剣聖「騎士団の教官になったから、気合い入れて厳しめに鍛えたら教え子全員殺意マシマシのガンギマリ集団になった」   作:アスピラント

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ちょっと曇らせあり


才女なエルフは師と共に未来を作りたい

 私――ロラーナにとって、師の存在は絶対である。

 あの人がいたから私たちがいて、あの人がいたから世界が救われた。

 

 黒竜……十の厄災の一つにして原初の魔物、最悪にして最強の生命体である奴を撃退したからこそ、今の世界がある。私たちエルフにとっても因縁のある相手である怪物は、今はまだ活動を休んでるだけに過ぎない。

 

 きっと……そう遠くない内に動き出すでしょう。

 その時に騎士団や、勇者やS級冒険者、精霊……あるいは魔族を含めた全ての戦力がなければ、怪物は倒せない。

 

 ならばどうするか――簡単な話です。

 師の力を全盛期に戻し、同時に私たちも師と同等の力を手に入れれば良い。

 

 私たちの成長速度は師には及ばずとも、充分なペースと言っていいでしょう。ですが師という最後のピースが無ければ、やはり不安要素が残る。

 

 だから私はアルナ様と手を組みました。

 必ず黒竜の猛毒を解毒し、師の体を戻すと。

 全ての憂いを断ち切り……私たちは完全無欠のハッピーエンドに辿り着く。

 

 そのためなら……私はどんな手段も問わない。

 人に害なすものなら、私の研究の贄になってもらいます。

 

 ◇◆◇

 

 アルナの治療院――その地下には、専用の研究室がある。

 エルフの大魔法使いにして、英傑である彼女は冒険者を辞めた後、長いこと冒険者としての強さに重きを置いた魔法の探求を、黒竜の猛毒の解毒……および解呪が難しいとされる呪いの研究に割いた部屋でもある。

 

「じゃあ、実験を開始して頂戴」

 

 そんな地下研究室にアルナの静かな声が響いた。

 

「わかりました」

 

 すると一人のエルフが前に出た。白髪に銀の瞳、さらには整った顔立ちという神秘的な見た目をしていながら、その綺麗な目はゾッとするほど冷ややかで、感情の揺らぎをほとんど見せない。

 

 彼女の名前はロラーナ――レクスディアの教え子の一人であり、剣士でありながら魔法に関する造詣が教え子の中で一番深く、レクスディアは単純に魔法使いとしても大成出来ると評価するほどの傑物である。

 

 そんな彼女は小さな杖を握ると、眼前にて拘束されたオークへと歩み寄った。

 

「――ァアアア……ァア」

 

 鎖に繋がれたオークの身体は、黒ずんだ紫色へと変色している。皮膚は爛れ、血管は浮き出て脈打ち、荒い呼吸のたびに苦悶の声が漏れていた。

 自分が実験体であることは理解しているのだろう。だが、何をされるのかまでは分からない。

 

 恐怖に揺れる濁った瞳が、ロラーナの杖に釘付けになる。

 だが彼女は淡々と呪文を唱え始めた。

 

「清廉なる大精霊よ……其方の力を我が手に……」

 

 澄んだ詠唱が室内に満ちる。

 杖の先から淡い光が溢れ、オークの身体を包み込んだ。

 すると、変色していた箇所がゆっくりと元の色へと戻っていく。壊死しかけていた皮膚が再生し、荒れていた呼吸も次第に落ち着いていった。

 

「おお……」

 

 オークの喉から、安堵の声が漏れる。

 鎖を軋ませながら、必死に息を整える。

 なんだ、助かるのではないか――そんな期待を浮かべていたが……。

 

  ぶつり、と何かが弾けるような音がした。

 

 オークの全身の毛穴という毛穴から、黒い血が噴き出す。

 

「ギ、ァ……!?」

 

 悲鳴が響く。

 皮膚が内側から崩れ、肉が溶けるように崩壊していく。再生しかけていた箇所が逆に腐り落ち、骨すらも黒く染まって砕けた。

 

 床に滴る血は、煙のような瘴気を立ち上らせていた。

 オークが死ぬのに数秒もかからなかった。

 やがて鎖の中に残ったのは、原形を留めない黒い塊だけだった。

 

「……」

 

 研究室に沈黙が落ちる。

 ロラーナはしばらくそれを見つめ――小さく息を吐いた。

 

「……失敗ですね」

「あちゃー……残念」

 

 アルナも同じようにため息を吐き、肩をすくめる。

 

「毒素の除去は成功していますが……活性化した呪いへの干渉が遅れました。再構築の段階で崩壊が起きています」

「……浄化しようとしたら、身体そのものが呪物のようになっているせいで、肉体丸ごと浄化しちゃってるわ。厄介ね……」

 

