「うーむ…うむむ。中々良い題材のネタが思い浮かびませんねぇ」
エピカは今日も今日とて新しい物語の題材探しをしていた。完璧な物語を作るために、いろいろな場所を巡る旅をしているようなものだ
「これは所謂スランプと言えるのでしょうか?吟遊詩人として由々しき事態です!これは誰かに助けを求めるべきでしょうか…」
ふらふらと歩いていると、モナティアムに着いていた。エーリアスでかなり変わった場所であるモナティアムなら良い題材が見つかるのだろうか?獣人村や妖精王国にはない近未来感が溢れる場所なら、今までにない物語が書けるのかな?と思いながらモナティアムの街並みを見て回る
「ん?そこのお前、止まれ!獣人だな!」
「おや?何かあったのでしょうか?」
「最近、モナティーマートの廃棄処分を荒らしたり、自販機を荒らしたりしてる獣人はお前か!逮捕する!」
「ちょちょちょ待って下さい!私は吟遊詩人のエピカと申します!私は獣人ですけれど、そんな事はしていないと断言出来ます!」
「本当か?だが獣人はモナティアムを荒らす存在だと市長様から知らせが届いているが…何か証拠はあるか?」
「そうですね…ブランセさんと一緒に活動して、物語の演技をしてもらうことはあります」
「ふむ…ちょっと待て!」
警備員らしきエルフは、手に持つ光る板で何か操作をしている。エピカはそれが気になったが、今は大人しく待っておく事にした
「うん、確かに君はエピカ殿で間違いなかったらしいな。突然呼び止めて済まなかった」
「えぇ、獣人達はかなり自由な所がありますから…同じ括りで見られても仕方ありませんね。それで、少し気になったのですが…その光る板は何でございましょう?」
エルフは手に持つ板をエピカに見せてくれる。その光にはブランセと並ぶエピカの姿が映っていた
「スマホを知らないのか?何回かモナティアムに来ているらしいが…」
「基本的には公演をした後、すぐ帰って物語を考えるものですから…それはスマホと言うのですな。これは…私とブランセ殿ではありませんか」
「あぁ、監視カメラで撮られた写真だな。エピカ殿がサリーを連れてきた時に撮られた物だと記事に書かれている」
「あの時の事を、このように確認出来るのですね…他にも何かあるのでしょうか?」
エルフはスマホの画面を操作し、イントラネットを見せてくれる
「市長様が開発したネットがあるから沢山の面白いものが見れるぞ!最近はエルチューブが流行ってるんだ。色んな動画を見ることが出来るんだ」
「動画とな?あの妖精王国で見れる映像のような物ですかな?」
「映画とはまた違うんだけど…まぁ、似たようなもんか。エルチューブならニンジン狂いのニンジン生食が見れたり、凄い煽りスキルで他人を貶めまくる幽霊の動画だったり、後は…エルチューブではないんだけど、誰かが書いた話を読んだり出来るな」
誰かの書いた物語が読める。そう聞いたエピカは目を輝かせてエルフの手を取る
「誰かの書いた物語を読めるのですか!失礼ながら私、エピカは現在良い物語を書くためのネタを探しておりまして…新たな物語のインスピレーションを得るために少々読んでみたいのですが!どうすれば良いでしょうか?」
「うお!急に近いぞ…ちょっと待ってよ。流石にスマホの貸し出しとかは出来ないんだよ。個人情報も入ってるし。うーん…そんなに読みたいなら、モナティアムの図書館に行けばいいんじゃないか?あそこならパソコンも置いてあるから、接続して読めるだろ」
「ありがとうございます!警備員のエルフ殿!では早速向かってみましょう」
〜図書館〜
「ふむふむ、こうやって調べるのですな…では早速…」
エピカは図書館に入ってすぐさま入り口近くのパソコンを触ってみた。扱い方や各種サイトへの入り方等は壁に貼ってある紙に書いてあるので、覚えて触ることが出来た
「ほほう…確かにかなりの量の物語があるのですな。どれから読んでみましょうか…」
エピカは一先ず、一番興味を引くものを探してみることにした。サイトでは題名とあらすじが表示されているので、それを読みながら探していく。『転生したらスーパーヒーローだった件』『あの落ちこぼれだったスパイ、実は最強につき…』『暗黒騎士ガイア』『空間を鎌で引き裂く時は…』というような、様々な題名を眺めていると、一際興味をそそるような題名の物が見つかった
『クトゥルフ神話』
「ふむ…あらすじも神々が関わる話のようですな…神々は全ての物語の原型になると言いますし、これは読んでみましょう!え〜作者は…狂主?荒々しい感じがする名前ですね」
実際に読んでみると、1話完結型で様々な探索者が奇妙な事件に巻き込まれていく話だが、どれもこれも探索を進めていくと神々が裏に居ることが分かり、神を召喚させないように悪い集団を倒したり、儀式を滅茶苦茶にして阻止したり、そもそも関わらないように生きようと模索したりと様々な話があった。もちろん、救いようもなく死んでしまうという話もあったが。時には化け物と言うしかないような登場人物達が、前の話で苦戦していたはずの神話生物や神を一撃で粉砕していく突拍子もない話もあり、自由気ままに話が展開されていくのが面白いとも言える作品だった
「ふう〜。かなり面白い作品でしたな。どれもこれも傑作と言えましょう…吟遊詩人として、敬意を示さなければなりません!それにしてもこのような神々の話とは…私ももっと見識を広めて完璧な物語を作らねばなりませんな!」
外はすっかり暗く、電気で明るくなったモナティアムが図書館の入り口から見える。エピカは満足したのでそのまま獣人村に帰りながら、面白い創作を読んで湧き出たアイデアを紙に纏めていった
〜後日、宴会場〜
「…ということがあったのです!教主様も一度読んでみては如何でしょうか?」
「あ〜…その、エピカ?」
「はい!何でございましょう?」
「あの…多分それ書いたの私…」
「教主様が!なるほど、以前教主様が物語を書くなら何を書くかお聞きした事があったと思うのですが、教主様はあのような物語を書くのですね!実に素晴らしいです!」
「まぁ…あれ、私の創作とかじゃなくてね。地球で見てて面白かった物を物語風に落とし込んだだけなんだけど。その様子なら面白かったみたいだね」
満足気に頷くエピカもかわいいなぁ
「そうだったのですか…地球にはこのような不可思議で、しかしそれぞれに深いストーリー性がある話があったのですね」
「うん。私が覚えてるものをああして残す事はあるから、また見てくれたら嬉しいかな?」
「ええ!物語の良いネタになりますから、これからも見させてもらいます!」
おわり。
クトゥルフ神話TRPGに稀によく現れるバケモン探索者好き
地球での思い出を、こんなふうにして残しておけば忘れることはないんだよなぁ