アビドスイレブン!   作:気弱

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アビドスの砂漠でキックオフ!

アビドスの朝は早い

 

地平線から顔を出した太陽が、広大な砂丘を黄金色に染め上げていく。その静寂を切り裂くように、一台のロードバイクが砂塵を巻き上げて疾走していた

 

砂狼シロコは、いつものようにペダルを漕ぐ足に力を込める。背中に背負っているのは、かつてこの学園の象徴であった重火器ではない。数々の激戦を共に潜り抜けてきた、年季の入ったエナメル製のスポーツバッグ

 

しかし、通学路のちょうど中間地点

陽炎の向こうから、無骨な鉄の塊が姿を現した。不法占拠を企む「カタカタヘルメット団」の少女たちだ。彼女たちが従えているのは重機……ではなく、巨大なピッチ設営マシンだった

 

「ちょっとあんた! ここから先を通りたければ、持っているお金を賭けて私たちと『サッカーバトル』で勝負よ!」

 

ヘルメットを被った少女の一人が、挑発的に指を指す

 

シロコは迷いなく自転車を止め、スタンドを立てた。バッグのジッパーを開け、中から使い古された、けれど汚れ一つなく手入れの行き届いたボールを取り出す

 

「……ん。受けて立つ」

 

シロコの目が鋭く輝き、砂漠の真ん中に一瞬にして仮設ピッチのラインが引かれた

 

それから数十分後

アビドス高等学校の校舎に到着したシロコは、対策委員会室のドアを開ける

 

室内では、アヤネが眉間に皺を寄せながら、古いノートパソコンのキーボードを「カタカタ」と忙しなく叩いていた

 

「あ、シロコ先輩、おはようございます。……その様子だと、またヘルメット団に勝負を仕掛けられたんですか?」

 

アヤネは画面から目を離さずに問いかけた。シロコは無造作にバッグを棚に置くと、少しだけ乱れた前髪を払う

 

「ん。1対5だったけど、余裕だった」

 

「もう、朝から無茶しないでくださいね。怪我でもしたらどうするんですか」

 

呆れ顔のアヤネだったが、そこへノノミが柔和な笑みを浮かべて歩み寄る。彼女の手に握られているのは、キンキンに冷えたスポーツドリンク

 

「お疲れ様です、シロコちゃん♪ さすが、私たちのエースストライカーですね♪」

 

冷たいボトルが頬に触れ、シロコは「……ん、ありがとう」と短く応えてそれを受け取る

 

「エースと言っても、私たち、まともに『試合』なんてしたことないですけどね……」

 

アヤネが溜息混じりの苦笑いを漏らす

 

このキヴォトスは、あらゆる紛争や交渉が銃火器ではなく、芝の上のスポーツ――サッカーバトルによって決せられる世界。しかし、アビドス高等学校は、かつての栄光も今は昔。膨大な借金という「レッドカード」を突きつけられ、公式戦に出場する遠征費どころか、チームとして練習する余裕すら奪われていた

 

シロコやホシノのように、個人の圧倒的な実力で「野良試合」を制する者はいても、アビドスという名を背負って11人……あるいはサッカーバトルの規定である5人のチームとしてピッチに立った経験は、彼女たちにはまだ無かった

 

かつては人数の都合でバトルを組むことすら叶わなかったが、セリカとアヤネが入学したことにより今年ようやく5人のメンバーが揃ったのだ

 

「ん、そういえば。来る途中に変なものを拾って、そこに置いたけど」

 

シロコが思い出したように、無造作に部室の入り口を指差す

 

「変なもの……?」

 

アヤネ、ノノミ、そしてちょうど部室に顔を出したばかりのセリカまでもが首を傾げ、外の廊下へと視線を向ける。そこには、砂塵にまみれてぐったりと横たわり、微動だにしない「一人の男」が転がされていた

 

「シロコ先輩がとうとう人殺しを……!?」

 

アヤネの悲鳴に近い絶叫が、静かな校舎に木霊する

 

