうだろうな。上手くやれているようなら、面白くする為に動くが、本当に困っている様子なら手助けする、くらい認識で挑む」

「へー、どういう風に?」

 

 俺は少し考える。

 

「こういうタイプが困る時は『やりたくてもできない、あるいはできていない』ことが殆どだ。本気で精一杯頑張っているのに結果が出ない」

「それなら励ますとか、解決策を提示するとか?」

「いや、それは逆効果だ。頭では理解しているし、自分なりに努力している。しかし現実に反映されていない、考えた行動が現実できないから悩んでいる。そこを無遠慮に踏み入れたら心を閉ざされる」

 

 パターンA:過度な励まし・ポジティブ押し(「大丈夫だよ!」「君は最高だよ!」系)

 

 パターンB:解決策の提示(「こうすればいいじゃん」「もっと自信持てば」)

 

 パターンC:比較(「他の人は〜なのに」)

 

 パターンD:焦らせ・急かす(「そろそろ立ち直らないと」「いつまでも落ち込んでると…」)「素の自分を見せてよ」「もっと自分を出して」という要求。

 

 全部、駄目だ。

 

「真面目で誠実な努力家は、常に責任を自分に向けることが多い。極端な自責だ。自己批判、自己嫌悪。みんなは当たり前にできている。頑張らなきゃ。情けない。役に立たない自分なんて……と。そして恐れいることに気付かない」

「恐れていること?」

 

 ルビーは首を傾げる。

 

「弱く、暗く、ダメな部分を見られて嫌われること。努力しても価値がない人間だと確定してしまうこと

。自分の苦しみをわがままや、甘えと否定されることだ」

「それは誰でも嫌じゃない?」

「そうなんだよ。みんな嫌なんだ。だけど、本人がそれを自覚してないのが問題なんだ。それらを特別なものだと認識してしまう。天才なら尚更だろう。天才という肩書きが崩れるんだから」

 

 黒川あかねに天才の自覚はないような気はするが。

 

「前提として、自分が駄目という認識が強い。だから変わる為に頑張れる側面もあるだろう。しかしそれが反転して自信を失えば、自分が駄目という認識は恐怖に代わり、焦り、客観的な視点が失われる。私だけが駄目であり、隠すか改善しなければ、と努力を始める」

「弱い部分を隠したり、努力するなら良いんじゃない? それに弱く駄目な部分を見てるように思えるけど」

「恐怖で焦り、客観的ではない努力は無駄な努力だ。適切でない努力はただの徒労であり、空回りだ。それで得るものもあるだろうが、それは後で振り返って分かるものだ」

「そうなの?」

「多分な。大人があのときは若かった、と苦笑いして言うシーンをよく見るだろう? あれは失敗したが悪い思い出ではないということが多い。それが大事にならず人生が続いているからな」

「ネットに残る今の時代だとその失敗は」

「デジタルタトゥーとして残り続ける。黒歴史で済めば良いが、未来を閉ざす可能性もある」

 

 ルビーは感心したように言う。

 

「お兄ちゃん、頭良くなった」

「ぶん殴るぞ」

「褒め言葉、褒め言葉!! 分かりやすかったし、親切に説明してくれたし! 態度もバカにした感じなかったし!!」

「……かもしれない。そう言うなら俺も頑張ってる証拠だ。母さんのことを過去にして、俺の人生を進もうと思ったんだ」

「そっか。良いと思うよ。応援する」

「意外だな。ママのことを過去にするなんて! と怒るかと思った」

「忘れるんじゃなくて、過去にするんでしょ? それにお兄ちゃんが前を向いたなら、妹もしてその背中を見てないと道がわからないからね」

「世話かけるな」

「いいよ」

 

 全く、可愛い妹だ。

 

 

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