「シャニ、お前マジでクロトの携帯沈めたのか?」
「うん……沈めた」
クロトが廊下の向こうに消えてから、シャニが不気味に笑いを堪えている様子をオルガはずっと見ている。
「あいつ、ゲームの恨みはかなりすげぇぞ」
「知ってる……だから、これ、使った」
笑いたくてしょうがなさそうなシャニがぷるぷると震える手でオルガに“それ”を見せる。
“それ”を見たオルガも思わずぷはっ!と吹き出した。
「こりゃ、傑作だ」
やがて、沈められた愛機を救出(?)したクロトが、まだ若干水の滴る“それ”を持ってリビングに戻ってきた。
そんな彼を、オルガとシャニがニヤニヤしながら待ち構える。
バッ!
効果音が聞こえてきそうな勢いをつけて、クロトはこれ見よがしに“それ”を見せつけた。
“それ”は、ご丁寧に食品を冷凍する時などに使う真空パックに入れられたクロトの携帯端末。
「だっははははは!」
「あはっ!あははは!」
オルガとシャニは、弾けたように声をあげて笑い出した。
「言いたいことが山ほどある」と、クロトはまずシャニを睨みつける。
「なぁにが『今すぐ救出すれば間に合うかも』だ!絶対安全なの分かってて煽りやがって!」
「くく……でも、ナイスアイディ―」
「うるせぇ、歯食い縛れ!」
クロトの怒りの左ストレートがシャニの顔面に飛んでいく。いいパンチ入ったな、とオルガは他人事ながらに頭の中で手をたたく。シャニはというと、「いってぇ……あはは」と言いながら笑うのをやめない。むしろさっきより笑いのスイッチが入ってないか?
「で?オルガもグル?」
続けて、クロトの矛先がオルガに向く。
「いや、俺は……何もしてねぇよ……シャニにお前の端末パスしただけで……」
「うるせぇ。お前ら、抹殺した上で滅殺の刑だかんな」
クロトが指の骨をパキパキ鳴らす。
それを見たシャニが「待って、待って!」と目に涙を浮かべながら自分の頬を指差す。
「見てよこの痕……」
「?」
「あぁ、こいつ、フレイ引き留めようとしてビンタ食らったらしい」
「オルガは演技雑過ぎ……」
「んだと!?」
「クローゼットの前にいちゃダメだろ……あからさまじゃん」
「うるせぇよ、我ながら思い出してじわじわくるだろ」
「あんなの……絶対バレる」
「結果バレなかっただろうが」
「お前らさぁ……」
二人が盛り上がっている蚊帳の外で黙って聞いていたクロトは、拳をわなわなと怒りに震わせている―かのように見えたが。
「ふふ……ふふふふ……ホント……ぶわーかだねェ!あはははは!!」
今度はさっきと打って変わって、唾を撒き散らさん勢いで大口をあけて笑い出した。
突然の奇行に、シャニが「あ……ぶっ壊れた」と引き気味に漏らす。
「笑うしかねぇっしょ。MS乗ってた時はろくに連携も出来ない欠陥品だ~なんて言われたくせに、何でこんなくだらねぇことでチームワーク発揮するんだか。あーあ、おかし」
「うるせーな。つーか、匿ってやったんだから感謝の一つくらいしろよ」
「また同じことがあったらよろしく頼むよ、お二人サン♪」
「クソみてぇなことほざいてるが、どうするよ、シャニ」
「ん~やっぱフレイに突き出す……?」
「待~った待った!僕が悪かった!そんなつまんなさそうな顔すんなよシャニ。ほら、薬(ヤク)でも飲んで一旦落ち着こうぜ?」
クロトはそう言いながら、二人に向かって自分の薬をちらつかせる。
「……もうそんな時間か?」
時計を見てからオルガが呟く。
過去に施された肉体強化。そのおかげで、オルガたち三人は毎日数回、常態を維持する為に薬を飲まなければならない。
今全員が妙な興奮状態になっているのも、薬の効果が薄れているせいかもしれないと、オルガは一人で納得していた。
各々自分のアンプルを持ってきて手に持ち、キャップを開ける。
二人がさっさと飲もうとするのを、クロトは「ストップ!」と慌てて止めた。
「せっかくだから乾杯しよう。」
「乾杯だ?何か掛け声でも用意してるのかよ」
「そりゃあ、僕らが乾杯するなら一つしかないでしょ」
クロトは大きく息を吸い、
「青き清浄なる世界の為にっ!」
声高らかに宣言した。
「それかよ」、「ウザ……」という声が続く。
けど、満更でもねぇな。
オルガはそう思ったが、それはシャニも同じようで、二人はニヤリと顔を見合わせ、
「青き清浄なる世界の為に!」
「青き清浄なる世界の為に~」
と声を合わせて腕を伸ばした。
軍にいた時さえ一回も唱和したことのないブルーコスモスのスローガン。
そのすぐ後に三本の小さな容器がぶつかり―チンッと音を立てる。
それがあまりにもちんけな音だった為に、三人の間で再び爆笑の渦が巻き起こった。