一寸先は闇のようだ(ただしオレだけに限る)   作:117

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001 告白したら落下した(物理)

 

 001話 告白したら落下した(物理)

 

 

 

「好きです、付き合って下さい!」

 

 そう言った瞬間、オレの足下にぽっかりと穴が空いた。

 暗く、黒い。オレを呑み込むには十分な大きさの穴だ。

 

「え?」

 

 オレが呆然と呟く。

 

「え?」

 

 長年思い続けて意を決して告白の言葉を告げた彼女、アオイの呆然とした声も聞こえる。

 

「「え!?」」

 

 あんまりにもあんまりな現状に、オレたちの声が重なり。しかしそれでも現実は変わらずにオレは下に落ちていく。

 昼の校舎裏、マンホールも存在しないその地面に吸い込まれたオレにかけられた言葉は。

 

「ユイトくーん!?」

 

 現状を理解できていない、アオイが叫ぶオレの名前だった。

 

 ◇

 

 ダンジョン。

 そう呼ばれる存在をご存じだろうか。

 

 最初にニュースになったのは、十何年か前に突如としてアメリカだかカナダだかで発見されたとか。

 それを皮切りに、世界中でぽこぽことマンボウの産卵のように存在し始めた『あの』ダンジョンである。

 

 内部には科学では説明できない、いわゆる『魔法』的な武器や防具、そしてモンスターなどの敵性生物が存在し一般人の立ち入りが禁止されているアレ。

 最近のニュースとか、自衛隊がどこかのダンジョンを攻略したとかの話を聞き流している方も多いと思う。頭に残らないよね、ああいうニュース。

 

 さて、そんなダンジョンには謎も多く、何故ダンジョンが産まれるのか、どこで産まれるのか。そして内部で見つかる品々や生き物はどうやって存在するのかという事は全く分かっていないらしい。

 前触れなく、昨日までの空き地がダンジョンの入り口になるとかは朝飯前。酷いと自宅のリビングにダンジョンに降りる階段ができたという話もある。

 

 まあもっとも。一番酷いのは告白した瞬間に、落とし穴型の入り口が足下に開いて芸人のように落ちたユイトに相違ないだろうが。

 

 ◇

 

「あいててててて・・・・・・」

 

 ユイトは強かに打ち付けた自分の腰を撫でる。

 3年前にやったバンジージャンプほどの浮遊感を味わったのだが、それにしてはその時と同じくらいダメージがない。

 

(死んでいてもおかしくないよな?)

 

 そう思いながらユイトは上を見上げる。そこにはユイトを呑み込んだであろう穴が天井にぽっかりと空いていた。

 どこまでも昏い黒に覆われたその穴は、地上の光を届けることなく。ただただそこにあるだけだった。

 

「まさに急転直下だな」

 

 物理的にも、心情的にも。

 自分で自分の言葉に頷きながら、ユイトは周囲を見渡した。

 見えるのは岩肌、ただし鈍く青く光る岩肌で、これだけでも科学ではなかなか再現できにくいだろう。

 

 ところどころが明るく、そうでない部分は暗く。適度な視界は確保しつつ、しかし遠くまでは見通せないようになっている。

 道が続いているのは、前と後ろ。どちらに進めばいいのか、ヒントはない。

 

「っ!」

 

 ゴクリと唾を飲み込むユイト。

 頭の中に巡るのはニュースで流れる一文。『ダンジョンは命の危険を伴いますので、絶対に入らないで下さい』というもの。実際、度胸試しだと言ってダンジョンに入り込んだお調子者をユイトは知っている。1年前にそれをやった4人組は、今に至るまでユイトはその姿を見たことはなかった。

 その仲間入りをするかも知れないという恐怖が、ゾクゾクと冷たくユイトの背筋をはしりはじめる。

 

「しかし、いくらなんでもあんまりだろ?」

 

 答えてくれる存在がいる訳もないのに、そう呟かざるを得ないユイト。

 だって彼はダンジョンに入ろうなんて微塵も思っていなかった。それなのに自分の足下にダンジョンの入り口が落とし穴のようにできるとか、そんな不運があるだろうか?

 格好だってダンジョンに挑むものではなく、自衛隊のように銃などの武器など持っているわけがない。

 ユイトが通う学校の制服に、昼ご飯である菓子パンが2つ入ったスクールバック。これがユイトが身につけているものの全てだ。

 

 前に進むか、後ろに進むか。

 指標がなく迷うユイトだが、その迷いは結局意味がなかった。

 

 カツカツカツと、前から足音が聞こえてきたからだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 極めてイヤな予感がしつつ、前を凝視すれば。青く照らされた暗闇の奥から緑の肌をした、体長1メートルほどの小鬼のような存在が歩いてきた。

 木を削って造りだしたような棍棒を持ち、ギザギザの歯を剥き出しにしながら現れたその存在はゴブリンと呼ばれるモンスター。

 数少ない魔法の力が宿らない銃でも倒すことができるモンスターであると、一般の間でも有名なモンスターだ。

 人間にとっては銃でも持たないと倒す事の出来ない存在であると言い換えてもいい。

 

「アギャ」

 

 そんなモンスターであるゴブリンは、目の前に立つユイトを見つけると、残忍に嬉しそうに笑う。

 ニタリとしたその笑みを見た瞬間、ユイトはくるりと後ろを向いて、全力で駆け出した。

 

「うぉぉぉぉぉ!! 告白の返事を聞くまで死んでたまるかぁぁぁ!!」

「アギャギャギャギャ!」

 

 目の前のゴブリンに襲われるのを待つ選択もなく、絶叫しながら逃げ出したユイトであった。

 

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