汎モルガン「どけ!!! 私はお姉ちゃんだぞ!!!」   作:花のお姉ちゃん

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 モルガンは幼女(性癖の開示)


3話 お姉ちゃんとお兄ちゃん

 

 アルトリア・ペンドラゴン。

 先王の血を引き継ぎ、花の魔術師の姦計により竜の因子を持って生まれた竜の化身。いずれブリテン島を救う、希望の王。

 本来であれば、彼女がその運命を知るのはもう少し後だ。

 花の魔術師マーリンによる予言を以って少しずつ理想の王として育てられ、少しずつ自らの運命と出世を知らされていく。筈だった。

 今のアルトリアは、王としての教えをほとんど受けていない。

 まずは王として君臨する前の道中、一端の騎士として無念の死を遂げないように実力を伸ばしている段階である。

 つまりアルトリアは今、ただの騎士見習いだった。

 

 そんな中、アルトリアは全ての真相を知った。

 自らの出生。いずれ来たる運命。そして血の繋がった姉の存在。

 心中の整理には、時間がかかるだろう。

 ……家族三人の時間もいるだろう。

 モルガンはひとまずの説明を終えた後、一人エクターの家から退出した。

 

 ここは、良い場所だ。良い家族があった。

 

 丘の上。

 馬小屋と一緒に、ひっそりと建てられた小さな一戸。

 ブリテン島の動乱など知らぬようにと牧歌的な風は吹く。

 果ての理想郷よりも掛け替えのない、小さな楽園。

 これは、ブリテン島から失われようとしているモノ。

 だから、王として守らねばならないモノ。

 そして、モルガンが一度も持ち得なかったモノ。

 

 アルトリアには、既に家族がいた。

 姉として、それはとても良い事で、何よりも幸せな事で、そしてモルガンとして——

 

「…………」

 

 ガチャリ、と扉が開く音がした。

 

「話し合う時間を与えたというのに………お前は」

「あいにくだが、俺は全くと言って良いほど先王やら魔術師やらの思惑を知らない」

 

 だから話し合いが必要なのは俺以外の二人だろう、と黄昏ていたモルガンの背後を取るように、ケイが言う。

 

「だから迷惑だとでも? ………貴様はエクターとは程遠いな。兄であるなら、今は妹に寄り添うべき時の筈。名騎士と謳われたサー・エクターを見習え、この下郎が」

「ご期待に添えず、悪かったな姫君。俺は親父から何も教えられなかった身分なもんで」

 

 魔女からの発言は当たりが強い。

 大方、兄という立場が気に入らないのだろう。

 別に好きで兄になった訳じゃない。良い迷惑だ。

 

「(………話の通じねぇイカれた女だが、狂気に塗れた魔女には見えない。何なんだコイツ)」

 

 思っていたより常識はある。礼節はある。

 だが必要とあらば飛び越えて来るタイプ。

 そしてその、必要のハードルと条件が狂っているイカれた女。

 

 ——気色悪い。

 

 はっきり言って、ケイは目の前の女が嫌いだった。

 今後好きになれる事もないだろう。不倶戴天の敵である。

 もはや魂レベルで、ケイは目の前のモルガンを好きにはなれないと確信出来た。

 

「お前、何が目的でここに来た」

「先程の説明で理解出来なかったという事でしょうか?」

 

 煙たげで、嘲るような態度。

 眼中にないのだろう。

 視界に入る妹以外。

 

「違う。お前はブリテンの女王となって何を得る。何がお前を突き動かしている」

 

 モルガンは言った。

 妹には、先王と魔術師の計画とは別に生きて欲しいのだと。

 ——本当にそれだけか?

 それなら、モルガンが女王となる必要などない。

 極端な話、アルトリアを攫って国外にでも逃げれば良い。

 本当に妹が第一優先で、そこに自分の関係性を埋め込みたいなら、二人で適当に暮らして、人並みの幸せでも掴めば終わる話だ。

 それをしない理由、そこに何らかの……例えばケイが知らない魔術的な理由や、先王や魔術師の計画に関わる呪い的な要素があるなら、まぁまだ良い。己の無知で済む話だ。だが。

 

 コイツは、まだ何かを隠している。

 

 互いに冷ややかな目線が打つかっていた。

 ケイがモルガンを忌み嫌うように、モルガンはケイを害虫を見るような眼差しでいる。

 あぁ。やっぱりコイツは魔女だ。思っていたものとは違っただけで、目の前の女は味方じゃない。

 

 先王の計画は知らない。

 だけどケイは、先王自身の事は知っている。

 王として偉大だった。人間離れした超越者だった。そして人として致命的に問題のある男だった。非人間が寄って来る程度には、先王はイカれていた。

 目の前の女もそうだ。何かがイカれているのだ。

 

