【青学三次】青学スパイ達の徒然なる日々【短編集】 作:VISP
本家様や他の三次作家様とは異なる独自設定等が出る可能性がありますが、予めご了承ください
ネタバレな説明会のせいでキリエの説明台詞がやたら多いですがご了承ください。
「ここが医療区画だよ。キヴォトスで最も先進的な医療技術を誇る事で知られてるね。」
死体みてーな顔色のカヤを余所に、一行を載せた装甲車は次の隔離区画である医療区画へと入っていった。
「皆白衣か入院着だね?」
「ここは長期治療の患者さんが多い所だからね。見せたいのはこの奥だよ。」
物資搬入路を通る事で、院内でもスイスイと装甲車は進み、果てはエレベーターに辿り着く。
「不知火代表はスパイとして送った生徒の再派遣や青学からの転校がお望みだったね?」
「えぇ、まぁ・・・とは言え、今となっては難しそうだとは思いますが。」
「友誼を結んだ相手が突然いなくなる苦痛は理解するよ。でも、ボク達だって訳あっての事なのさ。それを今から説明するよ。」
エレベーターが降りた先、そこには広大な空間が広がっていた。
「医療区画さえ隔離施設と言われる所以は此処さ。危険な伝染病や未だ根治不可能な難病、何より未だ汚染拡大の可能性がある患者を治療が完了するまで隔離するための区画なんだ。」
広大な地下空間の壁、その全ての面にカプセルが並べられていた。
全長2m半ば程度のそれには窓が設置され、その中身の顔を見る事が出来た。
それらは全て、生徒達だった。
「え・・・?」
「これは・・・?」
先生とカヤが今度こそ固まった。
理解不能な光景に思考が停止しているのだ。
「これこそ神秘共有術式を外に出せない理由の一つさ。」
キリエは告げる。
客観的に、それでいて敢えて異物感を滲ませ、不安を煽る様に。
なお、車内の画像には分かりやすく詳細なイラストによる図解が表示されている。
「当初、青学生となった子供達は一般的な生徒と比べて神秘が不安定だった。つまり身体能力、特に耐久性の不足が確認された。それを解消するために、カール理事主導で開発されたのが神秘共有術式だった。」
「ボク達一人では一般的な生徒にすら及ばない。でも、神秘共有術式を用いれば何とか対抗できた。」
「神秘共有を行った生徒三人を集めて一人にその神秘を集中すれば、一般的な生徒を上回る事が出来る。」
「そして集中した一人が前に出て戦い、残った二人が支援か戦闘以外の事に従事する。」
「互いに助け合い、互いに補い合う事で格上の存在に対抗する。」
「神秘共有術式は一人では弱い青学生がキヴォトスという過酷な世界で生きていくために必要不可欠なシステムだったんだ。」
「しかも血肉以上に魂に直結した神秘を共有する事は、ただの他人であった子供達に互いに家族に近しい親近感を与える効果もあった。他にはない雑だけど強固な結束がその後の躍進の成功した要素の一つだね。」
「でも、全ての生徒に適応できる訳じゃない。完成品に下手に手を加えられないように、元からある程度以上の神秘を持っている生徒には術式が介入するだけの余剰が無かったんだ。」
「例外としてヘイローが欠ける程のダメージを受けている生徒に適応する事で救命治療に使用した前例はあるけど・・・術式に適応するためだけに死にかけるなんて誰もしたくないだろう?」
「加えて、穴があった。一見極めて便利なシステムでもセキュリティーホールが存在したんだ。」
「神秘の薄い状態の生徒が攻撃されれば致命傷になりかねないし、一人に集中するにしても先天的な才能による限界が存在した。これだけでは過酷なキヴォトスを生きていくには不安があった。」
「連邦生徒会には、他の自治区には頼れない。辺境のポッと出の勢力であるボク達は支援の対価を払えないし、支援という借金漬けの果てが他者の紐付き、実質的な奴隷や植民地化となっては意味が無かった。」
後方の無防備な生徒を攻撃されないため、戦う力のない幼い子供達を守るためには安定した治安の良さと防衛戦力の両方が必要だった。
しかし、もし防衛能力が発揮される事態となった時、防ぐ事は出来ても増援や状況の変化が無くては何れ圧し負ける事となる。
だからこそ、青学は生き残るために周辺への情報収集の他、あらゆる分野に手を出し、単体で完結可能な、安定した土台を持った大勢力となる事を目指した。
「加えて、最近では神秘の過剰使用による一時的な枯渇の隙を突かれての色彩による汚染があった。もし色彩による汚染が神秘共有術式全てに及んだ場合、全ての青学生が反転、テラー化する恐れがあった。」
「テラー化?」
「先生はもう見た事があるよ。色彩によって反転した死の神アヌビス。彼女はレアケースだけど、その強さは先生もご存じの筈だ。」
シロコ*テラーと呼ばれる生徒がいる。
この世界とは別時間軸の多次元平行世界における砂狼シロコの成れの果て。
他のアビドス廃校対策委員会が全員死亡、先生すら植物状態からの甦生不可が通達され、絶望した彼女に無名の司祭達と色彩が接触した事により反転、恐怖化した存在。
結果、彼女はその正体ともいうべき死の神アヌビスとして覚醒、姿形も大人に近しい姿へと変貌し、破壊と殺戮の権化と化してキヴォトスに滅亡をもたらす存在となってしまった
