ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい 作:あまぐりムリーパー
「まずい、混合型が複数いるぞ!」
「どうすんの、これ!?」
声が聞こえる。
「くっ、普通の獣の深禍もたくさんいるしどうなってんの?」
「さっきまですぐに倒されてたけど、なんか殲滅用のカースシーカーがいるって聞いたのに」
みんなの疲れた声が。
「し、死んじゃう!なんなの、あっちいってよ!」
悲鳴が。
だから、私は歌うのです。
「《サウンドウェーブ》――"ネガティブビート"」
低く、重苦しい音が響いていく。それらは、人間には流れてこない。獣の深禍だけが、動きを鈍らせていく。
「なんか思ったよりもすごいことになってないですか?」
本当は出撃してはいけないんだけど、せっかくなので飛び出してきたのでした。
みんなの溢れる声とか、わらわら湧いてくる敵とかが気になってしまって。
「みなさーん、はりきっていきましょう!」
今度は軽快な音楽が響いた。
「《サウンドウェーブ》――"ポジティブビート"」
流れてくる音に乗って、私は歌う。私の歌声に、傷ついてたみんなが少しずつ立ち上がって、気力を取り戻していく。
まるで、こうしてるとアイドルみたいだ、なんて言うとちょっと危機感がないですかね?
どうやら、作戦は途中までうまくいってたけど、今は大混乱の最中らしいので、飯島夏音ちゃんはみんなにプレゼントを上げます。
歌をみんなに届けて、マヒロちゃんのところに向かうために。
私にとって、世の中のことは全部楽しいかどうかだ。辛いことなんてわざわざ考えたくもないし。
みんな、私のことを楽観的だって言うけど、楽しいことを考えたほうがいいのに何を言ってるんだろうと思ってます。
そもそも、悲惨な過去とかはないしね。
当然、戦うことへの恐怖とかはある。死にたくはないもん。
死ぬことが身近にある世界だから、逆に楽しんでないと損だと思うから。
だから、無理やりにでもスキルを使って自分のメンタルが負の方向に行かないように調整してました。
まあそもそも、愛嬌だけで大体のことは乗りきってはいるんですけども。
なんなら、みんなのテンションも無理やり上げたほうがいいのかな、なんて思ってたりとか。暗すぎる人には、ですけどね。
それが違うんだなと思ったきっかけがマヒロちゃん。
あの子は、他の人に比べてかなり不安定なメンタルをしていた。他の子も大概だけどね。
ポジティブにさせよーって、スキルで精神を揺さぶってみると見事に崩壊してそれはもう荒れに荒れた。
やっちゃったなーって思ったけど、同時にこういう子にはちゃんと癒してあげないといけないんだなと実感した。
だから、落ち着く音だけ流して寝かせるぐらいにしてあげた。
それから、ちょっとずつマヒロちゃんのことが気になったのです。
よくアワアワしてて、すごいスキル持ってるのに自信無さげで、可愛くなりたくてすでに結構可愛いのに自信ないし、不思議な子。
私のせいで、変に病んでしまった子。
そんな必要はないんだぞってやっぱりちゃんと言いにいかないとわかってくれそうにない。
君も、もうちょっと自分のために生きてていいのにね。そう思うでしょ、マヒロちゃんの推しの蒼空ちゃん。
「ちょっと、あんた。なにその怪我」
「えへへ、前回ヘマしちゃいまして。でも、頑張るので大丈夫ですよっ!」
「いや、大丈夫じゃないでしょ」
「はい、うるさい。邪魔しないでくださいね。《サウンドウェーブ》――"シェイク"」
と、このように邪魔してくる人もいるのでちょっと揺らしちゃって進んじゃいます。
ちなみに、シェイクはちょっと三半規管に影響させて平衡感覚がおかしくなるスキル。そんなに長時間は続かないので問題なし、だよね多分。
うん、許して。
遠くの方に、巨大な影が二つ見えた。あれは私にはどうにかできないけど、そこに行くみんなを助けてはいける。
なんて、そんな真面目なキャラではやってないんですけどね。
結局、私が気持ちよく歌ってこの場をいい感じにできればOKだから。
にしても、蒼空ちゃんもマヒロちゃんも見つからない。……もしかして奥の方にいるのかな。
待っててね。マヒロちゃんはきっと、気に病んであれこれ考えていると思いますけど、そういう気持ち全部ぶっ壊していきますから。
だって、私は私のやりたいことをやるから。マヒロちゃんもそれでいいんだよって、伝えてあげることにしたのです。
「あっ」
「ん?」
気持ちよく歌っていると、深禍たちも動きを鈍らせていき、その隙をついてカースシーカーたちが倒していく。
それを繰り返してる時にこちらを覗く視線が一つ。
「まっひーの知り合いの人!」
「えーっと……」
赤い髪を後ろに括ってる子。確か、この前廊下で会ったような?
