補習授業部との激闘から数日。アビドスの空は、その劇的な勝利を祝福するかのように、どこまでも透き通ったセルリアンブルーに染まっていた。乾いた風が砂塵を巻き上げ、校舎の窓を叩く音だけが響く午後のひととき
しかし、校舎の裏手にひっそりと佇む、旧式の重厚な「修練場」の前だけは、その爽やかな陽気とは正反対の、肌を刺すような熱気と異様な高揚感に支配されていた
「……ん。今のままじゃ、到底足りない。ミレニアムの科学を、あの合理性の化物を打ち破るには……もっと、もっと練習して、個の次元を引き上げないと」
シロコが静かに、だが熱を孕んだ声で呟く。その瞳には、かつてないほどストイックで、飢えた狼のような鋭い光が宿っていた。彼女を筆頭に、セリカ、十ノノミ、そして普段は誰よりも冷静に戦況を分析するはずのアヤネまでもが、何かに取り憑かれたような足取りで、修練場の重厚な鉄扉へと手をかける
扉の隙間から漏れ出すのは、過酷な特訓の残り香である焦げた芝の匂いと、限界を超えようとする者だけが放つ濃密なプレッシャーだった
「ねぇみんな、ちょっと待ってよ。個の力を磨くのも、限界を突破するのも確かに大事なんだけどさ……そろそろ『チームとしての連携』も磨いた方がいいんじゃないかな?」
対策委員会のメンバーの中で唯一、この異様な熱を孕んだ修練場に足を踏み入れない小鳥遊ホシノが、いつも通りのんびりとした、どこか釘を刺すようなトーンで問いかける。陽だまりに佇む彼女だけが、この過熱した空気から一歩引いた場所にいた
「ん。チーム練習なら、私達は大丈夫。これまでの死線を越えてきた経験がある」
シロコは扉を押し開けようとする手を止めずに答える
「そうですよー? 私たちの仲なら、わざわざ練習なんてしなくても心は通じ合っています♪」
ノノミが聖母のような微笑みを浮かべながら、当然のように肯定する
「もしかして、ホシノ先輩……自分一人だけ特訓に入らないから、寂しくなっちゃったの?」
セリカが少しだけ茶化すように、ニヤリと笑って首を傾げた
「そうですよ! もし寂しいなら、先輩も一緒に入ればいいだけのことです!」
アヤネまでもが、タブレットを握りしめながら、迷いのない瞳でホシノを見つめる
彼女たちの言葉には、これまでの苦難を共に乗り越えてきたという絶対的な信頼があった。しかし、その信頼こそが、今この瞬間、彼女たちの目を「サッカーの本質」から逸らさせていることに、ホシノだけが気づいていた
「……寂しいって言ったら、おじさんと一緒にチーム練習、してくれる?」
ホシノが珍しく、子供が甘えるような茶化すトーンを見せる。だが、その双眸だけは射抜くように鋭く、真実を見極めようとする真剣な光を湛えて、後輩たちの目を真っ直ぐに見つめ返す
一瞬、場に沈黙が流れた。いつもの「ホシノ」ではない、アビドスの最高戦力としての重圧が微かに漏れ出す。しかし、特訓の熱に浮かされた彼女たちの耳に、その真意までは届かなかった
「……ふふ、珍しいですね、先輩がそんなことを仰るなんて。ですが! 今はこの修練場での特訓こそが、ミレニアムを崩す唯一の鍵になるはずです。チーム練習は、その後。今は個の強さを極めることが優先です!」
アヤネがそう断言し、一番にやる気を漲らせて扉の奥へと踏み込んだ。続いてシロコ、ノノミ、セリカも、「寂しがり屋な先輩」へ苦笑いを残しながら、暗い修練場の中へと吸い込まれていく
ズゥゥゥン……。
巨大な鉄の扉が、腹に響くような重低音を立てて閉ざされる
直後、中から激しい爆発音と、限界まで肉体を酷使する少女たちの叫びが漏れ聞こえてくる
一人、砂漠の静寂に取り残されたホシノは、沈黙する扉をじっと見つめ、胸に去来する拭い去れない不安を吐き出すように、長く、重い溜息をついた
「……個人の力を磨くのは、もちろんいいんだけどねぇ。でも、サッカーは、一人でするもんじゃないんだけどなぁ……」
その呟きは、激しい特訓の音にかき消され、誰に届くこともなく乾いた砂の上に消えていった
さらに数日が経過し、ついに運命のFF予選第2回戦当日
巨大なスタジアムの地下通路。コンクリートの壁に反射するスパイクの足音と、遠くから地鳴りのように響く観客の声援が、これから始まる戦いの規模を物語っていた。ピッチへと続く眩い光の出口を前に、アビドス対策委員会のメンバーは、高揚と緊張が入り混じった濃密な空気の中にいた
そこへ、冷たい空気の流れる通路を切り裂くような、快活で、しかし揺るぎない自信を湛えた声が響き渡る
「先生! お久しぶりです! ついにこの舞台で相まみえることになりましたね!」
白色のジャケットを正し、誇らしげに胸を張って現れたのは、ミレニアムサイエンススクールのセミナー会計、早瀬ユウカだった
「久しぶりだねユウカ。最後に見た時より見違えるほど強くなってるね。立ち姿だけで、君が積み上げてきた訓練の重さが伝わってくるよ」
先生が穏やかに、しかしその成長を認めるように微笑むと、ユウカは一瞬だけ頬を緩ませたが、すぐに「合理的な勝利」を掲げる冷徹な勝負師の顔に戻る。彼女の背後には、ミレニアムの誇る頭脳と武力の象徴が、威圧的な布陣で控えていた
