アビドスイレブン!   作:気弱

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対決 ゲヘナ風紀委員 前編

アビドス高等学校、その広大なグラウンドは、照りつける陽光と絶え間なく舞い上がる砂塵に包まれていた。かつての輝きを失った砂のピッチに、場違いなほどの冷気が走る

 

「『エターナルブリザード』……!」

 

シロコの静かな、しかし鋭い呟きと共に放たれたボールは、激しい氷の旋風を纏いながら一直線にゴールマウスへと襲いかかる。絶対零度の衝撃波が空気を凍らせ、白銀の軌跡を描いていく

 

「な、なんで私がキーパーを……!? ひぃぃ、死んじゃいますぅ!!」

 

ゴール前に立たされていたアヤネは、迫りくる氷の塊に本能的な恐怖を覚え、悲鳴を上げながら無様に地面へ飛び伏せてしまう。砦を失ったゴールネットにボールが突き刺さり、ガチガチという音を立ててネット全体が白く凍りついていく

 

「ん……アヤネ。避けたら練習にならない」

 

シロコはふぅ、と小さく息を吐き、不満げに眉を寄せる。その足元からはまだうっすらと冷気が立ち上っていた

 

「わ、私はMF(ミッドフィールダー)なんですよ!? なんでシロコ先輩の殺人的なシュートを止めるキーパーなんてやらされてるんですか!?」

 

土まみれになって起き上がったアヤネが、真っ白に曇ったメガネをクイと押し上げ、顔を真っ赤にして猛抗議を始める。その光景を数歩後ろで見守っていた先生は、困ったような、それでいてどこか楽しげな苦笑いを浮かべるしかなかった

 

「あはは……いや、ホシノから直々に頼まれてね。『おじさんに何かあった時のために、キーパーの適性がある子を見つけておいてほしい』って」

 

「せんせぇ!! 助けてください! あんな怖いシュート、素人の私じゃ止められません! このままだと私もセリカちゃんみたいになってしまいます!」

 

アヤネが涙目で先生の袖に縋り付く。彼女が震える指で示した先には、一人の少女が真っ白に燃え尽きた灰のようにピッチに転がっていた

 

「あ、あはは……セリカ、大丈夫かな……」

 

そこにはシロコの放つ弾丸のようなシュートを何度もその身に受け、文字通り「完膚なきまでに叩きのめされた」セリカの姿があった。ユニフォームは泥と氷の結晶で汚れ、魂が口から抜け出しかけている

 

「……そうなると。シロコのシュートに最後まで食らいつこうとしていたセリカが、消去法でサブキーパーになるしかないかな」

 

私の無情な宣告を聞いた瞬間、死体のように動かなかったセリカの身体が跳ねるように起き上がる

 

「いやよ、絶対いや!! さっきのはただの意地! 痛いものは痛いのよ! 第一、ホシノ先輩っていう鉄壁の守護神がいるんだから、私なんかがやる必要ないじゃない! ……というか、その肝心のホシノ先輩は一体どこでサボってるのよ!!」

 

一瞬で気力を取り戻したセリカの怒号が、乾いたグラウンドに響き渡る。彼女は腰に手を当て、不機嫌そうに頬を膨らませた

 

先生は困ったように笑いながら、地平線の向こう、砂に半分埋もれた廃墟の街並みに目を向けた。蜃気楼が揺れるその先には、みんなが守るべき大切な場所が広がっている

 

「ホシノなら……多分、パトロールに行ってるんじゃないかな?この前の『便利屋』の子たちのこともあるし、ああ見えてホシノは意外と心配性だからね」

 

「……あのアウトロー(自称)たちね……」

 

その言葉を聞いた瞬間、セリカのトゲトゲしかった態度が、ふっと魔法が解けたように和らぐ。彼女の脳裏には、数日前におきた、あまりにも「悪党」とは程遠い、奇妙で温かな光景が鮮明に浮かんでいた

 

ーーーーー

 

それは初試合という嵐のような激闘から、わずか二日後のこと

 

借金返済のために先生達に隠れてバイトに精を出していたセリカだったが、運命の悪戯か、ひょんなことからその現場を全員に押さえられてしまう

 

「ちょっと、見ないでってば!仕事中なんだから!」

 

