生体CPU生存if   作:時竺

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第十二話 僕の端末

 あ、あぶねぇ……ギリギリだった。

 

 

 暗闇の中、クロトは息を潜めて隠れていた。

 シャニがフレイを迎えに行った後、クロトは大急ぎでピザを食べた跡を片付けて自分がここにいた事実を抹消。

 それから、すぐにフレイがこちらに向かって来る気配を察して咄嗟に隠れられそうな場所を探した。

 キッチンは出入りしそうだからダメ。トイレ、風呂場、寝室に行くには廊下に出ないといけなし……となると潜伏できそうな場所は、

 

 あそこか!

 

 クロトが目を付けたのはリビングのクローゼット。本来衣服をしまう場所であるはずの収納扉を開け放つ。中には掃除用具入れやシャニの内職道具がごちゃごちゃと敷き詰められていた。オルガの手を借りて何とか人一人がねじ込めるスペースを作り、外側から閉めてもらった。

 今クローゼットの中を照らす灯りといえば戸棚の隙間から漏れる光がたった一筋だけ。無理矢理身体を捩じ込むようにして隠れた為、かなり体勢がキツイ。クロトは楽な姿勢に変えようと携帯端末のライトを求めてポケットをまさぐるが、

 

 あれ?

 嘘。

 ない!?

 

 さっきまでポケットに入れていたと思っていた携帯端末がない。

 クローゼットの闇の中で落としたか、リビングに置きっぱなしかだが、後者だったらかなりヤバい。

 部屋の中は今どうなっているだろう。

 この場において、唯一掴める情報は音による情報のみ。

 

「ねぇオルガ」

「あんだよ。今いいとこなんだから」

「クロト、どこ行ったか知らない?」

 

 フレイの声が比較的近くから聞こえてきた。あとはどこからか水が流れる音がするだけ。誰がどこで何をしているのか、今のクロトには分かりようがないが、とにかくオルガとシャニが上手くやってくれるよう祈るばかりだ。

 

「今朝検査があるからって出てったキリだ。その後は知らねぇよ。ゲーセンにでも行ったんじゃねぇの」

「最近いろんなゲーセンを渡り歩いてるみたいで、捕まらないのよね。何回電話しても繋がらないし」

 

 電話?

 あー。そういえばキラとゲーセンで対戦してる時になんか着信来てたっけ。

 

 今どきの若者には珍しく、クロトは携帯の着信音を鳴らすように設定している。好きなゲームの曲にしているとテンションが上がるからだ。

 普段は騒々しいゲーセンに入り浸っている為、外にいるときはほぼ気付くことがない。

 しかし、今は普段から携帯をサイレントモードにしていなかったことを心の底から後悔している。

 フレイが、こんなことを言ってきたからだ。

 

 

「今かけたら出るかしら」

 

 

 あ、それはヤバい。

 

 

「えーと、発信履歴は……と」

 

 

 やめろ~~~~!!!

 

 

 その場にいなくとも、フレイが端末を操作して耳に当てているところは容易に想像できた。もうすぐ某シューティングゲームのラスボス戦の激熱BGMが辺りに鳴り響く。

 

 終わった。

 

 クロトは一人、まるで人生が終わったかのような絶望に包まれながら目を閉じた。

 

 

 

 

 

 が、いくら待っても着信音は聞こえてこなかった。

 

 

「んもう。やっぱりダメね」

 

 

 何で?という疑問符を浮かべながら困惑していると、やがてフレイの方が諦めたのか、携帯端末をしまう音が聞こえた。

 

「まぁいいわ。他の”お客”が来る前に私は帰るわね。奥さんによろしくシャニ」

「ん」

「それからオルガ。クロトを見かけたら、絶対私に連絡するように言うこと」

「俺はお前らの伝書鳩じゃねぇ」

「じゃね~」

 

 フレイの声と足音が徐々に遠ざかっていく。

 ガチャンとリビングのドアが閉まる音もも聞こえた。それでもクロトはすぐにクローゼットから出ては行かない。完全に気配が無くなるまでは我慢だ。

 

 

「……行ったぞ」

 

 

 オルガに声をかけられ、クロトはようやくクローゼットから抜け出した。

 

「うわ、まぶしぃ~。シャニは?」

「フレイを玄関まで送ってった。つーかお前なぁ、端末落としてんじゃねぇよ。俺が気付いたから良かったが、そうじゃなかったらヤバかったぞ」

「そう!それ!僕の端末どこ?何で鳴らなかったのさ?」

 

 リビングを見渡してもどこにも無く、拾ったと言ったオルガも持っていないようだった。一体どこにあるのだろうとクロトは視線を巡らせる

 

「さあな。シャニに聞いてくれ。拾った後あいつに渡した」

「オレが何?」

 

 シャニが戻ってくる。クロトはすかさず尋ねる。

 

「僕の端末は?」

「あー、あれね」

 

 ニヤリ。

 シャニが笑う。

 

 その笑みに、クロトの顔が青ざめる。

 やばい。こいつがこういう顔をする時はマジでやばいこと企んでる時なんだって。

 

 

「沈めた♪」

 

 

「殺す!!」

「だって、音鳴っちゃダメじゃん?」

「ふざけるなぁ!あの端末の中には有料で落としたゲームの数々が入ってるんだ!それを全部パァにされるならフレイに捕まる方が100倍マシだね!」

「人生をゲームに賭けすぎだろ……」

「今すぐ救出すれば間に合うかも?」

「だからどこ!?」

「ひ、み、つ」

 

 

 ワカメ頭のふざけた男に掴みかかりたい気持ちを必死に抑えてクロトは端末の捜索にかかる。

 沈めたということは水の中。そういえばさっき、どこかから水が流れる音がしていた。まずはキッチンをざっと見て回るが、水が張っている場所は見当たらない。

 

 ならば、

 

「風呂場!」

 

 リビングの先にある短い廊下。その向こうのドアを乱暴に開け放ち、脱衣所を秒で通り抜けて浴室へ―。

 

 

 

「あ」

 

 

 

 バスタブに僅かに溜められた水。その中に漂う自機を見つけたクロトはしばらく開いた口を閉じることが出来なかった。

 

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