ある日のよく晴れた公園。
トレセン学園を卒業して実家の食堂の跡継ぎになったマチカネタンホイザは、今日とトレーナーはデートしていた。
『トレーナーは恋人じゃない』と言い張るマチカネタンホイザだが、第三者から見ればそれ以外の何者でもない。
ただし、マチカネタンホイザにそう言うと『デデデ、デートですと⁈』と必ず赤面して慌てるのだが。
お昼時、公園の東屋にあるテーブルに持参の弁当を広げ、向かい合わせに座る。
「トレーナー、今日も一生懸命作ってきたんですよ。どうぞっ!」
「ありがとう、じゃあいただくよ。」
食べる前に二人ともきちんと手を合わせて『いただきます』をしてから箸を伸ばす。
「今日のお弁当も美味しいよ。だし巻き卵が絶品だな。」
「うんうん、とっても美味しいお出 汁が入っているんですよ。むんっ!」
そのような調子で弁当を平らげ片付けた後、トレーナーはとても照れた様子でマチカネタンホイザに話を切り出した。
「あの、タンホイザ。その、毎日君の作った味噌汁が飲みたいんだけど・・・。」
「はぅわっ!お味噌汁はお料理の原点にして頂点・・・。わかりました!トレーナーのためにとっても美味しいお味噌汁をつくりますぞ!」
「ちょっ、タンホイザ!」
真剣な面持ちになったマチカネタンホイザはそう言って駆け出した。
トレーナーが何やら呼び止めているのに全く気がつかないまま。
「赤味噌、白味噌、合わせ味噌〜♪鰹に昆布にいりこだし〜♪今日の味噌汁なんだろな〜♪あっよいっしょっ♪」
即興で軽快な歌を歌いながら、マチカネタンホイザはスーパーまで買い物にやってきた。
「タンホイザ、今日も買い物?」
そう声をかけたのはナイスネイチャ。学園卒業後は母親のスナックでチーママになっている。
「今日もターボエンジン全開!タンホイザは何買うの?」
ツインターボは卒業後ウマチューバーに。ゲーム配信動画が人気を博している。
「タンホイザさん、お久しぶりですね。今日はお買い物ですか?」
イクノディクタスは卒業後元担当トレーナーと結婚し、サブトレーナーとしてマネジメント技術を磨いてる。
「あ、みんな!久しぶり!えっと、今日はトレーナーからお味噌汁を作ってほしいって言われて。」
その言葉を聞いたナイスネイチャの視線が生暖かくなる。
「ちょっとちょっと。それ、『毎日作ってほしい』って言われなかった?」
マチカネタンホイザは顎に指を当てて、しばし考え込む
「うーん、そう言われれば。そうかな、そうかも?」
「あちゃー。それさあ、絶対続きがあったと思うよ?」
額に手を当て、呆れた様子のナイスネイチャ。
「続き?」
「古典的だけどさ、『毎日味噌汁を作ってほしい』てのはね、一般的に言って結婚の申し込みだよね。」
「け、け、けっこんですと!?」
マチカネタンホイザの頭は容量を超えてフリーズした。
「きゃははは、ターボもけっこんしたーい!」
「ターボさん、お相手がいないと結婚はできませんよ。」
右手を突き上げるツインターボと腕組みするイクノディクタス。
そんな時ナイスネイチャのスマホが鳴った。
「もしもし。あ、タンホイザのトレーナーさん?彼女今ここにいますよ。ちょっとかわりますね。」
そう言ってタンホイザにスマホを渡す。
「タンホイザ、さっきの公園に戻ってきてもらえないか?伝えたいことがあるから。」
「わ、わかりました!」
そう言ってナイスネイチャにスマホを返すと、瞬く間に駆け出した。
「ナイスネイチャ、タンホイザが世話をかけたね。彼女、スマホを忘れてて。」
「いえいえ、何もしてませんよ私は。でも、トレーナーさんの言葉の意味をバラしたのはすみません。」
「いや、いいよ。やっぱりちゃんと伝えなかった僕が悪かったから。今度、タンホイザとスナックにお邪魔させてもらうからね。それでは。」
そう言って通話は切れた。
息切れしながらマチカネタンホイザがたどり着いたさっきの公園で、トレーナーは一人で待っていた。
「へろろろ〜、なんだか疲れが・・・。い、いや、トレーナーをお待たせているし!」
「おかえりタンホイザ。とりあえずこれでも飲んで一休みして。」
トレーナーが取り出した飲み物を飲んで、マチカネタンホイザは一息つく。
「ありがとうございます!あうえぇ、喉が渇いて・・・。」
飲み物を一気に飲み干し、一息ついたマチカネタンホイザ。
トレーナーはその左手を取って、薬指に指輪をはめる。
「恥ずかしくてちゃんと言えなかったのは悪かったよ。タンホイザ、僕と結婚してくれないか?」
「えっと,トレーナー、そのぅ・・・。」
両手の人差し指を付き合わせてもじもじするマチカネタンホイザ。
「タンホイザは、いつも僕が恋人じゃないと言うだろう?男として意識してもらえないのも情け無いし、結婚を申し込んで、だめなら諦めようと思って。」
トレーナーの言葉にマチカネタンホイザは大きく首を横に振る。
「あの!意識してないなんてことはなくてですね!意識しすぎと申しますか、そのー、照れ隠しと申しますか・・・。」
真っ赤になって、それ以上の言葉を続けられなくなる。
トレーナーはマチカネタンホイザを抱きしめ、ウマ耳に囁いた。
「君が好きだよ。だから結婚してくれる?」
「は、はいぃ。」
ウマ耳が小刻みに動き、ウマ尻尾をぶんぶん振っているマチカネタンホイザはか細い声でそう返事をしたのだった。
その後マチカネタンホイザの食堂は変わらず繁盛し、夫のトレーナーもリーディングトレーナーとして名を馳せたという。