ブラッドボーン主人公憑依転生→本編クリア→フリーレン世界転移 作:啓蒙61
内容を大幅に加筆修正しました。別物に近いです。続くかどうかわからないです。
追記:前のやつを供養として近いうちに投稿します。
目が覚めると、そこは暗闇の中だった。血の匂いが鼻腔をくすぐった。
「あれ?」
自分はつい先ほど死んだはずだ。
それがおかしなことに、生きている。
現実ではありえない状態だ。しかし、俺は瞬時に理解してしまった。
これは異世界転移なのではないか?
俺は、ボロボロにさびれた手術台の上で横になっていた。
手術台から降りた俺は、辺りを見渡して、つぶやいた。
「……どこかで見たことがある場所だ」
初めて訪れる場所だというのに、異常なまでの既視感があった。
ここは、ランプひとつだけが室内を照らしている暗い病室。
周囲の家具はさびていて、まるで廃墟のようだ。
「ん、なんだこれ?」
手術台の近くにあった椅子に、文字を記した紙切れが置いてあった。
──『「青ざめた血」を求めよ。狩りを全うするために』
「おいおいおい、嘘だろ……」
俺は、その場で叫びだしたくなった。
こんな可能性がある。
もしここがゲームの世界ならば。
そして、その世界のゲームの主人公に憑依転生してしまったなら?
それがもし絶対に転移したくない、ゲーム作品の世界だったならば?
俺は振り返る。
部屋の奥。そこには、室内の外へとつながる扉があった。
俺は、ゆっくりと扉に近づき、部屋の外へ出る。
外は長い廊下と、下り階段がある。
先に進みたくない。
だけど進まなければ、どうしようもない。
自然と足が動いた。
それは、この体の持ち主の影響によるものだろうか。
それとも、この導入パートを何度も画面越しに体験しているせいなのか。
下り階段の先には、大きめの部屋があった。
部屋中には、血の臭いと、腐ったような異臭、獣の臭いが充満している。
部屋の中心には、死体が転がっている。
その死体を、四足の獣が貪っている。
ああ、とうてい受け入れられない。
これから自分がいったいどのような苦難を味わうのか、想像できてしまうから。
獣の眼光が俺を貫く。
新しい獲物を発見したのが嬉しいのか、獣はうるると、うなり声をあげる。
俺は、絶望と恐怖で動けなくなった。
まさに恰好の餌。
獣にのしかかられて、首筋を嚙みちぎられた。吹き上がる血。暗転していく視界。
俺はブラッドボーンの主人公に憑依転生してしまった。
そして転生して、わずか数分で死んだ。
★
目が覚めた俺は、ゲームの進行通り、狩人の夢にいた。
水盆の死者から武器をもらう。
まずは右手に持つ武器。
<ノコギリ鉈>、<獣狩りの斧>、<仕込み杖>。
次に左に持つ武器。
<獣狩りの短銃>、<獣狩りの散弾銃>
右手武器をひとつ、左手武器をひとつ。それぞれからひとつ選ぶのだ。
俺は迷いなく、<ノコギリ鉈>と<獣狩りの短銃>を選ぶ。
そうして、墓石に触れて、自分が目覚めた病室に戻る。
そして、自分を殺した獣と再戦。
次は武器を携えているから、勝てるはず……なんてことはなく、あっさりと獣の爪に引き裂かれて死んだ。
それはそうだ。
昨日まで、俺は現代日本でのほほんと暮らしていた。
武器といえるものは、包丁くらいしか持ったことがない。
何かと戦うという経験なんてひとつもない。
だから俺は、殺されつづけた。
体を引き裂かれ、首をへし折られ、胸を食いちぎられて、血だまりの中に倒れ伏して。
何度も、何度も殺されて……そして18回目の死闘の末に、獣を殺すことができた。
しかし、これはまだ序の口であること、このゲームを知る者ならば当然理解しているだろう。
ヨセフカの診療所を出た俺が向かう先は、町の外門だった。
