ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい 作:あまぐりムリーパー
日差しが眩しい。潮騒だけが耳に届く。
僕たちは海に来ていた。この付近に深禍の出現が確認されたみたいで、数グループのチームだけ出撃して確認するみたいなんだけど、それ以外の間は遊んでいいらしい。
カースシーカーは丈夫だから水着でもいいけど、僕たちコネクターはそんなに変わらないんだけどな。
そもそも、海で戦うから泳げる格好の方がいいってことなんだろうか。……それでも、泳げるスーツみたいなのを用意してほしいけど。
今、チームのみんなは着替え中で僕だけが早く済んだので浜辺で待っている。
女の子の方が着替えが長いのはわかるんだけど、どれぐらいかかるんだろうか。
「長いよね、女の子の着替えって」
「うん、そうだね…………って誰?」
不意に聞こえてきた声に思わず返してしまった。聞き覚えのない声だ、たまたまここに来た人かな。
遠慮がちに、こちらを覗き込んでいる少女がいた。首にあるチョーカーが特徴的だろうか。
ラッシュガードを着こんでいて、深々と帽子を被っている。
……あんまり泳ぐ気無さそうな人だ。
「ん?ボクは通りすがりのカースシーカー、的な?」
「……そうなんだ」
変わった人だと思ったけど、カースシーカーなのか。
そもそも危険地域だからカースシーカーでもなければ入れないとは思うけど。どこかのチームの人なのかな。
「……ごめんね、なんか急に話しちゃって」
「いや、大丈夫だよ」
「そ、そう?よかった……ってそろそろ戻るね」
慌てたように、行ってしまった。
終始、僕との距離を測りかねているような雰囲気だったけど、なにか用でもあったんだろうか。もしかして、チームのメンバーに用とか?
後で聞いてみようかな。
それにしても遅いな。何かあったのかもしれないし、少し様子を見てみようかな。
ざくざく、と砂を踏む音が響く。
「あら、篠崎渚」
「琴塚さん」
ちょうど、更衣室から琴塚さんが姿を現した。
琴塚さんは青いビキニタイプの水着みたいだ。
スラッと伸びた手足がよく映える。いつもは見えないお腹が陽を受けていて眩しい。
元からスタイルがいいせいで、水着にしているだけなのに、いつもに比べて大人らしい雰囲気に見える。
……ちょっと、目のやり場に困る。
「何かしら?」
「……いや、なんでも」
小さく息を吐いた後、一歩琴塚さんはこちらに踏み出した。
「なんで目を逸らしているのかしら」
「いや、その……琴塚さんは男からあんまり見られたくないかなと」
そして、そのまま僕の手首を掴む。
「ええと……琴塚さん?」
「確かに、私は下心のある男が苦手よ」
「……そうだね?」
「でも、こうやって私のことを見られないのもそれはそれで癪だわ」
そして、そのまま僕の手を壁に押し付ける。自然と、僕の顔が琴塚さんの正面を向いた。
手首に込められた力が強くて、少し痛い。
視界に琴塚さんの姿が入る。
あまりじろじろ見られるのも得意じゃないだろうから、一応視線を逸らしていただけなのに。
……直視もしづらいけど。
「えっと、その……綺麗だよ」
「よろしい」
頷いてから、僕の手を解放した。
……これも壁ドンってやつなのかな。
理解できない状況のせいで、逆に冷静になってしまった。
今さらになって、琴塚さんの姿を無理矢理見せつけられたのが、なんか恥ずかしくなってくる。
「何やってんのお前ら」
いつの間にか、更衣室から出てきた蒼空さんがこちらをジト目で見ている。
蒼空さんは、ラッシュガードでぴっしりと前を閉めていて、どういう水着を着ているのかはわからない。
……さっきの見られてた?