 2人の天才はグズグズになった肉塊を見ながら、先程の分析を始めていた。言っておくがこの実験は何もオークを惨たらしく殺す実験ではない。簡単に言えば黒竜の猛毒を解毒――もしくは緩和出来る呪文の開発だった。

 

「本音を言えば人間でやりたいんですけどね」

「それはだめよ、オークでもギリギリなんだから」

 

 さらりと言うロラーナは一切冗談のつもりで言っていない。

 

「死刑囚とか極悪人の社会奉仕という名目でいけそうですけどね」

「レクスディアからだめって言われてるんだから、そこはちゃんと聞きなさい。私も出来れば人相手にはやりたくないわ」

「……別に塵芥みたいな奴なら良いと思いますけどね、ただ殺してしまうよりよっぽど有効活用出来ます」

(んー……過激思想〜、レクスディア……どんな訓練したらエルフをここまで歪められるのよ……ったく)

 

 アルナは頭を悩ませた。

 理由はもちろん(レクスディア)の教育内容だ。

 そもそもロラーナはここまで苛烈ではなかった。従士時代の彼女は可憐で、それこそ誰からも好かれる人気者みたいな感じだった。

 

 ただ剣聖に育てられるようになってから変わった。

 

 ――私の道は決まりました、師を幸せにするのです――

 

 ――んゔぇ!?――

 

 最初聞いたアルナは目玉飛び出る勢いでびっくりした。

 思わずレクスディアに問い詰めたら「俺の方こそどうにかしたいぐらいだ、むしろ助けてくれ」とクールな表情で言う始末。

 

 彼の鍛錬が常軌を逸してるのは知っているが、それでロラーナがこうなるとは誰が予想出来ようか。

 

(まぁ……支えたい気持ちはわかるけど)

 

 と他人事みたいに言うアルナだが、彼のためにわざわざ治療院作ってるあたり人の事は言えなかったりする。

 

「……レクスディアも言っていたでしょ? それは下手に殺すより悪影響だと」

「師に言われた事を破る気はないですよ? ただ……効率的だと思ったんです」

「……はぁ」

 

 まぁまだ言う事を聞いてくれる分だけマシかとおもっていたアルナは、ふと思い出す。

 

「ねぇロラーナ」

「何でしょう」

「貴女レクスディアが長期休暇って把握してる?」

「…………はい?」

 

 ピタリとロラーナは動きを止める。

 

「ロラーナ、ここ数日は引きこもっていたじゃない?」

「引きこもりと言わないでください、研究です。そんな人をニートみたいに……いやそれよりも、師が休みだったって本当ですか?」

「嘘なんかつかないわよ」

 

 この時ロラーナは引きこも――じゃない、研究時間を思い出していた。地下研究所でかれこれ6日はいる。しかも誰とでも連絡なんか取らず、ずっといたから外部の情報なんか入らない。

 

「……その間……皆は何してるか知ってます?」

「なんかキアラとファングは2人で出かけたりしてたわ、ナハトは昨日レクスディアに怒られていたから2人でいたのは間違いないわね」

「……何故怒られてるんです……? ナハトはともかく――いや一緒に怒られて2人で反省してるって考えたら、それすらうらやましいですね。おのれ……私と似たような生活してる癖に手を出す速度は早いとか許せません。あの女郎には今度劇薬飲ませますか……」

「ロラーナ、落ち着きなさい。瞬きなしで話すのは気味悪いから」

 

 ロラーナはもはや止まらない。

 長期休暇が始まってもう何日か経過してるのは間違いない。今すぐにでも2人の時間を作らないと、お邪魔虫と一緒に行動せざるを得ない。

 

 頭の中でレクスディアと2人きりで出かけるための口実を、如何にも仕事上っぽい理由を組み立てた彼女は勢いよく立ち上がる。

 

「アルナさん、私急用思い出しました」

「その理由を作るのは下手すぎじゃないかしら……」

「いいんですよ、あと教えてくれてありがとうございます。今度美味しい紅茶を差し入れしますから」

「あー……もういいから、とにかく行ってらっしゃい」

 

 そう言った瞬間、ロラーナはスタスタと早歩きで階段を上っていった。1人取り残されたアルナはため息を吐くと、ちょっと拗ねたように口を窄めながらぼやいた。

 

「私もたまには()()()と出かけたいんだけどなー……くそ、仕事さえなければ」

 

 まぁ今回ばかりは仕方ない。

 アルナは年上の余裕と言って仕事に戻った。

 

 ◇◆◇

 

 (()()は多分騎士団本部でしょう)

 

 高速ですり足しながら歩くという、絶妙に気味悪い動きをしながら向かうロラーナは、脳内でレクスディアを連れ出す口実を既に組み立てていた。

 

(確実なのは新しい薬の材料探しがてらに一緒に来て欲しい――ですね。先生は患者なんですから魔力の動きを見てみたいからどうのこうの言えば、先生はついてくる筈)

