汎モルガン「どけ!!! 私はお姉ちゃんだぞ!!!」   作:花のお姉ちゃん

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 普通に真面目な回になってしまいました。
 汎人類史の皆さん。対戦よろしくお願いします。


4話 家族

 

 

 きっかけは何だったのか。

 そうだ。確かアルトリアが急に躓いて、頭から川に落っこちた時だ。

 ケイは妹を助けるため、慌てて服を着たまま川に飛び込んだ事がある。

 

 今では笑い話………いや幼いガキが頭から川に落ちるのは普通に笑えない話だが、とにかく大事はなかった。

 

 有り余るガキの元気に振り回され、次いでと言わんばかりに川魚を取れるか二人で競争していた記憶がある。

 最終的にケイは疲れ果てて、水に浸かったまま川辺で横になっていた。

 ブリテンには、見目麗しい湖の精霊がいると言う。

 それが川にも適応されているのか知らないが、ブリテンの水はいつも綺麗だった。

 何か、母の温もりのような、優しい感覚に包まれている感覚がした。

 そうだ。だからケイは、泳ぐのが好きだった。

 

 今もそうだ。

 暖かい水に包まれている。

 そんな感覚がした。

 

 ——さん……ケイ兄さん………!!

 

 声がした。

 水底から急浮上する意識。

 最初に視界に映ったのは、心配そうな妹の顔。

 

「あぁよかった………もしやこのまま起きないのかと」

「……………」

 

 そして隣にいる魔女の顔。

 モルガンはムスっとした不機嫌顔でそこでいた。

 いつの間にか魔術杖らしき物を手にしているところを見るに、何らかの力で癒やしてくれたらしい。

 傷付けたのもモルガンなので、ただのマッチポンプだが。

 

「私を甘く見ては困ります。当然傷一つありません。貴方が予想より貧弱だっただけです。なので、あまり強く怒らないように」

「姫」

「モルガンさん?」

「……………」

 

 あくまでも自分の方が立場は上、という事をケイには強調したいらしい。

 尤も無駄な足掻きである。この家での上下関係が決まった瞬間だった。

 特にアルトリアからの、他人行儀のような「モルガンさん」呼びが堪えたらしい。

 悪妙高いかの妖妃が、段々と身を縮こませていった。

 

「だって、この男が………」

「モルガンさん。私は薄っすら貴方の事が嫌いです」

 

 妹には珍しい、強い口調である。

 またアルトリアはこういう時、一切の嘘を付かない。

 モルガンはサラサラと塵となっていった。

 

「そんな………私は…………お姉ちゃんなのに……………」

「まだ言っているんですか?」

 

 アルトリアの中では、モルガンの発言は妄言扱いになっているようだった。

 もしくは、こんな人が私の姉であって欲しくはないという願望故だろう。

 流石にケイに手を出したのはダメだったらしい。

 アルトリアは冷ややかな視線をモルガンに向けている。

 

「アルトリア。モルガン様の言っている事は確かに事実です。貴方は確かに先王ウーサー・ペンドラゴンの血を引き継ぎしお方。モルガン様は貴方の実の姉君でおられます」

「………うーん。まぁエクターが言うのなら確かなのでしょうが……」

 

 養父からの後押しがあって、ようやくアルトリアは納得する。

 改めて確認した自分の顔とモルガンの顔を見ると、確かに血の繋がりを感じなくもない。

 それ以上に、血が繋がっている気が全くしないレベルの奇行を連発しているのがこのモルガンなのだが。

 ただまぁ、育って来た環境がまるで異なるので、そういう事もあるのかもしれない。

 アルトリアは無理矢理納得した。

 

「アルトリア・ペンドラゴン。………私が先王ウーサーの血を引き継いた子供、ですか」

 

 取り敢えず、このよく分からない姉は一旦置いておこう。

 自分が偉大なる王の血を引き継いでいる。その事が、アルトリアにはどうしても気がかりだった。

 

 アルトリアは本当の両親の顔を知らない。

 

 義兄と養父。

 血が繋がってない事は知っていた。拾われた孤児だと思っていた。

 戦乱が絶えない島国だ。そういう事は、まぁあるだろう。

 だけど、どうして男と偽って暮らしているのか。どうして物心付いた時には剣を学んでいるのか。

 

 どうして夢の中で、花の魔術師と出会っているのか。

 

