ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい 作:あまぐりムリーパー
明上蒼空の発生させた光の槍が、周囲の獣の深禍たちに一斉に降り注ぐ。
深禍が気付く前に、その体をずたずたに裂かれて、倒れていく。
「ぐっ、きっついねこれ!」
苦しさを見せないように、食い縛って蒼空は不敵に笑う。
「無理しないでね、蒼空さん」
手を繋いでいる渚にも、汗が浮かんでいた。
コネクトリンクを通して、多大なる負荷がかかっている。
槍の雨が止んだ後、その場のチームたちが一斉に突入していく。
遠くに、ゆっくりと動く巨大な影が見える。
第四深禍災害、その中心である巨大な混合型深禍。
獣の頭部や足が歪についてる、巨大な何か。それを倒さないといけない。
「《インストール》――"サウンドウェーブ"」
西園マヒロが一歩踏み出した。いつもと違って、おどおどした様子はない。
「ちょっとだけ、"スリープビート"」
蒼空によって一掃されたはずの深禍たちが、再び瓦礫の中から出現する……が、体がぐらりと揺れて、倒れた。
「途中までなら、ボクがちょっと邪魔できる」
「やるね、まっひー!」
妨害されることもなく、全員が踏み込んでいく。
深禍たちが出現する度に、それを蒼空が殲滅する。
「あはっ」
「蒼空さん?」
「ごめん、力使ってると高揚感がすごくてね」
蒼空は息を整えて、目の前に手を翳した。
軽快に蒼空は笑うと、手のひらに収束した光を一気に放つ。まとまった深禍が、ぐずぐずに崩れて消えていく。
「"ナスティビート"」
その後ろから、マヒロが音を飛ばす。
蒼空の攻撃の隙間からやってくる深禍たちが、ぴたりと止まってその場に踞った。
通りすぎていくカースシーカーたちがそれを倒していく。
順調に進んでいると思われたが――巨大な影が、急に辺りを覆った。
「混合型だ!」
誰かの声がする。ごくり、と唾を飲み込む音がした。
中心にいる混合型じゃない。
新しく、三体ぐらいの獣が混ぜ合わさったような深禍が現れた。
「まっひー、いける?」
「……ごっ、ごめん。もうインストールが切れて」
「タイミングわっる、しょうがないわ。私がここで――」
「――ボクがやる」
マヒロが、ヘアゴムを外そうとした帆花の手を掴んだ。
「西園さん?」
ふらついた篠崎渚が、向けた視線に鋭くマヒロは返した。
見たこともない、強い眼光だった。
「《インストール》――"
◇◇◇
西園マヒロがどういう人間だったか。
一言で言うなら、可愛いものが好きなだけの男の子だった。
ぬいぐるみだとか、そういったものも好きだったし、なんなら可愛くなりたかった。
でも、マヒロの前世は男で、少し小柄でどちらかといえばかわいらしい方だったとしても、限界があった。
別に、心まで女な訳ではないけど、それでも可愛くなりたい気持ちだけは強かった。
それを押し殺して、なんとか日々を過ごしていた。
そんな気持ちも少しずつ薄れて、社会になんとか馴染んで行った頃に、運悪く病気で死んでしまった。
こちらの世界にきて、女の子になったのを知ったときのマヒロの喜び様と言えば言葉にするのも難しいぐらいだった。
たとえ、親に捨てられて孤児になっていたとしても、こっちの世界の方が生きやすいはずだから。
だから、自分の名前を前世と同じマヒロにして、可愛く生きていくことにした。
すくすくと成長して、鏡を見てこれから可愛くなれると決意したマヒロは、この世界はラスト・インヘリタンスの世界であることを知りながら、それよりも可愛さを優先した。
この黒と灰の混じったような髪も、黄色い瞳もあまり好きじゃなかった。
どうせなら、明上蒼空のようになりたかった。
それでも、少しずつ可愛くなれている気がした。
――それが変わったのが中学だった。
別に、明上蒼空のように前世が男だから距離感がおかしかったわけではない。
少しは近かったぐらいで、女の子としての距離感を保っていたつもりだった。
