ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい   作:あまぐりムリーパー

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TS娘、海で遊ぶ

 希沙に連れられて、無理やり海に足を入れさせられる。ひんやりした感覚が足から徐々に広がっていった。

 

 海に入るからラッシュガードは脱いだ。水着を晒してるけど、なんかもうどうでもよくなってきた。ばしゃ、と跳ねた海水が口の中に入る。しょっぱい。

 

 希沙が海水をかけてきたみたい。

 

「希沙、急にかけないで」

「蒼空ちゃんがぼんやりしてるから」

「……なんか、海ってあんまり入ったことないなって」

「私も」

 

 私たちって、中学時代があれだからあんまりこういうの行ったことないんだなあ。

 もしかして、ランへリの季節限定イベントってそういう思い出を作れる機会なのかもね。

 

 いやまあ、前世では行ってるけどさ。

 

 ……そういえばさっき、怜菜が渚くんに体見せつけてたけどなんだったんだ。無視されるのが嫌だったとかそういう系?

 

 でも、大胆すぎるよね。うーん。なんか、モヤモヤする。

 

「蒼空ちゃん、何考えてるの?」

「ちょっと、水かけすぎ!しょっぱいから!」

「ボーッとしてるんだもん」

 

 ダメだ、ここにいると考えてるだけで希沙からの攻撃が来る。大人しく泳いどこ。

 

 少し、先まで進んで海水に身を浸した。ぷかー、と体を浮かせる。

 

「明上蒼空、あまり遠くまで行かないようにね」

「明上ー、溺れるんじゃないわよ」

 

 いつの間にか、パラソルで休んでた帆花と怜菜も来たらしい。渚くんはちょっと遠くでこっちを見てる。

 

 そういえば、今日のコネクトリンクはまだだったから後でやらないと。

 

 そう思ったところで、何かが横を過った。

 

「《マジックワード》――"アイス"」

 

 刃のように尖った氷が、再び横を通っていく。よく見ると、魚の形をした深禍が後ろにいくつか出現していて、それを怜菜が攻撃していたみたいだった。

 

 深禍って、基本結構巨大なサイズだけどこの魚型は普通の魚と変わらないみたいだ。

 

「《斬撃領域(スラッシュテリトリー)》――切り替え、セミオート」

 

 今度は、帆花の斬撃が通っていく。

 

 私はスキルをあんまり使えないし、希沙はあんまり遠距離は得意じゃない。二人に任せちゃおうかな。

 

「私たちでやっておくから、あなたたちは遊んでていいわ」

 

 って言われたけど、攻撃が通る中で遊ぶのはちょっと怖すぎない?

 スリリングすぎる。

 

 仕方ないので、浜辺に戻る。

 

「蒼空ちゃーん」

「ちょっと、希沙。くっつかないで」

「この前は抱きつかれてて安心って感じだったのに」

「うぐ……その話はいいから!」

 

 もう、なんか。こうやって度々いじられるんだけど。……自分の心の弱さが悩ましい。

 

 でも、本当にメンタルをなんとかしないとな。弱々しい時に本当に人に甘えてしまうから。

 ……そうなっても、みんな受け入れてくれそうなのがさらによくない。

 

 なんとなく、木陰に座る。こんな話をした後に渚くんに会うと変に意識しそうになるし。

 

「……はあ、なんかダメだな私」

 

 思わず、ポツリと声が漏れた。

 

「そうなの?」

「うん。……うん?」

 

 横を向いた。

 

 ――ぴったりとくっつきそうなぐらいの場所に顔がある。

 

 帽子を深々と被って、チョーカーをつけている女の子。その黄色い瞳がじっとこちらを見ている。

 

「やほ」

「いや、怖いよ」

「えっ、うう……怖かった、かな?」

「近いし」

「ひぃん、ごめん……」

 

 びっくりした。すごい近いところに人がいたから。どういう距離感なの。

 

 不器用に笑いながら話しかけてきたけど、挙動不審気味に離れていくし。

 

 ……こいつ、あれだよな。水着買ったときにいたやつ。帽子の隙間から見える、黒と灰の混じった髪も同じだし。

 さすがに、イヤーカフは外してるんだ。

 

 さっきまでいなかったはずなのに。用があるのか聞いてみるか。

 

「なんか用?」

「いやー、そのえっと……明上蒼空、でいい、よね?」

「うん」

「や、やっぱり!」

 

 急にキラキラと目を輝かせて、私の手をとった。

 ……私のこと知ってるの?

 

「ファンです!」

「なんで?」

「えっ、こう可愛くて好きだから?」

「そ、そう……」

 

 オドオドしてる割に押しが強いねー、本当に。

 ランヘリにこんなキャラいなかったはずなのに、明上蒼空のことを知ってる?……あんまりまともな人じゃなかったりするか?