冷徹な理性をその双眸に宿した「セミナー」会長、調月リオ。車椅子の上で、まるで全てを見通しているかのように不敵かつ優雅に微笑む「超天才清楚系病弱美少女」明星ヒマリ。そして、ミレニアム最強の武力行使部隊「C&C」の精鋭
「へぇ……。あんたがアビドスの新しいゴールキーパーか。小っせぇな。私のシュートで、その生意気な猫耳ごとゴールネットに縫い付けてやるよ」
C&Cのリーダー、美甘ネルが首の骨をバキリと鳴らし、獣のような鋭い視線で射抜く。その挑発は、一滴のガソリンとなってセリカの導火線に直撃した
「私より10cmくらい小さいあんたに言われたくないわよ!? あんたの生意気なその態度……ボールごと地面にねじ伏せて、黙らせてやるわ!」
「あぁん!? 誰がチビだって!? もう一度言ってみろよコラァ!」
「せ、セリカちゃん!? 相手は他校の先輩ですし、そんなにバチバチさせないで! 落ち着いて!」
アヤネが慌てて割って入り、セリカの制服を引っ張って咎める。だが、二人の間には物理的な火花が見えるほどに激しい圧力が渦巻いていた。そんな一触即発の空気を、平坦で抑揚のない声が断ち切る
「無駄な口論は非論理的よ。力を見せたいのなら、さっさと試合をするに限るわ。……もっとも、私が考案し、ミレニアムの工学技術の粋を集めて作り上げた『対神秘制圧用サッカー特訓機械』を相手に死線を潜り抜けてきたこの子たちに、あなたたちが勝てる見込みは万に一つもないでしょうけれど」
リオが表情一つ変えずに二人の間に割って入る。その言葉に、セリカが「なんですって……!」と再び噛み付こうとした瞬間。ヒマリの乗っている車椅子から、シュルシュルと無機質な音を立ててマジックハンドのようなアームが飛び出し、リオの頭を容赦なく「パコン!」とはたいた
「いったっ……。……ヒマリ、何をするの」
「あなたねぇ……! サッカーに関しては完璧なド素人のくせに、あんな物理法則無視の無茶な特訓メニューや、頼んでもいない『失敗時の自爆機能』なんて追加して! それを無理やり成立させるためにまとめ上げる、私の苦労が分かっているんですか!? 見てみなさいよ! ユウカたちのその死んだような表情を!!」
ヒマリが激昂して指差した先。そこには、特訓の記憶を呼び起こされたのか、「私は……一体何回アフロになったのだろう……」と、焦点の合わない目で頭を抱えるユウカの姿があった。その横では、トキとエイミが「……あれは非人道的でした」「合理性の暴走です」と、冷ややかな視線をリオに送っている。
「……流石に、あの時速300kmのボールを回避しながら計算させるのは、どうかと思うわ」
狙撃手のカリンですら遠い目をしながら答え、ネルもまた、「私だって、シュートを外した瞬間に足元が爆発する機能は流石にねぇわと思ったぜ……」と目頭を熱くして(あるいは物理的な痛みを思い出して)押さえている
リオは一人、「……極めて合理的な負荷調整だったはずなのだが。失敗には罰を与えるのが最も効率的な学習プロセスなのに…」と不思議そうに首を傾げている。
そのあまりに悲惨なミレニアム陣営の内情を目の当たりにし、先ほどまでネルと取っ組み合いの喧嘩をしそうになっていたセリカですら、思わずネルの肩にそっと手を置き、同情を込めた目で見つめてしまった
「……あんたたち、大変だったのね……」
「……あぁ、地獄だったぜ。だからこそ、負けるわけにはいかねぇんだよ……!」
一瞬だけ通じ合った奇妙な友情。だが、グラウンドから響く大歓声が、彼女たちを再び「プレイヤー」へと引き戻した
サッカースタジアムを埋め尽くした観客の地鳴りのような歓声が、両チームの入場と共に最高潮に達する。アビドスの青と、ミレニアムの白。対照的な二色のユニフォームがピッチに並び、上空の巨大モニターには両校の校章が映し出された
「ハイッ、注目! 本日の実況は、ゲーム開発部より私、最強ゲーマーのモモイがお届けするよーっ! 攻略本なしのガチンコ勝負、期待しちゃって!」
「あ、一応補足しておくと、部長はプレッシャーに耐えきれずにゲーム機と一緒に部室の隅っこへ逃げました。解説は妹のミドリです」
放送席から響く賑やかな双子の声が、緊張感に満ちたスタジアムの空気を一瞬だけ和ませる
「それじゃあ、お姉ちゃんが余計なことを口走る前にルール説明だけしちゃうね。今大会は2点先取した方が勝利。今日の対戦カードは、快進撃を続けるアビドス対策委員会対、我らがミレニアム合同チーム『セミ・デウス』だよ」
「アビドスの方はよく知らないけどさ……あの大きな太ももで守るユウカのゴールは、並大抵のシュートじゃこじ開けられないんじゃないかなーっ?」
モモイの無邪気な爆弾発言に、会場はドッと大きな笑いに包まれた。ゴール前で入念にストレッチをしていたユウカは、顔を耳まで真っ赤に染め上げ、わなわなと拳を震わせる。
「……モモイ。試合が終わったら、その減らず口ごとスクラップにしてあげるから覚悟しなさい……!」
ピィィィーーーーッ!!!
