汎モルガン「どけ!!! 私はお姉ちゃんだぞ!!!」   作:花のお姉ちゃん

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2話 ハイセンスお姉ちゃん

 

 

「どうやら私達は、姉妹だったようですね」

「今、名前聞いたのに!?」

 

 モルガンは才女である。

 少なくとも、かつて先王に仕えていた一番の騎士であるエクターはそう認識している。

 偉大なる王の血を受け継ぎ、宮廷魔術師マーリンからの手解きを湯水の如く吸収する天才。

 あくまで一介の騎士であり魔術の才がなかったエクターには、それがどれほどの事であるか正確に推し量る事は出来なかった。

 だがかつてのエクターは先王の一人娘である姫君の姿を見て、未来のブリテンは安泰だと柔らかな笑みを浮かべていたものである。

 

 それがどうした事だろう。

 今、目の前にいるかつての姫君は、幻覚でも見たかのような異様な雰囲気で妄言を口にしている。

 いや……正確には妄言ではなく彼女達は本当に姉妹である為、モルガンはこの土壇場で冷静に真実を見抜いている。流石はモルガン様……と言いたいところだが、この場ではエクターのみが知っている先王と花の魔術師の計画が、モルガンへの旧知の忠誠を遮った。

 

 モルガンは、先王と花の魔術師から裏切られた。切り捨てられた。

 新たな先王の血を継ぐ者、アルトリア。

 自らの居場所と王としての権利を奪った妹の姿に、憎悪を抱いても何らおかしくはない。

 むしろエクター達の一家が世間から離れた場所でひっそりと暮らしているのは、何もヴォーティガーンを警戒しているからだけではない。妖妃モルガンに見つからない為でもある。

 

 そう。目の前のかつての姫君は——妖妃モルガン。

 確かな悪事を働き、多くの騎士と国を傾けた、呪いの魔女である。

 

「——どけ、親父」

 

 天と向かい合っているのかの如く目をかっ開いたまま、滝の如く涙を流すモルガン。

 言動が意味不明だが、急に女性が泣き出すという事態にアタフタしているアルトリアと、彼女達の複雑な関係を知るが故に足が止まるエクター。

 そんな場所に果敢にも踏み込んで来たのは、エクターの一人息子にしてアルトリアの義兄(お兄ちゃん)、ケイだった。

 

 彼はアルトリアと同じく、先王と魔術師の計画を知らない。

 彼が唯一アルトリア以上に知っている事は、父親のエクターがかつて偉大なる王に仕えていたという事。

 その事実が、今全て繋がった。

 

 父が急に連れて来た挙句、弟と思いなさいと言われてるからそうしている、明らかな妹。

 そんな妹を見て姉妹だと告げた、妖妃モルガン。

 アルトリアは先王ウーサーの隠し子だ。

 男として密かに育てられ、次の王になるように仕向けられている。

 何らかの形でモルガンは隠し子の存在を知ったのだろう。或いはこの邂逅は偶然かもしれないが兎も角、今モルガンとアルトリアが出会うのは碌な結果にならない。

 

 成長して手が付けられなくなる前に、アルトリアを殺す。

 

 騎士として力はまだ不完全。王としての権威すら欠片もない。

 ただの発展途上のガキを殺める事など、妖妃からすれば赤子の手を捻るより容易いだろう。

 サー・ケイ。

 騎士として実力不足。未発達も良いところ。

 しかし今は、アルトリアのたった一人の騎士。

 この場で動けるのは、父親と自分くらいしかいない。

 

 突撃と共に突き出した槍の穂先が、モルガンの胴体へと伸びる。

 相も変わらず、天を仰ぎ見たまま微動だにせず涙を流し続けるモルガンは、サー・ケイの事を見ていない。

 当たる。ここで消えてくれ。

 一人の女性を——否、父が仕えたかつての姫君を殺める。その行為を為した後の事など意識に追いやり、今その刃がモルガンに触れるという時。

 

 ——パァンッ!

 

 乾いた音だった。突如響き渡るクラップ音。

 槍の穂先が空を舞う。視界が突如切り替わる。

 動揺の最中、自分の真後ろから気配がした。

 

 ——これは……俺とモルガンの位置が入れ替わっている……!?

