ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい   作:あまぐりムリーパー

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明上ユーリはさっさと死にたい

「《セイントアーツ》――"ヒール"」

 

 朝起きて、自分の頭にスキルを使う。

 

 ズキズキとした痛みが引いた。

 

 今日は、運命の日だ。深く息を吸い込んで、気合いを入れる。

 

 顔を洗う。スッキリした頭で考える。

 

「母さん、父さん、結愛」

 

 いなくなった家族を思い浮かべた。

 

「悠里」

 

 それから、唯一の友達を。

 

 行かなきゃ、全部終わるために。

 

◇◇◇

 

 瓦礫の山にみんな集まる。

 

 今日は出撃の日だ。……希沙と怜菜は気まずいのか、ちょっと離れてる。そんな気まずそうにされても君たちのせいなんだけどな。

 

 ……昨日は酷い失態で思い出したくもない。感情を抑えきれなくて当たり散らしたのに、なんか優しくされてしまったし。

 

 あのまま泊まろうとしてくるからそれは追い出したけど。

 

 あーあ、なんかもう最悪。なんだけど、今日でもう終わりだから許してあげないこともないよね。

 

「渚くん」

「えっと、何?」

 

 戸惑った渚くんが、困ったようにこちらを見た。

 

 どう接していいかわからないんだろうけどそういうの面倒だからちょっとなしにしてあげる。

 自然に手を繋いで、指を絡めた。もう、渚くんは慣れてしまったのか反応すらしてくれないけど。

 

 ……私がユーリをやるには、こういうのをしとかないと崩れちゃうからやってるだけなんだけどね。

 

「――もう、全部知ってるんでしょ?私のことを」

 

 くすり、と妖しげに微笑んでみると渚くんの表情がぴしりと固まる。

 

「……そうだね、名前以外は」

「名前?」

「ユーリじゃない、本当の名前のこと」

 

 そっか、それはまだ知らなかったんだ。あの二人からも聞かれなかったけど、私の態度のせいかな。

 

蒼空(そあ)だよ」

「えっ?」

「私の、本当の名前。明上(あけがみ)蒼空(そあ)っていうの。あんまり言わないでね」

 

 せっかくだから、今教えてあげる。君にならいいかな、知られても。

 

 私の名前みたいに、青い空が広がっているから、ちょうどいいような気がした。

 

「……教えてくれて、ありがとう」

「ううん。どうせ、そのうちわかることだからね」

 

 渚くんが手を握る力が強くなった。熱がはっきりと伝わってくる。

 

「なぁに、情熱的になって」

「……なんとなく、明上さんが消えてしまうような気がして」

 

 鋭いなあ、渚くんは。

 

 まあ、昨日の二人から私の様子を聞いたなら、そういうこともあるだろうけど。

 

「じゃあ、消えないように捕まえてみなよ。どうせ、私が死にたいんだとか思ってるんでしょ」

 

 なんとなく、焚き付けるようなことを言ってしまった。こっちの方がわかりやすいし、救えるもんなら救ってみろよと思わなくもないからね。

 

「わかった。助けるよ、明上さんのこと」

 

 その真剣な瞳に、思わず息を飲んだ。かっこよすぎかよ、主人公。

 

「……ところで、渚くんって昨日のこと聞いたりした?」

「……えーっと」

 

 スッと目を逸らされた。聞いてるじゃん、その反応は。

 

 なんかさ、私のことみんなで共有され過ぎじゃない?恥ずかしいんだけど。

 

「はあ、私のことばっかなんか知られてるのおかしいよね。えっち」

「なんで!?」

「心の中を暴いてくるのもえっちでしょ」

「そうかなあ!?」

 

 しかもさ、これ私を助けたいからそういう話してるんでしょ。責められなくてずるいよ、そういうの。

 

 ……ごめんね、その気持ちには応えられない。なんて、振ってしまう時の言葉みたいだけど。

 

 

 

 ――ブブブブ、と突然端末が震えだした。

 

 私たちは、育成機関から連絡用の端末を渡されている。

 

