銀河戦国群雄伝ライGQuuuuuuX!   作:白水つかさ

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第三話 紫電清霜旗

智軍は、旧領を次々に解放していった。

錬が主攻方面を五丈としたため、各星系にとりたてて問題にするほどの防衛戦力が配備されていないためもある。

とはいえ、そもそもこの進軍の原因となったのは、

 

――軍港がない。

 

という事実であったから、星ぼしにかろうじて残る民間船のためのドックに、整備を必要とする艦艇を置きのこしていくことはさけられない。

国境線の港湾は姜子昌に破壊されたが、夷との境界を越えて深々と刃を突きいれれば、占領軍たる錬にとっても必要なある程度の補給設備はのこされている。

どうしても整備や修理が必要な艦艇を選ってドックに入れ、後日の復帰を期待しつつ先にすすむほかなかった。

 

そうして目減りした智軍ではあるが、南帝閣のいわば城門たる要害の惑星、座王都を目前として、さすがに錬の守備隊との決戦が生起するであろうとおもわれた。

二万隻をかぞえるかどうかという防衛戦力ではあるが、補修で戦力が目減りし、かつは正宗の采配をえられない智軍にとっては、あなどることはできない相手であった。

 

「敵軍には、いまだ動きはありません。ここまで目立った抵抗にあわなかったのは、星ぼしの小勢を座王都まで引き下げていたからだと推測されるので、相応の兵力が集結しているはずですが」

 

「しかし我々は騎虎の勢い、このまま座王都を解放すれば、南帝閣までさえぎるものはもはやありません。敵軍が手ぐすね引いて待っていようと、ふるえあがっているだけであろうと、突進あるのみです」

 

虎丸の御前会議で、飛竜と趙普がこもごもに進言する。

 

けして思い切りのわるい少年ではないが――数年前には、竜我に斬りかかったこともある――、いまの虎丸に正宗とおなじ采配を期待することはできまい。

これまで正宗が政務を一手にになっていたことは、ふたりもわかっている。

だが、すくなくとも決断をくだすのはかれの仕事だ。

 

「そうだな――」

 

虎丸の目がおよぐ。

これまでであれば、かたわらには正宗がいた。

しかしその正宗は交渉、そのじつは竜我と羅候のうごきを望ましい方向に誘導する置き石として、五丈にある。

すなわち、かれが

 

智王

 

に、なれるかどうかの正念場であったし、また、飛竜らもあえてその場を設けているといえた。

正宗は、出立する前に虎丸に残したのはひとことだけであった。

 

「迷ったときは、進め」

 

虎丸は、揺れつつもしっかりとした声でつげる。

 

「ゆこう。座王都へ。南帝閣へ、智へ」

 

 

* * *

 

 

だが。

 

座王都をまえに智軍をむかえたのは、砲身をかざした錬の艦隊ではなかった。

たしかに艦隊ではあるが、

 

紫電清霜(しでんせいそう)

 

と旗標をかかげ、砲門をとざして整然と陣を敷いている。

およそ二万隻の艦艇の先頭に立つのは、じつに十代もなかばのむすめであった。

そのうしろに、錬の守将としてまみえるとおもわれていた、楊隼(ようじゅん)楊飛(ようひ)といった顔ぶれが不可思議にもおとなしく――いや、目がおかしくなったのでなければ、奇妙なほど楽しそうに、居ならんでいる。

 

「これは、どういうことだ」

 

兵の前であることもわすれ、趙普がぼうぜんとしてつぶやいた。

もっとも、かれを責めるわけにもいくまい。

将士もみな目のまえの光景をつかみかねていたし、すくなくとも即座にいくさになるわけでもなさそうなのだから、まずはそう口にする理由と、悩むだけの余裕はある。

 

「武器をむけてくる様子はないが……」

「まずは、伝令をさしむけましょう。智に味方するものならば、ありようを知らせてくるはずです」

 