無慈悲な開始の笛が鳴り響く。その音色が消えぬうちに、砂狼シロコが静止状態からトップスピードへと爆発的な加速を見せた。彼女の足元にあるボールは、まるで磁石で吸い付いているかのように離れない
「行かせない」
ミレニアムのディフェンスライン、角楯カリンが長身を活かした鋭いプレッシングでシロコの進路を塞ぐ。だが、シロコの瞳に迷いはない
「……ん。遅い」
シロコは精密な機械のような高速ステップを繰り出し、カリンが足を出すコンマ数秒前にその横をすり抜けた。ゴールまでの距離、約20メートル。シロコは軸足を深く踏み込み、大気中の水分を凝結させるほどの冷気を右足に集束させる
「『ノーザンインパクト』!!」
絶対零度の衝撃波を纏ったボールが、空間を凍りつかせながらユウカへと襲いかかる。並のキーパーなら触れることすら叶わず凍土と化す一撃。だが、ユウカは不敵に微笑み、長く艶やかな菫色の髪をさらりとかき上げた
「ふふ、先生。私たちの超天才的な知能と、ユウカの精密な演算能力があれば、こんな芸当も可能なんですよ?」
ベンチで優雅に車椅子に座るヒマリの言葉に応えるように、ユウカが右手をしなやかに振るった
「『グレートバリアリーフ』!!」
ユウカが右手をしなやかに振るうと、スタジアムの空気が一変、ゴール前に南太平洋の広大な大海原が具現化し、激しい潮流が荒れ狂う。押し寄せる蒼き海流は、シロコの放った極寒のシュートを優しく、かつ力強く包み込み、その威力を数学的な必然性をもって減衰させていく
「なっ……!? それは、ホシノ先輩の技……!」
シロコの驚愕を他所に、ユウカは勢いを完全に失ったボールを、赤ん坊を抱くように軽々とキャッチした
「私たちは貴方達の戦術、癖、その全てを研究し尽くしました。今の貴方達がどこでどんな奇妙な特訓に励んでいるかは不明ですが……既知のデータを積み上げ、論理的に帰結した我々の方が、数学的に優勢なのは自明の理です」
ヒマリの冷静な宣言と共に、ミレニアムのカウンターが始動する。ユウカから放たれた鋭いロングスローを、中盤に位置する飛鳥トキが無表情のまま受け止める。彼女は指で小さくピースサインを掲げた
「ここからは私たちの番です。ミッション開始。ピース」
「行かせませんよ〜! 対策委員会の守備を甘く見ないでください! 『ザ・タワー』……!」
十六夜ノノミが「ザ・タワー」を展開しようと身構える。しかし、トキの動きはそれを嘲笑うかのように軽やかだった
「てい。『ムーンサルト』」
「!?」
トキは重力を無視したかのような、体操選手を彷彿とさせる見事なひねり回転を披露。ノノミの頭上を鮮やかに飛び越え、空中でボールをコントロールする。着地と同時に放たれたパスは、最前線で飢えた獣のように牙を剥く、美甘ネルの足元へと寸分の狂いなく届けられる
「食らいな!『ガンショット』!!」
ネルは獣のような瞬発力でボールを高く蹴り上げると、空中でその身を翻し、両足でボールを挟み込むように固定した。超高速回転が加わったボールは、文字通り「弾丸」と化してアビドスのゴールマウスへと一直線に射出される
「決めさせない!! 『いかりのてっつい』!!」
セリカが咆哮した。全身から溢れ出す気を右拳に凝縮し、地面を粉砕せんばかりの勢いで飛来する弾丸へと叩きつける。
凄まじい衝撃波がゴール前に吹き荒れた。しかし、ネルのシュートに込められた破壊的エネルギーは、セリカの防御を力ずくでねじ伏せていく。拳で威力を半分に削るのが精一杯だった。
ドォォォン!!