真っ赤になって怒るセリカだったが、芝関ラーメンの制服に身を包んだ彼女の姿は、普段の刺々しさを忘れさせるほどに可愛らしく、シロコやノノミたちは「似合ってるよ」「可愛い~」と顔をほころばせ、賑やかな笑い声が店内に満ちていた

 

だが、その和やかな空気を破るように、店の扉が重々しく、そしてどこか力なく開く

 

「あの……ここって、600円以内で……一杯食べられないかしら……?」

 

弱々しい、消え入りそうな声と共に現れたのは、あの日ピッチで不敵な笑みを浮かべていたはずの便利屋68の社長・陸八魔アルだった。しかし今の彼女に、あの時のアウトローな面影はなかった

 

「あーっ!?あんた、なんでこんなところに!?」

 

「っ!?た、対策委員会……!?」

 

注文を取ろうと振り返ったセリカと、空腹で虚ろな目をしていたアルの視線が真っ向からぶつかる。アルは雷に打たれたように目を見開き、あまりの気まずさに顔を引き攣らせる

 

「な、なんでって、それは……その、ね……?」

 

「あはは。お金がないから、手持ちで食べられるところを彷徨い歩いてたんだよ。ね、子猫ちゃん?」

 

恥ずかしさのあまり指先をモジモジさせて沈黙するアルの背後から、悪戯っぽい笑みを浮かべたムツキがひょこっと顔を出した。その後ろには、もはや自力で立つことすらままならず、カヨコの背中にぐったりと預けられているハルカの姿まである。便利屋総出の、見るも無惨な兵糧攻め状態だった

 

「だから!私は黒見セリカっていうちゃんとした名前があるのよ!誰が子猫よ!」

 

「ふふ、やっぱり子猫ちゃんをいじるのは楽しいわぁ♪」

 

「……そんなのは、後にして。……で、食べられるの? 食べられないの……?」

 

怒髪天を突く勢いで抗議するセリカを他所に、カヨコが切実な、もはや限界を超えた溜息を吐きながら割り込んできた。

 

「……っ。もう、仕方ないわね……メニューにあるから、さっさと席について待ってなさい!」

 

ぶっきらぼうに、けれど突き放すことはせずにセリカは彼女たちをカウンター席へと案内すると、そのままムスッとした顔で厨房に消えていく彼女の背中を見送りながら便利屋の四人は救いを求めるように椅子へとなだれ込む

 

数分後。セリカが運んできたのは、600円という金額では到底不可能な、山盛りのトッピングが乗った特大のラーメンだった

 

「なっ……ちょっと!私たち、こんな大盛りを頼めるほどお金を持ってないわよ!?」

 

「いいから食べなさいよ。うちの大将、お腹を空かせた子を見ると、採算度外視で見境なしにこういうことしちゃうんだから……全く、もう少しお店の売上のことも考えてほしいわ」

 

呆れたように肩をすくめるセリカだったが、その時、厨房の奥から野太い、けれど温かみのある声が響いた。

 

「そう言いながら、セリカちゃんもこっそりチャーシューと煮卵をサービスしてくれてたのは、言っておいた方がいいかな?」

 

「ちょっ、大将!?」

 

現れたのは、片目に深い傷跡を持つ柴犬――『柴関ラーメン』の店主である大将だった。そのイカつい風貌は初見の者を威圧するが、今はその瞳に優しげな光を宿し、楽しそうに喉を鳴らして笑っていた

 

「っ……貴方たち……最高に、ハードボイルドだわ!!」

 

アルは感動に打ち震え、ボロボロと涙をこぼしそうになりながら、勢いよくセリカの両手を握りしめる

 

「な、なによハードボイルドって……!ちょっと、離しなさいよ!」

 

「でも、忘れないで。この恩は忘れないけれど、私たちには依頼された任務があるの。……この感謝はいずれ返す。けれど、私たちは必ず貴方たちに勝って、あの学校を頂くわ。それが、アウトローの流儀よ」

 

アルは一呼吸置いて、いつもの「ハードボイルドな社長」の仮面を被り直し、その場に居合わせた対策委員会の面々を見据える。だが、その瞳には先ほどまでの敵意ではなく、どこか奇妙な連帯感の色が混じっていた

 

「ふん、受けて立つわよ!返り討ちにしてあげるんだから!」

 

「ん。今度も、私たちが勝つ」

 

「おじさんたちも、そう簡単には負ける気はないからね~」

 

「はい♪ ですが、お腹を空かせている人を見捨てるのは、私たちの性分に合いませんので……」

 