ためらいつつも艦橋に立つ虎丸に、飛竜がまずは冷静な進言をおこなう。

 

「しかし、それならば連中から出むいてくるのがすじではありますまいか」

「試されているのかもしれません」

「ためす? 飛竜殿はあのやからが智王を試すといわれるのか」

 

「かつて私たちは、錬に対して立ち上がったひとびとを援助できませんでした。そのじつは五丈の策略であったとはいえ、知らなければ、正宗公の使嗾で立ち上がったのに見捨てられたとおもうものもいるでしょう。ゆえにその轍は二度と踏まぬ、まずは心胆を見定める、と」

 

ことばを交わすふたりを、虎丸はうろたえて見る。立ちあがりかけて、ふたたび床几にすわりこんでしまった。

それでも無関心よりはよほどよい、と飛竜はおもう。

すくなくとも、国のゆくすえをわがことと思っているとはわかる。

 

「やはり、使者をつかわせよう。姉上ならともかく、わたしが出むいてもあなどられるだけだ」

 

やや気弱な発言ではあるが、飛竜、趙普ともに異存はなかった。

 

「虎丸ぎみには失礼ながら、たしかに、いまは姿をみせないことが賢明でしょう。相手の真意がさだかでないうちに、正宗公の不在を教えることはありません」

 

「飛竜どのでもやはり、副官があらわれるなら正宗公はいずこ、と思われかねません。まして相手も女人とはいえ、智の兵が女の袖に隠れるかと笑う者がないとも申せず。ここはそれがしが」

 

「いえ、私は単独で五丈に使いしたこともあります。あのむすめや錬の守将がそれを知っているとも思えませんが、ひとりで交渉に赴いたとてさして珍しいとはみられないでしょう」

 

「ふむ……」

 

と、ふたりはまるで示しあわせでもしていたかのように、結論をださぬままにことばを濁す。

 

(虎丸ぎみ、いや、智王)

 

と心の声がきこえるようであった。

それは虎丸にもわかる。

 

――が。

 

だが、答えられない。

両名はどうおもうか、と問い返すのがせいいっぱいであった。

 

飛竜と趙普は、今度はじっさいに顔を見あわせる。

失望とまではいわぬが、できうればなんらかの意見をしめしてほしかったところではあろう。

進む、もどるではなく、ふたりのうちいずれかを――あるいはほかのだれかを――(えら)ぶことができるようになってもらわねば、という腹はある。

 

とはいえ、いつまでも使者を出さないわけにはいかない。

 

「では、私が」

 

飛竜が、一歩進みでる。

虎丸がうなずき、趙普にも異存はない。

小舟を出して、飛竜は心根のわからぬ艦隊のもとへとむかった。

 

 

* * *

 

 

飛竜をむかえたのは、異様な雰囲気であった。

 

異様、といっても、おぞましいという意味ではない。

いわば祭りのまえ、いや、祭りのさなかとでも表現できそうな、はちきれそうな活気。

しずまりかえっていてそれなのだから、たしかに、かのじょの経験にはない空気であった。

 

「飛竜と申す。智王の名代として参った」

 

型どおりに名乗ったかのじょに、少女がつかつかとあゆみよる。

飛竜の肩くらいまでしかない小柄なからだながら、背伸びもせずに手のとどく距離までちかづき、肩を抱きかねまじき親しさでいう。

 

「名代。して、智王はいずこに」

「それは、あちらに」

 

だがことばのなかみは、いささか剣呑であった。

曖昧に後方の艦隊をさす飛竜に、ずばりと続ける。

 

「あるじはいずこに、といったほうがよいか。飛竜殿のあるじはいずこに」

 

詰問とは、ことなっていた。

表情はあくまでも親しく、そのまま茶でもふたりで喫しそうなほど。

しかし、そうであるにもかかわらず、飛竜の背にはじっとりと汗がにじんだ。目がおよぐ。

 