その隣には青い髪を長く伸ばした子もいる。こっちの子は知らない。
「私は黒河希沙で、こっちは琴塚怜菜だよ」
「こっち、って呼び方はやめてもらえるかしら?」
「あっ、私は飯島夏音ですっ!」
挨拶を返すと、確認するようにこちらを眺められた。警戒されちゃいましたかね。この前、蒼空ちゃんに頼みごとをする時にスキル使ったの見られてたかもしれないし。
まっ、いっそのことぶっちゃけてしまいましょう。
「私はマヒロちゃんのところに行きたいんですけど、どこかわかります?」
と、聞くと黒河さんは「あー」と言って目を逸らす。
一方の琴塚さんも、何か考え込むような素振りを見せてから、後ろの大きな、混合型を指差した。
「あれよ」
「えっ、はい。混合型ですよね?」
「いえ、あれが西園マヒロだけど」
「うん、はい、えっ?」
「だから、あれが西園マヒロよ」
「……ん?は?そう、なんですか?」
「ええ、そうよ」
理解を拒む話をされています、どういうことでしょうか。
えーっと、確かに中心には一体の混合型がいたはずです。
でも、向こうには二体?しかも、そのうちの一体は発生する混合型を踏み潰したりしているような。
……あれが、マヒロちゃんかあ、そっかあ。
インストールって存在ごとの情報を落とし込めるって聞いたことはあるんだけど、そういうこともできるの?
「……まあ、よくわかんないので一緒に行きましょう!」
こういうときに考えてはいけません。
「……あなた、結構めちゃくちゃだったりするかしら?」
「えへっ、そう言われることもあります」
「まあまあ、みんなで行くよ」
新生チーム的な感じで出動です。
「ところで夏音って、ボロボロだけど大丈夫?」
「いやあ、実は全身が痛くて」
「あなたよくそんな状態で来たわね」
「えへへ、止められたんですけど脅して無理矢理来ましたっ!」
ぺろ、と舌を出して誤魔化す。
呆れたように琴塚さんは目を伏せていて、黒河さんは乾いた笑みを浮かべてる。
「大丈夫、私は音を奏でるだけですしね」
口許が緩む。
こういう状況をぶっ飛ばすのが、一番楽しいから。
[アーカイブ更新]
飯島夏音は二章に登場するカースシーカーの一人です。敬語で、明るくちょっと適当な性格をしています。
髪色が同じで一応明るい性格なので、登場初期には明上蒼空と重ねられているシーンがありましたが、これは篠崎渚の精神の回復とともになくなりました。
好きなもの:楽しいこと
嫌いなもの:つらいこと
スキル:サウンドウェーブ
音を発生させて、相手をかく乱したり味方を強化することができる。
別に歌う必要はない。
ポジティブウェーブ:テンションを上げる。味方の能力をちょっと上げる。
ネガティブウェーブ:テンションを下げる。敵に行動デバフを与える。
スリープビート:一部の敵を眠らす。
シェイク:三半規管を狂わせて平衡感覚を一時的に失わせる。
など
ちなみに、「固有振動数って知ってますか?グラスが声で割れるやつですっ!人間でもできそうじゃないですかっ?」とか適当を言って抜け出してきている。