 

 なんだかんだでレクスディアが甘い――鍛錬時は別――と知っているロラーナは、そらもう気分ウキウキだった。周りの視線も何のその、ルンルン気分で騎士団本部にたどり着いたロラーナが目にしたのは――

 

「――まだ休むには早い、ペースは落とすなよ」

「「「「はい!!」」」」

 

 騎士になって2年目になる、ロラーナにとっても後輩の騎士4人相手に指導するレクスディアの姿だった。

 

「いいか、魔力を流すというより纏わせて固定するイメージが大事だぞ。現に刃から漏れている」

「は、はいっ!」

 

 うら若き女騎士の一人が、慌てて剣を握り直す。

 刃に淡い光が宿っていたり、指導内容からして魔法付与(エンチャント)の訓練をしているのは明らかだった。

 

 もう一人の女騎士も歯を食いしばりながら、魔力を刃へと集中させる。彼女たちの剣はそれぞれ異なる属性を帯び、火花のような魔力が散っている。

 

「魔力固定の練度が甘い、振る瞬間に魔力が途切れている」

「くっ……!」

 

 レクスディアは軽く杖で、剣を持つ彼女の手を優しくつく。

 

「もう一度」

 

 容赦のない一言に辟易するが、2人の女騎士は鍛錬に集中する。それを見たレクスディアはまた違う方に視線を向けた。

 そこでは少し離れた場所で2人の青年騎士が体術の鍛錬をしており、汗でぐっしょりと濡れていた。

 

「腰が浮いている」

「……!」

「足運びを意識しろ」

「はいっ!」

 

 剣術も大事だが剣がなくなったら何も出来ないという無様な真似は許されない。騎士団とはいうものの、任務内容的には軍人に近い。戦える手段は多ければ多いほど良いから、あらゆる戦闘技能を取り込めというのが指針だ。

 

「実戦で負けは許されない、それを理解しろ」

 

 淡々として熱のない指導に見える。

 だが4人とも、その目は真剣だった。

 皆知っているのだ――彼は真摯に後輩に向き合う人だと。だから彼らも文句なんて言わずに、厳しくてもついていく。

 

 再び、女騎士たちが踏み込む。

 今度は先ほどよりも魔力の流れが安定している。刃に宿る光がぶれない。それを見たレクスディアは小さく頷いた。

 

「その感覚を忘れるな。身体に覚えさせろ……練度を高くすれば基礎の実力も上がる」

「「は……い!」」

 

 そこからさらに打ち込みをしては受け、崩され、立ち上がるを繰り返す。呼吸は荒くなり、足は震え、額から汗が流れ落ちる。4人の限界を感じたレクスディアは口を開いた。

 

「……よし、そこまでだ。休憩」

「「「「はぁ〜…………!!!」」」」

 

 面白いぐらい声が揃ったなとレクスディアが思ってると、女騎士2人からじっとりとした視線を向けられる。

 

「む、無理です……!」

「死ぬかと思いました……!」

「お前たちが自分で頼みに来たんだぞ、忘れてないよな?」

「そうですけど……予想以上だったので……はぁ……疲れた」

 

 すると四人がほぼ同時に、石畳に大の字にパタリと倒れ込んだ。魔法付与をしていた女騎士は剣を抱えたまま仰向けになり、青年騎士の一人は腕を広げて空を見上げている。

 

「キアラたちは新人の頃にこなしていたぞ」

「怪物と一緒にしないでください……よ……!」

 

 無理もない。

 新人の頃から既に才能を開花した連中……と言っても、剣聖がチューニングしたからという前提が入るが、それと一緒にするのは酷だ。

 

「キアラ先輩……これよりきついのを新人からやってきたんですね……」

「そりゃ強くなる訳ですよ……」

「俺がやっていた鍛錬をさせたからな、だけどお前たちだって充分見込みはある」

「本当っすか……?」

 

 青年は訝しむが、レクスディアは本当にそう思っていた。

 育成に関して彼は嘘は言わないのだ。

 

「本当だ、2年目で実力がこれだけあれば良い。そんじょそこらの冒険者や魔物すら相手にならないだろう」

「でも……剣聖様やキアラさんたちは――」

「上と比べるな、強くなるペースは人それぞれだ。変に焦る必要はない」

 

 レクスディアは4人と向き合う。

 本来なら彼らは自分の担当ではないが、個人的に頼みに来たという事もあってか、今の彼はかなり真剣に見ていた。

 

「いいか、俺が言うなと思うだろうが……過剰に自分で自分を追い詰めるな。お前たちはちゃんと前に進んでいる、それは俺が保証する」

「「「……!」」」

「改善点は沢山あるが、むしろその分だけ伸び代があるという事だ。腐らずに努力すれば報われる」

 

