ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF KIVOTOS   作:かきフライ

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 未だ、飼い主を想う。


2話

 アビドスは「砂上の楼閣」という言葉を体現したようなところだった。生徒は五人のみ。砂漠化は止まらず、その上、狙われている。

 どう考えても、詰んでいる。

 だが、そんな中でも彼女たちは懸命に生きていた。

「お帰り、先生。()()お疲れさん」

 シャーレの部室に入ると先に来ていたのだろう、一人の生徒がこちらを向いて立ち上がった。

 彼女の名前は九野(くの)ククリ。シャーレの()()()()()()()()()執行対象者第一号だ。

「報酬は出ない」俺はデスクの方へ歩きながら続ける。「タダ働きだ」

「でも、引き受けた」

 言い返す言葉が見つからなかった。

「私らの時だってそうだったろ。一銭の得にもなりゃしねーのに、さ」

「……それより、お前に訊きたいことがある」俺は無理矢理話を戻す。

「ん?あぁ、そういやそういう話だっけ」

「この銃を見てほしい」

 ククリにヘルメット団から鹵獲した銃を見せる。

「へぇ。SG550ねぇ……なんだこれ、新品同然じゃねーか。軍用でも通りそうだけど」ククリの目が輝く。「これくれんの!?」

 俺は首を横に振った。期待を裏切るようだが、証拠品を使わせるわけにもいかない。

「アビドスを襲撃したカタカタヘルメット団から鹵獲した」

「なーんだ」

 声音からして大きな落胆は見えなかった。

 彼女や他の生徒たちに支給している銃はどれも、高くもなく安くもない物ばかりだ。堅実と言えば聞こえはいいが、普通。短所は無いが、長所も無い。

「ってか、これ本当にヘルメット団が使ってたのかよ?」

「やはりおかしいか?」

「おかしい。ってかありえねーよ、これ」ククリはそう言いながら銃を渡してくる。「ヘルメット団みたいに群れ成してる連中は、大概退学処分食らった生徒とか不良とかで構成されてる。つまり、金がねぇ」

 それはおそらく持論ではなく、ククリ自身の経験から来る()()なのだろう。

「私らが今使ってるような銃さえ買えるか怪しい。もし買えても幹部連中しか持てねぇよ。下っ端までこんな新品持てるような金があるなら……」

 ククリはその先を言わなかった。ただ、唇を噛む。

「とすれば、裏に第三者がいるということか」

「だと思う。ま、大なり小なりそういうモンだよ。手を汚したくない奴が金積んで、元から汚れてる奴らに押し付ける」下を向き、拳を振るわせる。「……よくある、事だよ」

「……そうか」

 俺はただ、そう言うことしかできなかった。

「戻って休め」

「……分かった」

 ククリが部室を出るのを見送り、俺は椅子に座った。

『レイヴン』エアが語りかける。『先程話そうとした、アビドスの借金についてですが』

「ああ。金額はいくらだ?」

『九億六千二百三十五万円……ほぼ十億です』

 十億円。俺の世界の通貨、COAM(コーム)に換算すれば、100000コーム。あちらで傭兵をしていた頃の感覚で言えば、このくらいの金額ははした金程度だったが、キヴォトスの基準で考えるならとても学生五人で返せる額ではない。

『どうしますか?』

「……手助けはするさ」

 現状、俺にも十億もの大金を用意する力は無い。いや、あるにはあるが、使()()()()()()()()

 俺の過去が俺だけの物であるように。

 彼女らの問題は、彼女ら自身の物だ。

 

  ◯

 次の日の昼頃。

 俺は対策委員会部室で定例会議に参加していた。

「直近の基地は全部叩けましたね」

 アヤネの言う直近の基地とは、ヘルメット団の前哨基地のことだ。午前中は近場の基地を叩いて回っていた。

 アビドスを守るには必要な事だ。だが、敗走する彼女たちの背を、どうしても目で追ってしまう俺がいた。

 ……手を差し伸べる大人が在れば。

「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね」ノノミが長机にミニガンを置く。「これで一息つけそうです」

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」

 来た。

 彼女らにとって重要な話とは、まず間違いなく借金の話だろう。だがその問題に首を突っ込むには話を聞き出さなくてはならない。何も知らないふりをして、自然に訊く。

 俺にそんな器用なことができるか?

「うん!これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!」セリカがカミングアウトした。

 聞き出す手間が省けた、とでも言うべきか。

 そんな疑問を掻き消し、目の前の問題に集中する。

「借金返済、とは?」

「……あっ」セリカがしまったという顔をする。

「それは……」

「ま、待って!!アヤネちゃん、それ以上は!」

 説明をしようとしたアヤネをセリカが制止する。

 知られたくないのだろう。

 当然だ。いきなり来た大人に、そう簡単に話していい事ではない。立場や権力を持った人間には、特に。

「いいんじゃない。セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」ホシノが言う。

「か、かといって、わざわざ話すようなことでもないでしょ!」

「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに先生は私たちを助けてくれた大人でしょー?」

 その言葉にはどこか、俺を測っているような雰囲気を感じた。ホシノもまた、俺を信用しきってはいないのだろう。

「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生は信頼していいと思う」

 対照的に、シロコからは疑いの色は一切感じられない。

 信頼、か。

 信用と信頼には違いがある。前者は実績から見て使えるか否かを基準とする。一方、後者はその人間の性格が好ましい物か否かという基準で判断される。

 シロコには打算がない。利用してやろうとか、必要だから手元に置くとか、そう言った感情がないのだ。少なくとも俺はそう感じた。

 ()()()な。

「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」

「確かに先生がパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん?」

「でっ、でも!昨日来たばかりの大人でしょ!今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて考えたことがあった!?」