「がはっ……!?」
勢いの死にきっていないボールが、無防備なセリカの腹部を直撃した。肺の空気を全て絞り出されるような悶絶の衝撃。だが、彼女の瞳の火は消えていなかった。
「ぐぅっ……! ま、まだ……負けて……ないんだから!!」
泥臭く、執念だけでボールに食らいつくセリカ。その瞬間、彼女の背後に、不気味で重厚な漆黒の霧が、炎のように揺らめいた
「「!!」」
ピッチ上のネル、そしてホシノ。実力者である二人だけが、その背後に現れた「異質な力」の正体に気づき、思わず息を呑む
「これで……どうだぁぁ!! 『熱血パンチ』!! ……ぐっ!?」
セリカは無我夢中で地面に向けて拳を叩き込んだ。至近距離で炸裂した爆風を推進力に変え、弾き飛ばされそうになる体を強引にゴールポストへと押し当てる。ライン際数センチ――文字通り命懸けの死守だった
「ノノミ先輩……!!」
全身の痛みで視界が点滅する中、セリカは必死に近くのノノミへとボールを繋ぐ
「シロコちゃん、お願い!!」
中盤までボールを運んだノノミが、前線で構えるシロコへとロングパスを放つ。だが、放たれたボールはシロコの走る位置よりも遥か後方へと、力なく転がっていった。そのまま虚しくタッチラインを割り、外へと飛び出していく
「あはは……。ごめんなさい、ミスしちゃいました……。変ね、今の……」
困惑したように笑うノノミ。だが、異変はそれだけでは終わらなかった。
スコアは0-0。一進一退の攻防が続く中、対策委員会の動きは明らかに精彩を欠き始めていた。セリカやノノミが必死にボールを奪い取っても、出すパスが悉くズレる。シロコのはるか後方に飛んでしまったり、逆に追いつけないほど先に行ってしまったり。
司令塔であるアヤネの顔に、焦燥の色が濃く滲み出す。
「……おかしい。パスが、全く繋がらない……!」
FWのシロコに一度も決定機が訪れないまま、アビドスの歯車は音を立てて狂い始めていた。
(おかしい……。みんな、あんなに練習したはずなのに、基礎的なパスミスがあまりに多すぎる。個々のポテンシャルは間違いなく上がっているのに、まるでチームがバラバラだ)
ベンチからピッチを見つめる先生の視界には、限界に近い呼吸を繰り返すセリカの姿があった。ネルの放つ苛烈な「弾丸」を身を挺して止め続けている彼女の体力は、すでに底を突きかけている。このまま防戦一方が続けば、均衡が崩れるのは時間の問題だった。
先生は必死に思考を巡らせる。対策委員会のメンバーがこれほどまでに精彩を欠く原因。その違和感の正体を探り、数日前の光景——あの「修練場」へと向かった彼女たちの背中を思い出した瞬間、雷に打たれたような衝撃が走る
(まさか……本当にチーム練習を一度もやらずに、あの過酷な修練場に籠もりきりだったのか!?)
パズルのピースが音を立てて嵌まっていく。修練場での異常な特訓により、彼女たちの筋力、瞬発力、動体視力といった個人のスペックは飛躍的に向上した。しかし、それを「チーム」として調整する時間を省いてしまった
ノノミは以前と同じ感覚でシロコの走る位置にパスを出しているが、今のシロコは以前よりも遥かに速い。逆に、アヤネがシロコの足元を狙って出すパスは、シロコがトップスピードに乗る前のはるか後方に置き去りにされてしまう。
(個人の上がった力を自分たちでも把握しきれていない。だからパスのタイミングも距離感も、脳内データと現実が乖離しているんだ! ……だが、これをどう伝える? 敵の指揮官はあのヒマリだ。不用意な指示を出せば、即座に弱点を突かれ、逆に「修正」の隙を与えない徹底的な包囲網を敷かれる!)
焦燥が先生を焦がす。その時、ピッチ中央で激しい火花が散った
「隙ありです。先制点は私たちが貰います」
「させません! 『クイックドロー』!!」
「っ!?」
無機質な表情で攻め上がろうとしたトキの足元から、アヤネが素早い動きでボールを奪い取る
アヤネの卓越した集中力。それを見た先生の直感が叫んだ。
(アヤネなら、この状況を理論で理解できる!)
「アヤネ! 自分の感覚を疑え! シロコの『今』の力を、ちゃんとその目で見てからパスを出すんだ!!」
「!?……ど、どういう意味……」
不意に投げかけられた先生の鋭い声。アヤネは一瞬だけ戸惑いを見せたが、彼女の明晰な頭脳は、即座にピッチ上の「異常」と先生の言葉を結びつける
走るシロコの歩幅、芝を蹴る音、空気の切り裂き方。眼鏡の奥の瞳が、データではない「現実のシロコ」を捉える
(シロコ先輩……あんなに、あんなに速かったんですか!? 以前の計算式じゃ、届くはずがない……! ——そういうことですか、先生!)