 なんて優しいのだろうか――4人はこの人があんな殺し屋集団を作った犯人には思えなかった。鍛錬は厳しくても、本当に愛を持って教えてくれるのが伝わってきて、4人はすっかり舞い上がっていた。

 

「先生と呼んでいいですか!」

「同じく!」

「別に構わないが……担当の教官がかわいそうだから、そいつもちゃんと先生って呼んでやれよ」

「もちろん呼びますよー! 多分!」

 

 そう言って彼らは楽しそうに談笑する。

 それはまさしく理想的な先生と生徒の環境のよう。

 

 ああ……なんて全く――妬ましい。

 

「師――いや()()、最初の教え子を前に随分と楽しそうですね」

「!!」

 

 ドスの聞いた声と粘つくような気配に、レクスディアは急いで振り返る。するとそこには鈍い光を宿した銀の瞳で、自らの師を睨むロラーナの姿。

 レクスディアは厄災に初めて会った時に抱いた瞬間を幻視した。

 

「ロラーナ……いたのか」

「はい、私たち以外の後輩にだらしない顔して嬉しそうにしていたあたりから……」

「……だらしない顔してたか?」

「はい(当社比)」

 

 あくまでもロラーナ目線であるが、彼女の目線に立つと機嫌良く本部に帰ったら、師匠が寝取られたような感じだ。そりゃ軽く脳を焼かれる。

 

「ロラーナ先輩!!」

「わ……! 本物だ!」

「綺麗……」

「2年目の子たちですね、すみません……私たちの()()が迷惑をかけました」

(母親か)

 

  何故かいきなり世話焼き母さんムーブしたロラーナは4人を一瞥すると、すぐに視線をレクスディアへ戻した。

 

「……先生、この後私と一緒に来ていただけますか」

 

 有無なんか言わせねぇよみたいな目で彼女は同行を求めた。レクスディアは彼女のことだから、研究で忙しいから一緒に過ごさないと思っていただけに、ちょっと意外だった。

 

 だからこそちょっとタイミング悪かったなと眉を顰めた。

 

(鍛錬途中なんだよな……こいつらの)

 

 てっきり無理だと思ったのが災いした。

 まだ途中の鍛錬を投げ出すわけにもいかないと判断したレクスディアは断る事にした。

 

「いや、まだこいつらを見てやらないと――」

「「「いやいや!!」」」

 

 すると今度は4人が否定し出した。

 レクスディアは混乱した。

 

「もう充分です!」

「さっき“伸びてる”って保証してくれましたし!」

「ここで欲張ると過剰に追い詰めるなって言葉に反します!」

「なのでロラーナ先輩に付き添ってあげてください!」

 

 いきなりロラーナの頼み事が通るように、畳みかけるような援護をしてきた彼らを見て、レクスディアは目を瞬かせる。

 

「いや、だが――」

「大丈夫です! 自主練してます!」

「むしろ今は先輩の方が大事かと!」

 

 ちら、と4人はロラーナを見る。

 背後に漂うどす黒い圧を見て確信していた。

 

 ――あ、これ嫉妬だ。

 

 めっちゃ目をガン開きにして見られた4人は、もう2人に挟まるのは自殺行為だと理解していた。同時にこの先輩の後押しをせねばとすぐに理解ある後輩ムーブをする決断を下していた。

 

「先生はロラーナ先輩と過ごしてください!」

「はい、どうぞどうぞ!」

「……俺そんな厄介ものみたいに」

 

 半ば押し付けるように背中を押されるレクスディアを、ロラーナはじっと様子を見ていた。

 

 数秒が経ち、ロラーナは4人を見ると無言で右手を上げ、ぐっと親指を立てた。

 

(((先輩……!)))

(出来る後輩ですね)

 

 この間僅か0.001秒だったそうだ。

 

「分かった……ロラーナ、行くぞ」

「はい」

 

 さぁいざ行かんとばかりにロラーナは意気揚々と先行するがレクスディアは一歩踏み出しかけて、顔を顰めた。

 

「……その前に」

「何でしょう」

 

 ロラーナは首を傾げる。

 何でそんな苦しそうな顔をするのか――と思ったその時、レクスディアから言葉の刃が飛び出る。

 

「お前……風呂入ってないだろ……」

「…………」

「めっちゃ臭いぞ」

 

 ロラーナは無言で袖の匂いを嗅ぐと、急いで本部の中に入っていった。

 

「先生……言い方とか……」

「いや普通に風呂キャンセルされたら嫌だろ……」

「…………ロラーナ先輩……」

 

 4人は思った――なんか上手くいくような気がしないと。

 

 ◇◆◇

 

 風呂と着替えを済ませた二人は、王都リュミエール近郊の平原へと足を運んでいた。

 

 澄み渡る青空の下で広がる草原に、風によってゆるやかに揺らされる花々――のどかで美しいこの景色を見るだけで、レクスディアは気分が良くなっていった。

 

