1話完結です。
進撃の巨人の大ファンである主人公が、創造神である作者に会うために立体機動装置を作るお話。
原作キャラは登場しません。

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短編も長編も手を出しすぎだ。


立体機動装置つくろう

 

 聞きにくる人はたくさんいる。たくさんと形容できないほどいる。少しでも減ることを願ってまとめるので、とりあえず読んでほしい。

 

 思えば、私を突き動かしていたのは作品が好きだと言う熱い気持ちだった。その気持ちが、おかしな化学反応とバグを起こして、世界を巻き込んだのだろう。何がどうなったのか、自分でもわからない。ただ、初めはただ好きなだけだったのだ。

 私が決意したのは、眠れない夜に悶々と考え事をしていた時だった気がする。

 

    2019年。

 

 時計は12時をまわっていた。私は動かない脳で、今日読み返した進撃の巨人を脳内で反芻していた。リヴァイ兵士長の立体機動には惚れ惚れする。アニメでキャラクターが動いているのを見るのも素晴らしいし、上質なファンアートは描き込まれていて見とれてしまう。しかし、なんと言っても原作は最高だ。誰にも真似のできない勢いのある線。それによって描かれる広い世界。先生は天才だ。

 

 特に今日はそう思った。先生のブログで、そこでしか見られないラフ画や原画の写真を見た。そこには確かに線の息遣いを感じた。その時に、この尊敬する方に一目会いたいと思った。私はファンレターを出したことはあったが、そんなものはきっと、毎日たくさんくるはずだから私のものになど心動かされないだろう。だからと言って、ストーカーのような存在にはなりたくない。先生には先生の方から興味を示していただきたい。

 そんな時、私の中にあるアイディアが閃いた。何かすごいことをすればよいと。

 

 すごいこと、例えば実写版の映画に出演すること。他の作品で、原作者が主人公役の俳優に会い、複製原画を手渡すということがあったことを覚えている。なんとプレゼントをもらったという。しかし、それでも複製原画だ。原画じゃない。原画をもらうためにはもっとすごいことをしなければならない。例えば、こう。

 

 

 原作を完全再現し、実際に使える、『立体機動装置』を作る、とか。

 

 

 そう思ったのは夏だったと思う。まだ私は若く、目的が先生に会うことから原画をもらうことになっているとも気づかず、立体機動装置を作ることがどれだけ「すごい」ことなのかを考えもせず、立体機動装置を作ることを決めてしまった。この時点で実は、もう既に立体機動装置は作られていた。簡素なものだったが、ドイツの動画投稿者が、作って、なぜかライナーのコスプレをして実際に使っている。確か、ここで私はその人に連絡をして、大学なんかも全て放り出して、会いに行ってしまった。すごく驚かれた。

 

 幸いにもその人は、立体機動装置の再現を手伝うことを快く承諾してくれた。動画を投稿した後、彼もまた、もっと完成度を高めたいと強く思っていたそうだ。ライナーのコスプレをしたのは自分の名前にライという音が入っているからだと恥ずかしそうに言っていたのはよく覚えている。

 

 ライさんには共に開発をした友人がいた。さらにSNSとライさんの人脈、私も聡明な友人を誘い、少人数だが多くの分野に特化したチームが完成した。ライさんと私がリーダーで、計画は始まった。

 

 私にとってはその過程はとても長いものだった。詳しくは割愛するが、まずは原作をあまり知らないメンバーのため、全員で原作を読んで仕様を知り、アニメを見て細かい部分を理解し、ブログを見てその仕組みの設定を把握した。この時は設定だったが、設定、形、操作時の音まで再現しようと意気込んだ。

 立体機動装置の形は原作とアニメ版で違う。しかし、初期の先生の画力ではアニメ版のようなものが描けなかったから樽のような形にしたと知り、アニメ版を再現すると決まった。

 もちろん乗り越えるべき課題もたくさんあった。一番高く分厚かったものは、材質だ。黒金竹も氷瀑石も存在しない。現存する金属合金では、求めている性能は引き出せないと、メンバーの1人が言った。大抵の人は、その時存在する合金で妥協して作ったのだろう。しかし私たちは違った。現在多くの人が知っている、軽く、硬く、柔軟で扱いやすい硬靭鉄を開発した。

 

 硬靭鉄の完成からは早かった。合金で作ったボンベの中には高圧のガスを詰めることができたし、氷瀑石はメタンハイドレートを加工したものということも、今は大人なら誰でも知っている。耐Gベルトはパラシュートなどに使われるハーネスの応用だったので難しくなかった。

 かくして、立体機動装置は完成した。制作する過程で何度も試している私は、装置の扱いも上手かった。チームのメンバーもだ。ライさんはメンバーに教えるのが上手かった。さあ、これを世界に公表したら先生が原画をくれるか。しかし、私にとって、原画はもはや要らなかった。普通に先生に見てもらいたいと思っていた。

 しかし、公表に反対した人がいた。私の友人だ。友人はもっと慎重になれと言った。立体機動装置としても素晴らしいものだが、僕が当初予想していたよりも出来が良すぎる、新しい合金は世界を動かすだろう、だからまずは考えろと。この時はまだ全てを隠していたから、硬靭鉄の特許もとっていなかった。それがいけなかった。とっていても起こることは起こったかもしれないが、とっていなかったから起こったことだ。

 

 ライさんが失踪したのだ。立体機動装置一台と、設計図の入ったメモリなどと共に。後を追おうにも、何の手がかりもなかった。考えの甘かった私は、リーダーとして、ライさんを信じようとメンバーに言った。硬靭鉄を含めて技術は隠したままに公表しようと。

 

 私たちは動画を撮って編集して投稿した。もちろん大きな反響があると思ったが、それは幻想だった。その頃に十分に発達したAI技術では、そんな動画は誰だって作れる。もう誰もそれがフェイクかどうかなんて気にしなかった。大抵のものがフェイクなのだから。そして完結から何十年も経つと、どうしても知名度も下がっていた。世間の認識は、よくわからないけど昔の漫画の再現動画だってさ笑、という感じだったのだ。

 

 そして、本当にいつの間にかだった。その日もどこかで起こっている戦争の、フェイクの可能性も大いにあり得る動画。その兵士は空を飛んでいた。体にベルトを巻き、建物にワイヤーを刺し、両手には最新式の銃を持っていた。変にちぐはぐなその動画。私は過去のメンバーに連絡した。

 

 集まったのは半分ほどだった。そもそも連絡がつかない人もいた。ただ忙しかったこと、アカウントを変えていることを願った。私はそのメンバーに動画のことを聞いた。しかし、集まったメンバーは全員、知らないと首を振るばかりだった。とても親密だったメンバーと連絡がつかないと来たメンバーの何人からかに言われた。

 

 さらに数年後、いや、それはもう知っているだろうから、現在。世界はずっと戦争をしている。もちろん世界中で爆弾が飛び交っているわけではないが、戦争状態にない国はない。あの動画はフェイクではなく、ある国が別の国と戦う時に、急に使用し始めた新兵器だったらしい。停滞していた戦争も再び息を吹き返し、あれよあれよと全世界を巻き込んだ。私が悪いのだろうか。戦争に於いて、のこのこ地上を歩く者はなくなった。今に至るまでにそれ以外の武器開発もあったでしょうに、なぜかこうやって私だけが詰められる。

 

 

 それでも、あの作品の夢を現実に引っ張り出せたことはとてもいいことではないだろうか。

 

 




立体機動装置を作った動画投稿者は一応存在しますが、国籍など色々変えているので全く違う人と考えてください。

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