「ぷはっ……! 生き返った……」

 

男は渡されたコップの水を、砂漠の砂を洗い流す勢いで一気に飲み干す。アヤネの絶叫が止んだ後、シロコからジト目で「ただ倒れて水を欲しがっていたから、不憫に思って運んできただけ」という至極真っ当な説明がされた

 

勘違いをしていたアヤネは、今は申し訳なさそうに肩をすぼめて縮こまっていた

 

「ごめんなさい……てっきり、シロコ先輩がとうとう暴力の果てに人殺しをしてしまったのかと……」

 

「ん、アヤネが私のことを普段どう思ってるのか、よくわかった気がする」

 

「ち、違いますからー!?」

 

必死に弁解するアヤネをよそに、それまで二人のやり取りを冷ややかな目で見ていたセリカが、怪訝そうに私へと目線を向ける

 

「……で、2人のコントはもういいから。あんた誰なのよ? なんで砂漠の真ん中で干からびかけてたの」

 

「ああ、自己紹介がまだだったね。私は連邦捜査部『シャーレ』から、アビドス高校に先生兼、監督として派遣されたものだよ」

 

「えっ……私たちの申請が、本当に通ったんですか!?」

 

先生が鞄から取り出した、顔写真付きの教員免許証と公式な派遣状を見せると、先ほどまでシロコに詰められていたアヤネが、パッと顔を輝かせて私の目の前に身を乗り出した

 

「う、うん。とりあえず君たちが公式試合に出られるように事務的な手続きと、サッカーに集中できる環境は整えてあるから。これから、君たちの好きにできるよ」

 

「やりましたね、アヤネちゃん♪ これで私たちも、ただの同好会じゃなくて正式なチームですよ!」

 

ノノミが柔らかな笑みを浮かべ、嬉しそうに手を合わせる

 

「それじゃあ、先生。改めて私たちから自己紹介をしよっか。私は3年生の小鳥遊ホシノ。ポジションはゴールキーパー(GK)をやってるよ~。うへ~、若くて有能な監督は大歓迎だねぇ」

 

ソファーで横になったまま、眠そうな目を向けてひらひらと手を振るホシノ

 

「ちょっと、少しはシャキっとしてよ! ホシノ先輩! ……コホン。私は1年生でミッドフィールダー(MF)の黒見セリカ。あんたが頼りない監督だったら、すぐに追い出すから覚悟しなさいよね!」

 

ホシノの態度に地団駄を踏みながらも、セリカは鋭い視線の中に期待を隠しきれない様子で挨拶を返す

 

「同じくMFを担当しています、奥空アヤネです! と言っても、戦術の研究がメインで、プレイの方は最近始めたばかりなのですが……あはは」

 

照れくさそうに笑いながら、アヤネがメガネのブリッジを指で押し上げた

 

「私は2年生でディフェンス(DF)を任されています、十六夜ノノミですよ~♪ よろしくお願いしますね、先生」

 

おっとりとした声色だが、その立ち居振る舞いからは並々ならぬフィジカルの強さが伺える

 

「……ん。2年生。フォワード(FW)の砂狼シロコ」

 

最後に、私をここまで運んできた本人が短く、けれど力強い意志を込めて告げた

 

「あはは……みんな、本当に個性豊かだね」

 

勢揃いした5人の顔ぶれを見渡し、先生は思わず苦笑いを浮かべた。自己紹介も一段落し、アヤネが今の厳しいアビドス高校の現状を説明しようとした、その瞬間だった。

 

(ドカン!!)

