原作でも謎に包まれたアイヌ呪術連からの転入生(転生者)   作:板前さん

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第10話

英集少年院の上空を覆う「帳」が、不気味な脈動を繰り返している。

補助監督・伊地知の車を半ば強引に降り、カムイがその戦地へ足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような死の臭いと、それすらも塗り潰す圧倒的な「悪意」が彼を襲った。

 

「……っ、カパッチリ、視(み)せろ!」

 

黄金の右目に呪力を集中させる。視界が急速にモノクロームへと変貌し、呪力の流れだけが鮮明に浮かび上がった。校舎の影、血溜まりの中に立つ「それ」を捉えた瞬間、カムイの背筋に極北の吹雪を浴びたような戦慄が走る。

 

虎杖悠仁の肉体を乗っ取った両面宿儺が、手にした「心臓」を無造作に放り捨てる。ドサリ、という重い音と共に、虎杖の命の根源が泥にまみれた。

 

「……悠仁!!」

 

カムイの絶叫と共に、周囲の気温が急速に低下した。魂の深淵で眠っていた四柱目、大蛸の『アッコロ』が、主の怒りに呼応して咆哮を上げる。足元の雨水が一瞬で結晶化し、周囲の空間そのものが凍りついたかのような静寂に包まれた。

 

「宿儺……殺してやるッ!!」

 

「やってみろ、北の小僧。その歪な呪力、どこまで保つかな」

 

カムイは地を蹴った。銀白の狼『レタㇻ』の脚力を、羆『キムン』の剛力に乗せた、超高速の飛び蹴り。本来なら物理法則すら置き去りにするはずの初撃――。しかし、拳が届く直前、カムイの全身を焼き切るような劇痛が駆け抜けた。

 

「(ガはっ……!? 同期が……崩れる……!)」

 

アッコロの膨大すぎる呪力が、暴力的に他の三柱との接続を内側から食い破っていた。右腕のキムンが衝撃に耐えきれずひび割れ、影のレタㇻが主導権を失って霧散する。制御を失った冷気がカムイ自身の肉体を焼き、左半身の感覚が完全に消失した。

 

宿儺が指を振るう。

カパッチリの黄金眼で軌道は視えていた。だが、過負荷を起こした脳は回避命令を処理しきれない。

 

「……ぐ、あああぁぁぁ!!」

 

不可視の斬撃が、カムイの胴を深く斜めに切り裂いた。鮮血が凍りつきながら舞う。

だが、カムイは止まらない。止まれば、今度こそ仲間を失う。彼は折れかけた右腕を強引に突き出し、アッコロの権能を全開放した。

 

「吸え……! 中和しろ、アッコロ!!」

 

カムイの左手から漆黒の霧が噴き出し、周囲の呪力を無差別に吸い上げる。宿儺が放った二撃目の斬撃が、カムイに届く直前で「呪力の塊」へと還元され、霧散した。

 

「……ほう。俺の術式を『捕食』するか。面白い、面白いぞ小僧!」

 

宿儺が歓喜に顔を歪め、今度は物理的な体術の連撃を叩き込む。カムイはキムンの質量を乗せて応戦するが、出力が安定しない「同期崩壊」状態では、呪いの王の流麗な体術にじりじりと押し込まれていく。一打ごとに内臓が揺れ、視界が赤く染まっていく。

 

「(クソッ、体が……同期が持たない……!)」

 

カムイの右目から一筋の血が伝う。その瞬間、宿儺の鋭い蹴りがカムイの腹部を貫通せんばかりにめり込んだ。

衝撃で吹き飛ぶカムイ。瓦礫に叩きつけられ、意識が遠のく中、彼は視た。

 

宿儺は瓦礫に埋もれたカムイの側まで歩み寄り、その白濁した髪を乱暴に掴んで顔を上げさせた。

 

「おい、北の異物。貴様のその『四柱』、今のままではただのガラクタだ。せいぜい俺のいないところで、その化け物に内側から食い殺されぬよう足掻いておけ」

 

カムイの黄金の瞳が、憎悪を込めて宿儺を射抜く。宿儺はその眼を覗き込み、不気味に口角を上げた。

 

「……あ。……伏黒、カムイ……ごめんな」

 

虎杖の意識が戻り、彼が伏黒に最後の言葉を残して、膝から崩れ落ちるのを。

心臓を欠いた肉体から、命の火が完全に消え失せる。救えなかった。原作の知識を持ち、特級をも凌駕する力を持ちながら、自分自身の力の暴走に足を取られ、最も救いたかった友の死をただ見届けることしかできなかった。

 

宿儺は嘲笑を残し、虎杖の精神世界へと消えていった。

降りしきる雨が、カムイの傷口と、冷たくなった虎杖の頬を濡らしていく。

 

「……あ、ぁぁぁ……あああああああ!!」

 

静寂の中、カムイの慟哭だけが虚しく響き渡った。

 

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