 ちなみに今ロラーナは白を基調としたローブ姿だった。洗い立ての銀髪がさらりと揺れ、ほのかに花の香りが漂う。さきほどとは打って変わって、清廉そのものだ。

 

 対するレクスディアは軽装のまま、周囲を見渡した。

 

「……で、これから何をする気だ?」

「採取です」

「ほう……」

 

 ロラーナは振り返らずに続けた。

 

「先生用の魔法薬を追加で調合します。現在の先生は黒竜の猛毒の後遺症で、魔力循環に滞りが残っていますよね」

「ああ、だから力も落ちた」

「毒素自体は封じ込めていますが、神経系と魔力脈に負荷が残っている。特に高出力で術を行使した後、回復が僅かに遅れる傾向があります」

 

 淡々と専門家の口調で言っているが、レクスディアは察している。これは建前だと。

 

「そこで必要なのが、ここの陽光花と蒼根草です。自然環境にある魔力の純度が高く、循環補助と細胞活性を同時に促進できます」

 

 ロラーナは膝をつき、花弁を丁寧に観察しながら話す。

 

「ですが薬効は個体差が大きい。先生の魔力波長に合わせて調整する必要があります」

「……だから俺を連れてきたのか」

「はい。実地で魔力の反応を測定します。先生が近くにいるだけで、花の魔力がどう共鳴するか分かりますから」

 

 じっとレクスディアを見ながら彼女は無表情で、作り上げた理由を述べた。

 

「患者本人がいないと、正確な処方は組めません」

「……なるほど」

 

 めっちゃくちゃちゃんとした理由ではある――だがこれが一緒に出かけるために作った方便とは、誰も思うまい。レクスディアは気付いてこそはいるが、改めて指摘するのも野暮な上に、彼女の理由もちゃんとしてるから何も言えなかった。

 

(別に普通に誘っていいんだがな……)

 

 とは言えレクスディアからしたら、理由なんてわざわざ必要ないんだがという話だ。

 

 閑話休題――。

 

  やがて二人は、陽光花が群生している一角へと辿り着いた。小さな白金色の花弁が一面に広がり、陽光を反射して淡く輝いている。風が吹くたびに、きらきらと波打つようだった。

 

「ここです」

 

 ロラーナは静かにしゃがみ込み、手袋をはめる。

 

「先生、軽くで構いません。魔力を放出してください」

「どのくらいだ」

「1割行くかいかないか程度でかまいません。循環を意識して、外に滲ませる感じで」

 

 言われた通り、レクスディアは深く息を吸い、体内の魔力をゆるやかに巡らせる。皮膚の表面から、淡い気配が滲み出た。

 

 

 すると陽光花の花弁が、ふわりと揺れた。

 まるで呼応するように光がわずかに強まる。

 ロラーナは即座に小さな魔法陣を展開する。幾何学模様が淡く空中に浮かび、花々とレクスディアの魔力波形を同時に観測していた。

 

「……やはり、基礎波長が微妙に歪んでいますね」

 

 独り言のように呟きながら黙々と観察する彼女は、そのまま花弁を一つ摘み、魔法陣に近づける。すると反応の色合いが変わった。

 

「共鳴率は72パーセント。補正を入れれば85までは持っていけそうですね……これなら――」

「よく一眼見ただけでわかるな、俺はわからなかったぞ」

「慣れですよ」

 

 淡々と返しながらも、ロラーナの動きは丁寧だった。一本ずつ状態を見極め、良質なものだけを選んでいく。

 

 その姿を見ていたレクスディアはふっと表情を緩めた。

 本当彼女はよく成長している。5年という期間は長いようで短い。そんな短期間で力だけじゃなく、学力もずば抜けている彼女は、その内アルナと並ぶ存在になると見ていた。

 

「……お前には色々助けられてる」

 

 ロラーナの手がぴたりと止まった。

 

「黒竜の猛毒の負担が軽くなってきたのもお前とアルナのおかげだ。あのままだったら今頃どうなってたか分からん。おかげで……俺はお前たちという未来の希望を残せた」

「……先生」

「俺はもう充分すぎるぐらい、お前たちからもらっている。だから――」

 

 気合いで猛毒による発作を抑えてはいたものの、レクスディアは自分は10年ももたない事を察していた。だから教え子を作り、全てを託そうとした。自分がいなくてもいいようにと色々準備してきた甲斐があったものだと、レクスディアは誇らしく思っていた。

 

 だからこそ思う――ロラーナには自分のことを優先して欲しいと。

 

「だから……お前も俺のためにじゃなく、自分のために時間を使って欲しい。お前たちの方が価値ある存在なんだから」

「……」

 

 風が吹き、花々が揺れる中でロラーナはゆっくりと立ち上がり、レクスディアを見上げた。そんな彼女の瞳は心なしか不安で揺れていた。

 