 アルトリアに疑問がなかった訳ではない。

 だけどアルトリアは、義兄のように聡明ではなくとも懸命だったので、養父にその事は尋ねなかった。

 きっと答えてはくれない。答えられない。

 自分がそれを知れば、何かが変わる。

 実際、今こうしてモルガンから事の真相を教えられた今、それは正しかったのだろう。

 

 きっとこの話は、花の魔術師マーリンが主体となり動かしていく筈だった。

 

 先王と魔術師による『理想の王』という目的があり、その為に計画されたのが自分だという。

 男と偽り、剣を学んでいる理由としては納得だ。

 事実アルトリアには、自分の内側で持て余している滾りがある事を自覚している。

 ただの呼吸に熱を感じる。

 不意に自分の体が何十、何百倍もの大きさがあると錯覚する事がある。

 内側に眠るこの解放してしまえば、自分達の家や馬小屋など軽く吹き飛ばせるだろう事を自覚したのはいつだったか。

 自分と回りの人は違う。

 幼いながらに、アルトリアは達観していた。

 それは生まれながらの差、圧倒的な才能や実力という比較ですらなく、単純な生物としての格や強度の話だ。

 

 竜の化身。

 マーリンの言う予言の中の王、竜の化身とは、あぁ確かに自分なのだろう。

 実の姉、モルガンを無視して王になるべく計画させられているのも、きっと。

 

「………………」

 

 アルトリアには分からない。

 何故この姉は、ここまで無償の愛を捧げて来るのか。

 何故先王と魔術師の計画にはモルガンが含まれておらず、実の娘を裏切るような形で理想の王を作り出そうとしているのか。

 

「あの、姉上」

「……まさか今、私の事を姉と——」

「すみませんモルガンさん」

 

 嫌いではない。一応。嫌いになるには少し愛が大きすぎる。

 でも迷惑なのでちょっと嫌ではある。特に義兄とは仲良くして欲しい。

 そんなアルトリアでも、モルガンの事をほとんど何も知らない。

 

「少し、二人で町を見に行きませんか?」

 

 

 

×        ×         ×        ×

 

 

 

 現役を引退した騎士。馬小屋を管理する家系。

 そういうモノは町外れで暮らしている体面の理由付けだ。

 卑王ヴォーティガーンと妖妃モルガンを警戒しているのもあって、エクター達の家と近くの町は少し距離がある。

 丘を下り、草原を抜け、畑と畑の合間を進んで、ようやく町を囲む柵が見えて来る。

 

「この田園風景が私は好きです。特に収穫の時期は、まるで祭りを見ているようで」

 

 遠くに町を望む畑の傍らに、二人はいた。

 畑を囲む柵に少し身を乗り出すようにして、アルトリアは語る。

 何の因果か、あの妖妃モルガンを相手にしてであった。

 

 もっとも、アルトリアはモルガンの悪評を知らない。

 現時点のアルトリアから見たモルガンは、急に血縁関係が判明したため出て来た、距離感を測り倦ねている初対面のお姉ちゃんである。

 

「……ここが、我が妹が育った場所ですか」

 

 アルトリアの斜め後ろから、穏やかな風に特徴的なドレスベールをたなびかせれる高貴な姫君、モルガン。

 義兄からは反対された。養父からも注意を受けた。それを多少無理を言って連れて来た。根拠はただ、アルトリアの直感としか言いようがない。

 最終的に、養父エクターからの「姫。妹には迷惑をかけないように」という、忠言で話しは終わった。

 義兄も、ある種の諦めで承諾した。

 ここで本当にモルガンがアルトリアをどうこうするなら、もうやっている。そもそも止められない。という諦めである。

 

「それでアルトリア。町を見に行くのでは」

「………いえ、町を見に行くというのは嘘です。二人で話す時間が欲しかった。それだけです」

 

 初対面。はっきり言って危険人物。

 常識の範疇で語るなら、そんな人にする話ではないと分かっている。

 だけどモルガンは、アルトリアと唯一血が繋がっている人物なのだ。

 互いに共通の運命があって、それを他人によって大きく歪められたもの同士。

 

 アルトリアは孤独である。

 

 寂しい訳じゃない。彼女には家族がいた。

 だけどアルトリアは明確な線を引いていた。引かざるを得なかった。

 竜の化身という、一つの機構として。

 

「育って来たというと少し語弊があるかもしれません。私はあまり、町の中には入りはしませんでした」

 

 人里離れた場所でひっそりと暮らしていた。

 町の一員になりたいとか、その中に混ざりたいとか、そういう望みは持たなかった。

 時折そういう光景を思い描く事はあっても冷静に蓋をした。

 私の居場所はそこにはないと、心の底では分かっていたからだろう。

 

