生体CPU生存if   作:時竺

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第四話 まっさらな部屋

 

 自分と同じ位の背丈の男を引きずり、リビングにある白いソファに寝かせる。手足は納まりきらずにソファの外側にはみ出るような形だが、まあいいだろう。

 軍にいた時から、オルガの記憶の中のシャニはいつもこんな風に寝ていて、耳につけたイヤホンから漏れる音にオルガは悩まされていた。

 もっとも、今はイヤホンを付けていないので静かだ。

 

 静かといえば……。

 

 手持ち無沙汰になったオルガは、初めて訪れたアンドラス宅のリビングをぐるっと見渡す。

 

 

 クソつまんねぇ、まっさらな部屋だな。

 

 

 率直な感想だった。とにかく、物が少ない。

 日用品が入れてあるラックや、僅かに本が収められた本棚は置いてあるものの、床や壁に余計なものは一切存在しない。

 本やゲームソフトが乱雑に散らばる自分の住まいと比べてしまう。同じ二人暮らしなのにこうも違うものだろうか。音楽は今でも好きなのだろう。ヘッドホンとかCDといった私物はこの家にも置いてある。

 しかし、それだけだ。

 この家の中で、シャニ・アンドラスという男を表現する物はそれしかない。

 そういえば、三人で住んでた時も、シャニの物はほとんど無かったような気がする。アパートを出る時なんてほぼ手ブラじゃなかったか?

 

 ソファと向かい合うように設置された大きな液晶テレビの付近にはゲーム機が置いてあるが、あれはこの家に頻繁に出入りする”男”が無理矢理置いた物であって、シャニの趣味ではないことをオルガは知っていた。

 家の内装も、良く言えばシンプルかつ清潔。悪く言えば質素で個性の無い部屋といった印象。

 写真とか、絵とか、そのような物も一切飾られていない。まるで、真っ白なキャンバス。

 壁紙くらい変えろよ。白はもう見飽きただろう。診察台、研究員の白衣。今まで嫌という程見てきた色じゃねぇか。

 

 部屋の観察を中断し、ソファの上のシャニを見た。容態はもうすっかり安定しており、時々静かな寝息が聞こえてくる。

 

「くそっ……」

 

 呼吸に合わせて時々揺れる緑の髪を見ている内に段々とムカムカしてきた。

 

 居心地が悪い。

 

 やはり、この部屋に来るにはまだ早かったかもしれない。

 他人の部屋の内装に不満を吐きたくなってしまうのもそのせいだ。

 

 半年も経てば、割り切れるかと思ったが……そうもいかねぇか。

 

 気分転換しようと、オルガはキッチンへ向かった。少しくらい飲み物を頂戴したってバチは当たらないだろう。

 適当に食器棚からグラスを拝借する。ほんの少し角が欠けているものがあった為、どうせシャニが使っているやつだろうと当たりをつけ、そこに水を一杯注いであおる。

 

「ふぅ……」

 

 一息つき、シンクに目を落としながらこれからのことを考えた。

 

 帰るか?

 それともシャニが目を覚ますまで待つか?

 目が覚めるまで待ったとして、次はどうする?

 そもそもこいつ、飯は食べたのか?

 

(勝手に)冷蔵庫を開けてみたが、食料はほとんど入っていなかった。

 扉にはマグネット式のホワイトボードが取り付けてあり、「牛ひき肉、玉ねぎ、トマト缶、チーズ……」などと買い出しメモが書いてある。今日辺りで買い足すつもりだったのかもしれない。

 オルガは自分の携帯端末を取り出し、一番手頃な”知人”に〈シャニがぶっ倒れた。何か食うもん買って来い〉とメッセージを送る。

 無事送信出来たかどうか確認する前に、オルガの視線は端末の画面からある物へと移った。

 それはちょうど、キッチンの流し台に立つと見える所に置いてある。

 カウンターの上にぽつんと立つ、写真立て。中に飾られているのは正装に身を包んだ六人の男女の写真。

 

 あぁ、シャニの結婚式の時か……。

 

 表情もポーズも三者三様。カメラの方を向いていない者すらいる、雑な集合写真。

 そんなバラバラな様子が目立つ彼らの共通点は、かつて地球連合軍の戦艦―AA級二番艦ドミニオンに乗艦していたということ、それだけ。

 変な写真だな。なんて、今更他人事のように思う。

 結婚式といっても、一般的なそれとは違う。

 知ってる顔が数人集まって、各々ちょっといい格好して、うるさい金持ちが「雰囲気くらいはあってもいいでしょう?」などと言って勝手に会場を手配して、馬鹿騒ぎしただけ。神父すら呼んでいない、張りぼての式典。

 写真には、当日出席出来なかった連中のメッセージも黒いマジックで描かれている。

 嘘みたいな写真だ。まさか、あの戦争の中で知り合った連中とこんな写真を撮ることになるなんて、夢にも思わなかった。

 

 ひでぇツラしてんな……俺。

 

 写真の中の、黒いスーツを着た自分の顔にダメ出しをする。

 祝いの場だというのに、不服そうだ。

 少しくらい笑顔を取り繕えよとも思うが、正直、今でも出来る気がしない。

 あんな奴に負けた。

 その屈辱だけが、喉につっかえた魚の小骨のように、どうしても取り除けない。

 笑っていないといえば、自分の隣で白いスーツを着ている新郎も同じだった。

 

「お前はせめて、幸せそうな面(つら)しろよ、クソ野郎」

 

 主役にも関わらず、いつもと同じ仏頂面で写っている新郎の顔に唾を吐きたい気持ちを抑えながら、オルガはもう一度コップに一杯の水を飲み干した。

 

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