生体CPU生存if   作:時竺

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第十話 変な女

「オルガ!!てめぇ、さっきから俺の邪魔ばっかしやがって!そのせいで負けたじゃんか!」

「うっせぇ!俺の前でチラチラしてるおめぇが悪ぃんだろうが!」

「あーもう最悪。シーズンランクどんどん下がるし、マジでお前雑魚すぎ、やってらんない。シャニィ~オルガと変われよ~お前と組む方がまだ勝てるわ」

「眠い、パス」

「気まぐれ屋め」

「いつものネット仲間呼べばいいじゃん……」

「さっきから声かけてるけどダメダメ。こういう時に限ってあいつら反応ねぇの。マジ使えねぇ」

 

 

 三人はピザを食べ散らかしながらテレビゲームに興じていた。いや、正確に言うならば今ゲームをしているのは二人だ。

 クロトはチーム戦のシーズンランクを上げるため、オルガとシャニのどちらかを固定相方として付き合わせていたが、開始5分でシャニの集中力が失くなり、その役目はほぼオルガが担うことになった。

 しかし、二人の相性は悪く、いくらやっても負け星が付くばかり。シーズンランクはどんどん落ちていった。

 

 二人が互いに悪口を叫び散らかしながらゲームをする様子を、シャニは寝惚けながら見ている。

 

 オルガも嫌なら断ればいいのに。

 

 クロトに罵声を浴びせられながらも、何だかんだ付き合ってやっているオルガもオルガだと思う。いや、罵られすぎてヤケになっているだけかもしれない。

 防音に優れたマンションを選んだおかげで、彼らの声が隣の部屋に漏れ聞こえることはないだろうが、それにしても五月蝿い。前に三人で住んでたアパート(今もオルガとクロトは住んでいる)だったら壁ドンはおろか、血管が切れそうな顔で隣人が突入してきそうな勢いだ。

 

 クロトじゃないけど、マジで久しぶりだな、この感じ。

 

 ピザで腹を満たしたシャニはソファを占領するように寝転び、バカ二人のノイズを子守唄にして昼寝でもしようと目を閉じる。

 

 

 ピンポーン。

 

 

 しかし、その眠りはすぐに妨げられた。

 

「来客だぞ」

「めんど……オルガ、出て」

「お前ん家の客だろうが、俺が出てどうすんだよ」

「じゃあ、クロトでもいいや……」

「駄目、今忙しい。うわっ!ちょっ!何だこのコンボ!抜けられねぇ!!」

 

 

 ピンポーン。

 

 

 てこでも動かなそうな二人と押し問答するのも面倒になり、シャニは渋々起き上がって、リビングのインターホンパネルへと向かう。

 

「何?」

 

 迷惑そうに声を荒げながら応答ボタンを押す。パネルに映像が映る。玄関の外を映すカメラ映像。

 そこに知っている顔が映り込んでいた。

 

〈あら、シャニ?〉

 

 うわ。

 

 パネルに映し出された映像の向こうにいたのは、フレイ・アルスター。

 終戦後、何故かやたらクロトに絡んでくる変な女だ。

 

〈倒れたって聞いたけど、元気そうじゃん〉

 

 クロトと同じこと言うなぁ。

 ていうか、

 

「何でフレイがそのこと知ってんの?」

「ふふふフレイ!?」

 

 フレイの名前を出した途端、ゲームに熱中していたはずのクロトが、まだ試合中にも関わらずコントローラーを放り投げて飛び上がった。

 

〈何でも何も、オルガがグループに一斉送信したんじゃない。あ、でも、あんたたちの結婚式用に作ったグループだから、あんたとあの子は入ってなかったんだっけ〉

「だって、オルガ」

「は?」

 

 シャニがオルガを振り返ると、オルガはズボンのポケットから自分の端末を取り出して履歴を確認する。

 