 それを手に取る。端末には、こう書かれていた。

 

『巨大な深禍反応を確認。大きさから確認して、第五深禍災害に該当する可能性がある。各位注意されたし』

 

 ――来た。

 

 ぞわり、と背筋に嫌な感覚が走った。

 

「《セイントアーツ》――"ランス"」

 

 握っている手を放して、光の槍を握る。それを思いっきり後ろに振り抜いた。

 

 ころころ、と持っていた端末が転がった。

 

 手に、衝撃が伝わる。カマキリの前肢の刃が槍とぶつかり合っていた。

 

「第五深禍災害って……明上さん!?」

「……渚くん、もう深禍来たみた、いっ!」

 

 なんとか、力を込めてカマキリの前肢を押し返した。

 

 背筋に伝わる嫌な感覚が止まらない。

 

 目の前には、蜘蛛の上にカマキリの上半身がくっついた深禍がいた。混合型の深禍だ。

 

「《セイントアーツ》――"ウォール"」

 

 下の蜘蛛が吐いた糸を光の壁で防ぐ。

 

「ユーリ!」

「そっちは大丈夫そうかしら」

 

 希沙と怜菜も、こちらの様子を確認しに来たけど、まだ気付いてないみたいだ。

 

「ごめん、みんな。後ろを任せてもいい?」

「後ろ……っ!?」

 

 渚くんの息を飲む音が聞こえた。

 

 そりゃそうだよね、後ろからわじゃわじゃ来てるんだろうからさ。

 何かの足音が遠くから聞こえてくる。それも、大量に。

 

 

 ――これはラスト・インヘリタンス一章の最後。

 

 第五深禍災害、混合型深禍と大量の深禍たちが押し寄せてくる戦いだ。

 

「明上さんをここに置いてはいけないよ」

「混合型深禍は私以外だと単体で相手にするのは、厳しいと思う……よっ!」

 

 光の壁が破られて、蜘蛛の糸とカマキリの刃が私を襲う。槍で防ぎながら、渚くんに答えるのも楽じゃないね。

 でも、こちとら序盤用に性能盛られてる系ヒロインだからね。なんとかしますよ。

 

 希沙と怜菜も、こちらに参戦しようとしてるけれど、後ろからやってくる大量のアリ型の深禍たちを見て躊躇っている。

 

 まあ、私が死にたがりでここで死んでしまわないかって心配なんだろうけどね。

 

「明上さん……死なないでね」

「明上ユーリ、また会いましょう」

「ユーリ、後からちゃんと戻ってくるから!」

 

 三人は、アリ型の方を倒す方にちゃんと選んでくれたみたいだ。

 

 よし、これで原作通り!

 

 事前に繋いだコネクトリンクが、私に力を与えてくれる。次々にやってくる攻撃をなんとか凌げている。私って、意外と強いからね。

 

「ぐっ……」

 

 持っていた槍が切断される。頬からツー、と血が垂れた。掠ったぐらいだからまだセーフ。

 

 混合型深禍は、通常の深禍に比べて数段強い。それは、複数の特徴を持つからではなく、シンプルにパワーが違う。

 普通なら、深禍に壊されない私の槍がすぐに切られてしまった。

 

 シュッ、と風を切る音がした。糸だ。

 

「《セイントアーツ》――"シールド"、がぁっ……!痛いっての」

 

 出現させた光の盾を貫通して、私の肩を糸が切り裂く。

 

「《セイントアーツ》――"ウィング"」

 

 痛いなあ、本当に。まともに打ち合うと結構厳しい。こいつに負けて終わるわけにはいかないしなあ。

 だから、一旦空に避難させてもらうよ。

 

 まあ、本来はこうやって飛ぶことはあんまりないんだけど。消耗が激しいんだよね、こういうスキルは。

 

「《セイントアーツ》――"ヒール"」

 

 向こうが片付いて、みんなと一緒に倒すとかになるとダメだからね。私だけで倒しちゃうよ。

 肩や頬の傷を治す。

 