アヤネは迷いを振り切った。自分の右足に溜まった爆発的な筋力を信じ、以前の自分なら「強すぎる、暴発する」と躊躇するほどのフルパワーで、前方の何もない空間へとボールを叩き込んだ
「シロコ先輩、受けてください!!」
放たれたボールは、まるで目に見えないレールの上を走るかのような驚異的な速度で空間を裂く。そこへ、残像を引くほどの加速でシロコが飛び込んだ。磁石に吸い寄せられるように足元に収まったボールに、シロコが短く応える
「ん。完璧な……パス」
シロコが右足にすべての魔力を集中させる。周囲の気温が急激に低下し、スタジアム中の水分が氷の結晶となって輝いた
「これなら……貫ける。『エターナルブリザード V2』!!」
「っ……嘘でしょ、さっきまでと威力が桁違い——。だけど、止める! 『グレートバリアリ……きゃぁぁぁ!?」
ユウカが必死に展開した防壁を、氷結の嵐が真っ向から粉砕した。衝撃を殺しきれなかったユウカが、悲鳴と共にゴールマウスごと吹き飛ばされる。
電光掲示板の数字が、音を立てて書き換わる
アビドス 1 - 0 ミレニアム
計算を司るミレニアムの頭脳を、計算不能なまでの爆発的成長が上回った瞬間だった
(さっきのあいつの背後……あの揺らめきは、まさか…)
ミレニアムボールで試合が再開される。だが、ボールを足元に収めたネルは即座に攻め上がることをせず、アビドスのゴールマウスに立つセリカを、射抜くような鋭い眼差しで見据えたまま静止した。その猛獣のごとき直感が、セリカの内側に眠る未知の可能性を嗅ぎ取っていた
「貰います!」
その一瞬の迷いとも取れる「静」を、絶好の好機と判断したノノミが猛然とプレスをかけにいく。しかし、ネルの口角が不敵に吊り上がった
「……邪魔だ! どけよお嬢様! 『ヒートタックル』!!」
「きゃぁぁ!?」
ネルの全身から、陽炎のような紅蓮のオーラが噴き出した。肉弾戦車と化したネルの強引な突破に、ノノミは防戦一方となり弾き飛ばされる。ネルはそのまま中盤を蹂躙し、障害物を排除するようにセリカとの完全な一対一の状況を作り出した。
「お遊びはここまでだ、猫耳。……いいか、『今の』中途半端なお前じゃ、本気を出した私からは一点たりともゴールは守れねぇよ!」
ネルが冷たく、死刑を宣告するように言い放ち、その場で低く構える
「……食らいな!」
ネルが頭上に掲げたボールを頭頂部へと固定した瞬間、ピッチを震わせるほどの重圧が彼女の全身に収束する。ネルの両足がピッチの土を抉りながら、足首まで深く地面へとめり込んだ
完全に静止した状態から、大地を掴んだ脚力をバネに全身をしならせる。 「――『キョウボウヘッド』!!」 溜めに溜めた全エネルギーを、文字通り「頭」一点に凝縮して叩きつける。砲弾のごとく射出されたシュートは、大気をねじ伏せるような轟音を上げながら、一直線にアビドスのゴールへと突き進んだ
「な、何なの、この重圧……!! 『いかりのてっつい』!! ……っ……きゃぁぁぁ!?」
セリカも渾身の力を右拳に込め、決死の迎撃を試みる。しかし、飛来するボールはまるで巨大な岩塊のようで、接触した瞬間にセリカの手首に凄まじい負荷がかかる。力ずくでねじ伏せられ、彼女の体はボールと共にゴールネットへと突き刺さった
電光掲示板のタイマーが止まり、無情な電子音が響く。スコアは1-1。一瞬にして同点へと引き戻されてしまった
アビドスボールからの再開。アヤネから放たれた鋭いパスを受け取ったシロコは、すぐさま敵陣へと一直線に駆け出した。その背中には、焦燥の色が濃く滲んでいる
(今のセリカに、あのネルのシュートを何度も受ける体力はない……。それに、ネルはまだ何か決定的な「力」を隠してる。私が、早く決勝点を奪わないと、アビドスが負ける……!)
呼吸を乱し、最短距離での突破を試みるシロコ。だが、その直線的な動きは、これまで影のように息を潜めていた「必殺の狙撃手」にとって、格好の標的でしかなかった。角楯カリンの鋭い双眸が、スコープ越しのようにシロコの動線を捕捉し、青い光を放つ。
「……逃さない。『蜘蛛の糸』」
「っ!?」
「ああっ、私の出番が……またなくなっちゃいました」
エイミが呆然と立ち尽くすのを他所に、カリンが地面に突き立てた足元から、巨大な光の網状のオーラが蜘蛛の巣のように展開された。シロコの突進はその不可視の網に絡め取られ、完璧に停止させられる。カリンは無造作にこぼれたボールを回収すると、最短ルートで再び「エース」へと楔のパスを送る
「ネル、仕留めて」
ボールは、再びあの「猛獣」の足元へと戻ってしまった
「……自分の力すらも把握できてねぇような甘ちゃんに、私の本気を止められるわけがないだろ。このシュート、さっきのよりさらに出力を上げて叩き込んでやる。……死にたくなきゃ、今のうちにそのゴールから逃げるこったな」
ネルの瞳には、一切の容赦がない。その小柄な体から放たれる殺気は、スタジアムの喧騒さえも凍りつかせるほどの冷徹さを帯びていた
(嘘……でしょ!? さっきのシュートだって、私の『いかりのてっつい』を完全に打ち破る威力だったのに……あれ以上のものがあるっていうの!?)