「疑問がなかった訳ではありません。どうして男と偽っているのか。どうして剣を学んでいるのか。どうして、私は普通の人とは違うのか」

 

 育てられている境遇。生き物としての線引き。

 

「別に悲観してる訳ではありません。 ただ、なるほど私は竜の化身なのかと、貴方から教えられて驚くでもなく納得しました。そしてそれだけでした。私には分からない。実感がない。王としての輪郭も、在り方も」

 

 無論まだ王としての教えは受けてないからと、そう言われたらそれまでではあると思う。

 だけどアルトリアには、亡き父の無念とか願いとかそういうものに感情移入が出来なかった。特別な使命感も感動を覚える事も出来なかった。

 自らの複雑な生い立ちを知ったアルトリアの中にあるのは、納得だけ。

 

「先王……顔も知らない亡き父と花の魔術師には少し申し訳なく思います。彼らの計画はきっともう、失敗している」

 

 きっと私は、理想の王には程遠い。

 なろうと思っても多分なれない。

 アルトリアの毎日をここまで励ましてくれたのは、養父エクターと義兄ケイの何でもない毎日であり、町に暮らす人々の賑わいの声だった。

 それは憧れとも愛とも違う、ただそういうものが善きものに映っただけという、ほんの些細でごく人間的な理由。

 

 王になる。

 

 その理由が、王権を無くしているブリテンとブリテンの救済に噛み合わない限り、アルトリアは王を目指さない。

 自分よりももっと、王に相応しい者がいるのではないか。

 彼女はそれを考え続ける。アルトリアにとって王とは、一つの手段に過ぎない。

 だけど、例え彼女が王を目指さなかったとしても。

 

 この力を正しいモノに使いたいとは思う。

 

 あの、ほんの些細でどうでも良い事かも知れない……そういう小さな幸せが今この瞬間にも失われようとしているなら、私はそれを護りたいと思う。

 それがアルトリアという少女の、原動力の全てだった。

 

「私は、この田園風景が好きなんです。祭りを見ているようで」

 

 そうだ。例えるならそれは——祭りを外から見ているような感覚と似ていた。

 祭りの中に、私の居場所はない。だけどこの祭りは得難く尊いモノで、容易く消してはならない。途絶えさせてはならない。

 きっと、何よりも。居場所を得られなかった、竜の化身よりも。

 夕焼けを背に身を乗り出し、アルトリアは人気のない畑と、その先にある町を仰ぎ見る。

 

「姉上。私よりも約束の王に相応しい人物がいるのなら、そしてその人物の方がよりブリテンを平和に導けるのなら、私は喜んで王位を譲ります。私は、そんな王の力になりたい」

 

 王ではなく、騎士として。

 竜の加護を持つ、一振りの剣として。

 

「だから私は、その約束の王の前に立ち塞がる全ての障害を薙ぎ倒して見せましょう。何せ私は竜の化身です」

 

 アルトリアは、手を差し出した。

 それは小さく細い少女の手であり、しかし剣を執る者の手だった。

 

「姉上。二人で、このブリテンを良き国にしていきませんか?」

「」

 

 モルガンは。

 この日の事を忘れない。

 たとえ地獄に堕ちようと、たとえ自らを失おうと。

 この日の妹の決心と誓いだけは、心の中にある。

 この記憶がある限り、魔女が妹に牙を剥く事はない。

 

「アルトリア……………」

 

 姉上——モルガンはいつの間にか、小さく涙を流していた。

 目頭を抑えて俯き、少し呼吸を震わせている。

 今の言葉は、少し大袈裟だっただろうか。

 少し照れ臭くなって頬を掻くアルトリアに、涙を浮かべたまま微笑んた。

 

「はい………私達二人で——美しい国にしましょう。貴方に負けないくらい、私は立派な王になります。貴方が誇れるような、お姉ちゃんになります」

 

 この日、正式に。

 アルトリアには姉が。モルガンには妹という新しい家族が出来た。

 きっと明日から、忙しくなるだろう。

 そんな夕焼けの日だった。

 

 

 

×        ×         ×        ×

 

 

 

「えぇー?」

 

 ブリテンの何処かで。

 千里を見通す眼の魔術師が、ボソリと呟いた。

 

「厄介な方に転んだなぁ」

 

 

 




 
アルトリア : モルガン√に進んだ恐らくFate主人公。√分岐によって敵が味方になったり、味方が敵になったりもするのは主人公の特権。

花の魔術師 : 笑っちゃうよね(たはー)
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