こんなクソみたいな世界は、とっとと逃げ出すにつきる。
道中、出会うヤーナム住人に殺されたり、うっかり街の広場に迷い込んだと思えば、正気を失った住人たちに囲まれて撲殺されたり、または犬の群れに殺されたり……。
とにかく殺されまくりながら、どうにか外門にたどりついた。
門を登り、外に出ようとしたその瞬間、俺の体は爆発四散した。
この世界はゲームだ。だからシステム外のことをやろうとすれば、世界のバグが発生し、自分が死ぬのだろう。
あるいはなんらかの上位者の干渉によって、引き起こされているのかもしれない。
ヨセフカの診療所の『灯り』へ戻った俺は、数時間泣きわめき、暴れまわったあと、覚悟した。
このヤーナムの世界を攻略するしかない。
ヤーナム各地をめぐり、ゲームクリアにたどりつくしか選択肢はないのだ。
そうして、俺はこのヤーナムで血と闘争に塗れた日々を過ごすことになった。
そこからの日々は、まさに終わりのない悪夢だった。
最初のヤーナム市街の道中で、俺は30回死んだ。
そして最初のボスである聖職者の獣に40回殺された。
次に突破率50%を下回る初心者の壁と名高い、ガスコイン神父に70回殺された。
それらを全部突破して、攻略を進めていく。
殺され続けていくうちに、摩耗したはずの精神は研ぎ澄まされ、洗練されていった。
戦うことへの恐れ、死への恐怖、痛みへの忌避。
戦いを繰り返し、経験値を積むことで、それらを闘争心が上回ったのだ。
気が付けば、悪夢の辺境で上位者アメンドーズを切り殺していた。
倒れて、霧散していくアメンドーズを目にして、俺は達成感よりも、徒労を覚えた。
「もう戦うのは疲れた。早く終わりにしたい」
殺して、殺されて。死んで。狩って、狩られて。
それを繰り返して、ついに終着点までたどり着いた。
狩人の夢。燃え盛るゲールマンの屋敷。
花畑の中で、ゲールマンに打ち勝ち、月の魔物との戦闘に入る。
この戦いでは、珍しく一度も死なずに、勝利を収めた。
「お前に会いたかったよ。終わりにしよう」
月の魔物の心臓部分に、得物であるノコギリ鉈を突き刺した。
月の魔物が悲鳴を上げて、消滅していく。
そして突き刺した部分から血が噴き出し、雨のように俺の体に降り注ぐ。
通称上位者END。
それは、ブラッドボーンの分岐する3つの結末のひとつだ。
『幼年期の始まり』と呼ばれるそれは、人間を逸脱し、上位者の幼体へと変化するエンディング。
これにより、悪夢は根絶され、ヤーナムの夜は二度と訪れない。
(ああ、ほんとうに救われない展開だな)
どうして、俺はこの結末を選んでしまったのだろう。
もう二つの結末がある。
ゲールマンに介錯されることで、自分だけが悪夢から解放されるエンディング。
しかし救われたのは自分だけで、悪夢は永遠に続くのだ。
もうひとつはゲールマンの後継者となり、ヤーナムの夜を永続させるエンディング。
……ゲールマンの後を継ぐなど、死んでも嫌だ。
そうだ。『ヤーナムの夜明け』を選べばよかった。
それだけが、この悪夢から助かる唯一の手段なのに。
そんな唯一の希望を俺は捨てて、悪夢を消滅させる代わりに、人間であることをやめてしまった。
どうしてだ?
そうか、きっと自分だけが助かるのが嫌だったのだ。
自分だけが救われても、悪夢の世界でヤーナムで生きる人々は苦しみつづける。
もしかしたら、この結末を選んだゲームの主人公は、実はそう思っていたのかもしれない。
しかし、それはそれとして嫌である。
ヌメヌメしたイカっぽい上位者の幼体になるなんて。
★
目が覚めると、俺は森の中にたたずんでいた。
おかしい。
今頃、俺はイカっぽい上位者に生まれ変わっているはずだ。
これは上位者となった俺が生み出した、空想の世界なのだろうか?