なんというか、琴塚さんに襲われているような状況だったけど。
どう説明しよう。琴塚さんに目配せすると、蒼空さんの方を向いて頷いた。
「よいしょ」
「……何やってんだ!?」
そして、急に蒼空さんのラッシュガードのジッパーを下ろした。
「せっかくだから見せなさいよ」
そのまま、抵抗する蒼空さんから強引にラッシュガードを脱がせている。
白っぽいフリルのついたワンピース水着がその下から見えた。
「恥ずかしがって隠さなくてもいいでしょう?」
「うっさい!あんまり見られたくないの!」
「篠崎渚に?」
「……そういうのじゃなくて!」
「その間は何かしら」
「もうなんでもいいでしょ、返して!」
……すごい、強引な誤魔化し方をしてる。蒼空さんはあまり見られたくないのか、手で自分の水着を隠しながら、琴塚さんを追い回して、なんとか取り返したラッシュガードを再び着用した。
「あれ、篠崎くんもこっち来てたの?」
「……なんか、明上の息が上がってない?」
椎柴さんと希沙さんも着替え終わったみたいで、二人とも同時に出てきた。
二人とも、ラッシュガードを羽織った状態で、似通った明るい色合いの水着を着ている。センスが同じなのかな。
「篠崎くん、どう?」
ラッシュガードを脱いでから、くるりと希沙さんは回った。
「似合ってるよ」
「むう、かわいいとかそっち系が欲しかったよね、帆花」
「……なんで私?」
頬を膨らませる希沙さんに、困ったように椎柴さんは眉を下げた。
「帆花も似合ってるか褒めてもらったら?」
「はあ、そういうのいいから」
「えー」
椎柴さんとは、成り行きでチームに入ってもらったけど、もう希沙さんとは仲がいいのかな。
「じゃあ、みんな泳ごう!」
「いきなり走らないでもらえるかしら、転ぶわよ」
「明上、ずっとそれ着てたら泳げないわよ?」
「……いいよ、別に泳がなくても」
みんなの後を追って、砂浜の方に戻った。
「蒼空ちゃーん、行くよ!」
「ちょ……引っ張るな!」
蒼空さんは希沙さんに連れられて、海の方へと引っ張られていく。
琴塚さんはというと、パラソルの下で休んでいた。
まあ、僕も隣のパラソルで休んでるんだけど。
「隣、失礼するわ」
「椎柴さんは、海で遊ばないの?」
「そういう気分じゃないし……成り行きでチームに入ったから、ちょっとやりづらいのよね」
「……それ、僕にぶっちゃけてもいいの?」
「まあ、別に」
とだけ言ってから、椎柴さんは黙り込む。ぼけーっと、海の方を眺めていた。
……正直、僕も椎柴さんとの付き合い方がよくわからない。蒼空さんの昔の知り合いで、この前は助けてくれたけど、それ以外ではあんまり繋がりがあるわけではないし。
「あんたって、結局明上とどうなの?」
「どうって……まあ蒼空さんが不安定そうだから助けてあげたいなとは思うけど」
「名前呼びになるぐらいには仲良さそうでよかったわ」
ふっ、と頬を緩めて軽く笑ったと思えば立ち上がる。
「まっ、あの女は面倒そうだから頑張んなさい」
「何を?」
「さあ?」
……蒼空さんのことを頼む、みたいなことだったのかな。
時間があるんだし、椎柴さんとも少しは仲良くはなりたいけど、単純じゃなさそうだ。
◇◇◇
「篠崎渚、生で見るとああいう感じなんだねー」
帽子を深々と被った、チョーカーの少女が一人呟く。砂浜に歩いている蟹に語りかけるように。
「この前、明上蒼空っぽいのが水着買ってたけど、ついてきて正解だったっぽいよ」
ラッシュガードを羽織った、その袖の先から包帯がちらりと見える。
「……緊張するけど、話してみようかなあ」
指先で砂浜をいじりながら、顔を上げると顔だけやけに大きな魚がそこにいた。
輪郭がぶれている、深禍だ。
「《セイントアーツ》――"アロー"」
少女の周囲に形成された光の矢が、魚に突き刺さって、その身を砕いた。
「仲良くなってくれるかなあ、どうせなら明上さんを捕まえたりしてみたいけど」
再び、指先で砂浜をいじり出す。
じゃりじゃり、と水気の混じった砂の音が響いた。
TIPS:琴塚怜菜は男からじろじろ見られるのは嫌ですが、プライドがあるのでまったく気にされないのもそれはそれで腹が立つめんどくさい性格をしています