「……先生」

「ん?」

「まだまだ通過点に過ぎないんですよ……この薬は」

 

 静かな声だが、確かな強さが宿った声だった。

 

「まだ進行を止めただけです。毒は体内に残っている。肉体の損傷も完全には修復できていない」

「私は納得していません」

 

 レクスディアでさえ割り込む事は許さない――そんな意思さえ、こもっているようにすら聞こえる。

 

「止めた程度で満足するつもりはありません。完全に解毒し、後遺症もなくし、全盛期の先生を取り戻す。それが目標です」

「ロラーナ……」

「私が好きでやってる事です、だから勘違いなさらぬように」

 

 言葉が落ちたあと、二人の間に微妙な沈黙が流れた。

 風が草を撫でる音だけが、やけに大きく聞こえる。

 ロラーナはそれ以上何も言わず、踵を返した。

 

「次は蒼根草です」

「ああ……」

 

 淡々とした声音に戻っているが、彼女は微かに頬を赤らめていた。

 

 そして2人は目的地に着く。

 

 そこはやや湿り気を帯びた地帯だった。本来なら青みがかった細長い葉が密集しているはずの場所だった。

 

 だが不幸な事に、何者かに荒らされていた。

 

「……ゴブリンがやってきたようだな」

 

 地面は掘り返され、根が無造作に引き抜かれ、踏み荒らされている。蒼根草はほとんど残っていなかった。

 レクスディアはしゃがみ込み、無事な株を確認するがざっと見ても少ないのは明らかだ。

 

「これじゃあ、少ないサンプルしか取れないな」

 

 仕方ない話だ、こんな事態はよくある事。

 レクスディアからしたら大したことじゃないが、ロラーナからしたらそれは違う。現にロラーナの目からすっと光が消えていた。

 

「…………はぁ」

 

 感情が消え落ちたような、凪いだ銀色の瞳で地面を観察した後、彼女は荒らされた地面に手をかざす。

 

「……真実を浮かび上がらせよ……」

 

 低い詠唱と共に地面に淡い魔法陣が広がり、掘り返された痕跡から微細な魔力の残滓が浮かび上がる。追跡用の魔法だとレクスディアはすぐにわかった。

 

「トラッキングか?」

「はい」

 

 すると浮かび上がった残滓が一本の線となり、森の奥へと伸びていく。下手人がちゃんと痕跡を残していた事に感謝しつつ、彼女は線を辿っていく。

 

「追いかけるのか?」

「はい」

 

 迷いはなかった。

 ロラーナは立ち上がり、その線を辿って歩き出す。歩幅は速く、足取りは静かだ。

 

 やがて辿り着いたのは、小さな丘の陰にある洞穴だ。

 鼻をつく臭気に、粗雑に積まれた木片と骨が目立つ。

 ゴブリンの巣だ、こんな近くにあったからあんな荒らされたのだろう。

 

「おい……ロラーナ」

「すぐ終わるのでお待ちを」

 

 すると彼女は弓を取り出し、氷柱(つらら)の鏃を持つ矢を作り出すと巣穴に狙いを定めた。

 

「全員出て来てもらいますか」

 

 そう言った瞬間……矢は放たれた。

 ズドン、と鈍い衝撃音が洞穴の奥から響くと、甲高い悲鳴が奥から聞こえてきた。

 

「ギャアアア!?」

「ギギッ!?」

 

 するとパニックになったゴブリンたちが、我先にと洞穴から飛び出してくる。十数匹はいるようだ。ゴブリンの巣にしては規模は大したものじゃなかったが、それでロラーナの怒りは収まらない。

 

「本当……イライラします」

 

 ロラーナは腰に差していた二振りの短い湾刀を抜いた。

 シャリン、と澄んだ金属音と共に彼女の足元から冷気が広がる。周囲の草が白く凍りつき、空気が張り詰めると刀を構えて言った。

 

「塵芥ごときが私の探求を妨害するなど、あってはならないんですよ」

 

 冷たい殺気によってゴブリンたちが怯んだ一瞬――

 

「故に死滅してください、細胞の一片残らず」

 

 ロラーナの姿が掻き消え――最前列のゴブリンの首が宙を舞っていた。

 

「「!!?」」

 

 仲間がいきなり死んだ事に戸惑うゴブリンは、ただ黒い血飛沫をあげる味方を見ていた。ただその血飛沫すらも瞬時に凍りつくと、弾けて礫となって降り注ぐ。

 

「ギギ……!」

「遅すぎます」

 

 怯んだうちに二匹目の喉を斬り裂き、三匹目の胴を横薙ぎに断つ。湾刀が描く軌跡に冷気がまとわりつき、触れた箇所から肉が凍結し砕ける。

 

 ロラーナの得意とする二刀流、さらに氷の魔法を組み合わせることで、複数の敵を一斉に屠ることに成功している。

 