 

 振り返った先にいるのは、妖妃。

 いつの間にかアルトリアを庇うように抱き止めている。

 早すぎる。あまりにも一瞬の出来事。

 だがモルガンが、ケイを振り切るほどの身体能力を見せた訳ではない。

 そも空気が動いた痕跡すらなかった。

 

「まさか空間転移を……!?」

 

 驚いたのはエクターだった。

 彼は魔術の事を全くと言って良いほど知らない。

 だからこそ、かつてのエクターは花の魔術師に聞いた。

 もしも瞬間的に移動が出来たら便利ではありませんか、と。

 距離の概念を無視した移動。戦の概念が変わる未知への渇望。

 花の魔術師であれば、あるいは。

 

 ——うーん、それは流石のボクでも難しい。誤魔化すならともかくだけど、こればかりは少し専門外さ。目的地の到達という結果の割に、空間転移は魔法の領域だからね。

 

 しかし帰って来た言葉は虚しかった。

 花の魔術師の言葉は難しく、また詳しい説明をする気などなかったのかそれ以上の言葉はなかったが、空間転移は花の魔術師マーリンでも難しい魔術なのだという。

 

 それを、手を叩くという動作だけで行ったモルガン。

 もしやモルガンの魔術の才は、遂にあのマーリンすら飛び越えてしまったのか。或いは何らかの反則や例外を以ってして行った魔術なのだろうか?

 エクターにはその差が分からない。 

 彼に分かるのは、今のモルガンは人智を凌駕した存在であり、敵うような相手ではないという事のみ。

 

「——貴様」

 

 圧のある冷たい声。

 明確な殺意と共に、モルガンがケイの方へ振り返る。

 小柄なためか妙にフィットするアルトリアを抱きかかえた状態で。

 

「我が妹の前だ。流血沙汰はよしてやろう。だが二度目はない。疾く往ね」

「(クソっ……! やっぱりこれがコイツの本性かよ! チクショウ!!)」

 

 やはりモルガンは妖妃。何処まで行っても魔女。

 冷酷で残忍。そして苛烈。自らの目的の為なら他者を厭わない悪女。

 先程のアルトリアへの妄言も、ケイには警戒を解き静かに取り入ろうと企む魔女の姦計に思えてならなかった。

 

「………あの、お姉さん」

 

 エクターとケイ。二人が魔女モルガンを前に硬直している中、抱えられているため足を宙にぷらーんとさせている10才のアルトリア。

 何となく状況が掴めて来た彼女は、ここで類い稀なる直感を見せる。

 

「嫌いになりますよ?」

 

 モルガンの魂は即座に砕け散った。

 

 

 

×        ×         ×        ×

 

 

 

 魔女。才女。

 妖妃。姫君。

 

 ケイとエクター。両名が抱くモルガンの印象がガラガラと崩れ去る中、「取り敢えず害意はないと思います」というアルトリアの一声により、彼らはメソメソと泣くモルガンと共にエクターの家に戻った。

 

 愉快な人が来たなぁ。

 と、初対面かつモルガンの悪評を知らないアルトリアは義兄と養父ほどの警戒がない。

 強いて言うなら明らかに高貴そうな人が来た事による不安だけであり、メソメソと泣くモルガンを宥めている途中も、義兄からの心配混じりの警戒を彼女は「まぁまぁ、貴婦人が泣いているのですよ」と流すばかりであった。

 

「ひとまず………」

 

 妹に慰められた為か逆に元気になって来たモルガンを前にして、ようやく話が出来るとエクターが切り出した。

 四人、向かい合うように座り、話を始める。

 落ち着いたモルガンの所作に気品があるなぁ、と変わらずアルトリアだけは気楽である。

 

「味方、で良いですかな」

 

 尤もアルトリアが気楽にしている最大の理由は、モルガンの悪評を知らないが故。

 だからこそ、かつての姫君モルガンを知り、そして次第に堕ちていった妖妃モルガンを知るエクターは問いかける。

 或いは勘違いであってくれと。風の噂でも聞くモルガンの悪評は、口さがない者たちの嘘であってくれと。

 

 迂遠な言い回し。

 まだ穢れを、自らに課せられた厳しい運命を知らぬアルトリアを前に糾弾することは出来ず、願望と共に問われたエクターの言の葉にモルガンは返す。

 

「違います」

「………なんですと?」

 

 味方ではない。そんな、まさか。

 ひとまずとはいえ、モルガンは妹を前にして狂わなかった。

 嫉妬と憎悪に身を焦さなかった。それすら嘘だったのか。

 多くの諸国を傾け、多くの男を破滅させた魔女としての悪評も、偽りではなかったのか。

 再びの警戒を滲ませ、エクターの眉間に皺が寄る。

 

「私はお姉ちゃんです」

 

 眉間に寄った皺が更に深くなった。

 

「あの、真面目にやってくれませんか?」

「取り敢えず一回呼んでみてはくれないでしょうか。お姉ちゃんと」

 

 これには流石のアルトリアも声をあげるが、モルガンは止まらない。

 モルガンは妹を前にして狂っているのである。

 

「チ………やってらんねぇな」

 

 もしかして愉快な人ではなく、やばい人なのかなと警戒し始めたアルトリアと、段々呆れが強くなって来たエクター。

 アルトリアはまだしも、エクターはかつての姫君であるモルガンを知るからこそ厳しく問い糺す事が出来ない。

 ケイ。極めて純粋に、モルガンを魔女として警戒している彼は直接的に問い糺した。

 