「《セイントアーツ》――"ランス"、"アロー"、"ジャベリン"」

 

 こいつの遠距離攻撃手段は糸を吐いたりするぐらいしかない。

 だから、空から一気に畳み掛ける。

 

 光の矢と、槍を投げていくと深禍が少しずつ削られていく。

 

 それを、ずっと繰り返す。正面からの打ち合いは分が悪いからね。

 

 ……でも、ちょっと疲れた。結構削ったはずだからそろそろかな。

 本当は、ここでこんなにスキル連発する必要もないんだけどね。

 

「《セイントアーツ》――"ランス"」

 

 ――ぴしり、と体の内側で何かが割れるような感覚がした。

 

 ああ、そろそろか。

 

 深禍がしびれを切らして、大きく跳躍してくる。そうだね、そうするよね。

 槍を振るって、それを叩き落とそうとしたときに、ひび割れた何かが広がっていく。

 

 どくどく、と熱く鼓動が跳ねた。

 

 目の前に迫った深禍を、槍で叩きつけると――バラバラに崩れて消えていった。

 あんなに強かった混合型が、一撃で壊れていった。

 

「――あはっ」

 

 思わず、笑みが漏れる。不思議な高揚感がある。なんでもできてしまいそうな気持ちだ。

 

 ひび割れたところから、どろどろと何かが吹き出していく。そんなイメージが思い浮かんだ。

 

 遠くから、またわらわらと深禍たちが出現する。

 本来は、この数の暴力に対してスキルを使っていくうちに陥るはずの現象のはずだったんだけどね。

 

 スキルは無限に使用できるものではない。

 カースシーカーは、内側にある何かしらのエネルギーを使うための蛇口を捻るように、それらを出力していく。

 ただ、それを繰り返していくうちにいつしか、その蛇口には大きな負荷がかかる。

 

「あははははっ」

 

 ぞろぞろ、と目の前に現れてくる深禍たちを前にして、私の高笑いが響いた。

 手を振りかざすと、空に現れた大量の光の槍が降り注いで深禍たちを薙ぎ払っていく。

 

 私の体を何かが溢れて脈打っている。蛇口が壊れた。

 

 力が漲る。体中が熱い。

 

 スキルの過剰使用と、本体の負荷によって私の体が限界を迎えていく。

 

 呪いを追うもの(カースシーカー)は、やがて呪いに転じる。

 

 "アバドン"、カースシーカーの最終形態。いずれ、たどり着く結末の一つ。

 

 この状態に至ったカースシーカーは、圧倒的な力に耐えきれずにやがて自壊する。

 

「くふふふっ」

 

 笑いが抑えられない。力を振るう全能感に溺れていく。

 

 まだ、ぞろぞろと深禍たちが姿を現す。手に光を収束してそれをビームのように放つことでまとめて消滅させていく。

 

 アバドン化したカースシーカーは止められない。

 

 私は、渚くんとのコネクトリンクを切った。

 

 きっと、今の私は()()()()()()をしていることだろう。

 

 じくり、と胸が痛んで血が流れた。

 

「明上」

 

 かつての友人の声が聞こえたような気がした。

 


 

[アーカイブ]

 

 スキルの過剰使用によって、限界を超えた状態のカースシーカーのことをアバドンと呼びます。

 アバドン状態のカースシーカーは圧倒的な力を振るうことができますが、やがてその力に耐えきれず自壊します。

 

 アバドン状態のカースシーカーは体の特徴に一部変化が発生します。髪や目の色が変わるものから、腕が新しく生えてくるものなど様々です。

 

 名称についてですが、カースシーカーの力の根源は深禍と同じ場所と仮定して、それを仮に奈落のような場所ではないかという言説があったので、奈落の王の名を意味するアバドンをつけています。

 正式名称ではなく、混乱が発生するので一部の人間または当事者にしかこの情報を知らされていません。




ちょっと急かな?
いや、大丈夫か……

曇りそうな人

  • 篠崎渚
  • 明上ユーリ
  • 琴塚怜奈
  • 黒河希沙
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