「私も、次はもっと上手く守ってみせます!」

 

セリカのツンデレな激励に始まり、シロコ、ホシノ、ノノミ、そしてアヤネまでもが、晴れやかな笑顔で応じる。ピッチの上では火花を散らす宿敵であっても、今は一杯のラーメンを囲む仲間のような空気が流れていた。その光景を、私は隅の席からニコニコと、温かな気持ちで見守っていた

 

「いい度胸ね。それじゃあ、今は正々堂々とこのラーメンを……」

 

アルがようやく箸を取ろうと向き直ったその時

 

「ん。社長、お先」

 

「あむっ……おいしー♪」

 

「あ、あのっ!わ、私なんかがアル様より先に頂いてしまって、本当に、本当にすみません……!!(ズルズルッ)」

 

そこには既に口いっぱいに麺を頬張ったカヨコとムツキ、そして泣きながら猛烈な勢いで啜り上げるハルカの姿があった

 

「わ、私の分も残しておきなさいよっ!?」

 

アルの絶叫が店内に響き渡り、対策委員会のメンバーからは堪えきれないような笑い声が漏れ出した

 

ーーーーーー

 

「まぁ……アイツらも、最初に見た時よりは悪い奴らじゃなさそうだったけど。私たちの学校を乗っ取ろうとするのは便利屋だけじゃない、他の学校の連中だっているって分かっちゃったわけだしね……」

 

セリカはどこかバツが悪そうにそっぽを向くと、太腿のあたりについた泥の汚れをパンパンと払った。あのラーメン屋での一時的な停戦、そしてアルたちの抜けた姿。それらは、戦いの中にあったセリカの心をほんの少しだけ揺らしていた

 

だが、そんな穏やかな午後の静寂を切り裂くように、アヤネの手元にある情報端末が、これまでにないほど激しい警告音を鳴らし響かせた

 

「た、大変です!!『柴関ラーメン』で……謎の爆発が確認されました!!」

 

アヤネの悲鳴に近い戦慄の報告に、グラウンドの空気は一瞬で凍りつく。先ほどまで流れていた温かな追憶は吹き飛び、張り詰めた緊張が支配していた

 

「……ん。現場に行こう。みんな、急いで」

 

シロコの低く、しかし断固とした声。その合図を待つまでもなく、先生と生徒たちは一斉に走り出した。グラウンドを飛び出し、砂埃の向こう側、黒煙が立ち上る市街地へと全速力で駆け抜ける

 

やがて視界に飛び込んできたのは、無惨にも半壊し、瓦礫の山と化した『柴関ラーメン』の変わり果てた姿だった。漂う硝煙の臭い。そしてその爆心地には、煤で顔を真っ黒にした便利屋68の面々が、揃って小刻みに震えながら立ち尽くしている

 

「……あ、あら。到着が早いのね、対策委員会……」

 

アルは震える手で乱れた髪をかき上げ精一杯の虚勢を張って歪な笑みを作った

 

「こ、これで分かったでしょ!?私たちがどんなに恐ろしい悪(アウトロー)なのかを! 私たちの仕事を邪魔するなら、この店みたいに……あ、あははは……っ!」

 

(本当は、感極まったハルカが爆破スイッチを事故的に押しちゃっただけなんだけど……。でも、ここで『ごめんなさい、間違えました』なんて謝るのは、最高にハードボイルドじゃないわ!)

 

必死に心の中で自分を鼓舞し、引き攣った笑みを浮かべ続けるアル。しかし、そんな彼女の切実な裏事情を知る由もないセリカは、怒りで肩を激しく震わせていた。握りしめた拳からは血が滲むのではないかというほどに力がこもり、その鋭い視線が便利屋の面々を射抜く

 

「あんたたち……っ!あの日、せっかく大盛りにしてもらった恩を……大将の優しさを、こんな、こんな最低な形で返すっていうの!?」

 

セリカの叫びは、裏切られた悲しみと激しい憤怒に満ちていた。その怒気に気圧されながらも、アルは後戻りできない崖っぷちのプライドで言い返す

 

「それは……っ、アウトローの道は険しいものなのよ!慈悲や恩情なんて、悪の美学には不要なのっ!」

 

「っ! よくも……よくもそんなことが言えるわね!!」

 

一触即発。怒りに震えるセリカが、決着をつけるべく足元のボールを蹴り出そうとした――その瞬間

 

(ドォォォォォン!!)