「あぁ、わり。クロトだけに送ったつもりが、ミスったわ」

「てめぇ後覚えてろ。おいシャニ、僕がいること絶対に言うなよ!」

「ん~いるって言った方が面白そう」

「そこをなんとか!友達だろォ~」

 

 友達、ねぇ。

 んなこと思ったことないくせに。

 

「じゃ、貸し一つな」

「ピザ買ってきてやったじゃんか」

「それはノーカン」

 

 ふてくされて口を尖らせるクロトの苦情を受け流し、シャニはフレイの対応に戻る。

 

「今行く……鍵空いてるから」

〈はーい〉

 

 男二人を置き去りに、シャニは玄関へ向かうと、フレイが玄関の惨状に驚いていた。

 

「ちょっ!何これ、滅茶苦茶じゃない」

「結構やっちゃったからね」

「やっちゃったじゃないわよ。どうして片付けないの……これじゃ足の踏み場も無――」

 

 ガラスの破片等が散乱する玄関で右往左往していたフレイだったが、“あるもの”を視界に捉えた途端、まるで石にでも変えられたかのようにピタっと動きを止めた。

 

 あ、やべ。

 

 フレイの目に入れてはいけないものがある。

 シャニもそのことに気付いたが遅かった。

 

「クロト、来てるの?」

「いや?」

 

 間髪入れずに、シャニはすっとぼけた。

 少しでも間を置いたら怪しまれてしまう。

 

「嘘よ。だってこれ、クロトの靴でしょ?」

「えっと、前遊びに来た時に忘れてったんじゃない?」

「その日は裸足で帰ったってこと?」

「たぶん……」

「ふーん」

 

 我ながら苦しい言い訳をしたとシャニは思ったが、これは納得して貰えたと思っていいのだろうか。

 

「まぁいいや。オルガは?」

「まだいるよ……」

「せっかくだから顔でも見て行こうかな。上がっていい?」

「えっ!?」

 

 思わずシャニは聞き返してしまった。

 てっきり差し入れをくれたらもう帰るものだと思っていた。

 

「久しぶりだから、ちょっと顔合わせたらすぐ帰るわよ。それとも、何か問題ある?」

「……いや」

「じゃあ、お邪魔しまーす」

 

 ドッタンバッタン!

 フレイが靴を脱いでいる間、シャニはリビングの方から妙な音が聞こえるのを背中で感じていた。フレイは聞こえていないようだが、今リビングに向かわせてはいけない気がする。

 

 時間、稼いであげた方がいいのかなぁ。

 

「ねぇ……」

「何?」

「今日の服、イケてるじゃん」

「ありがと」

 

 会話終了。ダメだな。

 短く答えながら、フレイはさっさとリビングに向かおうとする。

 しかし、背後の騒がしい音はまだ続いている。

 これ以上どう時間を稼げばいいのだろう。

 

 あれやってみるか。

 前にテレビで見たやつ。

 

 フレイがシャニの横を通り過ぎようとした時、

 

「待って」

「きゃっ!」

 

 シャニは咄嗟にフレイの肩を両手で掴むと廊下脇の壁に押し付けた。

 フレイの手から差し入れの袋が滑り落ち、中のものは床に散乱してしまうが、シャニはお構い無し。目を見開いて固まるフレイの顔の横に右手を置く。

 

「フレイ、何だかいい匂いがする」

「え?え?え?」

 

 顔を真っ赤にして硬直するフレイに顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。

 どさくさに紛れて耳の近くに息を吹き掛けると、フレイが「ひぃっ!」と叫び声を上げる。

 

「今日の香水、いいじゃん……なんていうか……」

 

 

―何ていうんだろう?

 

 

 見切り発車で切り出したはいいが、花の香りなんてろくに知らない。

 そもそも花なんだろうか。それとも果物?

 

 まぁ、なんでもいっか。

 

「あれだね、あれ。よくある……トイレの芳香剤の匂い」

 

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