セリカは震える膝を必死に抑え、迫り来る「理不尽」に視線を固定する。だが、その予感は最悪の形で現実のものとなった
「――来い!! 『慈愛の女神メティス』!!」
ネルが低く、地の底から響くような声で唸ると、彼女の背後の空間が歪み、圧倒的な質量を持った幻影が立ち上がった。褐色に輝く肌、風もないのに激しく波打つピンク色のロングヘア。その神々しくも、狂暴な闘争心を隠そうともしない巨大な姿に、観客席からも悲鳴に似たどよめきが沸き起こる
(化身……!? あの時に見た、ヒナさんのプレッシャーと同じ……いや、今のネルさんからはそれ以上の、逃げ場のない圧力がかかってる……!)
その圧倒的な威圧感は、セリカの防衛本能を麻痺させようとしていた。「勝てない」「止まるわけがない」という絶望的な思考が脳内を支配し、彼女の指先から力が失われていく
しかし、そのとき、ピッチの中央でトキとエイミの執拗なマークに遭っていたホシノが、全身の力を振り絞るようにして叫んだ
「セリカちゃん!!」
その鋭い声が、沈みかけていたセリカの意識を強引に引き戻した
「全力を出した結果なら、ここで負けたっていい! おじさんが許してあげる! ……けどね!! 自分に負けて、受ける前から諦めることだけは絶対にダメだよ!!」
その言葉は、まるで電流のようにセリカの全身を駆け巡った。霧が晴れるように視界が明瞭になり、彼女の心臓が激しく、力強く拍動を再開する
(そうよ……ここで逃げたら、私を信じてゴールを任せてくれたみんなに、どんな顔をして会えばいいの。止められるかどうかなんて関係ない。止めるために、死ぬ気で全力を出す! それが……それこそが、私たちアビドス対策委員会なんだから!!)
セリカは一度、自分の両頬をパチンと気合を込めて叩く。先ほどまでの怯えは消え、その瞳には、どんなシュートでも止めてみせる「守護神」の覚悟が宿っていた
ネルは、セリカの瞳に宿ったその光を確認すると、満足げに、そして残酷に口角を吊り上げた
「……いい目になったじゃねぇか、セリカ!!だったら、その覚悟ごと粉砕してやるよ! 『アテナ・アサルト』!!」
女神メティスが手に持った銃から、青と赤、二つの巨大なエネルギー弾が放たれ、空中で一つの奔流となってボールへと収束する。次元を歪めるほどの衝撃を伴い、光の弾丸がセリカへと肉薄した
「これが私の…全力だぁぁぁ!!!」
セリカが絶叫した瞬間、彼女の全身から眩い黄金色のオーラが噴出する。しかし、その光は即座に重厚な漆黒のオーラへと変貌を遂げ、彼女の背後で凝縮されていく
空間を震わせる咆哮と共に、その姿を現したのは伝説の巨人――**『魔人グレイト』**
黄金に輝く筋骨隆々とした巨躯は、ゴールマウスを完全に覆い隠すほどの圧倒的な質量を持ち、その頭上には天を突く二本の角と、燃え盛る炎のような紅髪が逆立っている。魔神がその巨大な四つの拳を握りしめると、周囲の空気は激しく歪み、スタジアム全体にビリビリとした神聖なまでのプレッシャーが伝播する
「『グレイト・ザ・ハンド』!!」
セリカの動きと完全にシンクロし、魔神がその巨大な掌を正面へと突き出す。ネルの放った光の奔流と、漆黒の魔神の掌が激突した。
ドォォォォォォン!!!