「テラー化にも種類があってね。その多くは絶望や怒り、悲しみ等の強い負の感情や生命の危機によって生徒としてのテクスチャが剥がれ、本来の名も無き神々としての姿や力を取り戻して暴走した状態を指す。アヌビスは理性が残っていたけど・・・アレは無名の司祭達が手駒にするための調整もあってのものだから、この場合は稀なケースだね。」
車内の画像が切り替わる。
そこには嘗て存在したであろう、テラー化した生徒達の姿があった。
全身が黒く染まり、肉体に収まらない程の過剰な神秘がオーラとなって吹き出している。
ヘイローや肉体すら変質して暴れ回る姿には一切の理性が感じられなかった。
ただ、自分の周囲全てに対する憎しみや怒り、悲しみや嘆きといった負の感情のままに暴走していた。
「彼女達は嘗て青学が遭遇した色彩によらないテラー化を観測した生徒達だよ。多くは親しい友人の死や理不尽な境遇に絶望して反転してしまった結果さ。中には自分の傲慢さ、愚かさが故に追い詰められてそうなったケースもあったけどね。」
「幸いにも、ボク達は彼女達を殺す様な事態にはならなかった。暴走状態の彼女達は大体において強すぎる神秘の放出に耐えきれずに自壊してしまった。ある程度の強者じゃないとテラー化は長続きしないんだ。」
「もし色彩による汚染を放置した場合、全ての青学生がこうなってしまう可能性があった。そうなれば当然キヴォトスは滅亡する。そんな大きなセキュリティホールを放置したまま公開するなんて、死人を増やしてしまうだけだよ。」
「加えて、今も色彩による汚染を完全に除去できた訳じゃない。各校でスパイとして活動していた生徒達は青学での術式の更新が遅れてしまった子達も多い。そんな生徒程色彩による汚染は深刻だ。放置してしまえば何れは反転してしまうだろう。」
「現在は血液を循環させるように、ゆっくりと汚染を洗い流す事で治療している。何れは完治するだろうけど、それにはまだ暫くの時間が必要だ。彼女達という優秀で親しい人物を返してほしいという気持ちは理解するけど、汚染されたままの彼女達を外に出す事は生体爆弾を用いたテロ行為に近い。とてもじゃないが許可できないよ。」
余りの怒濤の情報量に、先生とカヤは勿論、放送を見ていたキヴォトス中が絶句し、静かになった。
普段は騒がしいゲヘナや不良達ですら、今日だけは静かに放送を視聴していた。
それだけの情報が短時間に立て続けに放送されていたのだ。
なお、剥がれそうな青春もののテクスチャはやはりわちゃわちゃしてる青学生や他校の中等部以下のお陰で維持され続けているため、短期間はご心配いりません。
「一応、青学生としての神秘ごと共有術式を切除すれば汚染は除去できるけど・・・それは自分の魂の一部を切り取るに等しい。どんな副作用が出るか予想も出来ないからお勧めはしないよ。」
ロボトミー手術も斯くやの乱暴な施術は理論上提唱されたが、現在に至るまで青学生に対して治験含めて実施された事は無い。
なお、クソ外道と判定された連中に対して例外とする。
「一応、この状態の彼女達もただ眠っている訳じゃない。その意識、精神だけは別の場所に隔離されているけれど日常生活に近い状態にある。」
映像が切り替わる。
そこには第二城壁内の様子に似た光景が広がっているが・・・色彩の襲撃によって発生した損傷が一つも無い。
それに生徒達の様子もおかしい。
同じような容姿の生徒が複数存在し、それでいて何の違和感もなく生活している。
「ここはボク達がデカグラマトン達と共同開発した精神の隔離場所、電子上に存在する仮想電脳空間さ。ここなら肉体は眠った状態でも日常に近い生活を体験する事が出来る。先程紹介したAI達も仕事中以外はここで暮らし、仲の良い青学生と過ごす事もあるよ。」
「あ、言っておくけど基本的に外部とは物理的にも隔離されたローカルネットワークだから外部からの接触は出来ないからね。うっかり色彩による汚染が漏れちゃう可能性だってあるんだし手出しは厳禁だよ。」
技術先進校であるミレニアムと比してなお、余りにも隔絶した超技術が次々とお出しされる現状に、先生とカヤとついでにキヴォトス住民のキャパはとっくに限界を迎え、唖然とする事しか出来ないでいた。
「治療が完了した生徒から検査後に順次退院させているけれど、さっき言ったとおりスパイをしていた子達はまだ時間が必要だ。退院でき次第本人の希望を考慮した上でシャーレと連邦生徒会を通して短期留学の形を取るのが最も障りの無い落とし所と思うけど・・・大丈夫?少し休憩入れるかい?」
「あ~・・・・・・はい、そうですね。元スパイの子達に関してはそれで良いと思いますし、少し休憩をしたいと思います。先生もよろしいですね?」
「う、うん・・・ちょっと怒濤過ぎて時間が欲しいかな・・・。」
「分かった。じゃぁリハビリ患者向けの中庭が空いてるからそこでお昼休憩をして、一時間後に再開にしようか。」
こうして、青学への査察というパンドラの箱を開ける苦行は一旦の休憩を取る事となった。
デカグラマトンとの協力関係がある事も暴露されました
でもカヤと先生の苦行はまだまだ続きます