 「ギィィッ!」

 

 逃げようとした個体の足元が凍り、転倒する。

 ロラーナは一切の躊躇なく心臓を貫いた。

 そこに一切の感情も、ましてや意味すら存在しない。

 彼女は基本的に敵に対して思うことは何もない。

 

(ますます腕を上げたな)

 

 温度のない殺戮を前にして、レクスディアは感心していた。戦いの場において彼女みたいな存在は非常に強力だ。研究者というスタンスだが、この根底には敵に対して何も倫理観など抱いていないからこそ、何でも出来てしまう。

 

 その何でも出来てしまう事こそ、彼女の強みだとレクスディアは気づいていた。とは言え危うさも大きい。

 

(荒らされただけでこの始末……本当、末恐ろしい)

 

 そのまま一通りゴブリンを駆除し終えたロラーナは、蒼根草の残りを探したが、2本ぐらいしか無事なものはなかった。あとはもう使えなくなっており、収穫としては非常に残念な内容になった。

 

「――はぁ、残念です」

「でもまだ残りはあるんだろう?」

「ええ……まぁ、ただ荒らされた箇所以外で収穫するとなると、ちょっとここから遠いんですよね。まいりました」

 

 今後の薬の製造にも影響する。

 しばらくは遠くを利用するしかないと落ち込む中で、レクスディアはロラーナの頭に手を置いて行った。

 

「いいんだよ、そこまでしなくて」

「……先生」

「しかしあそこまでお前がゴブリンなんかに憤るとはな、珍しいものを見たよ」

 

 そう言って頭から手を離し、先行する彼を見ながらロラーナは昔を思い出していた。

 

 ◇◆◇

 

 ――それは1年目の時だ。

 

 騎士団の訓練場で、いつものようにレクスディアが直々に鍛錬をつけていた日のことだった。

 

「足が止まっている! 実戦ではその一瞬が命取りだ!」

 

 鋭い叱咤と木剣が打ち合わされる音が響き、砂埃が舞う。

 いつもの時間が流れていたそのときだった。

 

「……っ」

「先生?」

「おししょー……?」

 

 ふっと、レクスディアの動きが止まった。

 皆が困惑しているとレクスディアはわずかに顔をしかめた次の瞬間、膝が崩れ落ちた。

 

「マスター!!!」

「師匠!!!」

 

 最初に気づいたのはキアラだった。

 木剣が地面に落ちる音が、やけに大きく響いた。

 レクスディアは片膝をついたまま、肩で荒く息をしていた。額に滲む汗。血の気が引いた顔色、そして口からは血が流れ出ていた。

 

「……く、っ」

 

 立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

 ロラーナの心臓が凍りついた。

 

「アルナさんとプリメラさんも呼んで!」

「ロラー」

「早く!」

 

 仲間が慌てて走り出す。

 ロラーナは駆け寄り、レクスディアの肩を支えた。

 

「先生……! 大丈夫ですか、先生!」

 

 銀の瞳が揺れる。

 こんな姿、見たことがなかった。

 いつだって背中は大きくて、揺るがなくて、絶対的な彼がこんな弱々しくなるなんて――

 

「大丈夫……だ、たまにある発作みたいなもんだ」

「何言っているんですか!」

「……大袈裟だ、ロラーナ」

 

 レクスディアは焦点の定まらない目で、かすかに笑う。

 

「……時間が、もったいない」

「何を言ってるんですか!」

「ちょっと休んだら……すぐ再開するから」

 

 意識が朦朧としているのが、誰の目にも明らかだった。

 それでも立とうとする彼が見ていられなくなったロラーナは、必死に言いつける。

 

「無理です!」

「こんな状態で鍛錬なんて出来るわけないでしょう!」

「……俺には、時間がない」

 

 その言葉が胸に突き刺さり、ロラーナは固まった。

 いや彼女だけじゃない、その場にいてレクスディアに寄りそう教え子全員が同じような気持ちになっていた。

 

「だから……出来る限り、一緒にいてやらなきゃいけない」

「……っ」

「お前たちに、何か出来るうちに……俺がいなくても大丈夫なように、してやらなきゃいけないんだ」

 

 献身――というよりもはや自己犠牲に等しかった。

 自分の命に見切りをつけた在り方をまざまざと見せつけられたロラーナは、ぐっと歯噛みしながら言った。

 

「私は……嫌です」

「ロラーナ……?」

「……認めません」

 

 きっとこの人はあっさり死んでしまう。

 誰よりも強いけど、誰よりも死に近いんだ。

 そう理解してからロラーナは早かった。

 

「私が……私たちが何とかしますから……!」

 

 この人と長く居られるように強くなろうと。

 

◇◆◇

 

「――当たり前じゃないですか……先生」

 