「さきに申し上げておけば、わたしのあるじはわたしだ。智王どのにくれてやりたくて、艦隊をまとめたわけではない」

 

さすがに、飛竜の手がうごきかけた。

武芸では、正宗の援護射撃はあったにせよ、竜我と五分に打ち合ったことさえある飛竜である。

小むすめひとりの首をはねるも、人質にしてこの場をのがれるも、いずれもたやすく果たせるはずであった。

そうしなかったのは、むすめの口調がいまなおまったく邪気のないものであったことと、

 

――気配。

 

とでも、いうほかないなにかのためであった。

この世のすべてはおのれの舞台であるとでも言いたげな、稚気とも傲慢ともことなるなにか。

 

「ああ、これは言いかたがまずかった。くれてやりたくなくてまとめたわけでもないのだ」

 

無造作に髪をくしゃくしゃとかきまぜるむすめ。

その幼いとしかいいようのないふるまいに、一瞬だが、飛竜は虚をつかれた。

少女の背後に居ならぶ将士たちのなかにも、額をおさえている者がいる。

錬の軍として智領をおさえつけていたかれらの感じているであろう頭痛に、いまの飛竜はかすかな共感さえおぼえてしまった。

 

「どろぼうが気にいらなかったのでわたしなりに動いてみたら、このようなことになっている。そなたのあるじになら、このさきを相談できるのではないかとおもったのだが」

 

「泥棒がなにものかは、わかるつもりだが」

 

わかるもなにも、うしろに居ならんでいる。

それゆえ口に出してよいものかと迷う飛竜の目の前で、かれらのなかではひときわ目立つ、飛竜は錬の将として認識している楊隼が苦笑いしつついった。

 

「遠慮していただかずともよい。たしかにわれらは民をぬすむ賊であった。だが、いまはちがう」

「智に帰順すると?」

「それもちがうな。紫電清霜の旗のもとで楽しくやりたくなった。それだけだ」

 

ひとりの口から語られたことばだが、将士がみなおなじ思いであることは明らかであった。

 

――なるほど。

 

と、飛竜はなかばいきどおりのように理解した。

どのようにしてかはまだわからぬが、このむすめは、一万の軍勢を部下でも下僕でもなく、なかまにしてしまったらしい。

きりと、奥歯が鳴った。

 

「苦労をしたことが、なさそうだな」

 

「よくいわれる」

 

少女はかわいく舌をだし、申し訳ていどに申し訳なさそうな表情をしていたが、それでも飛竜は横つらをひっぱたきたくなった。

おんなであることで自分が、そして正宗がどれだけ苦労してきたかと。

これからも苦労をしなさそうな、あるいは苦労を苦労ともおもわなそうな楽観がありありとただよっていることも、かのじょをいっそういらだたせる。

 

だが、このむすめがいったのも、

 

――あるじはいずこに。

 

であった。

おんなである正宗――紅玉――のことであるのはあきらかだ。

意識してこころの波立ちをおさえつけ、かのじょは問う。

 

「相談といったな。私では不足か」

 

ころげおちそうに大きな、そしてかわった色のひとみで、問うた飛竜を少女がじっとみつめる。

こころのどこまでが読まれているのかわからないが、飛竜もこんどは目をそらさない。

 

やがて、少女がいった。

 

「いや。楽しそうだ」

 

安堵の息をこぼすことを、飛竜はかろうじてこらえた。

 

「名は?」

 

楪羽(ちょうう)。王楪羽」

 

ちいさな胸を張って、燦然と少女は名乗った。




反○○ではなく○○ジークアクスを名乗るからには、というおはなしでした。
きっと武器は斧。
はらへりむしはいずこに?

なお、楊隼・楊飛のふたりも創作キャラですが、原作で飛竜をはじめ(ちょい役ながら)瑞鶴・翔鶴もいるので、隼鷹・飛鷹の前後をひっくり返したネーミングです。
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