部活動決めに迷う少女『御手洗イヴ』は今、都市伝説に語られたアビス・アーカイブで、ティータイムのお誘いを受けていた。
(さっき言ってたアレって、まさかこのドーナツやらマカロンやらのこと?)
「さぁイヴ、遠慮なく食べてくれたまえ?さて、私も早速このドーナツを…うんまぁ〜。」
「トリニティに編入した後輩に教わったんだ。上手くできているようで何よりだ。」
「い、いただきます。」
ドーナツやマカロンは手作りらしく素朴な美味しさだったが、それに反して紅茶の質の良さは素人でも分かるほどに明らかだった。
それこそ、まるでトリニティのティーパーティーを連想するような香り高さである。
紅茶の余韻を堪能していると、イヴが入ってきた扉とは別の扉から、二人の声が聞こえてきた。
「それでさぁ?また来やがったのよ温泉開発部がさぁ?マジで今月何回目だって話よ!」
「君も日頃から苦労しているんだね。そちらの話を聞く度に、こちらの悩みがちっぽけな物に感じるよ。」
「私からしたら政治とかよく分かんなくて面倒くさそうだし、そっちもそっちで大変そうじゃない。あ、この匂いさてはティータイムね!私も混ぜて〜!」
「ふむ、私がプレゼントした茶葉、早速役に立っているようで何よりだよ。そちらは百鬼夜行からのお客様かな?粗茶ですが、どうぞ心ゆくまでご堪能頂きたい。」
信じられないものを見た。
トリニティの生徒がミレニアムの生徒に送った茶葉で、アリウスの生徒が紅茶を入れてゲヘナの生徒と共に味わっている。
「エデン…条約…?」
思い浮かぶのはその言葉だった。
怖いもの見たさでつい足を踏み入れた地底には、予想だにしない楽園が広がっていたのだ。
エデンはそこに、案外あっさりと存在したのだ。
「ふふふ、そう驚く事でもないだろう。君だって百鬼夜行からフラッとここに来てしまっただろう?アビス・アーカイブはそんな者たちの溜まり場なのさ。」
「そーゆー事!私たちも実質ここで仲良くなった的な?」
「そうだったかな?私は前からそれなりに仲の良い友人のつもりだったが。」
「そうかな?そうかも。まぁとにかくここは学園も部活も関係無く交流を深める場所って事!私は篭浦リム!そっちの白い子は吉月メロ!」
「うむ、こう見えて元ティーパーティー所属だが今は無所属だ。以後お見知りおきを。」
「あ、はい。御手洗イヴです。」
「そして彼女は私が雇った掃除屋の御影ルナ、私は七知レイカだ。今日は来ていないが、もう一人メンバーがいる。それと、少し特殊なメンバーも一人いる。」
メンバーは六人、噂では7人の階層守護者がいるらしいが、もう一人が誰なのか少し疑問が残る。
とはいえ噂は所詮噂でしかないので、今気にするべきことは別にある。
「それで、私は何故ここに連れてこられたんですか?」
「おや?君が自分から尋ねてきたから、私は家主として迎え入れただけに過ぎないが。まぁその過程て少し手荒な事をしてしまったが。」
「それはまぁ…そうなんですけど。」
「フフ、分かっているとも。君は何か刺激を求めてやってきたのだろう?君が様々な部活動を転々としている事も知っている。そこで私から提案がある。」
そう言うとレイカは懐から一枚の書類を取り出し、イヴに差し出した。
「入部届だよ。ここに君の名前を記入すれば、はれて君は我々アビス・アーカイブの仲間入りだ。お互いにとって悪くない提案だと思うが、どうだろうか?」
「うん、体験入部ってできますか?」
「勿論可能だ。」
「じゃあやります。」
こうして御手洗イヴは、非公認組織アビス・アーカイブへの仮入部を決意した。