いや、それはさすがにあり得ない。
「……ついに、俺はヤーナムの外に出たのか?」
実は自分は幻覚を見ていたのかもしれない。
『幼年期の始まり』エンドを選んだのはすべて妄想だった。
そして実際は『ヤーナムの夜明け』を選択し、外の世界に脱出できたのかもしれない。
ああ、よかった。
自己犠牲の果てに誰がイカになんてなりたがるのだろうか。
しかし、それにしては幻想的で綺麗な森だ。
空気もうまい。
ヤーナムの外はこのようになっているのか。
森の中を散策していると、池が目に映る。
近づいて、自分の姿を確認してみた。
そこに映されたのは、現代日本にいた頃の俺……ではなく狩人である俺の姿。
「……なんでだ。ヤーナムの世界から出たはずだよな」
帽子。マント。ズボン。ブーツ。それらすべてが漆黒で統一されている、狩装束。
それは、俺が長らく愛用していた狩人の衣装だ。
おかしい。ヤーナムの世界から脱出できたのならば、この衣装を自分が着用しているはずがないのだ。
その時、気配がした。
人間のものではない。
いくら隠し切ろうとも隠し切れない、獣の気配だ。
俺は、とっさに背後を振り向いた。
木々の間を、ひたひたと何か動く。
それは少女だった。
緑髪の、小柄な女の子。
額に、人外の証である一対の角が生えていた。
なぜだろう。なぜか、見覚えがある。
ヤーナムの世界では、あのような者はいなかった。
ということは、長いヤーナムの戦いで擦り切れた、現代日本にいた頃の記憶に、答えがあるというのか。
それをなんとか引っ張りだして、目の前の少女のことを思い出そうとするが、結局はできなかった。
今の自分の記憶は、すべて絶望と血の闘争で、擦りつぶされている。
異形の少女が口を開いた。
「警戒しなくても大丈夫だよ。私は君をけっして襲わない」
どう考えても、バレバレの嘘だ。
「私は、人間を食べない魔族だから」
──魔族。
その単語で、またしても埋没していた何かが浮かび上がる。
葬■の■■■レン
あれ、なんだ、これ。
「君のことを教えて? 私は君のことが知りたいの。君はこの近辺の村出身なのかな?」
目の前の魔族は、質問を投げかける。
この女の瞳は、獲物を見るような捕食者の瞳だ。
「少し変わった衣装だね。帝国の魔導特務隊の制服に少し似ているね? ただ、色は君のように漆黒ではないかな。どこか遠い国から来たのかな?」
「黙ったまま? まあいいや、君のこと、もっと知りたくなったわ」
俺は、溜息をついた。
ああ、とことんツイていない。
クソみたいな世界からようやく解放されたと思いきや、どうやらいきなりロクでもないやつと殺し合うハメになったらしい。
「教えて、君のこと。君の全部。何が好き? 何が嫌い? 魔族は憎い? 私は怖い? 君のこといっぱい知りたいね」
魔族を名乗る角をはやした女の周囲に、次々と、宙に浮かぶ大剣が浮かび上がる。
あんな秘儀は見たことがない。
……おそらくあれは、神秘とは全く違う、何か別の力で生み出されたものだ。
すべての大剣の切っ先が、俺に向けられる。
「だから、まずは手足を全部切り落として、逃げられないようにするね。それから、じっくり君に質問するから」
肌で感じる。
こいつは、強い。
あの街で戦ってきた上位者や古狩人たちに匹敵するほどの強さだ。
ようやく血なまぐさい殺し合いから解放されたと思っていたのに。
もう戦いなんて、こりごりだ。
俺は、虚空に両手を伸ばす。
そしていつものように、自分が手にしたい仕掛け武器と銃を念じる。
すると両手を伸ばした先の空間が歪み、<ノコギリ鉈>が右手に、<獣狩りの短銃>が左手に、それぞれ装着される。
魔族は、興味深そうに目を細めた。
「ふぅん、お兄さん、魔法使いだったんだ? でも不思議だね、お兄さんから一切魔力が感じないもの」
「俺は、魔法使いじゃない」
「じゃあ、なんなの」
「俺は狩人だ」
戦いたくなかったはずだ。
だというのに、仕掛け武器を手に持つと、なぜか心が騒ぐ。
血と殺意をうずまく、獣との闘争をひどく求めてしまう。
「お前という獣を狩る、狩人だ」
さあ、
「私はソリテール。お姉さんが遊んであげる」
ソリテールと名乗った女魔族は、好奇心を宿した瞳で、にいっと笑った。
ここは、ヤーナムではない場所だ。
狩人の休憩地点である『灯り』は存在しない。
狩人の夢は閉ざされ、復活する力は失われている。
つまり、俺は一度でも死んだら終わり。
死なずに、初見でこいつを突破しなければならない。