 

鼓膜を突き刺すような凄まじい轟音が響き渡り、両者のちょうど真ん中の地面に、一球のサッカーボールが弾丸のごとき勢いで突き刺さった。コンクリートの路面は無残に抉れ、激しい土煙がカーテンのように視界を遮る。その衝撃波の余波だけで、セリカやアルの髪が大きく煽られた

 

それは単なるボールなどではなく明確な意志と重みを伴った、警告の一撃

 

「な、何!?今の……!」

 

「だ、だれ?!」

 

砂塵の中で激しく咳き込みながら、アヤネがボールの飛んできた方向を鋭く見据える。すると、煙の向こう側から、陽光を反射する銃身と、規律正しく整列した軍隊のような足音が響いてきた。立ち込める煙がゆっくりと晴れていく中、そこに姿を現したのは黒い制服に身を包んだゲヘナ学園・風紀委員たちの集団だった

 

「さて……どうしますか、イオリ。予定外の方たちも混ざっているようですが、ここで足止めを食らうと、また逃げられちゃいますよ」

 

風紀委員の先頭、冷静な空気を纏って立つ眼鏡の少女――火宮チナツが、淡々とした口調で隣の少女に声をかける。彼女は救護担当としての鋭い視線をフィールドに走らせ、現状を最小限の言葉で要約する

 

「決まってるでしょ、チナツ。公務の執行を妨害するヤツは、誰だろうと全員敵よ。……まとめて片付ける、それだけ」

 

チナツの報告に答えたのは、銀髪を荒々しくなびかせ、不機嫌そうに鼻を鳴らした少女、銀鏡イオリだった。

 

「突然あんなシュートを私たちに放つなんて……!それにここはアビドス地区よ。あんたたちが勝手に、好き放題にしていい場所じゃないわ!」

 

イオリたちの高圧的な態度を目の当たりにし、セリカの怒りは沸点に達した。ここは自分たちが守るべき地区であり、他校の風紀委員が勝手に越境し、あまつさえ危害を加えかねない威力でボールを打ち込んでくるなど、断じて許されることではない

 

「先生……あの子たちって」

 

「ああ……ゲヘナ風紀委員会だ」

 

シロコの問いに、先生は険しい顔で答えた。砂漠の平穏を乱す闖入者の正体。そんな対策委員会たちの様子を、イオリはイライラを隠そうともしない表情で見つめ、吐き捨てるように口を開く

 

「……チナツ、なんでさっさとサッカーバトルでもなんでもして、ボコボコにしてやらないのよ。邪魔するなら問答無用でしょ」

 

「落ち着きなさい、イオリ。まずは私たちの事情も説明しないと」

 

「……分かったわよ。それなら私が手っ取り早く終わらせてあげるわ」

 

苛立ちを隠さず一歩前へ出たイオリは、対策委員会の面々の前に立つと、まるで見下すかのような不敵な笑みを浮かべて話し始めた

 

「やあ、アビドス高校の生徒諸君。ここに逃げ込んだ校則違反者にお灸を据えるために、わざわざ私たちが来てあげたわよ。あんたたちには用はないから、さっさと撤退しなさい。素直に引くなら、見逃してあげてもいいわよ?」

 

挑発的な言葉をぶつけられ、セリカは一歩も引かずにイオリを睨み返す

 

「……それって、便利屋68のことよね。もし、私たちが撤退しないって言ったらどうするのよ」

 

睨みつけたセリカの鋭い視線を、イオリは鼻で笑って受け流す

 

「別に。ここにぶち込む違反者が増えるだけのことよ。私たちとサッカーバトルをして、負けたあんたたちもまとめて牢屋へ放り込んであげるわ」

 

「……望むところよ! アイツらは、私の大切な場所を爆破したの。この件に関しては、私たちの仕事よ!」

 

セリカが気炎を吐き、イオリと火花を散らす

 

だが、そのやり取りを物陰から見ていたアルは、顔を引き攣らせて心の中で絶叫していた

 

(何言ってるのよ、あの子たち……!! 早く逃げなさいよ!!)