「モルガン。魔女として悪名高いお前が一体ここに何をしに来た? 十中八九アルトリアの事だろうが、何が目的だ。答えろ」

「ケイ兄さん……」

「アルトリア、お前は口を挟むな」

 

 アルトリアからすれば、何故こうまで義兄がモルガンに嫌悪と怒りを向けるのか分からないのだろう。

 無論、頭が回る義兄のことだ。何か理由はあるのだろうと察してはいる。

 魔女。そう呼ばれるだけの何かはあるのだと察し始めてもいる。

 しかし、やはりアルトリアには湖の精霊の如きモルガンの姿にそこまでの危険性が感じられない。

 

「……………」

 

 感情の読めぬ瞳が、ケイの方を向く。

 少しの間を挟み、モルガンは答えた。

 

「私は、お姉ちゃんです」

「テメェ……まだ——」

「アルトリア・ペンドラゴン」

 

 ケイとエクターが息を呑んだ。

 アルトリア。一瞬の間と驚愕を挟んで、気付く。

 ペンドラゴン。それはブリテン島で最も偉大とされた先王の姓であり、卑王ヴォーティガーンによって亡きモノにされた希望の証。

 

 "ウーサー王は後継者を選ばれている"

 "この人物こそ次代の王。赤き竜の化身"

 "新たな王が現れた時こそ円卓の騎士たちは集結し、白き竜は敗れ去る"

 "王は健在なり。その証はじき現れるだろう"

 

 ブリテン島を駆け巡った、花の魔術師の予言。

 いずれ現れる希望の星。

 当の本人だけが、まだそれを知らない。

 

「花の魔術師と先王の手によって生み出された予言の王、アルトリア。貴方はもうすぐこの島を取り巻く運命に苛まれ、新たな時代の台風の目となるでしょう」

 

 その語り口は、まるで予言を言祝ぐ花の魔術師にも似ていて。

 しかし、とモルガンは続ける。

 

「しかし私はそれを良しとしない。全ての運命の中心は、人間社会を好きに掻き乱す花の魔術師。呪いを始めた今は亡き先王。………アルトリア。貴方は先王や花の魔術師の計画とは関係なく、自らの意思で、自らの星を選ぶべきです」

「…………え?」

「私はモルガン。貴方と同じ父を持つ、一人の姉。貴方の家族」

 

 妖精としての名はない。

 先王と同じ名もない。

 ただのモルガン。ただのお姉ちゃん。

 共に、父と魔術師によって呪われた運命を背負う者として、モルガンは語る。

 

 ——人類史という長い観点から見れば、それは確かに誤差である。

 

 だが少なくとも、ブリテン島を取り巻く運命の中では——何よりアルトリアという少女がこれから辿る人生から見ればこの瞬間、それは誤差ではなくなった。

 

「ブリテンの女王となるべきは、私です」

 

 

 

 




 
モルガン : 脹相マインドを得た無敵のお姉ちゃん。ギャグもシリアスもやれる最強のお姉ちゃん。バーサーカー適性がある。現時点で多分20代後半くらい。流石に異聞帯のモルガンのような数百〜数千年単位の魔術礼装(水鏡・失意の庭など)は持たないが、人類史規模で最上位に近い魔術師である事に変わりはない。尚当たり前だが、脹相ではなくモルガンなので脹相らしくない事もする。本質は普通にモルガン。だけど根本がお姉ちゃん。アルトリアは愛でる。姉を名乗る不審者(実姉)。

空間転移 : 魔法の領域。一度対象を三次元から上の多次元に引き上げた後、元の世界の別の座標に下す事により、物理的な距離の概念を無視した移動を行う。AとBの位置を入れ替わるような魔術ではなく、モルガンは空間転移を行った訳ではない。だがそれはそれとして特定の条件下でならモルガンは空間転移が可能である。何で手を叩いたの?
 
エクター : 先王ウーサーに仕えた一番の騎士。かつては黒騎士と呼ばれていたとか。モルガンのお世話係。ケイの父親。アルトリアの養父。老齢により現役の騎士を引退。多分50代くらい。人畜無害そうな顔をしているが15歳のアルトリアが一本も取れないくらい強い。どういう事? 原典によっては円卓の騎士。

ケイ : ツンデレお兄ちゃん。

アルトリア : え………!? 本当に姉なんですか!!??

先王 : モルガンとアルトリアの実父。ブリテンで最も偉大とされた王。人間離れした王。次の王に"人間離れ"ではなく"人間ではない"モノを用意した王。マーリン曰く人間的にかなり問題がある。ブリテン島の加護を持つブリテンの落とし仔。島の主。人心を割り切った超越者。卑王ヴォーティガーンとの戦いにより死亡。

花の魔術師 : 人と夢魔の混血。気紛れでモルガンに魔術を教えた天才。ウーサーからの提案に面白がって賛同した非人間。チャートが崩壊した。背中から刺されるタイプ。人の心がない。愛を知らない。——貴方に愛を教えるのは。
 
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