 

 だって、元から存在を知ってるなら変わった髪の色とかに言及するはずだし。

 

「そ、そのね。ボクは西園(にしぞの)マヒロって言うの」

「うん。私の名前は知ってるから名乗らなくていいか」

「うん。で、その……よかったらボクと繋がってくれるかな」

「は?」

「――"コネクトリンク"」

 

 掴まれてる手から、急に力が流れ込んできた。

 私の中に渦巻いている暴力的な力の流れが逆に、目の前の女の子――西園マヒロに流れる。

 

 ぐらり、とマヒロが揺らいだ。

 

 逆に、私の視界も揺れる。コネクトリンクを深く繋がれている。

 

 直後、視界が暗転する。

 

 

 

 見えるのは、スマホに映っているゲームの画面。それを見て、黙々と操作している。

 

 それはどう見ても、ラスト・インヘリタンスの画面。

 

 場面が飛ぶ。

 

 次は学校に通っている。通してる服は制服だろうか。

 

 鏡の前に立つと、黄色い瞳に黒と灰の混じった髪の女の子がいた。毛先をいじりながら鬱陶しそうに、自分の姿を眺めている。

 

 

 

 

 これは、そういうことか。コネクトリンクでの、記憶の逆流。

 つまり、全部こいつの記憶。

 

 ……こいつも転生者なんかい。

 

 視界がもとに戻った。

 

 

 

 

 目の前にいるマヒロは、なぜか大粒の涙を目に溜めて、それがいくつか足元に落ちていく。

 

「うわぁぁん!頑張った、頑張ったね!」

「おわぁっ!?」

 

 急に、ぎゅっと抱きつかれた。私の胸元に顔を埋めて、わんわんと泣いている。

 

 ごめん、どういう状況?

 

 えーっと待ってね。

 

 まず、こいつは転生してきたやつで、ランヘリをプレイしていた記憶があった。

 

 そして、そのせいで明上蒼空を知っていたってことだと思うんだけど。

 

 待て待て、さっきはコネクトリンクで深く繋がっていた。

 これはつまり、私の記憶を見たってこと?

 

 っていうか、なんでコネクトリンクを?見た目はどう考えても女だし。

 過去の記憶から見ても、男ではないはずだし。

 もしかして、ifルートみたいにコネクトリンクが使えるカースシーカーってことだったりするかな。

 

 なんて考え込んでいると、不意に背中に衝撃が走った。青い空が見える。

 

 ……なんか押し倒されてる。

 

 マヒロが私の顔を覗き込んだ。髪の毛が頬をなぞる。くすぐったい。

 

 押し倒すような形で、マヒロが私を見ている。

 

「……痛いんだけど」

「ご、ごめんね……なんか衝動的につい」

「どいてくれる?」

「そ、それはやだ……明上さんをこうやって、捕まえてみたくて」

「…………はい?」

 

 聞き間違いかな。

 

「あんなにね、辛い目にあったならちゃんとずっと守ってあげないといけないよ、ね?だから、ボクがずっと守ってあげる。外に出なくてもいい。ずーっとボクが一緒にいるよ」

「うーん、それはちょっと」

「だ、ダメ?」

「ダメかなあ」

「……無理やりでも捕まえてていい?」

 

 ……ヤンデレなんだけど!?

 いや、もうちょっと段階を挟んでくれる?いきなり、バッドエンド直行みたいな勢いでそんなキャラを出してくるんじゃないよ。

 

 どうしたものか。

 

 私は、アバドンだから本気でグッて押せばたぶん吹っ飛ばせるんだけど。

 

 そこまでするのは、と思うものの目が本気なんだよね。どろっとしたものが目の奥に見えるというか。

 

 と考え込んでいると、覗き込んでいる顔に少しずつ困惑が広がっていく。

 

「……あれ、でも明上さんの記憶の中だと、ランヘリプレイしてた?」

「今更?」

「えっ、蒼空ちゃんも転生してる……?」

「まあ、はい」

「えぇ!?」

 

 あっ、これチャンス?

 原作の明上蒼空が好きなら、これで幻滅してくれるか。

 

「同士だ!ご、ごめん……こんなことして」

 

 ゆっくりと、私の上からマヒロが退いた。と思えば、手をゆっくりと引っ張られて強制的に起き上がらせられる。

 

 ――そして、なぜかそのまま抱きつかれた。

 

「一緒に頑張ろう、ね!」

 

 ……なんか、これでよかったのかな。

 

 よくわからないけど、懐かれたからいっか。

 

 遠くで獣の遠吠えが聞こえた気がした。

 それと、渚くんたちの声も。

 

 あれ、ここにいる間に向こうで何かあった?




また面倒そうな子が増えてしまった
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