スタジアム全体を揺らすほどの衝撃波が吹き荒れ、ゴール周辺の芝が円状に捲れ上がる。あまりの威力にセリカの足元が数センチ地面にめり込んだが、彼女はその一点から一歩も退かなかった。火花を散らし、激しく抵抗を続けるボール。だが、魔人の掌がそれを完全にねじ伏せる
凄まじい轟音が静寂へと変わる。そこには、ネルの最強のシュートを、魔神の力と共にガッチリと掌中に収めたセリカの姿があった
「おおーっと! 信じられない光景だ! ここでアビドスの守護神、セリカさんが『化身』を発動! 絶体絶命のピンチを自らの魂の力でねじ伏せたーっ!」
モモイの絶叫に近い実況がスタジアムのスピーカーを震わせる。
「なっ……!? あの、ただの意地っ張りなだけだと思っていたキーパーが……この土壇場で化身使いに覚醒したというのですか……!?」
ベンチでヒマリが、手にしたティーカップを危うく落としそうになりながら愕然と目を見開く。超天才の計算を、泥臭い「覚悟」が軽々と飛び越えた瞬間だった
「ノノミ先輩っ!! 行って!!」
セリカが魔神の手でガッチリと掴んだボールを、渾身の力で前線へと放り投げる
「任されました! ここからは私たちのターンです♪」
ノノミが柔らかな、しかし力強い動作でそのボールを胸でトラップし、長い脚を活かしたストライドでピッチを突き進む
「っ……今は、ホシノを抑えるより、波に乗っているノノミを止める方が優先!」
「ターゲット変更、ノノミを遮断。それが現時点での最適解……!」
ホシノを執拗にマークしていたエイミとトキの意識が、セリカの化身覚醒という「計算外の事象」に揺さぶられ、一瞬だけノノミの突破へと向けられた。ヒマリがベンチから身を乗り出し、喉を枯らして叫ぶ
「ダメ!! 二人とも、マークに戻って!! 誘い出されてるわ、致命的な隙ができている!!」
だが、その警告よりも早く、アビドスの「最年長」が動いた
「ホシノ先輩!」
「ん、任されたよ」
「「!?」」
二人がノノミへと意識を向けた刹那、ホシノは爆発的な一歩でマークを振り切る。ノノミの放った鋭いキラーパスが、吸い込まれるようにホシノの足元へと通った
「行かせません……!」
最短距離でゴールへ向かうホシノの前に、狙撃手カリンが最後の壁として立ち塞がる。
「セリカちゃんがあれだけの全力を見せてくれたんだから……おじさんも少しくらい、格好いいところを見せないとね! 行くよ――『デザートドリフト』!」
ホシノの姿が揺らいだ。まるで灼熱の砂漠で見せる陽炎のように、彼女はピッチの上を滑るような独特の軌道で爆走する。舞い上がる砂煙がカリンの視界を遮り、彼女が奪取を試みる隙さえ与えず、ホシノは瞬時にその脇を抜き去った
そのままボールは、最前線で飢えた獣のように待つ砂狼シロコの元へ
「ん。……これで、決める!」
だが、シロコの前に、ミレニアムの誇る鉄壁、早瀬ユウカが最後の砦として立ち塞がった
そのユウカから放たれる気迫は、これまでの比ではない。敗北を許されない会計の意地か、それとも先生の前で無様な姿は見せられないという乙女のプライドか。シロコの目には、立ちはだかるユウカの存在が物理的に巨大化したかのような錯覚さえ覚える
(今の『エターナルブリザード』じゃ……この気迫を、この壁を突破できない……!)
シロコが直感的にそう確信し、一瞬の膠着状態が生まれたその時。彼女の視界の端から、もう一つの青い閃光が猛スピードで駆け上がってきた
「一人がダメなら……二人です!! 私たちの連携を、見せてあげましょう!」
後方から全速力でオーバーラップしてきたのは、アヤネだった。シロコは信頼を込めた不敵な笑みを浮かべ、氷結の力を限界まで溜めた『エターナルブリザード』の構えを取る
極限まで凍りつき、空間の水分を吸い上げて巨大化した氷の球を宙へと蹴り上げるシロコ。その最高到達点、最も威力が増した瞬間のボールに、飛び込んできたアヤネが魂を込めたボレーを叩き込む
「「――『ザ・ハリケーン』!!」」
氷結の嵐に、全てをなぎ倒す旋風が加わり、巨大な竜巻となってユウカへと襲いかかる。
「こ、こんな技、私たちのシミュレーションには一文字も存在しないわよ!? だけど……止める! ここが、セミナーの、私の意地よ!! 『ギガントウォール』!!」
ユウカが自身の「計算された質量」をすべて右拳に凝縮し、拳一つで荒れ狂う嵐へと立ち向かう。しかし、アヤネとシロコの想いが乗った疾風は、科学によって積み上げられた壁を、内側から粉砕するように易々と飲み込んでいった
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
スタジアムを震わせる凄まじい爆発音。
衝撃に耐えきれず、ユウカが後方へと吹き飛ばされる。同時に、引きちぎれんばかりにゴールネットが波打ち、審判の長い笛の音が響き渡った
『ピ、ピ、ピーーーーッ!!!』
「決まったぁぁぁ! ゴールイン! スコア2対1! 激闘を制したのは……アビドス対策委員会チームだぁぁぁ!」