 

校庭の乾燥した空気を震わせる、凄まじい爆発音が響き渡る

 

「えっ、何事ですか!?」とアヤネが叫び、全員で窓から外を覗き込む。土煙がゆっくりと晴れていく中、そこにはコートの裾をたなびかせ、いかにも「冷酷な悪の組織のリーダー」といった風に、芝居がかったポーズで佇む少女、陸八魔アルの姿があった

 

しかし、そのカリスマは数秒も持たなかった

 

「ちょっとハルカ!? 爆破はナシって言ったわよね!?」

 

「ご、ごごごめんなさいアル様!? アル様のかっこいい登場シーンを演出するために、つい……! じ、自爆してお詫びを……!」

 

「あっはは! アルちゃんの登場シーンはこれくらい派手なのが似合ってるよ?」

 

「これ、目的果たせても依頼主に怒られるよ……はぁ……」

 

校庭で勝手に爆発し、喧嘩を始める4人の少女たち。対策委員会のメンバーは呆れ果てたように固まっていた

 

「……なにあれ。不審者?」

 

セリカの至極真っ当な疑問に、先生は冷や汗を拭いながら答える

 

「さ、さぁ……でも、タダ者じゃなさそうだね(色んな意味で)」

 

とにかく話を聞こうと、先生たちは急いで校庭へと降りていく

 

「ふ、ふん! 先ほどは多少のトラブルがあったけれど……この学校の土地、私たち『便利屋68』が頂くことにするわ!」

 

先生たちが近づくと、アルはマントを翻して堂々と宣言する

 

「突然現れて勝手なこと言わないで! ここは私たちの学校よ!」

 

「あはは、そんなに怒んないでよ♪ 素直に渡した方が身のためだと思うんだけどなー? 子猫ちゃん」

 

「誰が子猫よ!?」

 

顔を真っ赤にして怒るセリカを弄るのが楽しくなったのか、ムツキはケラケラと笑い声を上げる。その横でハルカはオロオロと落ち着きを失い、カヨコは深いため息をつきながら成り行きを見守っていた

 

「……ん。それなら、サッカーバトルで勝負を決めたらいい」

 

セリカとムツキの言い合いの間に、シロコがボールを抱えて割り込む

 

「そ、そうね……力ずくじゃなく、スマートに勝負で屈服させてから占拠する。それこそがアウトローの嗜みというものよね!」

 

アルが、コホンと大げさに咳をして調子を取り戻す

 

「いいわ、勝負よ! ルールは簡単。先に2点先取した方が勝ち、それで文句ないわね!」

 

「うへ~、ずいぶんと自信満々だねぇ……でも、そっち4人しかいないけど大丈夫? 私たちは5人揃ってるよ?」

 

ホシノが眠たげな目で指摘すると、アルは一瞬だけ「しまった」という顔をしたが、すぐに通信機を取り出した。

 

「ふ、ふん、計算通りよ! ……ええ、私よ。今すぐ準備なさい!」

 

アルがどこかへ連絡を入れると、ほどなくしてヘルメットを被った傭兵の少女が一人、しぶしぶといった様子で合流した

 

「助っ人は用意したわ。これで5対5……条件は対等ね!」

 

アビドスの命運を賭けた、唐突すぎる練習試合が始まる

 

改めて傭兵をGKに据え、ムツキとハルカはMF、カヨコはDF。そしてエースストライカーを気取るアルがFWの位置につき、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。

 

「ムツキ! 早速行くわよ! 便利屋の恐ろしさを刻み込みなさい!」

 

「りょーかい、アルちゃん!」

 

先行のアルは、自信満々の笑みでムツキにパスを出す。ボールを受けたムツキが軽やかなステップで走り出す

 

「さっきはよくもバカにしたわね……! ここは絶対に通さないんだから!」

 

その行く手を遮ったのは、額に青筋を立てたセリカだ

 

「残念。あなたじゃ私は止められないよ~?はいどうぞ♪」

 

「へ? なんで私にボールを……」

 

ムツキは不敵に笑うと、奪わせるようにセリカの胸元へボールを蹴り上げる。セリカが反射的にそれを胸トラップした瞬間、ムツキの瞳に悪戯な光が宿る

 

「『ジャッジスルー』♪」

 

「ぐふっ!?」

 

トラップの瞬間、ムツキは強引にボールごとセリカを突き飛ばす。 凄まじい衝撃に、セリカは後方へと吹き飛ばされてしまった

 

