ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい 作:あまぐりムリーパー
蒼空さんと握った手が熱い。
アバドンとして力を振るってる分の負荷が僕にも流れてくる。重たい。
「大丈夫?渚くん」
蒼空さんの青い瞳が、心配そうに僕を覗き込んだ。
不思議と鼓動が跳ねた。こんなときだからだろうか。
「大丈夫だよ、蒼空さん」
ぎゅ、と握る手に力を込める。蒼空さんは恥ずかしそうに頬を赤らめて、「ならよかった」と頷いた。
ずっと握ってるけど、まだ慣れてないらしい。……つい、変なことを考えそうでちょっと、落ち着きたい。
「あんたら、いちゃついてる場合じゃないでしょ」
「……いちゃついてないしっ」
「あんたも、よくそんな女の子らしい反応できるようになったわね」
「これは渚くんが悪いよ」
「えっ、僕?」
「ほどほどにしときなさいよ」
はあ、と呆れたように椎柴さんがため息をついた。
ずっと、奈落帰りの力を使うタイミングを伺ってるみたいだ。
僕たちのチームでは椎柴さんが一番の火力だから、使うタイミングを考えてるんだと思う。
「――ッ!」
獣のような咆哮が響く。けたたましい音に、思わず足を止めた。
あれは、西園さんの方の巨大な混合型だ。巨大な足を動かして進めている。
まだ、僕とのコネクトリンクが繋がってる。
もしかして、繋がっているのならもう少し深く繋がることで、なんとかできたりするんじゃないか?
繋がってるこの感覚を強化して、深く潜り込む。
記憶が流れてきそうになる。頭が痛い。
「来ないで」
――西園さんの声がした。
「ボクが全部なんとかするから、君は蒼空ちゃんのことだけ考えて」
強く、否定するような声で。
「そうだ、この形態をさ、
震えた声で、無理やり笑うように。
「気に入ったら、蒼空ちゃんにでも伝えてくれない?」
ぷつり、とコネクトリンクが切れた。
「……くん、渚くん?」
「あ、ああ……ごめん」
目を再び開けると、蒼空さんの顔が見えた。
「あんた何したの?」
「コネクトリンクがまだ繋がってたから、なんとかできないかと思ったんだけど、切られてしまって」
「ふーん、それだけ?」
「……そうだね」
「まっ、とりあえず追うわよ」
とりあえず、西園さんに追い付かないと話にならない。
それからどうやって止めればいいのかはわからないけど。
「
「なにそれ?」
「西園さんが、あの形態の名前をそんな風に言ってたから」
「……原作にもなかったものを名付けてる」
膨れた頬で、蒼空さんが西園さんを見る。
ぞわり、と背筋に流れる嫌な感覚が強くなる。
ケルベロスのような混合型がまた、出現した。
それに反応して、
巨大な獣の顔が、混合型の胴体に噛みついて、その体を砕いた。
「あーもー、めちゃくちゃねこれ」
「うーん、本当にあの敵と同じぐらいの力あったりするんじゃない?」
椎柴さんと蒼空さんは、引き気味に様子を見ている。
実際、本当にあの力はすごい。出現した敵をすぐに蹂躙してる。
……でも、アバドン化した蒼空さんですら今は力を使うのが厳しいぐらいだ。西園さんは、このままだと、ろくな状態にならない。
「渚くんはさ、マヒロにも手を伸ばすんだよね?」
蒼空さんが僕の考えを見透かしたかのように、こちらを向いた。
「うん」
「あの時、言ったよね?助けてほしいってさ」
たぶんこれは、蒼空さんに手を伸ばしたときの言葉。
僕たちを助けてほしいから、生きてほしいと言ったときの。
「私がちょっとだけなんとかするよ」
くすり、と笑ってから僕と繋いでる手とはもう片方の手を椎柴さんに繋ぐ。
「えっ、ちょっと何?」
「飛ぶよ!」
「「飛ぶ?」」
ハモった瞬間に、どくんと鼓動が高鳴る。
これは、蒼空さんが強く力を使おうとしてる?
「《セイントアーツ》――"エンジェル"」
蒼空さんから、光の翼が生えてくる。
ふわり、と僕たちは宙に浮いた。
「いっくよ!」
蒼空さんの掛け声と一緒に、空を飛んだ。
獣と化した、西園さんがついに中心にいた混合型に到達していた。
二つの巨大な影が、お互いにぶつかり合う。
体についた、巨大な顔がお互いの胴体を噛みつき合い、お互いの爪が削り合う。
両方とも、四足歩行の獣に顔や足がいくつも生えている、歪な怪物だ。どれだけ削られ、噛みつかれてもダメージが入ってるのかがわからない。
「――」
「――」
お互いの咆哮が響き合う。
何度も、お互いがぶつかり合う。たまたま近くにいた深禍たちが巻き込まれて、砕かれていく。
「めっちゃくちゃね、あれ」
蒼空さんにぶら下げるような形で、椎柴さんが顔をしかめた。
そろそろ、ぶつかり合ってる中心につく。
「で、あれどうすんのよ?あんなとこ乗り込んだら、ミンチになるわ」
「うん、だから私がちょーっとぶつかり合いを止めて、そこに帆花が敵側のやつに突っ込んでもらって、渚くんはマヒロをなんとかする!これで、どう?」
得意気に笑う蒼空さんに、思わず苦笑いした。
「なんとかって言われても、どうになるかな?」
「そこはまあ、渚くんを信頼してるから……って言いたいけどそこじゃなくて。マヒロを信頼してるから。渚くんがいるとわかってて、傷つけるようなことはしないんじゃないかな」
西園さんの人となりは、あまり理解できているつもりはない。
――ボクが全部なんとかするから、君は蒼空ちゃんのことだけ考えて。
西園さんの言葉を思い出す。
きっと、西園さんは優しい人で、あんな状態でも自我はあるんだと思う。
その、優しさに付け込むみたいになってしまうけど。無理してる女の子をそのままにしておけないし。
「わかった、僕がなんとかしてみる」
「あんた本気?死ぬわよ」
「……そうならないように気を付けるよ」
「はあ、あっそ。で、私はあのでかいのを倒せって?」
「いや、倒さなくていいけど。一発ぶちかましてよ」
「無茶言うわねえ……仕方ない、ちょっとだけ頑張るわ。元々、あいつを倒せって言われてたようなもんだし、一撃では倒せないでしょうけどね」
覚悟を決めたように、椎柴さんは目を閉じて、強く見開いた。
「じゃあ、そろそろ着くからいくよ。《セイントアーツ》――"ラースオブゴッド"」
天から、光が降り注いだ。二つの巨大な影がぶつかり合う間に。
西園さんの方はあまりダメージを受けていないけど、巨大深禍は少しだけ削られている。
そして、二つとも止まる。
「頑張ってね」
「任せてときなさい。《
椎柴さんが、落下しながら刀を握った。刀身が光って、風に乗ってヘアゴムが取れて解放された茶髪が金色に染まっていく。
そして、一閃。
巨大な足を切り落とした。
「ちょっとだけ相手してやるわ、デカブツ」
攻撃の勢いで減速したのか、地面に軽く着地した椎柴さんは、巨大な混合型深禍を見て不敵に笑う。
蒼空さんに抱き抱えられながら、動きを止めた西園さんを見据えた。