「すごい、本当にすごい試合だった……。お姉ちゃん、私、ちょっと感動しちゃった」
モモイとミドリの声が響く中、スタジアムは割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。ユウカが倒れ込んだゴールの中、激しく回転を続けるボールが、アビドスの勝利を雄弁に物語っていた
「やりました……やりましたね、シロコ先輩!」
アヤネが激しい呼吸の合間に、弾けるような笑顔を見せた。その眼鏡は激闘の余波でわずかに曇っていたが、その奥にある瞳はかつてないほど誇らしげに輝いている
「ん。アヤネが、あの瞬間に信じて走り込んでくれなかったら……きっとユウカに止められてた。ありがとう、アヤネ。最高のタイミングだった」
シロコは短く、しかし最大限の敬意を込めて応えると、二人はピッチの上で力強くハイタッチを交わした。掌から伝わる確かな熱が、勝利の実感をじわじわと全身に広げていく
「か、勝った……勝ったんだ、私たち……」
アビドスのゴールマウス。その守護神たる役目を果たしきったセリカは、歓喜に沸くスタジアムの光景を呆然と眺めていた。だが、安堵が訪れた瞬間、緊張の糸がぷつりと切れた
「あ、れ……?」
膝に力が入らない。初めて呼び出した未知の力――『化身』。魂を削り、精神力を極限まで燃焼させて顕現させた魔神の代償は重く、彼女は重力に逆らえなくなったように、その場にへたり込んでしまった
「セリカちゃん!」
先生やシロコたちが異変に気づき、心配して駆け出そうとしたその時だった。誰よりも早くセリカに歩み寄り、無造作に手を差し伸べたのは、意外にもつい先刻まで死闘を演じていたミレニアムの絶対的エース、ネルだった
「ほら……セリカ、立てるか? 無理しすぎなんだよ、バカ正直に」
「あ、え……。ありがとう、ネルさん」
セリカは驚きに目を見開きながらも、差し出された小さくも力強い掌を掴んだ
「セリカちゃん、無理しないで。私に捕まって」
そこにホシノが滑り込み、ふらつくセリカの体を優しく支える。セリカはホシノの肩を借り、なんとか自分の足で立ち上がったが、指先一つ動かすのも億劫なほどの虚脱感が彼女を襲っていた
「初めて化身を、それもあれだけの出力で引き出したんだ。全身の力がしばらく戻らないのは仕方ないよ。よく頑張ったね、セリカちゃん」
ホシノが労うようにセリカの頭を撫でる。その温かさに瞳を潤ませながらも、セリカは隣を歩くネルに、ずっと胸に抱いていた疑問を投げかけた
「……ねぇ、ネルさん。試合の途中の、あの酷い挑発……。もしかして、私が『化身』を出すように仕向けるために、わざとやったんじゃないの?」
一瞬、ネルの足が止まった。彼女は顔を背け、気まずそうに、しかしどこか満足げな鼻笑いを漏らす。
「さあな。そんな計算、私には似合わねぇよ。……ただ、どれだけ絶望的な威力だと分かってても、逃げずに私のシュートに食らいついてくるような馬鹿正直な奴を、私が気に入ったってのは事実だけどな」
その不器用なエールは、理詰めのミレニアムの中にあって、誰よりも熱く、真っ直ぐなネルなりの敬意の示し方だった。
夕焼けに染まるスタジアムの芝生の上。アビドス対策委員会は、ミレニアムという最強の「算術」と「合理性」の檻を、彼女たちの予測不能で不確定な「絆」で見事に打ち破ったのだ
「いやー、本当にすごい試合だったねー! 特に最後のユウカが大きくなるところなんて、まさに圧巻! 元々太かった太ももが、さらにこう、ボーンって大きく……」
「お、お姉ちゃん! まだマイクが入ってるよ! スピーカーから全部筒抜けだってば!」
いい雰囲気で幕を閉じようとしていたスタジアムに、マイクを切り忘れたモモイの無邪気な追撃が響き渡る
「モーーーモーーーイー!!! どこまでも、余計な事ばっかり言って!!」
先ほどまでぐったりとしていたユウカだったが、一瞬で顔を茹で上がったタコのように真っ赤にし、叫び声を上げながらゲーム開発部の実況ブースへと猛烈な勢いで走り出していった。そのスピードは、試合中のどの選手よりも速かったかもしれない
「……ふぅ。おじさん、もう限界だよ。お腹と背中がくっついて、そのまま砂漠の砂になっちゃいそう~」
「ん。決まり。今日の夕食は柴関ラーメン。セリカの化身覚醒祝い……先生、当然奢り」
「もちろんだよ! 先生の財布も覚悟を決めるから、みんなで食べに行こう。セリカは……お祝いだし、チャーシュー大盛りでいいかな?」
「なんで私だけ大盛り固定なのよ!? 乙女のカロリー計算を無視しないで……っ。……まぁ、今日は特別に食べるけどさ!」
勝利の喜びと、仲間との賑やかな会話。
夕暮れのスタジアムに笑い声を響かせながら、セリカたちは傷だらけの体を誇らしく揺らし、さらなる高み、次なる決戦の場へと一歩を踏み出すのだった
ゲームの会話を頑張って聞いたりして調べつつやるけど難しい…ネルはこんな感じなのだろうか?