「ちょっ、あれ反則じゃないんですか!?」

 

アヤネが血相を変えて抗議するが、ムツキはウィンクしてみせる

 

「クスクス、審判が見てなかったらセーフだよ♪ ……アルちゃん、決めて!」

 

ムツキは前線のアルに完璧なパスを供給した

 

「ふ、ふふふ……! これこそがアウトローな私の、真の必殺技よ! (ぴぃぃ――ッ!)」

 

「へ?」

 

アルが指笛を鳴らすと、地面から色とりどりのペンギンたちが飛び出してくる

 

「『皇帝ペンギン 7』!!」

 

アルが蹴り出したボールを、7羽のペンギンたちが加速させる。それは美しい虹のアーチを描き、アビドスゴールへと迫った

 

ゴールを守るホシノは身構えていたが、あまりにも愛くるしいペンギンたちの姿、そして自身の好みが災いする

 

「うへ~、可愛い……って、あ」

 

完全に油断し、ボールはホシノの横をすり抜け、ゴールネットを揺らした

 

「ホシノ先輩――っ!?」

 

「ご、ごめんごめん……あはは。あんまり可愛いシュートだったから、つい油断しちゃった」

 

詰め寄るセリカだったが、敵のリーダーへの「親近感という名の困惑」がチームに走った

 

「よし、みんな! 切り替えていこう! 次はこっちの番だ!」

 

先生がベンチから身を乗り出し、声を張り上げて鼓舞する。その声に応えるように、シロコが静かに、けれど熱い闘志を瞳に宿して頷いた

 

「一点取られたなら、次は取り返すだけ。……行こう」

 

「おー!!」

 

シロコからセリカへ、弾丸のような鋭いパスが送られ試合が再開される

 

「あはは、また私に遊ばれに来たのかなー? 学習能力ないね、子猫ちゃん♪」

 

再びセリカの前に、小悪魔のような笑みを浮かべたムツキが立ち塞がる。しかし、今のセリカの瞳に迷いはなかった

 

「何度も同じ手で遊ばれるほど、私はお人好しじゃないわよ! これで……バイトのハシゴで鍛えた脚力、見せつけてあげる! 『ドッグラン』!!」

 

セリカが放ったボールは、ピッチの上を猛犬のごとき荒々しさで不規則に跳ね回った。ムツキの意表を突く全方位のバウンドが彼女を翻弄し、一気に抜き去る

 

「ふふん! どうよ、これなら文句ないでしょ!」

 

完全に抜き去った。そう確信してセリカが笑みを浮かべた瞬間、背筋を凍らせるような冷徹な声が響く

 

「……ムツキを抜いて、気が抜けてるんじゃない?」

 

「へ?……きゃっ!?」

 

「『キラーホエール』」

 

死角から音もなく忍び寄っていたカヨコが、低空の鋭いスライディングを繰り出す。精密機械のような正確さで放たれたその一撃が、セリカの足元から鮮やかにボールを刈り取った

 

「ハルカ、任せたよ」

 

「は、はいぃぃ! アル様のためにっ!!」

 

カヨコが刈り取ったボールを、即座に前線のハルカへと繋ぐ。ハルカは涙目で悲鳴のような声を上げながらも狂気じみた気迫でドリブルを開始する。だが、その行く手を巨大な壁となって阻んだのは優雅に微笑むノノミだった

 

「通しませんよ~?」

 

「アル様に……必ずパスを……お届け……すやぁ……」

 

「『グッドスメル』……♪」

 

ハルカが忠誠の叫びを完遂するより早く、ノノミが周囲にふわっと「夢のような良い香り」を振りまいた。高級な紅茶と花々に包み込まれるような芳醇なアロマに、極度の緊張状態だったハルカの意識は一瞬で彼方へ。ハルカはボールを残したまま、その場に吸い込まれるように膝をつき、安らかな眠りに落ちてしまった

 

「ちょっ!? ハルカ、何寝てるのよー!!」

 

