生体CPU生存if   作:時竺

1 / 30
生体CPUの長い一日
第一話 プロローグ


 

 うぅ……キツイ……

 

 

 閑散とした住宅街にある、小さな公園。

 子供が隠れて遊ぶようなドーム型の遊具の中で、男が一人、膝を抱えて座り込んでいた。

 その身体はひどく震えている。特に、手足の震えが異常だ。

 彼は力の入らない指先で、閉まり方を忘れてしまった口元から垂れる唾液を拭った。

 

 頭、痛ぇ……。

 

 でも、まだだ。

 

 痛みに耐える為、強く自分の膝を抱く。

 この状態になってから、どれくらい経ったのだろう。

 いつもなら、そろそろ“あいつら”が来る頃だ。

 “あいつら”が来れば、助かる。

 しかし、今回男が望んだのはその逆だった。

 

 彼は―()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ふは……ひひひひ……」

 

 

 苦しいのに、面白いことなんて何も無いのに、笑い声が漏れる。

 そろそろヤバい。

 早く帰りたい、やめたい。

 けど、ちょっと癖になる。

 嘘。やっぱやめたい。

 でも……まだ、もう少し……もう少しだけ。

 

 カチカチカチカチ。奇妙な音がした。

 何の音だ?まさか、“あいつら”が来たのか?じゃあ、“ここ”もダメ?

 カチカチカチカチ。音はずっと鳴っている。

 あぁ、違う。鳴ってるのオレの歯か。

 全身の震えも更に強くなる。

 

 寒い……嫌だ……痛い……苦しい。

 もう、何やってんだよ……。

 早く……誰か来いよ。

 いいの?来ないとオレ、壊れちゃうよ?

 

 早く―

 

 

 早く――

 

 

 早く―――

 

 

「あぁぁぁあぁぁあ!ギブ!」

 

 

 我慢の限界。

 男は遊具から飛び出した。

 犬の散歩に来ていた近隣の住民らしき人が、何事かと振り向き、連れていた犬も驚いてけたたましく吠える。うぜぇよ雑魚。頭に響くだろうが。

 まだ動けるうちにと、男は残っている力を振り絞って全速力で住宅街を駆け抜けた。

 チャリで来れば良かった。何で今日に限って人に貸してしまったんだ。

 

 後悔先に立たず。

 それでも男は命からがら自宅にたどり着いた。

 もはや真っ直ぐ歩くことすらかなわない。

 よろけながら玄関をくぐる。

 

「……!?」

 

 服の裾を何かに引っ掛けた。

 バランスを崩して倒れる。

 ガシャンガシャン。耳障りな音が頭痛をより悪化させる。

 

「くぅっ……!」

 

 もう一度立ち上がろうと試みるが、力が入らない。

 倒れたまま、廊下を這いずるように進む。

 突き当たりのドア。その先に行けば“薬”がある。

 

「もう、少し……で」

 

 容赦なく襲いかかる激痛で意識が飛びそうになる。屈するものかと、自身の手に思いきり噛みつく。痛覚が一時的に脳を刺激し、何とか意識を現実世界に留める。おかげで目的の部屋まではたどり着くことができた。が。

 

 これ、もう無理だな……。

 

 遂に力尽き、男はそこで諦めた。

 けれど、一度部屋に入ってしまえば大丈夫だ。

 ここなら助かる—いや、()()()()()()()()()()

 

 

「あと……よろしく」

 

 

 誰もいないはずの部屋で、男はポツリと呟いた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。