ただ、他の女の子との関わりがうまく行かなかった。根っこにはまだ男の自分がいて、少しだけ気恥ずかしくて関係を築くのを怠ってしまった。
普段、会話するぐらいはできる。でも、派閥だとかそういったものには馴染めていなかった。
男同士との関わりも同じぐらいに調整していたはず。
誤算だったのは、マヒロが周囲から予想よりも可愛く見られていたことだった。努力が結んだ結果が、悲劇を起こした。
誰にでも、そこそこ話してくれる可愛い女の子。そう思われてしまった。
女子たちから、次第に尻軽だと思われるようになって、こそこそとマヒロの悪評が出回ることになる。
たまたま、マヒロに見惚れていた男の子が、リーダー格の女子の想い人だったせいで。
「ねえ、君がマヒロちゃん?ちょっと来てよ」
そして、学校の不良連中に目をつけられて、半ば強引に校舎裏に連れていかれてしまった。
「なっ、なにするの!」
「誰にでも仲良くしてくれるんだったらさ、俺らとも仲良くしたい?」
下卑た笑みを浮かべて、マヒロを押さえつけた。
抵抗もできないまま、男たちが迫る。手が体に触れて、このままでは――
「《インス……トール》――"お前"」
男たちに襲われそうになる、その極大のストレスによって、マヒロはカースシーカーに目覚めた。
カースシーカーになったマヒロの方が、膂力は圧倒的に上。押さえつけた男をはね除けて、全員を叩きのめした。
翌日、停学になったマヒロは家に閉じこもる。
確かに、男たちを倒した。殴って蹴って、自分じゃないみたいに動いて。
それでも、恐怖は消えない。
男に押さえつけられた記憶、気味の悪い嘲笑。
その記憶が消えない。
指先を針でつついた。ぷっくりと出た血が、まるで体から命が出ているみたいで、その喪失感が心地よかった。
他にも、手首を――
そうして、マヒロは自傷を繰り返して心を保つ術を覚えてしまって、次第に少しずつ壊れていった。
「西園マヒロって言うんですね!?よろしくお願いしますっ!」
もう一つの転機、それは飯島夏音と出会ったことだ。
強引にずかずか心に入ってくる、よくわからない女の子。
そういえば、あのゲームにはこんな人もいたな、なんて思いながら流されていった。
一回、無理やりスキルで前向きにさせられて、それが気持ち悪くて吐いてしまったことはあるけど。
それでも、一緒に過ごしているうちに少しずつ救われていった。
それなのに。
「マヒロちゃん、危ないですっ!」
第五深禍災害、その半数ほどは明上蒼空によって倒された。
それでも、残った深禍たちはその場のカースシーカーたちで相手するのは骨が折れた。どころか、ギリギリで死人が出ても、おかしくはない。
そんな戦場だったから、マヒロは疲れきって、不意に出現した深禍に対応できなくて、そんなマヒロを庇って飯島夏音が大怪我を負ってしまった。
「わた、しは……無事っ、なのでっ!」
血をだらだらと流しながら、笑顔を見せる飯島夏音を見てマヒロの心はまた崩れていく。
ボクのせいで、ボクのせいで、ボクのせいで。油断しなかったらこうならなかったのに。
だから、せめて代わりになれるように。
マヒロは、償うことにした。多少無茶しても、この第四は自分で倒す。
マヒロのスキル、インストールは他のカースシーカーのスキルだとかコネクトリンクをコピーするだけの力じゃない。
その気になれば、対象の存在そのもの――その情報を取り込んで、自分の力にできる。
マヒロは、深禍の力をその身に宿すことにした。
西園マヒロは変則的キャラクターです。
インストールの対象次第でアタッカーにもサポーターにもなります。
インストールは一時的なもので、ずっとその能力を使用することはできません。
中途半端な対象の指定の仕方をすると、対面してるものをコピーします。
人間から大きく離れたものに使用すると、身体的に変化します。
あまりに大きな情報の場合、不可逆な変化が起こる場合があります。
二章の常夏サバイバル要素はもうないから先にもってくるべきなのに、語感微妙で後ろに回してしまったなと