校庭にアルの絶叫が空虚に響き渡る。その隙を見逃さず、ノノミは眠るハルカの横からボールを拾い上げると、最前線で虎視眈々とゴールを狙う相棒へと視線を送った

 

「シロコちゃん、お待たせしました~♪」

 

「ん。完璧なパス。……任せて」

 

ノノミからの寸分狂わぬロングフィードを、シロコが空中でピタリと収める。着地した彼女の瞳は、獲物を追い詰めた狼のように鋭く傭兵GKを射抜く

 

「ひぃぃ!? な、なにあれ……殺される!?」

 

シロコがボールを高速回転させると、ピッチの熱気が一瞬で凍りつき、凄まじい冷気の渦が発生する

 

「……凍りついて。 『エターナルブリザード』 !!」

 

放たれたシュートは、氷の竜巻を纏った巨大な氷塊となってゴールへ突進する。本来止めるべき傭兵GKだったが、シロコの圧倒的な威圧感と、迫りくる氷の暴力に本能的な恐怖を覚え、思わず「ヒィッ!」と悲鳴を上げて横に飛び退いてしまった

 

ドォォォォン!!

 

無人のゴールへと突き刺さったボールが、ゴールネットをガチガチに凍らせ、周囲に白い霧を散らす。スコアボードの数字が「1-1」へと書き換えられ、ついに試合は同点へと引き戻された

 

「くっ……こんなの、ちっともアウトローじゃないわ! だったら、もう一度私が点を取って分からせてやるんだから! 『皇帝ペンギン7』!!」

 

試合再開のホイッスルとともに、アルが猛然とゴールへ突き進む。先ほどと同じく、空を舞う七色のペンギンたちが虹のアーチを描き、ホシノの守るゴールへと襲いかかった

 

「うへ~、おじさんに二度同じ手は通じないよ~。 『セーフティプロテクト』」

 

ホシノが気だるげに片手をかざすと、彼女の背後の空間から無数の重厚な盾が出現。鉄壁の陣を敷き、アルの必殺技を正面から軽々と跳ね返してしまった

 

「なっ、そんな!? 私のペンギンたちが……!」

 

「ふふ~、おじさんのガードは意外と硬いんだよー?」

 

ホシノが不敵に笑い、弾かれたボールを正確に前線へ供給する

 

「ホシノ先輩ナイスよ! このまま決勝点は私が貰うわ! 『グレネードショット』!!」

 

先ほどのGKの失態を見て、「自分でもいける」と確信したセリカが躍り出る。全身のバネをしならせ、溜め込んだパワーを一気にボールへと叩き込んだ

 

しかし、その時

 

「……私だって、雇われたからにはちゃんとやるの! 『キラーブレード』!!」

 

傭兵GKが、ナタ状の鋭いオーラを両手に纏い、迫りくるボールを真っ向から叩き落とした。傭兵としての意地を見せた彼女は、そのままボールを奪い取ると、前線で待ち構えるアルへと鋭い弾道で投げ返す

 

「ナイスパスよ、臨時ちゃん! ……ムツキ、あれをやるわよ!」

 

「オッケー、アルちゃん♪ 派手に行こう!」

 

アルとムツキが視線を交わし、同時に高く跳躍する

 

「「 『ツインブーストF(ファイア)』 !!」」

 

ムツキが空中に打ち上げたボールを、アルが炎を纏った足で力強く蹴り飛ばす。二人のコンビネーションが生み出した火炎の渦は、凄まじい熱風を巻き起こしながら、アビドスゴールを焼き尽くさんばかりの勢いで襲いかかる

 

「ん~、これはちょっと本気を出そうかな。…… 『グレートバリアリーフ』 」

 

ホシノが右手をしなやかに振るうと、ゴール前に南太平洋の広大な海が具現化する。押し寄せる激しい海流が猛火を飲み込み、シュートの威力を劇的に弱めていく。勢いの死んだボールを、ホシノはがっしりと両手で受け止めた

 

