原作でも謎に包まれたアイヌ呪術連からの転入生(転生者)   作:板前さん

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第4話

五条悟という「最強」が去った後の神遺(かむいやり)家は、静まり返った雪原のような、冷徹な静寂に支配された。

アイヌ呪術連盟と神遺家が下した結論は、カムイを十六歳までこの屋敷に「隔離」し、時が来れば東京へ「厄介払い」すること。それは事実上の放逐であったが、十歳のカムイにとっては、運命を塗り替えるための力を練り上げる、至高の執行猶予となった。

 

「……いい。誰も来ないなら、その方が好都合だ」

 

カムイは屋敷の端にある、古びた離れに自らを閉じ込めた。

そこは、かつて「神」を呪縛するための檻だった場所。しかし、今のカムイにとっては、三柱の呪霊たちと魂を研ぎ澄ませるための、聖域へと変わっていた。

 

呪力の混濁、異形への進捗

修行は凄惨を極めた。

神遺家の正道である「呪霊の自我を削る術式」を、カムイは真っ向から否定した。彼が行ったのは、自らの精神領域に呪霊を招き入れ、一つの器を共有する「共犯」の深化である。

 

「(クク、いいぞカムイ。もっと影の底へ沈め。俺の視界と、お前の意識を混ぜ合わせろ)」

影からレタㇻが囁けば、カムイは音もなく闇に溶け込み、慣性すら無視した踏み込みを見せる。

 

右腕には、キムンの脈動。心臓の鼓動を羆のリズムに同調させると、カムイの血管には溶岩のような呪力が駆け巡り、一拳で凍てついた大岩を粉砕した。

 

そして右目――カパッチリの黄金。

当初、数秒の使用で脳を焼くような激痛に襲われていた視覚同期も、数年の月日が経つ頃には「呪力の流れ」を色彩の帯として読み取り、相手が術式を練り始める瞬間の火花を予読する域に達していた。

 

しかし、代償は肉体に如実に現れる。

十三歳を迎える頃、カムイの漆黒だった髪は、三柱から逆流する負のエネルギーに侵食され、冬のダイヤモンドダストを思わせる「純白」へと変貌した。黄金の右目、獣の呪印が刻まれた右腕。その姿は、神を宿した少年というより、人の皮を被った特級呪霊のそれに近づいていた。

 

伝統という名の檻、共犯という名の絆

「……カムイ様、お食事です」

 

震える声で膳を置く奉公人の少女は、カムイと目が合うことすら拒んでいる。彼女の目には、カムイの背後に蠢く狼の影や、室内を満たす圧倒的な捕食者の圧が見えているのだ。

 

神遺家の術師たちは、離れから漂う異質な呪力に、日々恐怖を募らせていた。

「あれはもう、神遺の人間ではない」

「神を飼い慣らしているつもりで、その実、呪いに喰われているのだ」

 

そんな陰口を、カパッチリの聴覚が拾い上げ、カムイに伝える。

「(ふん、矮小な連中。貴方を『怪物』と呼び、遠巻きに眺めることしかできない)」

 

「……それでいいよ。怪物じゃないと、あの連中には勝てないからな」

 

カムイは前世の記憶を反芻する。

かつて画面越しに見た、虎杖悠仁の絶望、伏黒恵の苦渋。それらを救うためには、人としての平穏も、美しい髪の色も、最初から捨てていた。

 

雪が降り積もるたび、カムイの呪力は深みを増していく。

十五歳になる頃には、屋敷内の誰もカムイに近づくことはなくなった。彼はもはや「嫡男」ではなく、神遺家という檻の中に潜む、解き放たれるのを待つだけの「災厄」そのものとなっていた。

 

黄金の右目が、遥か南の空を睨む。

「……あと一年。待ってろよ、アッコロ。あんたを連れて、東京へ行く」

 

千歳空港へ続く道はまだ雪に閉ざされているが、カムイの魂は、すでに地獄の中心地へと飛び立っていた。

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