「私はアルトリアのお姉ちゃんだ。お姉ちゃんとして、私は見本にならなければいけない」

「……………」

「出来が良かろうと悪かろうと、姉は妹の見本だ。姉が道を間違えたのなら妹はその道を避ければ良い。姉が正道を進んだのなら妹は後を付いてくれば良い。だから私は妹の前を歩き続ける。そして妹に、先王の呪いを引き継がせる訳にはいかない。妹のため、この国のため、私は私の責務を全うする。ブリテンの女王は私だ」

 

 聞いているようで、聞いていない。

 一見正しく答えているようで、答えてはいない。

 ブリテンの女王は私だ、と語るこのモルガン。

 その言葉に見え隠れしているのは、果たして妹への愛か、それとも捻くれた支配欲と特権意識か。

 まるで、底が見えない穴を見ているようだ。

 底にあるのは、真実か嘘は分からない。

 まともに相対していると、変なモノに呑まれそうになる。

 だがそれでも、少なからず分かる事はあった。

 やはりこの女とは分かり合えない。理解出来ない。

 コイツは、ダメだ。

 

「では逆に問う、ケイ」

「………あ?」

「こちらは素直に答えた。ならばお前も答えるのが筋だろう」

「チッ………」

 

 それを言われると多少弱い。

 これは尋問ではなく、互いのやり取りだ。

 揉め事を起こすのも避けたいのが本心である。

 実力でいえば恐らくモルガンの方が圧倒的であり、殺し合いになった時ケイに勝ち目がない。

 ケイが渡り合えるのは舌戦のみ。

 

「では問おう」

 

 仕方がない。

 別に聞かれて困る事はない。

 話しながら、モルガンの真意や今後の動向をもう少し探る。

 ケイは、言葉という剣の柄に手を添えた。

 

「どんな女がタイプだ?」

 

 

 

×        ×         ×        ×

 

 

 

「は……??」

 

 一瞬、頭が回らなかった。

 今なんと言った? 何故このタイミングでそれを聞いた? それが何の意味になる?

 ただでさえ緊迫したこの状況で。

 

「仕方がありませんね……ならば事前に話しておきましょう」

 

 動揺したケイの姿に、話が通じないな、とでも哀れんだのだろう。

 常識的におかしいのはどう考えてもモルガンなのだが、あくまで自分の方が上と示す高圧的な寛大さでモルガンは語る。

 

「花を愛で慈しむのと同じように騎士は女を護る。これは如何なる騎士道を掲げていようと、騎士であるなら避けられぬ事。なればこそ女の趣味は騎士としての在り様を明確に形作る。私は騎士ではありませんが、私は多くの騎士を見て来た。多くの形の騎士道があった。だが女の趣味一つも明確な形に出来ないような騎士共は大した信念も矜持も持ち得ない」

 

 ……理屈は通ってない事もない。

 正直言うなら「本当か? 場合によるだろ」と思わなくもないが、一応目の前にいるのは正真正銘の姫君である。

 あのウーサーの娘だ。かつて多くの騎士を傅かせる立場にあった。

 騎士という存在の善も悪も噛み締めて来ている筈。

 何よりケイもまだ、騎士見習い。

 自らの人生に裏打ちされた騎士としての反論は難しかった。

 ケイがモルガンの人間性を見ているように、モルガンもまたケイの人間性を見ようとしているのだ。

 

「故に答えなさい、サー・ケイ。どんな女がタイプだ」

 

 不意に。

 脳を過ぎる。

 

「……………」

 

 ——ケイ兄さん!

 ——ご心配なく。私は元気が取り柄ですから。

 ——全く……ケイ兄さんは口の悪さだけが玉に瑕ですね。

 

「——泳いだ時に水の滴る、体付きの良い女」

 

 泳ぐのは得意だ。

 鮭よりも速く泳げる自信がある。

 だが別に鮭と泳ぐのが好きな訳じゃない。

 一緒に泳ぐのなら女で身体付きの良い女が良い。

 なんて事はない。考えてみれば、簡単な事である。

 

「そうですか」

 

 モルガンは納得したように頷き、瞳を閉じる。

 その一瞬、モルガンの瞳が鈍く輝いたように感じた。

 

 首筋に冷たい風を感じる。

 魔力の、流れ。

 

「——最低ですね、サー・ケイ」

 

 ——ケイは反射的に剣を引き抜いた。

 命の危機。全身を駆け抜ける悪寒。

 咄嗟に身構え、モルガンの次の動きに対応しようとし——

 

 ——最果ての塔(ロンゴミニアド)

 

 次の瞬間には前に構えた剣が半ばから砕けていた。

 もはや何も認識出来ていない。

 刹那、モルガンの指先が光ったのだと理解したその瞬間には、ケイは大きく吹き飛ばされ、家の塀に激突していた。

 

