ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい 作:あまぐりムリーパー
目の前には真っ二つになった深禍、そこにへたり込んでいる帆花。
あと疲れてるみんな。
なんとか、ボスを倒したよ!
たぶんこれね、水着イベントの時のボスだね。
じゃあ、そろそろここら辺で撤退なのかな。
私もスキルちょっと使ったぐらいで、あんまなにもしてないけどね。
ちくり、と首筋に何かが当たる。くすぐったい。
背中に柔らかい感触と共に私の前に腕が回された。
「うーん、今回活躍できなかったなー」
「ねえ、希沙。なんで抱きついてくるの」
「疲れちゃったから」
「そっか」
なんかね、希沙もすごい抱きついてくるようになった気がする。小動物捕まえました、みたいな感じでちょっともやもや。
まあ、安心はするけどね。
「あんたら、よくそんなベタベタできるわね。暑いでしょ」
疲れ切った様子の帆花が呆れたように呟く。
「熱々なのは帆花だったりする?篠崎くんにキスしようとしてたよね」
「ば……っ、は!?何言ってんの!?」
疲労が滲んでたはずの顔が、すぐに真っ赤になる。
……なんかすごいこと言ってなかった?
「だって、篠崎くんの顔をこう両手で掴んでたのだけ見たから。キスしようとしてるのかなーって」
「してないから。なんか目のやり場に困るとか言って、目を逸らされたから少し腹が立って、無理矢理こっちを向かせただけだけど」
「帆花、そんな怜菜みたいなことしてたの?」
「なんでそんな似たようなことすでにしてるのよ。……一応言っとくけど、別にあんたの篠崎渚を取るつもりはないから安心しなさい」
ふに、と頬をつつかれた。ついでに触るんじゃない。
なんか、体を見せつけたい人多くないですか。
いや、あれだね。帆花はモテてたタイプだから逆にプライドがあるのかも。そう考えると怜菜もプライドなのかな……?
というか、それよりも。
「みんな、すーぐ私のことを渚くんと結びつけるよね」
「うーん、蒼空ちゃんの様子からして仕方ないと思うけど」
「そうね、明上が悪いわそれは」
「明上蒼空、あなたの態度を見てるとそうなっても仕方ないわ」
「え、え?蒼空ちゃんってそうなの?」
なんか、マヒロと怜菜まで加わってきた。
ほぼ満場一致じゃん。すぐそこに渚くんいるのに。
あっ、渚くんは連絡してるな。偉いね。
……でも、正直この件一生言われすぎて面倒くさくなってきたな。
抗議の意味も込めて、希沙の抱きつきからは脱出しておく。
これ、ずっと言われるのかな。
じゃあいっそのこと。
「ねえ、渚くん」
連絡が終わったみたいなので、呼び掛けるとこちらに気付いたみたいで、私たちのところまでくる。
「どうしたの、蒼空さん」
「みんながね、私が渚くんのこと好きだって言ってくるんだけどね?」
「え、そ、そう……なんだ?」
「いっそのこと付き合う?」
「――」
一気に静まり返った。渚くんは言葉を飲み込めていないのか、そのままフリーズしてる。
なんか固まってて面白い。
他のみんなも、ぴしりと固まって動かないし。
「なんて、冗談だけど」
くすり、といたずらっぽく笑ってみると、ようやくフリーズも溶けたみたいで、渚くんは胸を撫で下ろしてる。
みんな、ビックリしすぎでしょ。
「その、蒼空さん。あんまりそういうことを気軽に言うのは」
「気軽じゃなければいいの?」
「いや、それは……どういうこと?」
「半分本気、ぐらいならいい?」
「いや、その……」
高校になってから積み上げてきた明上ユーリの残骸が沸き上がってくる。
だって、なんか私のことで一喜一憂してるのかなってぐらい反応してて、少しは興味がありそうだからさ。
ちょっといじりたくなって、ついつい余計なことを言ってしまう。たじたじになってしまう渚くんの様子がやっぱり面白いから。
口許が緩む。微笑が自然に浮かんだ。
なんか、私って結局こういうの好きかも。
「いつまでいちゃついてるの」
「あだっ」
怜菜のデコピンが飛んできた。痛い。
いちゃついてはないけど。付き合うか提案しただけでしょ。
っていうか、ちょっとめんどくさいからそういう風に装うのもありだよね。
あと、実際そうなったときにみんなどういう風に接してくるのかとか気になるじゃんね。
つんつん、と肩を叩かれた。
「ん、何?渚くん」
振り向くと渚くんの顔がある。真剣な瞳をしている。
「あんまりそういう風にからかわれると、僕もどうなるかわからないよ」
「……はぇ?」
口から、気の抜けた声が漏れた。
雰囲気に気圧されて、体が固まる。
そのまま、渚くんは離れていった。
「みんな、学校からの連絡だけど今日だけ泊まってそのまま帰っていいらしいよ」
私を放ってみんなに連絡してるけど、体が動かない。なんか、力が抜けちゃった。
「そこのカウンター食らったどっかのバカは放っておいて、一旦休みましょ。さすがに疲れたわ」
「そうだねー、ちょっと蹴られて痛かったし」
「はあ、私も疲れたわ。ただでさえ、獣の深禍を見るのもいい気はしないのに」
「あわ、あわわ……蒼空ちゃんと篠崎渚のカップリング……?」
なんか、好き勝手言われてる気がする。
……待て待て待て、どうなるかわからないとか言われてなかった?
えっ、うーん。本気になった渚くんか。これって、冗談で言われてるのかな。そうかもしれない。
ぐぬぬ。なんか偽装みたいな感じで付き合っちゃおうぜ!ぐらいのノリで言うつもりだったのに。
気付いてないうちに、鼓動が早くなっていた。不思議と顔も熱いような気がする。
まあいいか。
とりあえず、この海でのわちゃわちゃももうすぐ終わりだし。
休んじゃおう。
◇◇◇
「ええ、本当ですかっ!?」
学校のあるチーム部屋内で、小柄な少女が驚いたように声を上げた。
眼帯と頬や左手に包帯をいくつかつけられていて、右手に至ってはギプスで固定されている。
話し相手は、スマートフォン越しの誰かだ。
少女の名前は飯島夏音。
今まで目立ったことのあまりない、カースシーカーの一人。
「げっ、私のスキルって獣の深禍にそんなに有効なんですね?うーん、そりゃマヒロも気にしてしまいますねっ?」
育成機関内では、スキルを登録していてその検証がある程度されている。
その結果、ある程度深禍との相性を確認した結果が連絡でやってきた。
それに、ぼんやりと飯島夏音は悩んでいる。
飯島夏音は、結構適当な女の子だ。
なんとなく、カースシーカーになってまあ人を守れるならいいかなと漠然と思って活動してきた。
通話を切り、椅子に座って足をプラプラとする。
「私って実はすごかったんですかね?」
誰もいない部屋で一人呟く。
「でも、出撃でも海にいきたかったな……」
少女は意外と楽観的だった。
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飯島夏音は二章に登場するカースシーカーの一人です。敬語で、明るくちょっと適当な性格をしています。
髪色が同じで一応明るい性格なので、登場初期には明上蒼空と重ねられているシーンがありましたが、これは篠崎渚の精神の回復とともになくなりました。
スキル:サウンドウェーブ
音を発生させて、相手をかく乱したり味方を強化することができる。
帆花:別に付き合った経験とかはないので、変なことを言われて照れてる。恋愛感情とかはない。
蒼空:こいつらうざ!ほんまに付き合ったろか!!をしている。