 

瓦礫と化した車の陰に隠れながら、アルは冷や汗を流す。相手はあのゲヘナ風紀委員会だ。このキヴォトスでも屈指の実力を持つ常勝チーム。最近ようやく形ばかりのチームプレイを覚え始めた対策委員会の面々に、万に一つも勝ち目などあるわけがない

 

そんなアルたちの動揺をよそに、セリカとイオリの交渉は決裂へと加速していく

 

「私たちは撤退しない。撤退するのは、あんたたちのほうよ」

 

「ふん、いいわよ。もし私たちに勝てたなら……素直に引いてあげるわ」

 

イオリが鞄から、奇妙なボタンのついたサッカーボールのようなデバイスを取り出した。彼女がそのボタンを力強く押し込むと、周囲の空間が歪み、ノイズのように景色が書き換えられていく

 

道路の真ん中だったはずの場所は、瞬く間に整備された巨大なサッカーフィールドへと変貌を遂げていた。

 

「こ、これは……スフィアデバイス!」

 

アヤネが驚きの声を上げる。

 

「最近は突然の試合でいちいちグラウンドに移動するのも面倒でしょ。これを使うのが主流になってるのよ」

 

イオリは指の上でくるくるとボールを回転させながら、不敵な笑みを浮かべてFWのポジションへとつく

 

「……また勝手な判断を…後でアコさんに何と言われるか」

 

チナツは深くため息をつきつつも、職務を遂行すべく手際よく陣形を整えていく。彼女は冷静に中盤へと移動し、MFの位置に腰を据え残りのポジションを表情が見えない一般委員が埋めていく

 

「……みんな。急な試合になってしまったけれど、どうする? 私たちは今、四人しかいない。ルール的にも…状況も…全てが不利だ」

 

先生は生徒たちを集め、声を潜めて現状を確認した。フィールドの向こう側では、ゲヘナ風紀委員会の精鋭たちが、一糸乱れぬ動きでウォーミングアップを始めている

 

「仕方ないでしょ!?アイツら、本当にムカつくんだから!ここで引いたら、対策委員会の名が廃るわよ!」

 

セリカは鼻息荒く拳を握りしめ、イオリの背中を睨みつけた。その横で、シロコは冷静に周囲を観察しながらアヤネに問いかける

 

「ん。アヤネ、ホシノ先輩には連絡ついた?」

 

「それが……まだなんです。今まで、こんなに連絡がつかないことなんてなかったのに……」

 

アヤネは手元の端末に表示された、ホシノ宛のモモトーク画面を見つめて肩を落とした。そこには無情にも『既読』の文字すらついていない。精神的な支柱であり、守備の要でもあるホシノの不在。その事実は、アビドスの四人に重くのしかかる

 

「おい、そっちのメンバーは四人でもいいよ。こっちは別に構わないからさ。あんたたちが負けを認めたら、そこでおしまい。……まあ、情けとして一点でも取れたらあんたたちの勝ちにしてあげてもいいけど?これなら『公平』でしょ?」

 

アビドスの窮状を察したのか、それとも圧倒的な実力差ゆえの余裕か。イオリは腰に手を当て、早くポジションに付けと顎でしゃくってみせた。その傲慢な提案に、アヤネの顔が屈辱で歪むが、背に腹は代えられない。

 

「……仕方ない、セリカ。君がゴールキーパーをやってくれ。流石に強敵相手で、ゴールをがら空きにするのは無理がある」

 

先生は断腸の思いで決断を下した。練習でボロボロになっていたセリカの姿が脳裏をよぎるが、今は彼女のガッツに賭けるしかなかった

 

「……分かったわよ。やってやろうじゃない!」

 

セリカは覚悟を決めたように強く頷くと、慣れない手つきで分厚いキーパーグローブをはめた。指先の感覚に違和感を覚えながらも、彼女は砂混じりの風を切り裂き、ゴールマウスの前へと足を踏み出す

 

こうして、アビドスの布陣が決まった

 

最前線には、鋭い眼光で得点の機会を狙うエースストライカー、シロコ

 

中盤で戦況を読み、司令塔としての役割を担うアヤネ

 

最後尾から圧倒的な火力と包容力で敵を阻むディフェンダー、ノノミ

 

そして、未経験ながらも「気合」という名の防壁でゴールを守る守護神、セリカ

 

対するは、最強の執行者たちが揃うゲヘナ風紀委員会

 

不穏な静寂がフィールドを包み込み、審判役を務める風紀委員の生徒が笛を口に咥える

 

――ピィィィィィィッ!!

 

乾いた砂漠の空に、開戦を告げるホイッスルが鳴り響く

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