「(………ぐッ……。い、生きてるの、か……?)」

 

 何をされたか全く分からない。

 反応すら出来ていない。

 引き抜いた剣は手元の柄だけを残して粉々に砕け散った。

 背中を叩き付けられた衝撃で呼吸がままならない。

 もしかしたら、今ので内臓を痛めたかもしれない。

 今のは本気か、それとも手加減されたか。

 前者である事を願うばかりだが、仮に前者だったとしてももう数発受けたら死ぬ自信がある。今のをゼロ距離で頭に放たれたら本当に終わりだ。

 明滅する視界の中、見下ろすようにモルガンの声が響く。

 

「剣を手放さなかった事だけは褒めてやろう。だが貴様は我が妹には相応しくない。やはりここで往ね」

 

 正に化け物。指先一つで他者を下す怪物。

 魔女め……。と吐き捨てるすら出来なかった。

 ダメだ。このままでは妹が奪われる。アルトリアを連れ去られる。

 ケイの意識が落ちようとしていた。

 

「姫」

 

 遠くで声がした。

 いや、本当は目の前。

 意識が遠のいているのだ。

 

「(親父………)」

 

 何とかしてくれ。このままだとアイツが。

 ダメだ。親父でも何も出来ない。

 同時に思う。

 手は動かない。声は出ない。

 モルガンが、かつての名騎士を見る。

 

「何をしておいでか」

「あぁエクター。見て下さい。我が妹に近付く悪い虫をこうして懲らしめて——」

「私の息子が、何か」

 

 フフン、と胸を張っていたモルガンが急停止した。

 

「(………は?)」

 

 ギギギと、間の悪い空気を誤魔化すようにそっぽを向く。

 あの魔女が、モルガンが、冷や汗をかいていた。

 俗っぽく例えるなら「あっ……やべ………」といった立ち振る舞いであった。

 そのあまりの光景に、遠のいていたケイの意識が戻る。

 

「姫」

「いえ違います。そう、これは私なりの試練であって」

 

 言葉を遮るように、ゴンッ……!! と鈍い音がした。

 エクターが、モルガンにゲンコツを落としたのだ。

 

「(………は???)」

 

 あの親父が……………女性に手を上げた??

 いや頬を殴ったとかそういう訳ではなく、完全にただの説教なのだが、それでもあり得ない。

 ケイは父親に殴られた事はない。当然、父はアルトリアにも手を上げた事はない。

 何なら父は言葉遣いから立ち振る舞いまで丁寧。模範的過ぎるほどに立派で穏やかな騎士。

 それが、なんだ? どういう事だ? ましてやモルガンですら何故避けない。

 あの魔女は、叱られた子供のようにシュン……となっている。

 

「姫」

「…………」

 

 変わらず平静で、しかし有無を言わせない圧のある声でエクターが続けた。

 

「話があります」

「……はい」

「良いですな?」

「……………はい」

 

 もはや借りて来た猫のようにモルガンが大人しい。

 非日常の連続。ケイの知らない物事が、あまりにもあんまりな形で大量に展開されている。

 

 ——親父………。

 

 意識を失う寸前に、思う。 

 ケイの知らない父の姿。

 父の後ろ姿は、想像とはまるで異なっていた。

 しかしそれでも、大きかった。

 

 ——本当に凄い騎士だったんだな………。

 

 そして今度こそケイは意識を手放した。

 お姉ちゃんを名乗るモルガンが訪れた故の動乱の、まだもう少し続きそうであった。

 

 

 




 
モルガン : 弱い奴に気を使うのは疲れる。出力0.01%くらい。超手加減したのだからあまり強く怒らないで欲しい。昔はお転婆な姫だったとか。脹相との違いは独占欲や執着心を前に出してくるところ。脹相との最大の違いは普通に妹からの好感度が下がる事。

アルトリア : 小柄。華奢。泳げない。モルガンの行為にドン引き。

ケイ : 女のタイプは水の滴る身体付きの良い女。嘘付き。

エクター : かつて厳格で名を馳せた、先王ウーサーの一番の騎士。怒ると超怖い。ガッデムッ!!

最果ての塔(ロンゴミニアド) : 本質は世界の表裏を繋ぎ止める光の柱。その気なれば世界の果てを意図的に作り出し、限定的な次元断層で世界を引き裂く事が出来る。魔術を収め始めてまだ20年も経っていない現在のモルガンはまだ最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)を完全に習得し切ってはいない。

妖精眼 C - : グラムサイト。妖精が生まれつき持つ『世界を切り替える』視界。あらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼。汎人類史のモルガンは純正な妖精とは程遠いため、強力な感情の発露や明確な悪意による嘘にしか効果が発動しない。また現在のモルガンがより純正な妖精から遠ざかるほど、このスキルのランクは低下する。
 
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