「いくよー、セリカちゃん!」

 

カウンターのチャンス。ホシノからのスローイングを受け、セリカが快足を飛ばす。だが、その行く手には、既に彼女の動きを完全に予見していたカヨコが音もなく立ちはだかっていた。

 

「……また油断してるでしょ?。ここは通さないよ」

 

「っ!? しまった……!」

 

カヨコの冷徹なディフェンスに、セリカの足が止まる。また奪われる、そう思った瞬間、先生の叫びがピッチを貫く

 

「セリカ! 一人で戦わないで、周りを見て!」

 

ハッとしたセリカは、強引な突破ではなく、必死に視界を広げる。その先に、懸命にフリーのスペースへ走り込む仲間の姿を捉えた

 

「セリカちゃん、こっちです!」

 

「アヤネちゃん!」

 

「!?」

 

カヨコの隙を突きセリカからアヤネへ、鮮やかなパスが繋がる。そしてアヤネは迷わず、最も信頼できるストライカーへとボールを送り出した

 

「これで決めてください、シロコ先輩!!」

 

「ん、任せて。…… 『エターナルブリザード』 」

 

2度放たれた、絶対零度の氷塊。

 

「止めてぇぇ! ……やっぱりこの人のシュートだけは怖いー!!」

 

傭兵GKの悲鳴も虚しく、極寒の衝撃波はゴールマウスを粉砕せんばかりの勢いで吸い込まれてしまう

 

ピッ、ピッ、ピーーー!!

 

試合終了

 

砂漠の風が止み、便利屋68のゴールネットには白く凍りついたボールが静かに揺れていた

 

「ま、負けたぁぁぁ!? 覚えてなさいよ、対策委員会! この借りは、いつか必ず返すんだからーー!!」

 

試合終了のホイッスルが響く中、アルはお手本のような負け惜しみを叫ぶ。真っ赤になった顔を隠すようにマントを激しくはためかせ、一目散に砂漠の彼方へと逃げ去っていった

 

「あはは、アルちゃん待ってよー。……また遊ぼうね、子猫ちゃん♪」

 

ムツキがケラケラと笑いながらその後を追い、カヨコは深いため息をつきながら、いまだに眠っているハルカを引きずるようにして続いていく。嵐のような四人組が去った後のピッチには、心地よい静寂が戻っていた

 

「いや~、結構強かったねぇ。おじさん、ちょっと疲れちゃったよ」

 

ホシノがグローブを外し、額の汗を拭いながら呟く

 

「はい……特にあのカヨコさんとアルさんは、まだ底を見せていないというか、本気で力を隠しているようにも見えましたね……でも、勝てました」

 

アヤネが眼鏡をかけ直し、充実感の混じった表情で頷き合う。私は、泥だらけになりながら戦い抜いた彼女たちの肩を、一人ずつ優しく叩いた

 

「とりあえず……今日は初試合で初勝利だ! おめでとう、みんな。本当によく頑張ったね」

 

「……ん。先生の指示、助かった」

 

シロコが小さく頷き、セリカも照れくさそうに視線を逸らしながら「……まぁ、あんたがいたから、周りが見えたのは認めてあげるわよ」と口に。

 

「さあ、今日は対策委員会の初陣を祝して、打ち上げにでも行こうか。もちろん、先生のおごりだよ!」

 

「「「やったーー!!」」」

 

夕闇が迫るアビドスの空に、少女たちの晴れやかな歓声が響き渡る

 

広大な砂漠の真ん中、急造のピッチに刻まれたこの小さな一歩が、やがてキヴォトスの全校生徒を熱狂させる伝説の始まりになるとは、今はまだ、誰も知る由もなかった

 

(「……よし、最高のスタートだ。これからもっと忙しくなるぞ……! 」)

 

先生は、少しだけ軽くなった足取りで、夕暮れの校舎へと歩き出す彼女たちの背中を追いかけた




pixivの方で短編として出そうとしたけど…楽しかったので続けていこうかなと思いました
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