 これまでに彼女らを助けようとした大人はいなかったのだと、改めて認識する。当たり前と言えば当たり前だ。打算なく助けを求める者がいないのと同じで、打算なく助ける者もまたいない。

 言ってしまえば、アビドスには助けるメリットがない。襲われる危険、自らも借金を抱えるかもしれないという危機感。前者はともかく、後者からは逃れることは実質不可能だ。それを背負ってまで無償で助けようという人間はそうそういないだろう。

 ……立場が違えば、俺もどうだったか分からない。

「これまでの問題はずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!今更首を突っ込まれるなんて……私は認めない!!」セリカが部室を飛び出していく。

「私、様子を見てきます」ノノミが追う。

 俺は、行くべきではないだろう。

「……えーと、簡単に説明すると……」ホシノが頭をかきながら言う。「この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ」

「……金額は?」

 俺は答えを知っている。

 知っているからこそ、訊かなければならなかった。

 

  ◯

 九億六千二百三十五万円。

 エアの言った通り、それが彼女たちアビドス廃校対策委員会が返済しなければならない借金の金額だった。これを完済できなければ、廃校手続きを取らざるを得ない。だが、実際に完済できる可能性は0%に近く、ほとんどの生徒は学校と街を捨てて去って行ったのだと、アヤネは語る。

 学校が廃校の危機に追いやられているのも、ゴーストタウンになりつつあるのも、この借金のせいらしい。

「原因は、数十年前起きた砂嵐です」アヤネが話を続ける。「この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のもので……」

「砂漠化が始まった、か」

 アヤネは小さく頷く。

「復旧するには多額の資金が必要。ですが、融資をしてくれる銀行は見つからず……」

「結局、カイザーローンっていう悪徳な金融業者に頼るしかなかった」

 アヤネの言葉に続きホシノが言う。

 カイザーという名の会社については前々から方々で見聞きしていた。正しくはカイザーコーポレーション。PMC、銀行経営、リゾート開発、インフラ開発、コンビニ営業、兵器の販売と……様々な分野で広く展開している大企業だ。

 企業。

 俺はこの言葉には碌な思い出がない。

「最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほどの悪化の一途を辿りました」アヤネが再び口を開いた。

「そして、借金だけが膨れ上がった……か」

「はい」俺の言葉にアヤネが頷いた。「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっていました」

「セリカがあそこまで神経質になっているのは、これまで誰もこの問題に向き合わなかったから」シロコがこちらに顔を向ける。「話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて」

「……まあ、そういうつまらない話だよ」

 きっと、似たような理由で廃校になった学校は沢山あるのだろう。

 ありふれた、つまらない話。

 ……気に入らない。

「で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけー」ホシノがふにゃりと笑う。「もしこの委員会の顧問になってくれるにしても、借金の事は気にしなくていいからねー」

「うん、話を聞いてくれただけでもありがたい。先生は十分力になってくれたし、これ以上迷惑をかけられない」シロコがそんな事を言った。

 信頼の()()()、か。彼女なりの気遣いなのだろう。

「いいや」

 だが、それは俺が嫌いな気遣いだった。

「連邦捜査部は、アビドス廃校対策委員会に全面協力する」

 

  ◯

 帰り道。俺は自らが口にした言葉を反芻していた。

「……引き返せなくなったな」

『手助けをするだけではなかったのですか?』

「その通りだ」

『全面協力を約束する必要はなかったように思います』

「……借金を肩代わりする訳じゃない」

 しばしの沈黙の後、エアがまた口を開いた。

『想定外です』

「何が?」

『レイヴンがそれ程までに肩入れするなんて』

 その声音に困惑や焦りと言った感情は見られない。

『ここに来てから、想定外の事ばかり起きています』

「そうだな」俺は少し投げやり気味に返した。

『あなたの事ですよ。レイヴン』

「俺の事?」

 思い返す。

 確かにこれまでの俺ならばやらないことばかりやっている。

「……だがハンドラー・ウォルターならやっていた」

 俺は過去の飼い主(ハンドラー)の名を出す。

『確かに。ウォルターならそうしていたかもしれません。それでも、あなたはウォルターではない』

 分かっている。

 だが、俺の知っている唯一の大人が彼だ。

 彼は正解を選び続けた。

 ……少なくとも、俺の目にはそう見えていた。

 俺も、正解を選び続けなければならない。だから彼を真似るのだ。

 そうすることでしか、成し得ない。

『……もうすぐシャーレです。生徒が一人、部室にいるようです』

「誰だ」

『テツです。今日は彼女が部室清掃の当番でした』

 酒井(さかい)テツ。ククリと同じ、厚生プログラム執行対象の生徒だ。

 格納庫に車両を駐車し、部室に上がる。

「お帰り」テツが短く言う。「今日もアビドスに?」

「ああ。借金問題に協力することにした」

「『した』、ね」

 ほんの一瞬、視線が逸れた。

「予定調和じゃなくて?」

「……そう、だな」

「無表情なくせに嘘が下手だね」

「……今日はもういい。戻って休め」

「了解」

 テツは箒とちりとりをしまい、ガンラックからレミントンM700を取る。

「それじゃ」

 部室の自動ドアが閉じるのを確認し、椅子に身を預ける。

 ……明日から、忙しくなる。

 俺はそう予見し、仮眠室の扉を開けた。

生徒にレイヴンに対する恋情を持たせるか否か

  • 持たせても良い
  • オリキャラには持たせるな
  • オリキャラにも持たせて良い
  • 持たせるべきじゃないと思う
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