 ロラーナは一歩レクスディアとの距離を詰めるとそっとその手を取る。戦場で氷を振るい、感情を削ぎ落として敵を屠るときの彼女とはまるで別人だった。指先は驚くほどやわらかく、包み込むように温かい。

 

「ロラーナ……?」

 

 怪訝そうに名を呼ばれ、彼女はゆっくりと顔を上げた。

 そこにあったのは、いつもの冷ややかな研究者の眼差しではない。慈愛に満ちた、まるで聖母のような微笑みだった。

 

「私の研究は……先生のためだけのものではありません」

 

 穏やかな声が静かな風に溶けていく。

 

「私たちが、いつか貴方に並んだその瞬間を――生きている貴方に、見せるためのものなんです」

「……!」

 

 レクスディアは彼女から目が離せなかった。

 

「追いついて、隣に立って、背中を追うのではなく……同じ景色を見る」

 

 それがどれほど困難な道か、誰よりもロラーナ自身が理解している。才能も努力も、時間も覚悟も、何もかもを積み上げなければ届かない。

 

 それでも――あんな姿を見たら諦められる訳ない。

 

「その瞬間を、貴方に見届けてもらう。それが私の目標です」

 

 彼女の手にわずかに力がこもる。

 

「そして……これからも一緒に過ごすこと」

「……」

「私たちに傷を残して死ぬような真似はさせません、だって責任取れないじゃないですか」

 

 今はまだ難しいことばかりだ。

 黒竜の猛毒は体内に残り、魔力脈の損傷も完全ではない。進行は抑えている。だが“治った”わけではない。些細なきっかけでぶり返すことだってあり得るのだ。

 

「必ず治します」

 

 澄んだ瞳が、真っ直ぐにレクスディアを射抜く。

 

「貴方の体を蝕むあの猛毒を、完全に解毒します。後遺症も残さず、全盛期の貴方を取り戻す」

 

 研究者として、弟子としての誓い。

 そして――剣聖に惹かれた者としての願いを口にする。

 

「だから先生も、ちゃんと生きようとしてくださいね」

「…………!」

「時間がないなんて、勝手に決めないでください」

 

 ほんの少しだけ頬を膨らませる。

 

「貴方がいない未来など、私は設計していません」

 

 レクスディアはしばらく黙っていた。

 握られた手の温もりが、じわりと胸の奥に染みていく。

 

「……わかった、最善を尽くす」

「んー……ひとまずOKという事にしましょう」

 

 ロラーナはその手を離さない。

 もう二度と、あの日のように膝をつく背中をただ見ているだけの自分には戻らない。

 

 救われる側ではなく救う側になる。

 並び立つ未来を現実にするために、彼女は剣聖と並ぶ事を決意する。

 

「これからも末永く、よろしくお願いしますね――先生」

 

 全ては最高のハッピーエンドのために――と。

 

 ◇◆◇

 

 その日の夜――焚き火の火がぱちりと弾け、闇に溶ける火の粉が揺れた。

 

 森の外縁に陣取っていたとある冒険者パーティは、緊張した面持ちで顔を突き合わせていた。昼間の探索中に目撃した“異様な光景”が、頭から離れないのだ。

 

「……見間違い、じゃねえよな?」

 

 斥候役の青年が低く呟く。彼は索敵に長け、これまで数多の魔物の群れを見てきた。その内で断言する――あれは自然な動きではないと。

 

「ええ。あれは明らかに統制されていました」

 

 弓使いの女が即座に否定する。

 

 通常、魔物は本能のままに動く。強い個体が縄張りを持ち、弱い個体が従うことはあっても、あそこまで整然と隊列を組み、退路を確保しながら巡回するなどあり得ない。

 

「まるで……訓練された兵みたいだった」

「魔物の後方に、人影もあった」

 

 小柄な魔術師とドワーフの重戦士も異常事態を認識していた。

 

「フードを被った連中が、距離を取りながら様子を見ていました。数は……少なくとも4人」

 

 明らかに冒険者でも旅人でもなかった。装備は統一され、顔を隠していた。何より魔物に襲われる素振りがなかったのが決定打になった。

 

「……操っているにしてもどうやって……」

「原理はわかりません」

 

 沈黙が落ちる。

 もし魔物を意図的に統制している者がいるのだとすれば、それは単なる異変では済まない。街道や村が襲撃されれば被害は甚大だ。

 

「放っておけないわね」

「だな。だけど俺たちだけでどうこう出来る話じゃなくなる可能性もある」

 

 斥候が焚き火を踏み消す。

 

「騎士団に報告するべきだ」

「ええ、早急にね」

「証言だけでも十分に異常事態です。対応が遅れれば取り返しがつかない」

 

 決断は早かった。

 夜明けと同時に街へ戻って報告しようと。

 

「……嫌な予感がするな」

 

 ただ拭いきれない不安感がずっと彼らにのしかかっていた。

 

 




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